先日、フィナンシャルタイムズで気になった記事がありました。 それは「世界統一政府」の構想に関する記事でした。フィナンシャルタイムズといえば、世界の金融経済情報メディアとして名門のところです。 金融界、政財界とも強固なネットワークを持ち(それが情報力の源でもあるが)、それらの御用メディアとも言えるフィナンシャルタイムズが、なぜこのタイミングで「世界統一政府」について触れたのか関心を持ちました。
【和訳概要】
私は、米国の覇権の後を継ぐという国連の秘密の計画の存在をこれまで信じてきたことはなかった。モンタナ上空で滞空している真っ黒なヘリコプターを見たこともなかった。しかし、私の人生で初めて、ある種の世界政府の成立がもっともらしいことだと考えるようになったのだ。
世界統一政府とは、国家間の協調連携などを遙かに超えたものである。法律に基づき、州のような性質を持った存在になるだろう。EUはすでに27カ国からなる大陸政府であり、これは一種の参考になるだろう。EUは最高裁判所、通貨、何千ページもの法律、大規模な官僚機構、そして軍隊を保有している。
もしEUモデルが世界規模に展開されるとしたら? そうした自体が起こりうると考えるに至る3つの理由がある。
第一に、各国政府が直面する中でもっとも困難な問題は、本来国際的問題だと言うことが、次第に明らかになっていることだ。すなわち、地球温暖化、世界金融危機、そして世界規模のテロ戦争である。
第二に、それは起こりうるということだ。輸送と通信の革命的進歩は、世界を小さくした。そして、著名なオーストラリアの歴史家であるジオフェレイ・ブレイニーが「人類の歴史において初めて、今や世界政府は実現可能なものとなっている」と記した。ブレイニー氏は、次の2世紀以内のある時点で、世界統一政府を作ろうとする試みがなされるであろうと予見している。その見解は、通常の新聞コラムにしては、あまりにも長期的な展望である。
第三に、政治的な空気の変化は、「世界統治体制は、これまで考えていた以上に早く訪れる可能性がある」ということを示唆している。金融危機と気候変動は、各国政府を世界的な解決の模索へ仕向けている。中国や米国といった伝統的に国家主権を守るためなら手段を選ばない国家でさえ、世界的な解決へのアプローチを取らざるを得ないようになっているのだ。ブッシュ政権が国際合意や条約に対して軽蔑的であるのに対し、次期米国大統領であるバラク・オバマ氏はそうではない。彼の著書「大胆なる希望」によると、彼は「世界単一政権は、自ら進んでその力を自制し、国際的に合意された基準や条約を遵守し、それらの規則は守るだけの価値があるのだというメッセージを世界に向けて発信するだろう」と論じている。オバマ氏が国連を重要視していることは、彼がスーザン・ライス女史を側近の一人として米国国連大使に任命しており、ライス女史に閣僚席を与えたことからも伺える。
オバマ氏周辺から広がっている考え方は、世界不安定対策計画から最近提出されたレポートに寄稿されている。世界不安定化対策計画は、オバマ氏の政権移行期の管理担当であるジョン・ポデスタ氏と、ブルッキングズ研究所の所長であるストローブ・タルボット氏、そしてライス女史を含む、つい最近出来た顧問団である。
MGIのレポートは、テロ対策活動のための国連高等弁務官、国連の元で協議された気候変動に対する合意文書、五万人からなる国連平和維持軍の創設に賛成している。一度、加盟国がこの国連平和維持軍に参加することを約束したら、国連はすぐさま参加国の軍隊を招集するだろう。
こうした考えを聞かされると、アメリカのトークラジオのメッカである保守的な地域では、人々はライフルを手にするだろう。そうした考え方は政治的にデリケートなものであることに気づいているので、MGIレポートは、穏やかな言葉を使うようにしている。国際的な協力を求める場合、欧州で支持されている「共有される国家主権」というような先鋭的な響きのある表現ではなく、米国のリーダーシップが必要であると強調し、「責任ある主権」という用語を使っているのだ。また、世界統一政府という言葉ではなく、「世界的統治」について触れているのである。
しかし、欧州の思想家の中には、「彼ら米国人は、何が進んでいるのかについて気がついている」と考えている。フランスのサルコジ大統領の顧問であるジャック・アタリ氏は、「世界的統治は、世界統一政府に対する婉曲表現に過ぎないものだ」と論じている。アタリ氏が関与する範囲では、ある種の世界統一政府は、すぐには出来ないと言うことである。アタリ氏は、「国際金融危機の核心は、世界的な金融市場が存在する一方で、世界的な法秩序がないことだ」と信じている。
