それにしても、追剥(おいはぎ)というと時代が違うように思えるが、ロシアでは未だに信じられないような事件が、モスクワのような首都でも頻発しているのだから、ある意味、恐ろしく物騒な話である。しかし、現地に暮らしていた当時、毎日のように情けなくなるような犯罪情報やニュースを聞く度に、非常に悔しくて残念なのと同時に、「こんなにどうしようもない事が起こるにも関わらず、前向きに生きる」ことの大切さを感じていた。不思議なことだが、あの大国ではそういう芸当がしやすく、日本人よりも、簡単にちょっとしたことでは凹まないし、大事件にも動じない。そういう点は学ぶべきかもしれないのだが、なんせ犯罪件数が多すぎる。(ちなみに、火事も毎日多過ぎて驚いたが)私の伝え聞いた範囲の報道(テレビ、ラジオ、ネット)などから伝え聞いた中でも特に印象的だった"追剥的"事件を振り返ってみると・・・
1.冬場に現れる乞食を装った(あるいは実際に乞食なのか)老婆が親切に話しかけてあげた若い女性を催眠術にかけ、外套を盗むという話。(まさに、ロシアの文豪ゴーゴリの「外套」という小説のまんま)
2.某有名大学の総長のご子息が、超高級車を乗り回していたところ、コーカサス系の追剥に運悪く捕まって、殺害され、車を奪われる。そして犯人が逮捕されてから、馬鹿親が出てきて「死刑にすべきだ!」とマスコミなどで恥ずかしくもなく出てきて、裁判所に訴える。(実は、この総長さん一家が潤っていた資金というのは、ほとんど すべて賄賂なわけですね。要するに、ロシアでは何処の大学でもほぼ裏口入学ができるようになっていて、そういう裏金を積み上げて大金持ちになるのが上にいる人間。立派な大学教授ほど薄給で、必死で食いつながなければいけないほどサラリーが安い。つまり公務員というわけです)
3.日本の工場がシベリアに進出。当地では「黒字を出す数少ない企業」として一時は誉めそやされたものの、最終的には狡猾なロシア人のマフィア関係者によって、工場を乗っ取られる。裁判なんてものの、ロシアでは「有利に賄賂で裁判官を丸め込まない限り、あってないような裁判」で、かつ「正義と反対に動く」ことを常とするため、当然、正しい日本人が追放されて、ロシア人の手に渡る。しかし、脳味噌の足りない現地人のみでは、上手に工場を運営する能力がなく、結果的に「宝の持ち腐れ」になる。
4.ジョージソロスが出資していた利益団体でない奨学金を優秀なロシア人に与えていた組織が、ロシアの政府から税金など色々な言いがかりをつけられて、おまけに、「優秀なロシア人学生を国外に金銭などで勧誘して働かせた」ような嫌疑をかけられて、ほぼ事実上閉鎖に追い込まれる。
5.最近の話から。イギリスの文化を広めるための機関が、ロシアを侮辱したというような言いがかりをつけられている。立ち退きさせられるのだろうか?その可能性も高い。(が、その後の展開ははっきりしない)これは、おそらくロンドンで暗殺されたリトビエンコ事件や、ユダヤ系ロシア人の大物をイギリスに匿っていることや、ロシア外交官が数名、スパイ容疑で英国外へ追放されたことなどが背景にあるようだ。それにしても、産経の記者の方も書いていたが、ロシア人というのはロンドンの高級住宅地を買い占めて、何百万円も小遣いのように使う派手な暮らしをする層のロシア人が事実上、現地に住み着いて、「ニューモスコー」とか呼ばれているわりには、実際に本国では、まるでイギリスと対立した政策を取っているようにしか見えない。しかも、記憶ではこの英国文化機関の建物は、モスクワ川沿いにあって(以前は)非常に洗練されたデザインの(ロシアとしては珍しい)建物だったので、これを追剥というか、奪い取るための方策だったのかと思いたくもなる。
