今回は、米国政府が断定した、北朝鮮によるドル札偽造問題について検討したい。
アメリカが、北朝鮮に対する制裁に真剣なのは、実は核実験したからではなく、ドル札偽造による、基軸通貨の信用毀損を防ぐためだ。通貨の信用を毀損する行為は、核による攻撃を受けること以上の、安全保障上の問題であるという認識が根底にある。
まず、アメリカが世界の覇権国であるといえるには、相応の軍事力とそれを支える経済力が必要だ。そして、現在のアメリカを考えてみれば、「経済力」と呼べるものはほとんどなく唯一、ドルが「基軸通貨」であるという一点でもってのみ世界を支配している。この基軸通貨とは一体、何であろうか。
はっきり言えば、基軸通貨は国連やその他の国際機関で公式に承認して決定したわけではなく、国際為替相場での取引が多い通貨を、一般に主要通貨(Major Currency)と呼ぶ。具体的には、米ドル、ユーロ、円、ポンド、スイスフランなどだ。そのなかでも、中心的な役割を果たし、支配的な地位にある通貨のことを、基軸通貨(Key currency)と呼ぶ。貿易、商品取引、金融取引など、国際的な取引決済に広く使用される通貨であることから、各国は外貨準備としてこの基軸通貨を保有することが必要となる。
19世紀半ばから100年間は当時の覇権国家であった英国のポンドが、IMF体制が確立した20世紀半ば以降は現在のところ唯一の超大国である米国のドルがその地位にある。
基軸通貨の条件は次の3点に集約される。
(1)通貨価値が安定している国の通貨であること。
(2)政治力、経済力、軍事力が強大な国の通貨であること。
(3)国際金融市場が発展している国の通貨であること。
なかでも (1)の「通貨価値が安定している」という点は、制度上の重要な条件となっている。これは言い換えると、「他国の通貨価値の基準となりうる通貨」であるかどうかということだ。
それがためにこそ、第二次大戦後の米国ドルは金とリンクしてた(=金ドル本位制)。しかし、1971年に米国は金とドルとのリンクを放棄しているから、現在の米国ドルは厳密には制度上の基準通貨とは言い難い面があり、あくまでも実質的な基軸通貨と捉えるべきだ。そして、重要な点は基軸通貨を発行する国はドルが基軸通貨として通用しているもとでは、海外貿易などで相手国の通貨を用意しなくても、米ドルで支払いが済む。つまり、ドルを印刷し続ければ「合法的な錬金術」が可能ということだ。このことがアメリカの支配を支えている。さらに、基軸通貨国は、自国通貨建てで国際取引ができるため、為替変動リスクの心配がない。自国通貨で対外支払いができるため、国際収支の制約を受けない。実際アメリカは、経常収支の赤字を拡大しつづけ世界最大の借金国となっても、途上国のように外貨準備が減るとか対外的破産に陥ったり、IMF(国際通貨基金)に構造調整を強いられることもない。これは、全て、ドルが基軸通貨だからだ。
なお、欧州連合の通貨であるユーロが、次世代の基準通貨の最右翼と見られていることは広く知られている。したがって他国の外貨準備における米国ドルとユーロの保有比率の推移は、今後のマネーの流れを見る上で重要な指針のひとつとなる。端的に言えば、ドルやユーロといった通貨が基軸通貨になるかどうかは、パソコンのOSでWindowsとMacのどちらが支配的OSになるかといったことと同一で、市場が決定することなのだ。そして、19世紀英国や20世紀米国の例を見れば分かるとおり、シーパワーの支配とは基軸通貨を握ることと同義だ。言い換えれば、「基軸通貨を手放せば、シーパワーの支配もそこで終わり」ということ。
これは、基軸通貨が、かっては金との兌換が保障されていたことから価値の担保というものが金保有量によって定まっていたが、金本位制を廃止し、管理通貨に移行して後は、通貨発行に歯止めがなくなったため、常にインフレと表裏の関係にあり、何よりも通貨価値が「国家の信用」という極めて漠然としたものに依拠しているということを見れば分かる。つまり、通貨発行主体としての国家が信用を失えば、基軸通貨は一夜にしてその座を奪われる。実際、ドルは、ベトナム戦争や冷戦を通じ、米国の国力の衰退に連動し長期下落傾向にある。プラザ合意はその典型だ。ドルが基軸通貨の座を失った場合、他の通貨が基軸通貨になることもありうるが、場合によっては物々交換の時代に入ることもあり、経済規模の大幅な縮小は避けられない。
