序文
2007年12月4日・5日において、大阪国際会議場(グランキューブ大阪)で経済産業省資源エネルギー庁/おおさかFCV推進会議/リードエグジビジョンジャパン株式会社の主催で開催されたFC EXPO セミナーIn 大阪に参加してきました。今回のセミナーの目玉は無料で燃料電池自動車・水素エンジン自動車に試乗できることでしたが、それらが実際に世の中に普及されるためには、現在のガソリンスタンドに変わる水素ステーションが存在した上で、十分な量の水素の供給が見込めることが前提となってきます。燃料電池自動車・水素エンジン自動車が一般的な乗り物になるのは数年後のことなのか、数十年後のことなのかその鍵を握る水素ステーションについて今回のコラムでは執筆していきたいと思います。
日本の水素ステーション
まだまだなじみの浅い水素ステーションですが、JHFC(Japan Hydrogen & Fuel Cell Demonstration Project)プロジェクトによって、首都圏、中部地区、関西地区に多くの水素ステーションと1基の液体水素製造設備が整備され、実証試験が行われています。(注:「Japan Hydrogen & Fuel Cell Demonstration Project」とは、経済産業省が実施する燃料電池システム等実証試験研究補助事業に含まれる「燃料電池自動車等実証研究」と「水素インフラ等実証研究」から構成されるプロジェクト) 関西ではJHFC大阪水素ステーション、JHFC関西空港水素ステーションの2カ所、中部エリアではJHFCセントレア水素ステーションの1カ所、関東エリアは下図のように水素ステーション9カ所と液体水素製造技術設備1カ所が配置されています。
気をつけなければいけなのは()の中です。都市ガス開発、ナフサ改質、アルカリ水電解、灯油改質、メタノール改質、LPG改質、液体水素貯蔵、水素ボンベなどの語句が記載されています。まず、何故水素ガスを供給するのに、このようないろいろな方法があるのかという疑問をもたれるかと思います。その疑問を解決するためにはまず、ガソリンに変わる水素について少し勉強しなければいけません。水素は元素記号がHで原子番号が1です。原子番号が1ということが何を表すかというと、世の中に存在する原子の中で、最も軽いということです。よって、水素はその軽さのために拡散します。なので、そのままの水素単独という形では地球上で存在することは難しいです。水素原子はこの地球上でどのような形で存在しているかというと、その他の化合物の中に含まれています。その化合物とは具体的に水やメタンやアンモニアや石油です。なので、水素をエネルギーとして、使用しようとすると、それらの化合物から水素を取ってくるという作業がどうしても必要になります。図の()の中で、改質とか、水電解と記載されたものはそれらの化合物を原料にして、水素を取り出して、水素ステーションで燃料電池自動車、水素自動車に水素を供給することを意味しています。一方で、水素ボンベ、液体水素貯蔵と記載されたものは水素ステーション以外で抽出された水素を高圧ボンベや液体水素として、水素ステーションに運搬することを意味しています。前者の水素ステーションはオンサイト型、後者の水素ステーションはオフサイト型と呼ばれます。IWATANIさんのホームページでこの点がうまくまとめてありますので、引用させて頂きます。
オフサイト型 : 他の場所で製造した水素をステーションまで運んできて水素タンクに貯蔵しておき、そこから直接燃料電池車に充填するシステム。水素のソースには、食塩電解やエチレン分解、コークス炉ガスなどから発生する副生水素ベースと、天然ガス改質など改質水素ベースの2通りが考えられます。水素ステーションにおいては改質の必要がないため、システムの立ち上げが早いことが特長です。オンサイト型 : 水素ステーションに天然ガス、LPガス、メタノール、GTL、脱硫ガソリン、ナフサ、水などの出発燃料を貯蔵しておき、ステーションで改質し水素を取り出しながら燃料電池車に供給するシステムです。既存の燃料を使えるため貯蔵が容易であることが特長ですが、システムの立ち上げに時間がかかります。各種の出発原料からのステーションが実証試験中です。
規模のメリットから言うと、同じタイプの水素ステーションを大量に配備できる方が、水素をエネルギーとして利用する自動車社会が早く日本で誕生すると思いますが、現状はオンサイト型にするのか、オフサイト型にするのか、オンサイトの中でも、NG/LPG改質にするのか、メタノール改質にするのか、水電解にするのか、もしくは石油/ナフサ改質なのか全く決まっていませんし、オフサイト型でも高圧ボンベで水素をを運搬するのか、それとも液体水素で運搬するのか決まっていません。一言で言えば、まだまだ実験段階ということになります。
