今回も、前回に引き続いて、戦略地政学の観点から極東情勢を考えてみたい。
まず、20世紀までの地政学では、北朝鮮はランドパワーとシーパワーの間の緩衝地帯であり、双方にとっての防波堤として存在意義はあった。そのため、日本を含む周辺国は影に陽に北朝鮮への援助をしてきており、政権の維持も保障された。しかし、長距離ミサイルの保有が状況を根本的に変化させた。ミサイルの流出が中東情勢を大きく変える可能性がでてきたのだ。イスラエルはこの点に敏感に反応した。ここから、イスラエルは米国を動かし、北朝鮮を崩壊させる手を打ったと推測できる。その反面、中ロにとって、北朝鮮は防波堤であり、崩壊に導く国連安保理での制裁決議に強く反対している。つまり、北朝鮮を挟んだ、中ロVS日米(イスラエル)の綱引きが本格化した。
<参考>
http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/mideast/news/20060711k0000m030106000c.html
北朝鮮ミサイル:イスラエル首相が核武装懸念
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20060716AT2N1500515072006.html
安保理、北朝鮮決議案を全会一致で採択・「7章」削除
このように、北朝鮮問題は、極東情勢のみならず、世界情勢にも影響を与え、日本の安全保障のみならず、既に始動を始めた「環太平洋シーパワー連合」の試金石ともなる重要案件である。今後の「北朝鮮仕置き」について、江田島孔明が献策をする。
まず、前号で指摘したように、極東は基本的には中ロ日米の三国志の世界であり、天下三分の計が当てはまる地域だ。
この観点から、戦後の極東情勢を考えてみると、冷戦期は、ソ連の圧力をどうやって跳ね返すかが日米中共通の課題であった。これが米中や日中の国交樹立の背景だ。アメリカはそれまで蒋介石率いる中華民国を中国の正当な政府として、中国共産党政府(北京政府)を承認していなかったが、ニクソン訪問で米中共同声明を発表し、北京政府を事実上承認した。その後、ジミー・カーター政権時代の1979年1月にアメリカと中国の間で国交が樹立された。冷戦時の反ソ包囲網に中国を組み込んだわけだ。天下三分の計における、「強力な一国(魏)の南下を、二国(呉蜀)で共同して防ぐ」という諸葛孔明の戦略に合致する。
ところが、冷戦の終結により、ソ連崩壊からロシアの弱体化がに繋がり、反面、中国がスーパーパワーとして対等してきた。これは、国境を接し、シベリア極東地域に大量の中国人が流入してきているロシアにとっては脅威だ。つまり、天下三分の計における、「強大な一国」が中国に、残り二国が日米+露になったということだ。ここから、中国の台頭を防ぐことに日米、露は共通の利益があることになり、日米は中ロ間に「離間策」を仕掛ける素地ができたことになる。
<参考>http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060531-00000011-san-int
北方領土 露TVで四島返還論 専門家発言「対日同盟が国益」
このように、ロシアは日本との関係深化を対中カードにしようという意図が見て取れる。そして、日本にとっても、対中カードとしてロシアを利用できるというメリットがあるように見える。さらに、北朝鮮はスターリンが作った国で、当初支援していたが、現在、北朝鮮は中国の支援でかろうじてもっているだけで、ロシアの支援は無い。この状況は、うまくすると、北朝鮮問題でロシアを日米陣営に引き込むことができることを意味する。そうすれば、北朝鮮という不良債権を全て中国に押し付けることができる。そのために、何が必要かを検討してみたい。
まず、ロシアはランドパワーであり、ランドパワーとシーパワーの同盟関係はありえない。では、どのようにして、日ソ不可侵条約に見られるごとく、ロシアが最後には裏切る国だということを自覚しつつ、ロシアと中国を離間させ、「北朝鮮問題での中立」を保たせるかが問題だ。ここで注目を浴びるのが「北方領土」だ。北方領土の返還交渉において、日本への返還がなった暁には、日米による、「商品取引所」をおいて、シベリアの資源を優先的に取り扱うという特約を結ぶのだ。つまり、アメリカの穀物市場がシカゴにあるが、それのロシア版を日米主導で北方領土に作るという提案だ。この案の骨子は北方領土の地政学的位置にある。北方領土は日露米に近く、欧州にも、北極経由で行けるという、交通のセンタになりうる位置にある。しかも、地球温暖化により、シベリアが大穀倉地帯として食物の供給源となる可能性が指摘されている。
<参考>
http://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/02/10-11.html
将来の気候予測にはいまだ大きな不確実性があるため,どの地域がどのような影響を受けるかについて正確に予測することはできません。しかし,現状で寒冷な気候が原因で農作物栽培にあまり適さないロシアやカナダといった高緯度地域で農作物生産性が向上すること,逆に現状で穀物栽培に適した気温の上限に近いところで農作物生産を行っている低緯度地域では現在栽培されている作物は生産に向かなくなり,高温に耐性を持つ品種や他の作物への変更が必要になることなどが,定量的にわかってきました。
