キュロスの教育〔第七巻(上)〕

第七巻 第一章

指揮官達は神々に祈ると、自分の隊へ戻った。召使が飲食物を持って来たので、キュロスはその中から神々に犠牲を捧げ、朝食をとり、最も空腹の者に食事を与えた。キュロスが神酒を注いで祈り酒を飲み、神に懇請して騎乗すると、側近達も同様にした。側近達は金色の武具を、キュロスは鏡のように輝く武具を身に纏っていた。キュロスの右手に雷鳴が響くと、彼は言った「神よ、私達はあなたに従います」。

キュロスは右手にクリュサンタスと騎兵隊、左手にアルサマスと歩兵隊を率い、彼らに軍旗を見て歩度を合わすように命令した。軍旗には、長い槍の上で翼を広げる黄金の鷲が描かれていた。

三回の休憩を挟みながら約20スタディオン(約3.7Km)進むと、敵が見えてきた。敵はキュロスの軍を包囲する為に、両翼を鉤形の隊列に転換した。キュロスは進軍を続け、アルサマスには「自分の動きに応じてゆっくり歩兵隊を率いて来るように」と、クリュサンタスには「私が戦闘の歌を歌い始めると攻撃せよ」と命令し「アブラダタスは接近戦が始まったら、戦車を率いて突入する。お前達は彼らに密着して付いて行け。私も出来るだけ早くその場に行く」と言い、合言葉を伝達させて前進した。

キュロスは戦車と鎧着用兵の間を進みながら、多くの兵士達に声を掛けて彼らを鼓舞し、指揮官達には指示も与えた。「アブラダタスよ。自身が希望し神が選んだ同盟軍最前列の位置でお前は戦う。その時はペルシア兵達が援護する。さあ、時間のある内に部下達を励まし、お前の顔を見せ勇気付けよ」彼はその言葉に従った。それからキュロスは左翼の戦列に行きヒュスタスパスに迅速さの重要性を話し、そして左翼側の戦車隊指揮官の所に行くと「私が敵左翼の端を攻撃したらお前達は直ぐ戦線突破に努めよ」と言った。それから「私が右翼に向き合う敵を攻撃したら、お前達も自分の前方の敵を攻撃せよ」天蓋馬車隊後方の歩兵大隊と騎兵大隊率いるアルタゲルセスとパルヌコスにこう言うと、キュロスは右翼へ向かった。

一方クロイソスは、両翼をキュロス軍に向き合うように方向転換させ、3つの戦列でキュロス軍を3方向から囲んだ。大きな恐怖がキュロス軍を捕らえたが、敵を見据えるようにキュロス軍も方向転換した。

深い沈黙をキュロスの戦闘歌が破り、全軍がそれを唱和した。エニュアリオス(戦の神アレス)への鬨の声をあげ、キュロスは騎兵隊を率いて密集隊形で敵左翼を攻撃した。歩兵隊は伍隊を組み、敵左翼を両側から包囲すると、敵は逃走した。アルタゲルセスも敵左翼に駱駝を放ち、敵の馬を混乱させて攻撃に加わった。

戦車隊は、右翼と左翼が同時に攻撃をかけた。アブラダタスも正面の敵に突入した。しかし、彼の友人達以外は、長い槍と体を覆い隠す大きな盾を持って大密集隊形を成している1万人のエジプト軍に恐れをなして逃避した。突入を受けたエジプト兵達も両側の兵が留まったので身動き取れずに突っ立ったまま鎌に掛かり切り刻まれた。そして、戦車の車輪はそれらの残骸に引っかかって跳ね上がり、戦車兵達はみな敵中に放り出されて惨死した。また、アブラダタスに付いていったペルシア兵達も敵に襲い掛かったが、網細工盾ではエジプト兵達の攻撃に耐えられず、戦闘機械の下まで押し返された。キュロス軍の後衛隊達は剣を抜き、兵達に義務を果たすことを強要し、大殺戮が繰り広げられた。

キュロスは敵を追撃してこの場に至り、ペルシア兵達の後退を見て悲しんだが、すぐ部下を引き連れて敵の背後に回り攻撃した。エジプト兵達もこれに気付いて反転したので敵味方が入り乱れた状態になった。この時、キュロスの馬が敵兵に刺されてキュロスを振り落としたので、全ての部下達が喚声を轟かせ敵兵に襲い掛かった。護衛兵が下馬してキュロスを馬に乗せた時、既にヒュスタスパスとクリュサンタスの騎兵隊が到着し、多くのエジプト兵達を倒していた。キュロスは騎兵隊達に、外側から飛び道具でエジプト兵を攻撃するよう命令した。

キュロスは戦闘機械隊まで馬を走らせ、その塔に登り戦況を見渡し、敵兵で留まっているのはエジプト軍だけなのを確認した。彼らは、盾を円形に囲んで下に蹲り、武具だけを見せて動かなかった。キュロスは勇敢な彼らを称賛し、攻撃を止めさせて同盟を結んだ。

そしてキュロスは兵を引き上げ、テュンプララに陣営を設けた。

第七巻 第二章

キュロス軍は夕食を終えると、歩哨を配置し就寝した。一方、クロイソスはリュディアの首都サルディスに、また他の軍隊も自分の国に向かって逃走した。

明朝、キュロスはサルディスへ進軍し、城壁に着くと、それを攻撃するかのように城壁破壊機を組み立てた。そうしておいて、夜、カルダイオイ兵とペルシア兵が梯子で都城内の独立した最も険しい堡塁に上り、そこを占拠した。リュディア兵はそれを知って城壁を放棄し、都城内に逃走した。