しかし、オンサイト型になるのか、オフサイト型になるのかという点に関してはある程度の予測が立つのではないかと個人的には思っています。その予測の鍵は日本に存在する膨大な副生水素です。副生水素は「副」という文字から想像できますが、「主」として製造されたものではないが、「主」としたものの製造過程の中で棚ぼた的に獲得できるというイメージです。サトウキビからバイオエタノールを生産する過程で、バガスという搾りかすがブラジルなどでは火力発電所の燃料となるのですが、この意味で副生水素はバガスと同じ位置づけになります。次の引用を見てみましょう。
コークスが製鉄所のガス化溶融炉から出るコークス炉ガス(COG)には、水素が50%、メタンが15%、一酸化炭素(CO)が7%含まれている。これを改質水素を製造する。微量のCOを取り除いたあと、水素を燃料電池に供給して発電利用する。(中略)一方、石油精製所には、石油の改質プロセスで大量の水素が製造される。現在、我が国の大規模な水素供給源としては、①石油精製所(年産136億Nm3) 、②製鉄、コークス工場(89億Nm3)、③食塩電気分解工場(14億Nm3)に発生する副生水素であり、その総水素量は238億Nm3である。ところが、これら複製水素は、石油の脱硫や重質油の改質用、または発電や都市ガス用などに自家消費されており、外部に供給可能な水素量は100億Nm3ほどである。
上の引用で重要なのは、「最後の外部に供給可能な水素量は100億Nm3ほどである。」という部分です。この使われていない水素がまず水素社会の水素エネルギー源として、注目されて来ると思います。しかし、水素量100億Nm3と言ってもどの位の量か少しイメージがつきにくいです。しかし、この答えは市川勝先生の同著作の中に記載されています。
一方、来るべき水素エネルギー時代の家庭発電用の水素燃料の需要は,2020年には、500万台の燃料電池自動車として、38億Nm3、家庭および業務用燃料電池(約1000kw)として、350億Nm3であり、(「WE-NET2000年度報告書」による)
この記述から、500万台の燃料電池自動車に必要な水素は年間38億Nm3なので、100億Nm3の水素からは1300万台の燃料電池自動車に対して水素の供給が可能!ということになります。日本の車の普及台数はおよ3500万台(実際にはこれの2倍あるとも言われています。)と言われているので、日本の全自動車のうち、15%に対して水素の供給が今の時点で可能になります。水素社会の初期段階で有り余る水素が日本には存在しているということがおわかりになるのではないかと思います。個人的には、まずこの副生水素が日本における自動車のエネルギー源として利用されることになると思っているので、水素ステーションはオフサイト型が主流になるとのではないかと予測しています。なぜなら、副生水素が発生する石油精製所や製鉄所、食塩電気分解工場に併設する形で、水素を高圧ボンベや液体水素などで取り込む設備を設置して、各水素ステーションに運搬すればよいからです。
関西の水素ステーション
前述しましたが、関西ではJHFC大阪水素ステーション、JHFC関西空港水素ステーションの2カ所があります。前者がオンサイト型、後者がオフサイト型です。FC EXPO セミナーIn 大阪は両方の水素ステーションへの見学が可能でしたが、希望者がとても多いために、前者のJHFC大阪水素ステーションのみを見学することが可能でした。写真を中心に見学した水素ステーションをご紹介して行きたいと思います。
JHFC大阪水素ステーション

JHFC大阪水素ステーションは既に都市部でインフラが整備されている都市ガスを原料とする都市ガス改質型水素ステーションです。つまりオンサイト型の水素ステーションということになります。先ほど、副生水素が水素社会の導入に使われるであろうからオフサイト型水素ステーションが普及するのではと予測しましたが、都市ガスなど、既にインフラ設備があるところは都市ガス改質のものも水素の供給という意味では便利ですから、都市ガス改質の水素ステーションも次世代の水素ステーションとして大きな可能性を秘めていると思います。
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JHFC大阪水素ステーション
運用:大阪ガス株式会社
原料:都市ガス(天然ガス)
水素製造能力 :2.7kg/h(30NM3/h)