この予測が実現すると、ロシアはアメリカに変わる一大穀物生産地になることになり、至近の北方領土が穀物取引所になることは願ったりの展開であろう。そもそもランドパワーがシーパワーに対して優位性をもてるのは、域内の統一がなって海上を利用しない物流・交易が容易になった時だ。シーパワーとしては、ランドパワーが分裂状態にある事が望ましい。海上を支配し分断されたランドパワーをつなぎ、その間で付加価値をつけマージンを得る事で富を得ることがシーパワー戦略だ。ランドパワーとシーパワーの優劣とはつまるところ、陸上交通と海上交通の交通ルート確保の問題に帰着し、陸上交通のほうが国境の問題もあり、圧倒的に高コストなのだ。この点で島である北方領土はシーパワーの拠点たる物流の中心地や商品取引所に相応しいことが分かる。
地政学の観点から考えても、ランドパワーとシーパワーの相互不干渉を保ちつつ、上述のように、ランドパワーの交易ルートをシーパワーが握るというのは上策だ。そのために、島である北方領土を活用するという案は日本の主権回復とともに、米ロの利益にもなる。まさに、北方領土のシカゴやニューヨーク化だ。
この戦略には、北海道が重要な後背補給地として、北方領土のインフラを支えることが必要になる。つまり、日本の関与なくしては達成できないのだ。この案にロシアが乗ってきたら、反中包囲網が現実のものとなる。
この案の問題点は、時間がかかりすぎることだ。北朝鮮のミサイル問題は現在の問題であり、将来の課題ではない。よって、直接的に北朝鮮のミサイルを封じ込める手段が必要になる。いうまでもなく、議論が始まった「日本の対地攻撃能力の保有」だ。
結論から言うと、ミサイルの封じ込めには、この案が最も有効だ。前例として、冷戦期の西独における中距離核弾頭ミサイルパーシングⅡと地上発射用巡航ミサイルの導入が、その後の軍縮交渉につながったことを想起してもらいたい。いわゆるINF(中距離核戦力だ。)1970年代にソ連は中距離核弾頭ミサイルSS20とバックファイヤー爆撃機をNATOに向けて実践配備した。西ドイツのシュミット首相は、この破綻した軍事バランスを回復する決断をしてアメリカから中距離核弾頭ミサイルパーシングⅡと地上発射用巡航ミサイルを導入して、核のバランスを回復した(1979年)。
そして、同時に開始した軍縮交渉により八年後にSS20のヨーロッパからの撤去を勝ち取ったのだ(1987年)。このシュミットの決断の前提には、核戦略的思考と、「政治的、軍事的バランスが安全保障にとって必要条件である。このバランスを重視しないほうがよいというのは幻想に過ぎない」という考えがある(シュミットのロンドンでの講演)。
この案は、直接的には、北朝鮮のミサイルを標的にしながら、間接的には北京政府のミサイルも対象にしている点だ。そこが分かっているから、北京はこの案に強く反対する。言い方を変えると、日本が対地攻撃用の長距離ミサイルや巡航ミサイルを保有すると、アジアのパワーバランスは大きく変化するということだ。
戦後の国家戦略の根幹である吉田ドクトリンは攻撃は米軍に防衛は自衛隊という分業を生んだ。矛は米に盾は日本にということだ。このため、アジアにおけるパワーバランスとして日本をカウントできなかったのだが、対地攻撃能力をもつと、日本がパワーとして台頭してくる。これは中国にとって、何としても避けたいシナリオだろう。言い方を変えると、経済制裁以上に、「対地攻撃能力の保有」は日本にとっての切り札だ。
<参考>
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20060710ig90.htm
[敵基地攻撃能力]「脅威を直視した論議が必要だ」
要約すると、日米資本による「北方領土の商品取引所」および、北方領土の港を含むインフラ整備による物流拠点化、さらに対露経済援助をちらつかせることで中ロ間を離間し、ロシアの好意的中立を勝ち取った上で、対地攻撃能力の保有で北京を恫喝することで、北朝鮮を孤立させていく戦略がベストだ。そので総連を潰し、経済制裁を仕掛けていく。これで北朝鮮は間違いなく滅びる。重要な点は、この戦略のトリガーは日本政府ではなく、アメリカ政府の背後のイスラエルが、長距離ミサイルの中東への流出を阻止するため、引いたということだ。よって、妥協の無い苛烈なものになるだろう。この時期に、小泉首相が日本の総理大臣としては初めてイスラエルを訪問した後にプーチン大統領のお膝下サンクトぺテルブルクを訪問したことは偶然ではない。全て地政学的戦略にのっとり、画策されたのだ。日本の過去の首相は石油の供給源であるアラブ諸国を重視するため、イスラエルを訪問したことは無かったのだが、小泉首相はそれをやったのだ。言い方を変えると、戦後の日本は中東問題ではアラブよりの立場をとってきたのだが、小泉総理は親米、親イスラエルに軸足を移したことになる。外交方針もこの線に則り、立案される。イラク戦争に追従したことでもこの点は明快だ。そして、その解が北朝鮮を崩壊させることだ。
つまり、北朝鮮が核、ミサイル、拉致の三点セットの解決に協力しなければ、日米イスラエル連合による体制崩壊は避けられない。
北朝鮮はこのまま周辺国を敵にしたまま滅びるか、鉱物資源を生かし、来るべき北方領土取引所の会員となって世界経済に参加するか。よく考えるべきだ。
<参考>
▽ソース:中央日報(韓国語)(2006/07/15 10:50)
http://article.joins.com/article/article.asp?ctg=10&Total_ID=2354721
■日本、対北朝鮮制裁の一環として朝鮮総聯瓦解工作の可能性
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/18/rls_0713b.html
小泉総理中東訪問における対パレスチナ支援について
