前回の文明史的に見たエネルギー戦略の将来(1)に続く
アクエリアス(水素文明)の文明史的意義を検討したい。まず、文明とエネルギーには、どのような関連があるのだろうか。前号で述べたように、アクエリアスは第4次エネルギー革命だ。その前段階として、木炭を用いた火の使用、化石燃料(石炭や石油)の使用、そして核の使用という、3次に渡るエネルギー革命を人類は経験してきた。
それぞれの時代において、エネルギーは移動と軍事により多く消費されてきたと言える。薪を使って起こした火(木炭)が、主要なエネルギーであった時代は移動は、馬やラクダや帆船が主流であったが、火薬を生んだことで大砲や鉄砲を実用化した。産業革命の原点は、木炭から石炭コークスに燃料を切り替えた所から始まる。つまり本質的には動力革命なのである。木炭よりははるかに強力なエネルギー源である石炭が、銑鉄の製造に使用されなかったのは、石炭が硫黄を含んでいたからだ。硫黄分を含んだ銑鉄はもろくて使い物にならない。
石炭を蒸し焼きすることによって硫黄分の大半を抜き取ったのがコークスであり、炭素の多い銑鉄を溶融状態にもっていき、空気吹き込みによって炭素の酸化除去に成功、高品質の鉄鋼の大量生産を可能にしたのが、ベッセマー転炉だった。
更に天才ジェームス・ワットが前任者ニューコメンの蒸気機関の画期的な改良に成功した結果、この蒸気機関がまず紡績機、次いで機関車と蒸気船への動力として実用化されたのである。
さらに、化石燃料の時代は内燃機関から自動車や航空機、戦艦や戦車や爆撃機を生んだ。核の時代は核兵器や原子力空母や潜水艦を生んだのだ。
このように見てくると、エネルギー問題は科学技術の発展とあいまって、軍事上の覇権と直結し、文明のあり方を根本的に規定していることがわかる。地政学上の格言に「科学技術の発展を考慮する」というのがあるが、まさに、そのことだ。
鉄砲の実用化は日本では戦国時代を収束させる効果をもったし、内燃機関の実用化は蒸気船を生み、英国の植民地との間のエンパイアルート確保に役立った。この時代は、前号でも述べたが、植民地獲得競争の帝国主義の時代であり、シーパワー英国の時代である。最盛期はヴィクトリア(Victoria)女王の在位期間、1837年から1901年までの時代を指す。この間に、大英帝国はスエズ運河の領有化(1875年)、アヘン戦争(1840から42年)、インドの植民地化(1877年)などの帝国主義政策を推し進め、国内的には産業革命による資本主義経済の成立により、「世界の工場」として繁栄を極めていた。(しかし、後半1880年代頃には新興国、アメリカの急速な工業化と南米からの安価な農産物の輸入による不況で、その栄光にかげりが見え始め、その勢いは1899年から始まるボーア戦争で完全に停滞し、二度の世界大戦により大英帝国はとどめを刺される。)
このヴィクトリア朝時代には、産業革命の負の面として、かなりの数の孤児が各地にいた。『オリバー・ツイスト(上)(下)』のオリバーや『エマ(上)(下)』のジェイン・フェアファックス嬢、『大いなる遺産』のピップも孤児だった(小説の主人公になるほど、身近に孤児が存在していた)。そして、孤児が発生する要因として最も多いのが死亡率の問題だ。19世紀、医療も発達してなくて薬も庶民にはおいそれと手が出せない値段という時代、出産時の死亡率は204人に1人(1870年)という割合だった。さらに、産業革命で生まれたスラム街に代表される劣悪な都市環境のもとでは、マンチェスターやリバプールといった工業都市では平均寿命が19歳!という極端な地域が存在する有様だった(それだけ、乳幼児の死亡が多かった)。そのような理由から、親が死亡したり口減らしで捨てられた子どもたちが、各都市にたむろしていた。このような背景で、英国で「共産党宣言」が起草されることになる。そして、このシーパワーによる植民地獲得競争は二度の世界大戦を引き起こし、全世界を惨禍に巻き込んだ。これがカーボン文明だ。カーボン文明とは本質的に弱肉強食のゼロサムゲームだったのだ。 そして、第二次世界大戦末期に実用化された核兵器と戦後の原子力潜水艦の実用化は世界を全く新しい時代に陥れた。核の時代、言い方を変えると、MAD「相互確証破壊」の時代だ。そのため、大国間での戦争は抑止され、相対的な管理された平和、いわゆる「冷戦」が続いた。
以上を要約すると、地政学の視点からは
・木炭の時代は鉄砲を通じた地域統合の時代
・化石燃料の時代は帝国主義を通じた世界分割すなわちグローバル時代、
・核の時代はMADを生んだ恐怖による均衡時代
といえる。
MADにより核保有国同士の戦争は抑止されたが、カーボン(化石燃料)による帝国主義は現在進行形であり、それが「中東問題」の根源だ。ここから脱却しないと、シーパワー、否、人類に未来はない。
