それにしても、ロシアとウクライナの仲が悪さというのは想像以上のものがあるらしい。しかし、実際に現地に行ってみると国境を接している国だけに、お互いの領土内にかなりの割合で両者が混ざり合う地域もあるし、モスクワなどではウクライナ人の出稼ぎ労働者や売春婦が非常に多いのは有名な話だ。
そんなわけだが、ウクライナの首都キエフに行ってみると、意外にもまったくロシア語で不自由しないし、別に住民が特に嫌がっている様子もなく、ウクライナ語とロシア語が平行して使われている印象を持った。しかし、ウクライナも結構広大な国土を持つ国だけに、これも東側の話らしく、西側(ポーランドに国境を接する側)は、ソ連時代からロシア語を嫌がってロシア人観光客に対しても冷たい反応をしてきたようで、ウクライナ語優位の土地柄らしい。
そんなわけで、選挙のときも「オレンジ革命」のときも、こういう地域性が出てきて お互いに国内が協調しきらない状態のまま、あっちへ転んだり(ユシェンコ大統領)またエネルギーでロシアに首を絞められると、こっちへ転んだり(ヤンコービッチ)、ここ数年特に一貫性のない政治になっている。
そんなウクライナでは近年、相変わらず設備の悪い炭鉱での事故が急増しており、去年だけでも何度も大規模な崩落事故や爆発事故で、多くの人々が犠牲になってきた。
そしてこの寒い冬だというのに、ドネプロペトロフスクという都市では、完全に熱湯の配水がストップされているというのだ。これは、日本のシステムからは理解できないことだが、ソ連時代から水道というと、あちらでは冷水と熱湯のふたつの蛇口があり、夏場の水道管交換の時期を除いて、年中熱い湯が出るようになっている。これが出ないというのは、しかも冬の寒い時期だけに死活問題にちがいない。
その原因となっているのが、慢性的なドネプロペトロフスクの財政悪化による「ウクライナ・ネフトガス社」へのガス代支払いの滞納だという。なんと、その滞納金額が凄い数字になっていて、1億11千6百万グリヴナ(ウクライナ現地通貨)で事実上これだけの支払いをするのは、財政的に不可能だという。
同様のことが、ロシア国内でも近年起きているので資源大国ロシアでも他人事とはいえまい。しかも、ロシア国民とてガソリンを買うのに行列を作っていたのも、ついこの間のことだから、国民に対して安定したエネルギー供給をしていない点では、どちらの国も似たようなものだが、ウクライナの方がさらに状況は悲惨だといえよう。
さらに、去年あたりからウクライナ国内では「ロシア語アレルギー」ともいえる反応が益々大きくなってきているようで、国内公開の映画には「必ずウクライナ語字幕」をつけないといけないという法律ができたらしい。事実上、ロシア語を使う住民に対しては脅威ともなるこの法律、それでも現政権としては、なんとかウクライナをロシア文化から切り離したいのだろう。それに対して、ウクライナ東部の国民の反応は複雑だ。早速首都では、この法律に反対する人々が集まって集会を開いたらしいが、やはり彼らは「ヤンコービッチ派」として旗を揚げて訴えているようだ。
というのも、ウクライナ語を日常から話しているのは西側のウクライナ人にとってはよいが、東側のウクライナ人としては、いきなり慣れ親しんだロシア語を前面禁止されると、困る人が大勢いるわけだ。つまり、ロシア語とウクライナ語は似ているとはいえ、ロシア語が完璧にできるから、そのまますぐにウクライナ語もというわけにはいかず、3-4割の理解程度でウクライナ語を喋る東側のウクライナ人は、実はかなりの数なのではないかと思われる。正直なところ、ウクライナ語というのは、ポーランド語よりもロシア語に類似点が少ないような気がするくらい、そう簡単に日常会話の言語的な移行が進むとは思えない。
このような事情から、苦肉の策として最近公開されたフランス映画は、字幕はウクライナ語、吹き替えはロシア語という混乱した状況のまま、ウクライナ国内の映画館上映されることになったという。
たしかに、これはウクライナだけの問題ではなくて、グルジアでもアゼルバイジャンでもアルメニアでもウズベキスタンでも、実はかなりレベルの高い学問的、政治的なこととなるとロシア語に頼らざるを得ないし、インターネットのニュースや実際の新聞・雑誌ですら、自国の情報源だけで十分でないとなると、嫌でも頼らざるを得ない状態なのである。
ロシアとの関係が悪化していないウズベキスタンなどは、今でも教育現場で第二外国語として、ロシア語を当然のように学び、大学でもウズベキスタン語とロシア語から選んで講義を受けられるらしい。しかし、反露的な国では、そうはいくまい。特にEUに入ろうとするバルト三国なども、ロシア語アレルギーがきついらしくて、最近の若者はロシア語が非常に下手になったというくらいだから、今では第二外国語はロシア語ではない可能性が高い。
そうはいっても、ウクライナもロシアに比べると資源に恵まれておらず、結果的にはロシアの呪縛を逃れることは不可能に近いだろう。できるだけ円満にこのような状態から脱して、ロシアとウクライナが友好的な関係に戻ってくれることを蔭ながら祈りたいものである。