蓄ガス設備 :40MPaG 300L×7本
水素の純度:99.99%以上
充填能力:35Mpa
主要構成設備:水素発生装置、水素圧縮機、蓄ガス器、ディスペンサー
特徴:
水素ステーションの多目的利用を実証
都市ガスインフラを利用した天然ガス改質型水素ステーション
日本で始めて商業地域に設置された定置式水素ステーションにより、水素エネルギーの認知度向上
所在地:大阪府大阪市中央区
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実際に水素を燃料電池に供給するところを見学することができました。ガソリン自動車と余り変わらない時間で水素の供給が可能ということでした。燃料電池自動車と水素ディスペンサーの圧力をある程度同じにしてやらないといけませんので、数分程度、水素ステーションの方が供給に時間がかかっているように個人的に思えました。また燃料電池バスに完全に充填するのに必要な水素の量は20kgなのだそうですが、水素ステーションの水素製造能力は1時間にたった2.7kgということなので、バスに供給するだけで、7時間程の時間を使わなくてはなりません。まだまだ供給能力に問題があるので、水素ステーションが一般的になるには時間かかるのだと思います。
JHFC関西空港水素ステーション
関西空港水素ステーションは、蓄圧器とディスペンサーのみからなる簡易型のサテライト水素ステーションです。つまり、オフサイト型の水素ステーションということになります。液体水素で貯蔵されているので、液体水素そのものの弱点がネックとなってしまいます。
現在、海外の安価な水素は、液体水素の貯蔵タンクを搭載する大型タンカーで大量に輸送されている。しかし、水素の液化に必要な低温、圧縮行程と極低温(-263℃)での長距離輸送に、水素エネルギーの30-40%を電力消費されるため、経済的ではない。
液体水素、高圧水素、両方ともに問題点ありますのでオフサイト型にしてもどちらの水素ステーションが一般的になるのかということは現時点で予測することは少し難しいようです。

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JHFC関西空港ステーション
運用:岩谷産業株式会社、関西電力会社
ステーション方式: 液化水素型移動式水素ステーションによるオフサイト型
水素の純度: 99.99%以上
充填能力:35Mpa
主要構成設備:蓄圧ユニット、ディスペンサー
特徴:
水素製造装置がないため、設置スペースと建設コストが小さい
システムの立ち上げ時間が不要
水素は液化水素型移動式水素ステーションにより補充、液水ポンプ等の追加により、水素需要増に合わせた段階的な拡張が可能
パルプユニットを別置きした小型ディスペンサーを採用
所在地:大阪府泉佐野市
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水素ステーションの実現可能性
経済産業省の2020年の燃料電池自動車の普及シナリオでは、ガソリン自動車総数の15%にあたる500万台と言う事になっております。500万台の燃料電池自動車への水素供給という意味では問題がないので、水素ステーションの規格が統一されれば実現の可能性があります。しかし、全自動車をガソリン自動車から水素自動車へ切り替えるとなると話しは全く変わってきます。副生水素では水素供給量が全く足りないからです。なので、副生水素で足りない分はオンサイト方式で水素を作ってやらないといけないということになります。そのオンサイト方式の原料についてですが、天然ガス、LPガス、メタノール、GTL、脱硫ガソリン、ナフサ、水などある中で、水以外は枯渇が懸念される化石燃料が元になっているという大きな障害が考えられます。また水から水素を得る電気分解方式は現在、最も水素を発生する方式としてコスト高なので、一般的ではありません。水素エネルギーを使用した自動車が一般的になるにはこのような問題点があるのだと知っておくのはとても重要なことになると思います。
また、個人的に水素ステーションだけではありませんが、水素社会の到来に大きな障害になっている事項は国の新エネルギーに対する予算であると思います。これはFC EXPO in 大阪で燃料電池に関する取組みの現状という題目で 経済産業省 資源エネルギー庁省エネルギー・新エネルルギー部新エネルギー対策課長 渡辺重信氏の基調講演1の資料の一部を抜粋したものです。
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平成20年度 燃料電池関連予算(概算要求)のポイント
