ロシアという国家は「張子の虎」のようなものではないかと思うことがある。つい最近も日本の領空侵犯をしたロシアの戦闘機が話題になっているが、こういった派手な対外的なアピール(?)は大得意のプーチン政権も問題が国内となると、とてもそんな華々しい成果は見られないらしい。
ネットの言論は比較的まだ自由(?)なロシアのネット報道によると、いろいろな点で国内問題を放置したまま、自らの大統領任期を終えようとしつつあることが分かる。
代表的な国内問題をいくつか取り上げてみよう。
1.国内の法改正により、以前よりも地方行政でどのくらいの収賄が行われているか、非常に不透明となった。1990年代(エリッツイン大統領の時期)も決して賄賂が少なくなかったのだが、まだ透明性は保たれていた。たとえば、1997年の一例を 見れば、国会議員が9万ドルを受け取っただけで免職されていたくらいであった。それが今日では逆行し、特にプーチン大統領の取り巻きの間で受け渡しがあったと思われる大量の株式譲渡や、不自然な「ロシア銀行」の利益になるような「ガスプロム」株式譲渡や、アブラモービッチの所有する「シブネフチ」の買収を巡る不自然な大金の受け渡しはうやむやのままである。
2.ロシアが国家的に潤っている原油価格の高騰による歳入を、今こそ「ロシア軍の再編」に使うべきときなのであるが、実際にはまったくそれと逆行している事実。驚くべきことに、ロシア軍の軍備のための歳出は1990年代よりも減っているのだ。しかも、海外向けの輸出用の兵器は安価で技術的に進歩のないものが中心となる。そのため、そういった輸出用兵器ばかりを生産する工場が優遇され、本当に新しい技術の開発があまり進んでいない。さらに、徴兵制の制度自体も崩壊寸前まで進んでおり、若い世代の徴兵拒否をなんとか食い止める、あるいは本格的に職業軍人を増やすにしても現行の軍人給与というのは、ロシア国内の平均的給与の2分の1以下という低水準なのでこれもまた難しいというのだ。また、核兵器についても2000年から2007年の間はソ連時代の核弾頭を維持するほどの水準だったのが、プーチン政権になってからというもの、削減の一方である。
3.ロシア国家が豊かになっているはずの現状であるのに対して、国民の間の貧富の差は拡大方向に進んでいる。さらに、ロシア国内では出生率が少しばかり高くなったと言われているものの、実際に死亡した人口と比較すると、いずれにせよ2006年度においては、出生人数150万人、死亡人数216万6千人と相変わらずの現象ぶりである。なんと1990年代に比べてみると、ロシア国内の人口減少率は2倍近くになっているのだ。恐るべきことだが、1992-2000年での減少人口が200万人だったのに対して、2000-2006年では、なんと350万人も減っている。
4.ロシア国民の健康問題についてみてみると、死亡原因の主な理由は極度の喫煙や飲酒など不健康な生活が影響していると思われるものが多い。プーチン政権になってから、ロシア国民の喫煙率は一層高くなった。たとえば、2000年には国民一人当たりの年間アルコール飲酒量は約8リットルだったものが、この年の終わりには10リットルに。(これは1990年統計より多い)さらに、実際にロシア国民一人当たりの飲酒量は15リットルに上るという統計機関もあるくらいだ。世界の保険機構によると、既に年間一人当たり8リットルの飲酒でも危機的状況で、これによって死亡率が高くなっていることは疑いようがない。また、タバコの売り上げも飛躍的に伸びている。2000年には355億本だったものが、2006年には400億本)男性の死因一位は肺癌であり、続いても呼吸器系の病気であることからもタバコがいかにロシア人男性を蝕んでいるかということが分かる。
5.ロシア国民を取り巻くこのような劣悪な状況にも関わらず、プーチン政権の間に一向に医療の改革が行われたということを聞かない。しかし、歳出面では医療充実を口実に非常に大きな財政が支出されているということが信じられないほど、現状の医療機関は代わり映えしない。前述の大富豪アブラモービッチの「シブネフチ」に支払われた額よりも少ない「健康」のための6億ドルも一体どこへ消えたのか?という有様である。
6.ロシアの年金制度もほとんど赤字体質を脱しきれず、選挙目的で時々微々たる金額が統計上加算されることはあっても、実際には一月に4000ルーブル以下しか一人の年金生活者に当たらない。プーチン政権になってからというもの、それまで年金生活者が享受してきた「無料の市内交通」だとか「無料の市内通話」、「一定額のガス・水道料金」なども事実上廃止方向に向かい、おまけにロシア人の平均収入に対して33%払われていた2000年の年金額から、2007年には24%と減少傾向。さらに、2027年には15-18%まで段階的に下げていく予定なのだ。これでは安心して長生きするのも難しいのではないだろうか。
以上のようなロシア国内状況を見ていると、ロシア人が本当に哀れになってくる。 もちろん、日本で脚光が当たるのは「富裕なロシア人」やら、「成金スポーツ選手」、 「俳優かぶれした派手なアクションだけが得意な大統領」ばかりなのだから、日本人は本当のロシアを知らないというほかない。モスクワなどでこそ、日本からの駐在員も増えつつあるというが、実際には、「首都(モスクワ)はロシアの外国」というくらい、地方との差は大きい。広い国土に資源もあるが、国民は決していいことばかりではない。むしろ、ロシア国民の苦悩が「資源バブル」に浮かれる富裕層の下で隠れて見えないだけだ。
プーチン政権が国内で支持率が高いから、国内政策もきっといいのだろうなんて思うのは、かなり早まった解釈に違いない。派手な売り込みが上手いだけで、本当にロシアの救世主になれるわけではない。実質的に本当に国を愛しているのなら、もっと地道な政策ができていいのではないだろうか?
