第1章 軍人たちの教育システム
第5節 教官に求めるもの
(名誉心の付与)
1801年、コペンハーゲンの海戦において上級指揮官の命令を無視して戦い大勝利を挙げたネルソン提督であったが、蔭で悪口を言う人たちがいると友人が伝えてきた。彼は
「戦場で予期しないことが起きたとき、それが命令の枠外であっても余の判断の基準は国家の名誉と栄光であった」(「ヒュー・エリオットへの手紙」ネルソン提督、1804年11月)
と答えている。人間の条件としてのもう一つの心の着物である“公正(公明正大)”や“博愛(自己犠牲)”を実行させる力は名誉を重んずる精神である。
アメリカ南北戦争において“石壁”ジャクソン中将のニック・ネームは第一次ルブラン河の戦闘において敵弾の飛来する中に立ったままの姿勢でジャクソン旅団を指揮し、数的に圧倒的に優勢な北軍を撃退して南軍の勝利に導いたからである。
「死を恐れないのは何故ですか?」
と聞かれて彼は
「人間の生命なんて勝利の名誉に比べれば軽いものよ。戦死が怖くて恥かしい行動はできない。別に部下に見せようとして立って指揮したわけではない。公明正大に部下部隊を指揮しようとすれば、立つしかなかったのだ」
だれが見ていようといまいと公明正大を守る将軍の気迫に質問した部下が圧倒された。
「兵士は指揮官が名誉を重んじ、恥を知る人か否かを注目している」(キセノフォン、紀元前350年)
のである。戦場において、将兵が勇気を奮い立たせて敵陣に立ち向かうために激励する究極的な言葉は
「たじろぐな。恥じを知れ!」
名将たちの教育論(第十五回)へ続く

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