6.不思議な事件が最近のモスクワで起こった。モスクビッチ(モスクワっ子)の間で大人気の高級外車ポルシェが月20-30台のペースで盗難に遭っているらしい。なんでも、今のロシアの若者の間ではスピードが出るスポーツカーが週末などに集まって、非公式の自動車競走をするのが流行りだとかで。この内の盗まれた一台が走行中にこの車が、ある事件を起こしてしまった。猛スピードで疾走する途中に、モスクワの女子大生を車内から振り落とし、この女性は即死。犯人は捕まっていないが、目撃した市民が多数おり、その現場から数百メートルのところで盗難車が乗り捨てられていたとのこと。このニュースから考えられる女子大生のいくつかの素性。1.売春婦。2.共犯者。ちなみに、1のケースでは犯人と痴話喧嘩して振り落とされたか、犯人が料金を値切って、それに応じなかったから振り落としたと考えられる。2でも同様に喧嘩したのでは?ちなみに、残念だが未だ「売春婦」という言葉を、ロシアでは小さな子供でも知っていたりすることがある。別名、婉曲に表現すると「夜の蝶」とも言うが、実際には出稼ぎのウクライナ人などが多い。この職業の女性は都市に非常に多く、減る様子はあまりない。モスクワなどに住む日本人の駐在員はこの手のハニートラップで「いちころ」になりやすい。金髪女性に滅法弱いことは、現地でよく知られており、ロシア人女性の大半は元々金髪でないのに一生懸命(こういうときだけ)髪の毛を染めている。が、よく見れば頭のてっぺんから毛の色が変わってくるのを避けられないので、「偽金髪」だということは見破ることができる。いっぱい金髪がいると、たいして皆美人でもないことが分かってくる。(黒髪のコーカサス系の女性の方がずっと美貌の持ち主が多い。金髪信仰は見慣れると消滅し、やがて幻滅に変わる)売春に関して言うなら、商売合戦も熾烈で、道端でも声をかけてくるらしいし、ホテルの部屋への売り込み電話や、カラオケなどの同伴があるらしいが、絶対乗らない方がよい。軽い個人の行動が、日本人の男性に対する偏見を助長することになりかねないし、そういう背景に必ずといっていいほど、マフィアがいるのをお忘れなく!
まあ、こうして6つくらいを軽く思い出してみても、ロシアの「追剥(おいはぎ)」ぶりはすさまじいものがある。もちろん、ロシア人個人個人というのが全員「手癖が悪い」ということはないのだが、何を隠そう 公務員(警察官、教師、医者などすべて)の給料が異常に安く、たいていの人がいくつかの仕事を掛け持ちでやらないと収入が十分でないような貧しさなのだ。どこかで辻褄を合わせているとしか考えられない場合もあり、実は気前のいい人の多いモスクワでは、公務員より乞食の収入が多かったりすることもあるらしい。
この極度な貧富の差と、旧ソ連圏や中国からの大量の移民や出稼ぎ労働者が流入している大都市の喧騒を考えると、ある意味、混沌の世界で起こりうることなのだ。もちろん、そんな中でも貧しさに耐えて清貧に暮らしているロシア人もたくさんいるし、都会へ逃げ出してきた少年たちや、少しでも貧しい家を助けようと地下鉄で花を売るような子供や、楽器を演奏して稼ぐ音楽家など、ひたむきに生きる人もたくさんいる。しかし、現実は極めて厳しい。こういう「追剥」が当たり前に日常で起こるのが、現代のロシア。経済発展という恩恵に浴することのない大多数の人々の中から、今尚、ドストエフスキーの描いたような 貧しさから抜け出せない人々がいるのだと思うと、非常に暗澹とした気分になる。でも、ロシア人ならきっと「ニチェヴォー(どうってことない)」と言いながら、 なんとか生き抜いていくのだと思う。そういう人たちに会って、毎日の大変な生活を 笑い飛ばしているのを目にして、一緒に笑うと、なんだか生きる気力が沸いてきたものだ。
極寒の地にあって、過酷な人生を冗談交じりに笑い飛ばせるロシア人の根性は見上げたものだ。そして、そうでもしなければ、あの国で生きていけないだろうとも思う。おそらく、たかが「追剥」くらいのことで驚いてはいけないのが、ロシアなんだろう。ロシアに関わるためには、多分、先にそういうことを知っておかなければならない。

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