そして、来るべきアクエリアスの時代は、この18世紀以来のゼロサムゲームたる、カーボンを巡る「中東問題」を根本的に解決する可能性を秘めている。それは、「燃料電池」がエネルギーと水を同時に、しかもクリーンに生産するということだ。
そして、このカーボンを巡るゼロサムゲームからいかに脱却するかが、今後の人類の課題だ。そのための切り札がアクエリアスなのだ。なぜなら、アクエリアスはエネルギーと水を同時に、しかも、クリーンに生産するため、深刻な砂漠化が進む中東地域の砂漠緑化、水の供給、石油以後の産業創出という一石三鳥といってもよいくらいの効果があり、しかも、その主導権を日本の技術が握っている。
アクエリアスこそが、日本の脱石油のエネルギー戦略であり、石油以後の産業創造、砂漠の緑化を求める中東湾岸地域との連携にも繋がるアプローチになりうることを理解していただけたであろう。
今回は、政府や行政は、このアクエリアスに対してどのような態度で臨むべきかについて、考えてみたい。
結論から言えば、政府は「カーボンからアクエリアス」への移行を税制や補助金といった点で支援すべきだ。
<参考>
炭素税
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http://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&ecoword=%92Y%91f%90%C5
二酸化炭素の排出に対する課徴金制度。
化石燃料を燃焼した場合に排出する二酸化炭素の量に応じて課税し、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出低減を目的とするもの。「環境税」と呼ばれることもあるが、こちらは二酸化炭素排出も含めて、より広義に環境に負荷を与えるもの(あるいは環境の利用者)に対する課徴金制度を指すことが特に近年は多くなっている。
OECD(経済協力開発機構)内では、炭素税に関する多くの提案がなされ、オランダやスウェーデンなどの国はすでにこれを採用している。日本を含む他の先進諸国においても導入が検討されている。
日本では、経済産業省により、エネルギー特別会計のなかで石油に対して石油税として電力会社や石油元売会社などに課税していたが、2003年度から「石油・石炭税」(仮称)等に改め、石炭等に対しても課税し、増収分を温暖化対策に充てることとしている。
しかしこの「石油・石炭税」は環境省が導入を検討しているCO2の排出量に応じて幅広く課税する環境税(炭素税)とは性格が異なるものとされている。2004年度に入って環境省・農水省は環境税の導入を図ったが、経産省や産業界は真っ向から反対し、与党税調、政府税調とも引き続き検討とした。
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<参考>
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燃料電池実証試験補助金について
http://www.pref.mie.jp/SSHUSEKI/HP/hojokin2.html
三重県では、家庭用燃料電池の設置にかかる規制の特例が認められたことに伴い、次世代エネルギーの主役として期待されている燃料電池の早期普及や燃料電池関連産業の集積を図るため、特区内において燃料電池の実証試験を実施する企業に対して、その経費を補助する制度を創設しました。
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http://www.nedo.go.jp/informations/koubo/140402.html
「燃料電池自動車等用リチウム電池技術開発費補助金」の交付申請者の公募のお知らせについて
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ここで、注意しなければならないのは、このようなエネルギー革命に対して、政府や行政はサポートする必要はあるものの、必要以上の関与を強めるべきではないということだ。
言い方を変えると、軍事部門でのみ突出したエネルギー革命を目指すべきではなく、民間の裾野の広い、あらゆる業種でまんべんなくエネルギー革命ができるように、そのサポートをするべきだということだ。
これは、どういうことかというと、カーボンからアクエリアスというような、産業や経済の大幅な変革は、中央集権で政府主導でやるより、民間活力を生かした方がスムーズであり、かつ、日本にはそれを可能とする民間の技術があるということ。
重要な点として、技術のブレークスルーにともなう、コストの低減は必ずあるとしても、技術開発の初期投資やインフラの整備に巨額の費用が発生するという点だ。
