減退する中東和平の機運
しばらく前、ふいに和平機運が高まり、進展が期待されていましたが、どうやら霧散してしまったようです。以前のコラムでは、「イスラエルがシリアに対してゴラン高原返還を提案」について触れました。しかし、付帯条件がシリアにとって非現実的なものでした。それは「イラン、ハマス、ヒズボラとの関係を断ち切れ」と言うものでした。シリアがそのような条件を呑めるはずがありません。もし、シリアのアサド大統領がイスラエルの提案を受け入れたのならば、国民の反発が極大化して政権が転覆しかねないでしょう。イスラエルに対する強硬姿勢こそ、今のアサド政権に取って死活的な求心力源と考えられるからです。
そのアサド大統領ですが、当然のごとくイスラエルが求める「イラン、ハマス、ヒズボラとの関係断絶」の条件を拒絶しました。
【参考】
一方、ヒズボラが拠点をおくレバノンでは内戦寸前の事態がおきました。親米のシニオラ政権が、ヒズボラが管理する通信会社を違法であるとして接収しようとしたのが衝突のキッカケでした。ヒズボラが保有する通信網は、2006年のイスラエルのレバノン侵攻を迎撃する際に大変重要な役割を果たしていたからです。ヒズボラにとって、その通信網は安全保障上なくてはならないインフラであったと考えられます。
それゆえに、ヒズボラの指導者・ナスララ氏は、通信網を強制的に接収しようとしたシニオラ政権に対し、「ヒズボラに対する宣戦布告である」と痛烈に糾弾したのでしょう。
上記背景の下で政府側とヒズボラ側の間で武力衝突が起きました。結果としては、ほぼ一日で形勢が明確となり、ヒズボラが首都ベイルートを制圧した格好となりました。
ベイルート(CNN) レバノンの首都ベイルートで過去3日間、続いていた親欧米のシニョーラ政権の与党勢力と、イランやシリアの支援を受けるイスラム教シーア派組織ヒズボラの民兵との市街戦は10日、ヒズボラが与党勢力が支配的なスンニ派地域も制圧した後、ほぼ終息した。 ヒズボラは首都の大半を制圧した模様で、シニョーラ政権には大きな痛手となる。与党勢力はシリアをレバノンに戻す「クーデター」と非難、アラブ諸国などに介入を求めた。今回の衝突で、レバノン軍は事態がこじれることを理由に介入しなかった。
AP通信は同日、スンニ派地域で営まれた葬列に銃撃があり、2人が死亡、2人が負傷したと報じた。内務省などによると、これまでの衝突での死者は10日の犠牲者を除き21人、負傷者は86人に達した。
ベイルート西部ではヒズボラが路上に検問所を設置、警戒している。銃撃戦を制したヒズボラは政府系のテレビ局2局を封鎖、1局では火災が起きた。この2局は、暗殺された故ハリリ首相の息子で与党連合を率いるサード・ハリリ氏一族の経営。銃撃戦のあおりで国際空港も閉鎖された。
今回の衝突は、シニョーラ政権が、ヒズボラが独自に設ける電話通信網を違法とする決定を下し、ヒズボラのナスララ最高指導者がこれに反発、「戦争」を宣言したのがきっかけ。ただ、背景には与野党間でここ数年続く根深い角逐がある。
2005年には反シリアのハリリ元首相が暗殺されてシリアの介在が疑われ、同国は翌年に軍撤退に踏み切った。しかし、ヒズボラなど野党は、政権打倒のデモを続け、与党政治家の暗殺も多発した。また、昨年11月からは大統領不在が続いている。
同国では1990年に、犠牲者が15万人ともされる15年間の内戦が終わっているが、今回の衝突は同年以降、最悪規模の騒乱となった。
[CNN][2008-05-10]ベイルートの市街戦、ほぼ終息 ヒズボラ勝利で政府に打撃
イスラエル側はヒズボラがレバノン首都を制圧した事態を重く見ています。反イスラエル勢力の台頭を改めて確認した形となった為でしょう。
こうしたキナ臭い動きと連動する様に、イスラエル国内では和平推進派のオルメルト首相の政治的立場が更に弱体化しつつあり、右派強硬派がじわじわと台頭する空気があります。
【参考】
オルメルト首相ですが、最近になって再び政治的に追い詰められつつあります。今まで何度も汚職疑惑を取りざたされては、乗り切ってきたわけですが、今回はついに「起訴されれば辞任する」とまで口にしています。