翌朝、キュロスは都城に入ると「誰も部署を離れるな」と命じた。宮殿に居るクロイソスはキュロスに呼びかけたが、キュロスは彼を見張る兵だけを残して堡塁の守備具合を確認しに行った。そして、カルダイオイ兵が財貨略奪の為に持ち場を離れている事を知り激怒した。カルダイオイ兵達はキュロスの怒りを恐れ、それを鎮める為、彼の指示に従って略奪物全てを堡塁警備者に渡した。これにより、忠実な兵士達は財貨を得た。

朝食後、キュロスはクロイソスを連れてくるよう命じた。クロイソスはキュロスを我が君と呼び、挨拶をした。キュロスもそれに答えてから、彼に助言を求めた「私は、兵士達が苦労の成果を得るのは当然だと思うが、彼らに略奪を許すつもりは無い。」

「この都城は来年も宝物で満たされるでしょう。しかし略奪されますと、優れた宝物作成の技術も破壊されてしまいます。略奪されるのかは私の宝物を受取ってからご決定下さい」キュロスはこれらを承知した。

それからキュロスは尋ねた「アポロンを尊崇し、全てを神意に従ったクロイソスよ。デルポイの神託がどのように成就したのかを教えてくれ」クロイソスは答えた「私は最初、神の為に何をすれば良いのかを尋ねず、神が真実を告げる事ができるのかを試しました。

だから神は、私は息子達が得られますか?という質問の答えを初め与えて下さりませんでした。そこで多くの贈物と犠牲を献上して再度尋ねましたところ、息子達が得られるだろう、と仰って下さいました。しかし、生まれた息子の一人は唖のままで、一人は死にました。私は悲しみ、神に尋ねました。残りの人生を最も幸せにするには何をすれば良いのでしょう?すると神は仰いました。自分を知れば幸福に暮らせるだろう。そして私が我が君と戦う能力が無いと認識した時、神のご助力で無事に帰る事が出来ました。軍の最高指揮権を受け入れた時、私は皆の言葉で放漫になり、神々の血筋を持つ歴代王の末裔でありながら子供の時から武勇を磨いておられる我が君に敵対できると思ってしまったのです。ところで私は今、自分自身を認識しております。キュロス王様、アポロンのお告げは依然として真実でありましょうか?」キュロスは答えた「私はお前の家族や友人などを直ぐにも返すが、お前から戦争と戦闘を奪う」。するとクロイソスは「そのように最愛の我が妻と同じ立場を与えて下さるのでしたら、私は幸福に暮らせます。彼女は私同様に喜びの全てを享受していながら、それらを得る為の配慮や戦闘には無関係だからです」このような事を二人は話し合った。

第七巻 第三章

翌日、キュロスは指揮官と友人を召集し「クロイソスの宝庫の接収をせよ。また、受取った財貨からマゴス達(ゾロアスター教の司祭)へ引き渡す神々への物を選んだ残りを馬車に積んで、それを籤で分けて機会が来れば功績に応じて財貨を受取るように」と、命じた。

キュロスは、側にいた護衛兵らに「アブラダタスを見た者は居ないか?」と聞いた。するとその内の一人が、彼が戦死した状況をキュロスに話した。そして彼の妃がパクトロス川の丘に墓をつくり、装飾品で夫を飾って彼の頭を自分の膝上に置いて抱きしめている、と言う。キュロスはすぐさま騎兵を率いてその場に向かった。ガダタスとゴブリュアスに「勇士への立派は装飾品を持って自分を追いかけてくるように」また、多くの家畜を率いている者達には「アブラダタスへの犠牲に捧げるので自分の所に駆り立ててくるように」と命じた。

キュロスは、大地に座るパンテイアと横たわるアブラダタスを見て悲涙した。キュロスが彼の手を取ると、手は死体から離れてキュロスに握られていた。体中をエジプト兵に切断されていたのである。激しい苦痛を感じ、パンテイアも慟哭した。彼女はその手を元に戻しながら、自分が夫を鼓舞した事を悔い、夫もキュロスに相応しい友であろうと望んだ事を述べ、殿下にも責任があるとキュロスを責めた。黙って涙していたキュロスは大声で彼を称え、自分が贈る装飾品で彼を飾るように言い、多くの者が彼の墓碑を築き、立派な勇士に相応しい犠牲を捧げる。と彼女に伝えて、その場を去った。

パンテイアは、乳母以外は下がるようにと命令し「私が死んだら私と夫を一つの衣服に包むように」と乳母に指示した。そして懐刀を引き抜き己の心臓を刺し貫いて、夫の胸の上で息絶えた。彼女の宦官達はパンテイアの行為を見るや自刃した。

キュロスはパンテイアの行動を知ると、助けに引き返したが、既に遅かった。キュロスは夫人を称え、悲哀しながら去った。そして、この夫婦があらゆる栄誉を得られるように配慮し、彼らの為に大きな記念碑を建てた。

収益はボランティアコラムニストに還元

アクセス地図

知の重爆撃機『連山』による日本復興への知の支援図
なかのひと