アオよ、お前は何処(いずこ)で果てた

何十年も昔に見た新聞の投書が忘れられない。

投書者は農家の年配の女の人。

アオはその家で飼っていたウマの名前。

その人が若かった頃はまだ石油を動力源に使うようにはなっていなかった。新宿の大ガード(青梅街道)の下を荷車を曳いたウマが馬糞を落としながら歩いていた頃だ。
農家の動力源は関西はウシ、関東はウマ、それと人力だった。

恐らく当時は新婚さんだったその人は苦労の末手に入れたウマを大事に育てながら一緒に田圃を耕していたのだろう。

戦争が始まる。当時の軍隊には軍馬と言うものがいた。アメリカ軍は物資の輸送に自動車を使っていたが当時の日本にはその力はない。そこでウマに荷物を運ばせた。戦線が広がり、ウマが足りなくなる。そこでウマの徴発が始まった。農家で飼っているウマを強制的に軍に寄付させるのだ(代金が支払われたのかどうかは知らない。払われたとしてもごく少額であったろう)。

そして、アオにも徴発がきた。

人間も紙一枚で戦地に送られた時代である。彼女に抵抗する手段はなかった。

戦地に送られた兵隊はそれでも手紙が書ける。ウマは書けない。徴発されたアオが何処に行ったのか、なんの知らせもない。

人間が戦死すれば、公報が来て、遺骨が帰ってくる(中には石が入っているものも在ったらしいが)。ウマが死んでも知らせはない。戦地から生還した軍馬の話は聞いたことがない。

アオもどこかで死んでしまったのだろう。

そこで女の人は嘆く、「アオよ、お前は何処で果てた」。

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