306億円→330億円
① 燃料電池の実用化・普及段階を見据えた研究開発
固体高分子形燃料電池実用化戦略技術開発:(継続:70億円(51.3億円))
燃料電池先端科学研究事業(継続:10.0億円(10.0億円))
②水素社会実現に向けた研究開発
水素製造・輸送・貯蔵システム等技術開発(新規:20.0億円)
水素貯蔵材料先端基盤研究事業(継続:10.0億円(7.6億円))
水素先端科学基礎研究事業(継続:18.0億円(16.6 億円))
③次世代型燃料電池システム(固体酸化物形)に係る研究開発
固体酸化物形燃料電子システム要素技術開発(新規:14.0億円)
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また、これは以前私が書いたコラムの抜粋ですが、以下もご参照下さい。
経済産業省が2007年度予算に対する概算要求を発表しました。(中略) 原子力については,2030年以降においても発電電力量に占める原子力発電の比率を30〜40%程度以上とすることを目指す「原子力立国計画」に対して,今年度は1900億円と2006年度予算の13%増となる概算要求を出しています。バイオマス由来燃料や天然ガスなどを起源とする合成液体燃料(GTL)の実証研究への予算を2006年度予算の17億円から72億円に増額要求しています。(中略)ハイブリッド自動車や電気自動車などの新世代自動車を普及させるため,蓄電池の低コスト化と高性能化を目指す「次世代蓄電システム実用化戦略的技術開発」への予算を2006年度予算の8億円から50億円に増やす要求を出しています。
予算の配分から経済産業省が一体何に期待をしているのかということはよくわかるのですが、平成18年12月に経済産業省によって作成された平成19年度 資源エネルギー関連予算案を概要を見てみますと
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【19年度予算額(18年度予算額)】(単位:億円)
1. 省エネルギーフロントランナー計画【1619(1649)】
2. 原子力立国計画【1770(1677)】
3.電力の安定供給対策の強化【336(303)】
4.運輸エネルギーの次世代化計画【581(518)】
5.新エネルギーイノベーション計画【1408(1570)】
6.地球温暖化対策の推進【124(139)】
7.石油・天然ガス等重要資源安定供給等に向けた施策の総合的推進【1502(1734)】
8.緊急時対応策の強化【1821(1774)】
9.鉱物資源の安定供給確保【72(65)】
10.アジア・エネルギー環境協力戦略【165(178)】
11. エネルギー技術開発の戦略的な推進(上記予算と重複)
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このような予算案から、まず経済産業省は日本のエネルギーとして期待しているのは2の原子力であるということがわかります。しかもまずはエネルギー危機を1の省エネルギーという既存の技術体系で克服することを考えて、7.エネルギー資源の多様化、8 エネルギー資源の備蓄という形で、有事の際のリスク管理をしているものと考えられます。よって、5の新エネルギーへの予算配分はそれ以下ということになり、燃料電池関連予算だけを見ると、300億円程度ですから、この程度の予算では、水素社会が到来するのは少し難しいのではないかと思います。この予算案で一番の問題は2の原子力立国計画だと思いますが、その理由は以前の私のコラムを参照に頂けると幸いに思います。
個人的な見解としてまとめは以下のようになります。
①短期的には膨大な副生水素を利用したオフサイト型の水素ステーションの普及を進めるのが望ましい。ただし、都市ガスのように既に既存インフラを利用できる地域はそのようなもので代替するのも良い。
②長期的には副生水素以上の水素供給を考えなければ水素をエネルギーとする自動車が一般的に普及するのは難しい。よって、化石資源以外の代替物で、水素を大量に製造する安価な方法を確立しなければいけない。
③経済産業省の予算配分は既存の技術の延長と、原子力に大きく期待するものであることが伺える。よって、技術体系が新エネルギーに移行した時には、日本は他の先進諸国から数段遅れることになり、技術大国日本の地位は大きく損なわれることになるに違いない。
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