キュロスの教育〔第七巻(下)〕

第七巻 第四章

パンテイアの死後、カリア人が城砦内で内紛を起こし、キュロスに助けを求めてきた。キュロスはサルディスで戦闘機械と城壁破壊機を作っていたので、至極優秀なペルシア軍指揮官であるアドゥシオスに軍隊を委ねてカリアへ派遣した。

アドゥシオスが到着すると、カリアの両陣営から援軍受け入れの使者が来た。アドゥシオスは双方に「私を受け入れてくれた者達に下心無く尽くす為、城壁内に入る」と誓約し、相手にはキュロスとペルシア軍に有利な働きをするよう誓約させた。それから打ち合わせをして、夜の内に城壁内に攻め入って陣営を占拠しあった。

明朝、アドゥシオスは軍を陣の中央に率い、カリア軍双方の指導者達を呼び寄せた。両者共に騙されたと怒ったが、「私は下心無く城壁内に入る事を誓約した。だから、お前達の一方を破滅させるのなら災厄をもたらす為に入った事になる。だが、平和をもたらすのであれば私はお前達の利益になる為に来た事になる。お前達は今日から互いに友好的な付き合いをせよ。不正者はキュロス殿下と私達がその者を敵として扱う」とアドゥシオスが述べたので、カリア人は互いに平和を受け入れる事にし、内紛は治まった。アドゥシオスが守備隊を残して軍を引き上げると言うので、カリア人は太守として彼を派遣してくれるようキュロスに懇願した。

キュロスはこの時、ヒュスタスパス率いる軍を小プリュギアに向かわせていた。そして、アドゥシオスが戻ると、すぐにヒュスタスパスの後を追わせた。

ヒュスタスパスはキュロスから離反しようとしたプリュギア王を捕らえ、城砦にペルシア軍の守備隊を残し、自分の軍とプリュギアの騎兵隊と歩兵隊を率いて去った。

アドゥシオスはキュロスの命令通りヒュスタスパスに合流した後、プリュギア軍で敵意を持つ者からは馬と武器を取り上げて投石器を携行させる事をした。

キュロスはサルディスに歩兵守備隊を残し、また、リュディア兵でキュロス軍に加わることを嫌がる者からは馬や武具を取り上げ、代わりに投石器を持たせた。そして、クロイソスと財宝を積んだ多くの馬車と共にそこを発った。クロイソスは、各馬車に積んだ宝物目録をキュロスに渡し「誰が宝物を我が君に正確に引き渡さないかが、これで分かります」と言った。するとキュロスは「自分達の宝物を各々に運ばせているのだから」と言って、目録を友人と指揮官達に渡し、運搬の監督者達の内で、宝物を間違い無く引き渡す者が分かるようにした。

進軍する途中、キュロスは大プリュギアのプリュギア人とカッパドキア人、それからアラビア人達を支配下に置いた。戦利品の武具で4000以上のペルシア騎兵を完全武装させ、馬は同盟軍に分配した。こうして軍隊を増強させながらキュロス軍はバビュロンに到着した。

第七巻 第五章

バビュロンに到着すると、キュロスは全軍で都城を包囲させた。城壁を駆け巡って見回し、軍を撤退させようと決めたとき、脱走兵が「城壁から見下ろした戦列は弱体に見える。撤退時に攻撃に出る」と言った。そこでキュロスは軍の中央に移動し、重装歩兵隊に「両翼先端から後退し、主戦列の背後に戻り、私の位置で合流せよ」と命令して、最前列と最後列に最も優秀な兵士を集め、戦うにも見方の逃走を阻止するにも適した密集隊形に戦列を組み替えた。また兵達は、戦列が2倍の深さになった事で互いに勇気を得て勇敢になった。それから、城壁からの飛び道具の射程外まで後ずさりすると、城壁に背を向け、距離が短い内は時々城壁を振り返る事をして帰陣した。

キュロスは主要指揮官達を集めて「敵をこのまま籠城させれば飢餓により降伏するのではないか?」と主張した。クリュサンタスは「エウプラテス川は都城内中央を流れ、2スタディオン(約370m)以上の幅がある」と言い、ゴブリュアスは「人間2人分の深さがあり、城壁よりも川で都城が護られている」と言った。そこでキュロスは城壁の周囲を計測し、城壁回りに巨大な堀を掘り、自分らの側にその土を積み上げ、その上に多くの塔を立てた。また、堀に川の水が流れ込んでも塔を破壊しないよう、1プレトロン(約30m)以上になる棕櫚(ヤシ科の植物)の幹を土台にして塔を建てた。城壁内に20年分以上の食糧を蓄えていた敵兵達は、この包囲を嘲笑った。キュロスはそれを知り、軍を12隊に分け、監視を各隊1ヶ月間させた。夜通し飲んで騒ぐバビュロンの祭りがあると聞き、祭り当夜、堀を切り開いて川と繋いだ。そして、都城内の川床が人の通れる深さになったのを確認すると、キュロスは全軍に戦列を組ませた。

キュロスは、歩兵隊と騎兵隊の指揮官達を召集し、勝利する根拠を述べ、皆を鼓舞した「敵は我が軍が以前に勝利した者達だ。しかも、酔って統制を失っているのを襲うのだ。何も恐れず勇気を出して突入せよ。都城内に侵入する兵士達よ、敵の屋上からの攻撃を心配する必要は無い。ヘパイストスのご助力によって、彼らはそこから逃げねばならぬからだ。彼らの家は可燃性の瀝青が塗られた棕櫚で作られており燃え易く、我らは激しい炎を煽り立てる多くの点火材を持っている。兵士達よ、武器を取れ。私が神々の助力を得てお前達を率いていく。敏速に突入し、敵兵を捕らえよ」。そして、道を知るガダタスとゴブリュアスに王宮への案内を依頼した。

