ロシアから見たアメリカ

実を言うと、私は自分の目でアメリカという国を見たことがない。
ただ、アメリカから来る人だとか、アメリカに住んでいた人に会ったことは何度かある。
どういうわけか、日本人の多くの人は「外国」というとイメージする国が「アメリカ合衆国」という人も少なくはないようだ。(私の周りだけかもしれないが)別にそれが悪いというわけではないけど、アメリカ人とかアメリカ帰りの日本人に対して、どうもとっつきにくいものを感じてきた。良く言えば、「自己主張」ができる人たちなのだろうが、逆に言うと、「自分の押し売り」しかできないようにも見える。単純で、あまりにも深みがない。
むしろ、日本人の美徳を失った結果が、アメリカナイズのようにすら見えて仕方なかった。

一方、ロシアというと地理的には近いのに意識的に遠い国のようで、たいてい「ロシアにいた」というと、かなり珍しがられる。たしかに、歴史上ロシアという国が残してきた汚点は数限りない。
そんな穢れを背負いながら、それ以上の魅力を感じさせる場所。国としてのロシアは信用ならない。だが、そんな国にいる一般人は驚くほどに面白い。
そして、アメリカ人に比べるとずっと謙虚で、冷静に世間や人生を見つめている。そのため、
日本人の謙譲の美徳だとか、謙虚さ、勤勉さを自分たちにないものとして非常に尊重し、特に現地で礼儀正しくしていると、それだけで「本物の日本人だ!」と注目を集める。

たしかに今の国家としてのロシアは、外国に対してまたしても資源を盾にして威張り始めている。でも、そこにいる人々の現実は依然厳しく、だからこそ、ない金で借金してその日暮らしできるアメリカ人の感覚とは違うように思われる。全体的に見ると、金持ちになっているのは一部で、大半の人々の生活は依然厳しく、気候面だけを見ても不利な条件下に暮らしているといえる。

やはり、ロシアからアメリカを見ると、冷戦時代に叩き込まれた「敵国」という意識もあるのだろうが、どうも素直に好きと言えない相手であるには変わりないようだ。個人的体験であるが、モスクワのマクドナルドで会った知らないロシア人青年に「お前はアメリカが好きか?」と尋ねられ、「嫌いだ」と答えると握手を求められたりした。この舞台がロシアだが、実はしっかり嫌いなはずのアメリカ資本の店で交わされた会話というところが、いかにもロシア流アネクドート(小話)並みだ。まあ実際、これが庶民の感覚に近いというところだった。ある意味、バランス感覚というのか。多くの「ロシア人がビザを貰うためにアメリカ大使館前に行列を作っていた。ロシア国内では、次々にマクドナルドやピザハットが展開。駐在員のために、アメリカセンターとかいうような名前の自国民向け病院を開業していたり、とにかくアメリカ資本の鼻息荒かった。おまけに、宗教面でもプロテスタントの宣教師まで入ってきて布教もしていた。

実はロシアにも、ロシア聖教という現在では再び国家宗教に近い存在の宗派が存在しており、ここはカトリックとは非常に仲が悪い。今のバチカンの法王の前に、ポーランド系のヨハネパウロ2世という方がいらっしゃったが、この方の念願はロシアの地を踏むことだったらしい。しかし、ロシア聖教側やロシア政府の圧力でビザが出ず、ウクライナ訪問は果たしたのみに終わった。そのほかにも見事にカトリックの外人神父のビザを姑息な手口で取り消すなど、かなりヨーロッパ側の言論の自由や宗教を脅威としているような点がある。その一方でのプロテスタントの布教。おそらく、数的に少ないとかいう理由もあろうが、比較的アメリカ人に対して緩いということもいえるのかもしれない。

政治的に見ると、敵対しているように見える米露であるが、実際にはお互いの利益をよく見極めているらしい。その一例が人権問題である。ヨーロッパ側のロシア国内の人権問題に対する態度も、最近はエネルギー資源を抑えられている立場から弱くなってきているが、ことアメリカに関しては意外なほど「チェチェン問題」に関してなども、あっさりしたものだった(つまりほとんど干渉しない)。知人の欧州系団体の「国境なき医師団」などは、一度チェチェン領土内で同団体幹部が行方不明になる事件があったときなど、常に報道担当者などがロシア当局の諜報活動を受けて、人間不信になっていたことがあった。常に盗聴されているとのことだった。まあ、ロシアの雨が降れば悪くなる電話回線事情やあのアパート事情を考えれば盗聴も留守中の侵入もそう難しくはあるまい。しかも、ソ連時代に「外人を見たらスパイだと思え」という時代が長かった国柄もあって、人道援助に入っている「国境なき医師団」の人々のことを一般人が政府系の報道を見て、よく思っていないことも明白だった。これは私もかなり驚きショックであった。

その点、アメリカは宣伝上手で、例のマクドナルドなどでも「従業員教育制度」のような形で上手にアルバイト店員を留学させる機会を与えているとか、色々といかにも善行を施しているような企業情報の広報活動をしていた。ロシア人がどの程度信じているかは別として、たしかに店内の雰囲気は明るく、現地の価格としては破格に安いハンバーガーが手軽に食べられるとあって、モスクワでは各駅停車くらいに店ができて大繁盛だったので、おそらくアメリカのビジネスでもロシアで最も成功した外食チェーンといえるのだろう。