この費用、あるいは開発のリスクを誰が負担するかということ。電話網を例にとれば、電電公社の独占を保障した上で、施設設置負担金という形でユーザにインフラ整備の費用を負担していただいた。つまり、税金の投入ではなく、ユーザにコストを賦課したわけだ。来るべきアクエリアスでは、このような手法はとれるだろうか。私は不可能と考える。なぜなら、電話網については、競合相手が電報と手紙くらいしかなく、ユーザが設置負担金を負担しても、電話を引きたいという要望があったわけだ。しかし、アクエリアスについては、すでに既存のカーボンを基盤とする電力供給インフラや自動車のガススタンドが存在するからだ。つまり、ユーザには、初期コストを負担してまで、乗り換えたいというインセンティブが働かないわけだ。
そこで、考えられる資金調達手段は株式発行もしくは社債となる。この点で、最近、有限責任事業組合(LLP)制度という非常に起動性に富んだ技術者のための制度が創設された。
<参考>
-------引 用-------
有限責任事業組合(LLP)制度
http://www.meti.go.jp/policy/economic_oganization/llp_seido.html
「経済産業省は、創業を促し、企業同士のジョイント・ベンチャーや専門的な能力を持つ人材の共同事業を振興するために、民法組合の特例として、1,出資者全員の有限責任、2,内部自治の徹底、3,構成員課税の適用という特徴を併せ持つ有限責任事業組合(LLP)制度を創設しました。LLP制度の関連資料を掲載しますのでご参照ください。
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http://www.meti.go.jp/policy/economic_industrial/gather/eig0000006/index.html
LLP制度創設のニーズについて
○ 今般、他社との合弁事業を株式会社形態で設立したが、構成員課税が認められるLLPがあれば良かったと思う。一つの独自技術を一つの会社で差別化していくことは困難な状況になってきており、LLPを用いれば、十数年間企業の中に眠っていた技術をよみがえらせ、世の中に出していくこともできる。また、海外の同業他社は、今回LLPで検討されているのと同じような税制上の扱いを活用して自社の技術開発に専念している。国際競争力の観点から見ても、LLP制度の早期の導入をお願いしたい。
○ 共同研究開発等において、初期負担が大きく、一社だけでは負担を負えない場合や、既存事業の共同再編で、合弁後のリストラに伴う損失が見込まれる場合、出資比率と異なる柔軟な損益分配が必要となる場合などかなりの場合に使える制度になってきていると思う。
○ 個人が事業のアイディアやシーズを持っていながら、実際には事業化まで至らないケースが結構あるように思う。個人にも、機会が拡がるのではないか。
平成17年春の国会に法案が提出され、平成17年8月1日から施行された今までにない全く新しい組合組織が有限責任事業組合(Limited Liability Partnership)、略してLLPだ。
すでに米国では70万社設立され、株式会社の設立数100万社に迫る勢いだ。LLPの利点は株式会社と全く同じ能力を持ちながら、協同組合としての利点を合わせもつこと。いわば株式会社と協同組合の利点のみを「おいしいとこ取り」したものと言える。
会社への出資者は、会社が事業に失敗して損失を出しても出資額以上の責任は負わない。その代わり、もうけには法人税がかかり、出資者には税引き後の利益しか配当されない。さらにその配当にも課税され、配当割合も出資比率に応じて決まる。個人や中小企業が大企業と会社を設立しても、税引き後利益の多くは出資比率が多い大企業にわたってしまう。
一方、組合には法人税はかからず、出資者は利益の分け前(他に所得があればその合計額)に対する税金を払うだけでいい。しかし、事業に失敗すると出資者は出資金を超えて、組合の負債を負担しなければならない。
LLPは事業に失敗した場合の出資者の責任は株式会社と同じで、出資者に対する課税は組合と同じ。出資以上の損がないうえ、法人課税による利益の目減りもない。事業で得た利益の配分割合は出資者が相談して決める。出資額が少なくても多くの利益を得ることが可能だ。
こうした運営方針や内部のルールは、いちいち取締役会や株主総会を開かなくても決められる。大企業同士の研究開発の共同事業でも、LLPを使えば意思決定を早くできる利点がある。
日本ではこれまで有望な新規事業は合弁で株式会社をつくるのが一般的だった。売り上げを伸ばすには工場建設などの設備投資が必要になり、その資金を集めるには多くの出資を募らなければならなかったからだ。