実は、アメリカが最も恐れているのは、この点だ。国内の製造業が衰退し、軍事産業を除いて、大した輸出産業がない以上、基軸通貨としてのドルを失えば、アメリカの破綻、衰退は決定的だ。これは、かってのソ連が軍事だけが突出し、他の民生品の分野で大きく西側に遅れ、結果として経済力がなかったため、崩壊したというのと全く同じ構図だ。唯一違うのは、アメリカは日本が財政を支えているが、ソ連にはそのような衛星国がなかった点だろう。
最も重要な点は、基軸通貨の存在は自由貿易の維持や世界経済の発展には必要不可欠という点だ。これは、言い方を変えると、基軸通貨が無ければ、国際為替貿易は成立し得ないということだ。これは、世界経済というものが事実上19世紀の英国において達成され、アメリカに引き継がれたということを見てもわかる。シーパワーの債権的支配には、決済機能を握ることが絶対に必要だ。そして、我々はGATTやWTOに代表される自由貿易体制というものを当然のものと考えてきたが、歴史を見れば、このような体制とはたかだが戦後60年の歴史しかなく、第二次大戦が世界経済の収縮、ブロック化によって引き起こされたことを見ても分かるとおり、人類の長い歴史において、むしろ例外的時期に過ぎないといえる。もちろん、自由貿易体制を支えるのは、英国や米国といったシーパワーがスーパーパワーとして世界に君臨し、しかも、決済機能を握り、他国に自国市場を開放するという条件が必要だ。現在、この条件が全て失われつつあり、戦前のブロック体制に回帰しつつある。全ての根幹は、室町幕府たるアメリカが衰退していることだ。
アメリカの衰退が明白になったとき、世界の国々がどの程度ドルを基軸通貨として信認するであろうか。ユーロにもかなり問題があるが、リスク分散のため、少なくとも、ユーロをもう一つの基軸通貨としたいと思うのがむしろ自然な動きと思える。
二つの基軸通貨が併存する時代は、おそらく国際経済の激動期になるだろう。二つの基軸通貨を多くの国がそのときの情勢に応じて使い分けようとスイッチの転換を繰り返すことによって、経済の振幅が大きくなり、不安定性が増すと思われるからである。
世界が二つの基軸通貨併存を経験したのは、20世紀初頭から前半にかけての、ポンドとドルの併存の時代であった。その時代に、世界は大恐慌と共産主義革命を経験し、そして二つの世界大戦を経験した。そうした悲惨な経験を我々が繰り返さないで二つの基軸通貨の併存を許容できるか。それが問われる時代が始まったようである。
要約すると、我々が、所与の条件と考えている自由貿易とは実は、例外的なもので、「英国や米国の全盛期と教科書の中にしか存在しない」ということだ。
このように考えると、ドル札偽造が、唯でさえ危ういドルの基軸通貨の信用を大きく毀損するものだということが分かる。アメリカにとっての生命線である「ドル機軸体制維持」がイラク戦争の真の理由であり、イランを攻撃する理由なのだ。
アメリカにとっての最悪のシナリオとは、北の偽札と核の技術が反米諸国に流出することだ。これがアメリカが北朝鮮を徹底的に締め上げる理由だ。北の核実験は、日中韓を対北制裁に呼び込む引き金にすぎない。この対北制裁は、日本が戦前から腐れ縁を持ってきた半島との関係を清算する、千載一遇のチャンスだ。
偽札の発行は戦争行為だということは、戦前の旧帝国陸軍によってそれがなされたことを見ても分かる。日華紛争も局地戦から中国大陸全域に及ぶとなると、戦費負担が重圧となってきて、とくに米英の「援蒋ルート」支援に、財政的な抵抗力を必要とした。昭和12年末から陸軍は経済謀略の研究準備に入り、昭和14年山本主計少佐の登戸第3科、第4科長兼任の「杉工作」が本格化し、中国法幣(中央銀行・中国銀行・交通銀行券)や中国辺区券(中共地区流通券)を大量印刷した。これにより、中国経済を攪乱させるとともに軍事物資をニセ札で買い付けるという秘密作戦を展開したが、北朝鮮のニセ札工作の基本図は杉工作に極めて似ている。
私は、北朝鮮は帝国陸軍のシナ派遣軍の残党が相当参加して作った組織ではないかと睨んでいるが、この点はいずれ、明らかになるだろう。北の行動様式は悉く陸軍に酷似している。例えば、核開発にしても、陸軍は戦中に成功の一歩手前までいっていた。理化学研究所の仁科博士は、陸軍航空本部の秘密計画「ニ号」研究の責任者として原爆開発にあたった。研究スタッフには、ノーベル賞受賞の朝永振一郎さんの名前もあった。福島県で中学生を動員して原料のウラン鉱石を掘り、またナチス・ドイツに頼んで酸化ウランをUボートで運ぼうと試んだが、撃沈されて失敗。濃縮装置も十分完成しないうちに理化学研究所の爆撃で破壊されてしまう。
結局終戦まで、間に合わなかったが、もし、間に合っていれば、アメリカと核戦争を行うというオプションもあったわけだ。