それから、彼らは都城内に侵入し、敵を攻撃しながら、王宮に居る王の所に到達した。ガダタスとゴブリュアスの部下達が、王を打ち倒した。キュロスは騎兵中隊を道路に送り出し、戸外に居る者を殺すよう命令した。また、アッシリア語を話す騎兵達に「屋内に留まれ。外に居る者を殺す」と、告知をさせた。

ガダタスとゴブリュアスがキュロスのもとに戻ると、不敬なアッシリア王を罰せた事を感謝し、神々を崇め、キュロスの手足に接吻し、歓喜、感涙した。

夜明け、都城内の独立した堡塁の残り一方を守備していた敵兵も、その場を明け渡したので、キュロスは守備隊をそこに送った。また「武器を渡せ。屋内で武器を見つけたら、その家の者を皆殺しにする」と布告したので、バビュロニア兵達はそれに従った。そしてキュロスは、これらの武器を備えとして堡塁に保管した。

キュロスはマゴス達を呼び、神々への物と神域を選ぶよう命じた。それから、最も勇敢な者達に最も素晴らしい家と公共の建物を分配し、不服者には申し出るよう指示した。バビュロニア人には「土地を耕し、貢税を納め、割り当てられた兵士に仕えよ」と布告した。

このような事を終えると、キュロスは「既に私も王に相応しい」と信じ「友人達の同意を得てそうし、嫉妬を避ける為には、稀に、厳粛に姿を見せるのが良い」と考えた。だからキュロスは「夜明け前に適当な所に立ち、話したい者達に会って、答えを与えて送り帰す」という事を始めた。人々はそれを知り、キュロスに会いに来る人は日ごとに増えていった。

ある日、友人達が群衆を掻き分けてキュロスを訪ねた。しかし、その日は暇が出来ず「明日早くに話そう」という事になった。翌朝、キュロスがその場に行くと、群衆がキュロスを取り巻き、友人達はその後に来たので、キュロスはペルシア投槍兵を大きな輪形に配置し、その中に、友人達やペルシア軍と同盟軍の指揮官達だけを集めた。

そしてキュロスは言った。「欲する全てが手に入らないからと、我々は神々を非難できない。だが、偉大な事業を完成する事が、自分の閑暇や友との時間を無くすのなら、私はこのような幸福を手放す。昨日も今も群衆は私達を困らせている。しかし、私が自分を群集の中に置いたのは、司令官たる者は時期を失せず行動する為に、前線で必要なことを見聞せねばならないと考えているからだ。ところで、戦争が終わったので、私も安息したい。しかし、配慮の必要な者達との良好な関係を築く為に何をすればよいのか分からないので、皆に助言してほしい。」

キュロスの親族と主張したアルタバゾスが言った「我が君が私を求め、私が積極的に援助しました時、我が君との多くの時間を持つ事が出来ましたが、同盟軍が増加するにつれてそれも難くなって行きました。けれど、大戦争が終わった時には多くの時間を共に過ごせると確信しました。しかし、昨日もミトラスにかけて群集の多くを殴らねば我が君に会う事叶いませんでした。ですから、我が君が、最大の功績をあげた私達と最も長く一緒に居られますよう取り決めて下さるか、私が、我が君のご依頼を受けまして私達以外は我が君のもとを去るように通告したいと思います。」これを聞いて、キュロスも皆も笑った。

「民が喜んで苦労を共にし、危険を冒すのを望むようにするには、彼らの心を得る必要があるので、お姿を民衆に示されたのでしょうが、今は、他の事でも彼らの心を把握できます。それに、自分らが屋内にいて我が君よりも楽にしていると見られるのは、恥ずかしいのです」ペルシア貴族クリュサンタスがこう言うと、皆が賛同した。

この時、サルディスから財宝が運ばれてきた。キュロスは王宮に入り、ヘスティア、ゼウス、他にマゴス達の指示する神に犠牲を捧げると、自分の置かれている状況に気付き、人々を支配する計画を立て、大都市に住む準備をした。それから、親衛兵には宦官を配置した。性的欲求を奪われて穏やかではあるが、彼らは兵として役に立ち、名誉心高く、特に、主人が災厄を受ける時、いかなる人も宦官達より忠実な行動を示さなかったし、彼らは軽蔑されていたので、より強力な権力で彼ら自身を護ってくれる人を必要としたからである。だからキュロスは、彼らに好意を示すのに自分に勝る者は居ない。と信じた。また、宮周囲と外出中の警護にはペルシア槍兵を選び、バビュロンにも充分な守備兵を配置した。これら守備兵への賃金は、資金力を低下させる為にバビュロニア人に支払わせた。

それから、主要指揮官達を集めて言った「友人達と同盟者達よ、神々は多くを私達にお与え下さったので、私達は神々に大いに感謝せねばならない。しかし、苦労の無い生活を幸福と思い奢侈すれば、私達は逸早く財産を奪われるだろう。支配権の獲得は大胆さだけでも得られる場合があるが、それを保持し続けるのは節度と自制と充分な配慮無しには不可能な偉大な行為なのだ。私達は被支配者よりも優れている事によって、彼らを支配出来る。勇敢さ、技術、健康を維持向上させるには、目前の快楽に身を委ねてはいけない。訓練により優位性を保たねばならないのだ。良い成果を得られない苦しみは、獲得した成果を奪われるよりも辛くない。また、自分自身が立派で勇敢であるのに勝る護衛は無い。私は提案する。私達は貴族なのだから、ペルシアの役所で貴族が過ごしているのと同じ事を、この地でもしよう。(『キュロスの教育』第一巻第二章参照)」

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