しかし、有望な新規産業がソフトウエアやアニメ産業、先端技術の開発など、大規模な設備投資がなくても利益をあげられる分野に移るにつれ、多くの株主を抱える合弁会社には組織の肥大化、硬直化による意思決定の遅れという短所が目立つようになった。アイデアや技術はあるのに「必要なタイミングで資金を投入できず、生かし切れない」(電機大手幹部)ケースをなくすため、産業界からは小回りの利く新たな事業形態を求める声が高まっていた。
そこで着目されたのが会社の利点を取り入れた組合(LLP)や、組合の利点を取り入れた有限責任会社(LLC=リミテッド・ライアビリティー・カンパニー)だ。英国ではすでに1万を超えるLLPが活動していて、米国には80万社ものLLCがある。米インテル、モトローラなどが1997年に設立した半導体技術開発のLLCは効率的な研究開発で成果をあげ、米国半導体産業復活の一因となった。
そこで、特定の技能を持った人々が団結し、仲間同士で物や資金を出し合って組合を設立し、共同業務を開始することができるようにしたのがこのLLPだ。広く株主を公募して資金を集める株式会社と異なり、他人の干渉が入らない特徴がある。
これまで法で定める組織制度には「有限責任の物的制度」と「無限責任の人的制度」の二類型しかなく、「有限責任の人的制度」が用意されていなかったため、欧米で成功している、LLPやLLCを導入しようという機運が高まった訳だが、これは大企業同士の共同出資による実験的事業投資であったり、高度な専門性を持つ人的資産と、そこへ提供される資金を有機的に組み合わせる組織体としての利用価値が高いものとして注目されている。
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この仕組みを使えば、機動的に技術と資本が組み合わせられ、アクエリアスの実現に寄与するだろう。かっての大航海時代を生んだのは、羅針盤や船舶大型化そして蒸気機関といった技術もさることながら、東インド会社に見られる、「株式会社によるリスク分散」が決定的に重要な役割を果たしたのだ。16世紀中頃、ヨーロッパでは、アジアとの航海貿易がさかんに行われた。しかし、大きな船や船乗りを用意するのに、お金がたくさん必要だった。船が出港したあとも、悪天候による沈没や海賊の襲撃など、リスクは大きかった。万が一の場合には、大きな損害が出てしまうため、とても商人ひとりでは責任を負いきれなかった。
そこで、「株式」というしくみがうまれた。出資者たちからお金を集めて貿易を行い、儲けが出たら、資本を残して利益だけを出資者たちに分配したのだ。出資者とは、株主のこと。残した資本は、次の貿易の費用に使われる。この仕組みが、シーパワーとしてのオランダやイギリスの繁栄を生んだのだ。
反面、明の鄭和の大航海は約1世紀早く、かつ規模も大きかったが、主催者が皇帝であり、永楽帝が対外積極策の一還として,南海経略を始めると、鄭和は20年のあいだに7回、大艦隊を率いて南海大遠征を行った。
この大遠征は,明の統一直後の国威発揚と、王室による海上貿易を独占することが目的であり、以後朝貢形式による王室貿易が活発に展開した。しかし、この遠征は明の海禁政策と同時考えねばならず、あきらかに「皇帝の船団」として朝貢を求めえるために派遣され、永楽帝の死後、中止され、航海の歴史は絶えた。
<参考>
海禁政策
14世紀の初め,倭寇の出没に悩まされた元王朝は従来の自由貿易を統制し,官許貿易のみを認めることとした。明代にいたって太祖朱元璋によりその政策はさらに徹底され,勘合符を与えられた朝貢船舶のみが中国との貿易を許されることとなったが,このような朝貢貿易も明朝政府の財政が逼迫するに従って徐々にその数を減ぜられた。その一方,国内の経済的発展に伴って民間の海外貿易に対する欲求は高まり,密貿易が頻繁に行われるようになった。16世紀にいたって激化したいわゆる後期倭寇,とくに嘉靖期後半の海寇反乱は,海禁政策の強化をはかる明朝政府と自由貿易を渇望する民衆との一大衝突としてとらえることもできる。
すなわち、シーパワーに対する、政府規制というのは、本質的になじまないものであり、海禁と大遠征が結局は両立せず、明がシーパワーとして西欧諸国のようになれなかった理由もそこにある。
この教訓をまとめると、株式会社制度を発明しリスクを分散することに成功した西欧はシーパワーとして雄飛し、皇帝の命令で大遠征を行った明は皇帝の死とともにランドパワーに戻ったといえる。
日本は明を目指すのか、西欧を目指すのか、答えは明白だろう。上述のLLPは日本の技術者の戦略的な連携や運用に役立つ機動性を与えるものであり、シーパワー化に欠かせないものだ。
以上

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