このように、世界は基軸通貨の観点からも、激動期に入ったことが検証できる。より根本的には、従来、国家が発行してきた通貨より、通信やコンピュータの発達によってもたらされた電子マネーやクレジットカード、マイルやポイントに代表される「通貨代替物」が経済の主役になろうとしている。これは国家ではなく、コンビニや通信業者や各企業がそれぞれ通貨を発行し、銀行ではなく各企業が決済機能をもつことを意味する。こうなると、真の基軸通貨はネットの中に存在するのではないか。今後の基軸通貨はドルやユーロではなく、リアルな貨幣と電子マネーの争いになり、ほぼ間違いなく、後者が勝つだろう。まさに、「ネットを支配するものは金融も支配する」ということだ。
これからの基軸通貨は、発行企業以外でも利用できるポイントやマイレージのような電子的な価値媒体に、EdyやSuicaなどの電子マネーを加えたものとなるだろう。
これらの電子マネーやマイルやポイントの発行主体は企業だ。ネット時代の主役は国家から企業にさらには個人へと移行するというのが私の見方だ。考えてみれば、人類の歴史のターニングポイントは、常に組織ではなく、個人によって生み出されてきた。例えば、紀元前にガリアを攻めたのはローマの軍隊ではなくカエサルであり、スペインから出陣し、アルプスを超え、ローマン軍をカンネーで撃破したのはカルタゴ軍ではなくハンニバルであり、明治維新において、日本が他のアジア諸国のような植民地にならなかったのは、ことなかれの問題先送りに終始した幕府ではなく、生麦事件や薩英国戦争を起こした薩摩藩士を英国が評価したからだ。
日本人は、国家や会社を絶対視する傾向にあるが、危機に際して、歴史を切り開いてきたのは、常に、個人であったということを理解すべきだろう。インターネットはこのような個人を繋ぎ、国家や企業を超越する可能性を秘めている。私はそこに、賭けている。
<参考>
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http://www13.ocn.ne.jp/~seiroku/kamiheiki.html
昭和11年に参謀本部支那課主計大尉、佐藤末次が欧州戦時経済を研究のおり、敵国紙幣の偽造という工作があったことを知り、中国戦線への適用を考えた。これが「杉工作」として発動され昭和14年、参謀本部の山本憲三主計大佐が担当して中国銀行券の偽造製作が開始された。
当時の中国法定貨幣は、昭和10年に英国より派遣された、リース・ロスの指導により貨幣改革が行われこれまでの、各銀行が勝手に紙幣を発行していたことを廃止し、中国四大銀行に限って紙幣発行権を認めた。(中央、中国、交通、農民の四大銀行)この新紙幣は「法幣」と呼ばれる。
これら法幣は英国と米国の専門印刷会社で印刷されて大変精巧な印刷がなされていたため、ドイツ製の高価な印刷機を輸入したりして苦労の末、昭和15夏年本物そっくりの紙幣が完成した。
偽札は上海に送られ、「松機関」が流通工作を担当し軍の依託参謀阪田誠盛が金属、鉱物、農産物、等の買付けに使用した。
また重慶に輸送途中で日本軍が略奪押収した総裁印の押されていない法幣もニセ総裁印を捺印して使われたというし、昭和17年占領した香港の紙幣印刷工場で原版を発見しこれらも利用して偽札は造られ続けた。
この工作は、インフレ政策の中国ではあまり効果は無かったようである。しかしこれにより相当の物資を不正に入手したことは確かである。
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http://news.goo.ne.jp/article/kyodo/world/20061026a2760.html
北朝鮮が全面関与と断定 偽ドル札スーパーノート
2006年10月26日(木)09:25
【ワシントン25日共同】米財務省や連邦準備制度理事会(FRB)などは25日、米ドル札偽造に関する2006年版の報告書を発表し「スーパーノート」と呼ばれる精巧な偽札は「北朝鮮政府の全面的な同意と管理の下で製造され、流通している」と断定した。
スーパーノートをめぐっては米司法当局が北朝鮮製と主張してきたが、3年に一度の同報告書が北朝鮮の国家的関与に言及したのは初めて。
報告書は、スーパーノートが最初に発見された1989年から「国家安全保障に関する戦略的事例」として捜査対象になっており「調査や科学捜査による分析」から関与が裏付けられたと説明している。これまでに約5000万ドル(約60億円)相当を押収したが、約2200万ドル相当が一般に流通したという。
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以上