確かに、それは適切であるように思われる。我々ホモサピエンスが洞窟に壁画を描き始めて以来、世界統一政府へ向けて真剣に取り組むための機会と手段についての議論が続けられてきたのだ。
しかし、議論に熱中しないように。次の世紀に何らかの形の世界統一政府が台頭する可能性がある一方で、「世界的統治」のための努力は、苦労が多くなかなか進まないものになろう。
世界的統治が進まないのには、良い理由も悪い理由もある。悪い理由は、意志の欠如、国家側の決意の欠如、政治的リーダーの不足である。その政治的指導者たちだが、地球規模の危機について話したがる一方で、究極的には次の選挙に自宅で集中することだろう。
しかし、こうした問題も、世界的統治へ向けた進歩が遅々ととして進まないのか、より受け入れやすい理由をほのめかす。EU内部でさえ、法律によって統治される国際政府の好例でさえ、世界統一政府といった考えは不人気である。EUは、より密接な統合計画(EU憲章批准)が国民の前に提示された時、国民投票で惨敗を続けて苦しんだ。一般的に、官僚と政治家の間で広範に渡る取引が合意に達すると、最も早く統合が進む。そして、有権者に直接説明することなく統合は進む。国際的統治は、非民主的であるときに効果的になる傾向がある。
世界でもっとも緊急の政治的問題は、国際的な問題であろう。しかし、一般的な市民の政治的なアイデンティティは、かたくななまでに地域的・国内的である。誰かがこうした問題を解くまでは、世界統一政府という考えは、国連の金庫の中に鍵を掛けてしまい込んでおくべきなのかもしれない。
筆者: Gideon Rachman (1963年生まれ。2006年からフィナンシャルタイムズで、外交事案部署のチーフジャーナリストを務める。ケンブリッジ大学卒業。BBCワールドサービスから、職歴が始まる。フルブライト奨学金の支援を受け、1987年から88年にかけて、プリンストン大学の客員研究員となった。次の2年間、ワシントンのサンデー・コレスポンデントの記者となる。エコノミストで15年勤め、初めての東南アジア特派員となる。フィナンシャルタイムズでは、主にアメリカの外交政策やEU、グローバリゼーションについて担当)
「世界統一政府」とは、欧州連合を世界規模に拡大したものであり、それほど陰謀的なものでもなく、それどころか「迫り来る世界規模の危機」に立ち向かう上で、「世界統一政府」は有効な解決方法なのである――といった、内容を読み取ることが出来ます。
つまり、「世界統一政府は、そんな恐ろしいものじゃない。それどころか、これからの世界の問題に対処する上で必要な存在なんだよ」と、穏やかに諭しているように思えます。
「世界統一政府」に対する世界の人々の反応がどのようなものか――拒否反応はどのようになるか? 賛意はどれくらい得られそうか? などの反響をインターネット上で調べながら、今後の手を考えようとでもいうのでしょうか。
うがった見方をすれば、「意図的に世界的な危機・問題を引き起こすことで」、「人々の不安や危機感を強く刺激し」、「世界統一政府の必要性を説得し、浸透させる」というアプローチもあり得るわけです。
インターネット上における、有志個人たちの多方面からの調査や追求が積み重なり、「強引に隠蔽を続けるよりは、安心感に訴えて出た方が賢明である」という判断が、どこかにあったのかもしれません。
来年以降、金融危機は世界大恐慌に段階が進み、生活恐慌となって世界中の人々を襲うことは確実視されています。
もはや、各国の努力だけではどうにもならないほどに、問題は大きくなっている。
各国の力を越えた問題が、我々の前にそびえ立っている。
こうなった以上、世界が一つになって、歴史的かつ世界的な危機に立ち向かおうではないか――
そんな論調がメディアに溢れ始めたら、そしてもちろんインターネット上で溢れ始めたのなら(世論制御の舞台はすでにインターネット上に移行しています)、この記事のことを思い返してみてはいかがでしょうか。
『連山』編集部 追記
50日以内に某国で戒厳令(マーシャル・ロー)が布告される可能性があります。
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