そして不思議なことに、アメリカの80年代くらいにヒットした楽曲などが季節を問わず流れたり、いきなりモスクワ中心部で夜になると、エルビス・プレスリーの歌を街頭で演奏するグループが現れたりしていて、ロシア人の音楽の好みも謎だった。また、違法海賊版CDでもアメリカ映画、アメリカ音楽が大量にかなり安価で、至るところで売られていた。たまに、著作権問題を持ち出しては急に一軒か二軒摘発されてニュースになったりしていたが、そんなこと全体的には何処吹く風、といったような感じだった。もちろん、ロシアでも人気歌手だとか人気映画もあったが、全体的にはアメリカ一色というくらい、映画館でやっている映画もアメリカのものばかりという時期であった。おそらく今は割合的に変化しているだろうが、それでも映画館のスタイルなどもソ連時代とは大きく変わってしまって、採算の取れない映画館は縮小の対象になってくるような雰囲気があった。
中には贅沢なサラウンドシステムで、ポップコーンを齧って、お洒落なビーズクッションにもたれて映画が見られるようなところまであったが、本来ソ連の得意芸だった芸術性の高い映画をやっている映画館はモスクワですら、2-3館あるかないかになってしまっていた。

最近では、その中の一館であった「映画博物館」というところは、昔のフィルムを所蔵しており、エイゼンシュテインの時代からの貴重な写真などの資料がある重厚な建物だったが、ここも土地建物所有権を巡って揉めており、現在元の状態で営業しているかどうか不明である。同様の話は土地が異常に高騰しているモスクワでは多々あり、お金にならない芸術の筆頭に上がる劇場なども、地上げ屋に騙されて書類にサインをしたために建物の立ち退きを迫られている話がいくつもニュースになっていた。

おそらく、芸術を国家が保護してきたソ連時代式のやり方を、どんどん独立採算に近いやり方で、スポンサーを集める実力がないか、あるいは行政府にコネを使うか、そういった方法でしかロシアの劇場も生き残れない時代に入ってきているのだろう。これも、多かれ少なかれアメリカ的資本主義の影響だと思われる。

こういう傾向は、国家的な演劇祭などでも徐々に見られるようになっていた。演劇祭のスポンサー企業が、宣伝のために露骨に広告を入れたり、商品を配ったりするようになったのだ。最初のうちは、そんなものかと思って見ていたが、だんだんとこういう状態が浸透してくると、やはりロシアの良さが失われてくるように思えてきた。

つまり、ロシアの良さというのは、「お金にならないことでも、芸術や自分の志すもののためなら一生懸命やる」ということだと私は思っていた。しかし、最近ではそれが段々と薄れてきているようだ。たしかに仕方がないことだし、人間生きていくにはお金も必要である。とはいえ、大型のショッピングセンターが乱立して、目新しい新奇な流行にばかり流される若者が増えているのを見ると、どうも複雑な心境である。おそらく、当のロシア人がこれはアメリカナイズされたのだ、という意識はないと思うが、「大国意識」や「傲慢さ」ばかりが目につくようになると、以前感じていたロシア的な謙虚さとか、実直さ、素朴さといった部分がすっかり抜け落ちて、アメリカに似た物質主義で欲の塊みたいな風情になってしまったようで残念である。

ただ、まだ私は個人的にロシアに対して希望を失っていない点もある。この国のインテリゲンツィヤの間での日本に対する評価が非常に高く、好意的であることと、次の世代で日本贔屓の若者が育ってきていることだ。まず、見逃せないのがアニメの影響。私がモスクワに暮らし始めた当初、必ずといっていいほど「ベトナム人」と間違われるくらい、日本人はひたすら珍しい存在で、子供は怖がるくらいだった。ところが、数年して「ポケモン」や「キャンディキャンディ」、「セーラームーン」をテレビ放映し始めてから、子供たちの私に対する目の色が変わった。まるでスターのように「日本人のお姉ちゃん」を追いかけて、逆にアジア系は何もかも一緒に見える親から「あれは中国人」と間違った情報を入れられても絶対に諦めない。恐ろしい熱意の絶叫に出会うこと頻繁になった。これはロシアに限ったことではなくて、ポーランドでも同様だった。もしかすると、私の顔がピカチュウのように目と目の間が離れているから、日本人だと判別しやすいためにこういう目に遭ったのかもしれないが・・・

また、このような子供たちだけでなく、大人の間でも驚異的な日本食ブームと(外国に行っても金持ちロシア人は寿司を食べるほど)「村上春樹」や「吉本ばなな」、「三島由紀夫」から「清少納言」まで日本の小説は大いに人気があり、中には「紫式部」まで読破する若い女性も少なくない。こういう文化的な面から日本を評価しているという点ではロシア市民の鑑識眼も捨てたものではない。今後、そういう世代が育ったときに日本側との歴史問題なども踏み込んで理解してくれるようになればよいのだが!と願わずにおれない。

参照コラム東京の未来(連山改より)

重要関連新型インフルエンザと中国大陸


主要アクセス先(平成20年7月23日現在)


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