起訴の手続きには数ヶ月要するとされている為、今すぐ辞任と言う流れではなさそうです。しかし、今年の年末までに首相の座に留まっていられるか不透明感が漂っています。
もし仮にオルメルト首相が辞任する事になれば、現在パレスチナ暫定統治機構のアッバス議長との間で進めている和平交渉は水泡に帰する事になるでしょう。
オルメルト首相もアッバス議長も共に求心力を失っており、和平機運が減退しつつある現状です。和平交渉がご破算になれば、両氏の掲げる大義は消滅する事になるでしょう。当然、求心力の喪失となり、退陣を要求する圧力が噴出す可能性はかなり高いと思われます。
和平合意の希望が見えてこない以上、両氏の失脚は時間の問題なのかもしれません。
パレスチナ、レバノン、シリア、イランでは、対イスラエル強硬派が主たる政治的ポジションを確立(または確立しつつある)状況下にあります。
イスラエルでも、オルメルト首相が主導する和平推進派は失速し、右派強硬派が台頭しつつあります。右派強硬派の台頭は、2006年のレバノン侵攻直後から顕著になっています(連立内閣に右派強硬派が入閣)。最近になってオルメルト首相を糾弾する声の高まっている事からも、和平推進の動きが国民の支持を失っている事をうかがわせます(今のイスラエル国内の世論を踏まえると、ゴラン高原返還や入植地撤去など、実現困難と思われます)
ひょっとすると、今年がターニングポイントとなって、中東から和平推進の動きがなりを潜め、アラブ・イスラム、イスラエルの双方でナショナリズムが燃え上がり、対決的ムードが充満するかもしれません。
そうなってしまえば、後はキッカケ一つで中東戦争になりかねません。 その「キッカケ」を握っているのは恐らくアメリカではないでしょうか?
今後の中東情勢の分水嶺:アメリカ大統領選挙戦
アメリカの動向が今後の中東情勢を占うと言うのは、イスラエルがロビー活動を通してアメリカ大統領選挙に大きな影響を与えていると考えられるからです。
誰が大統領になり、そしてどのような中東政策(≒イスラエル政策)を取るかによって、中東情勢の先行きがはっきりとするでしょう。
ユダヤ人の間で人気があるのはマケイン・ヒラリーの両候補で、オバマ候補はアラブ・イスラム側に対して弱腰であると見ている傾向があります。
ヒラリー候補は、「イスラエルが攻撃されたら(核をもって)徹底的に報復する」と言う強いニュアンスを含む発言をして物議を醸しています。
マケイン候補も、米軍の中東駐留を超長期化する事を主張しています。
比較的穏健な中東政策を掲げているオバマ候補が政策変更・転換を見せるかどうか、今後のアメリカ大統領選をウォッチする上で重要なポイントではないかと思います。
もし、オバマ氏が対イラン、対シリア、対ヒズボラ、対ハマスにおいて、ヒラリー・マケイン両候補者に引けを取らない「中東強硬政策」を取らなければ、大統領選で不利な戦いに(何故か)陥るかもしれません。大統領選挙戦において大きな影響力を持つユダヤ人コミュニティの支持が得られないからです。
しかし、この事件はアメリカの主要メディアでは大きく取り上げられていません。ヒラリー陣営にしてみれば、オバマ氏を叩く絶好の材料となると思われるのですが、静かなものです。
今後、オバマ氏の口から強硬な中東政策が飛び出すのであれば、本疑惑のアメリカメディアにおける取扱い方にも納得が行くというものです。
さて、オバマ氏の中東政策はどうなるのでしょうか。
【参考】
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重要関連反響調査(他のサイト): ライフフォーラム(地獄のドバイ)
(補足)峯山政宏コラムニストは英検準1級以上の英語力がありますよ(笑)

コメント
【補足】 オルメルト首相が辞任の危機に晒されている事を報じるニュースソースを掲載します。
アルジャジーラ: Olmert facing calls to quit (オルメルト首相、辞任要求に直面)
http://english.aljazeera.net/NR/exeres/F8436433-FA60-4CD3-A9B8-28C9B46FE6AB.htm
Posted by 橋前勇悟 at 2008年5月17日 00:41