名将たちの教育論(第三十回)

第1章 軍人たちの教育システム

第6節 将校を育てる


(戦術は軍人の表芸)

 大胆な案は、通常、実行が容易ではない。しかし、
「激烈と大胆はしばしば通常の方法では達成できないことを達成する」(「政略論」マキャベリ、1517年)
戦術に絶対的な最良案がないのは経験則であるから、大胆な案には、危険な不利点が存在することは間違いない。
「大胆な人物は何でも引き受けるが何でもできるわけではない。しかし大胆と剛直は安全をもたらす。」(ナポレオンの金言)
 大胆な案に内在する危険な不利点は、安全性の欠如という重要な問題を投げかけるように考え勝ちであるが、実は、その危険度を想定し、最悪の事態にとるための予備を準備するのは常識であろう。それを準備していなければ
「大胆は通常は正当であるが、賭けは通常、悪である」(リデル・ハート)
 ということになる。大胆と賭けは紙一重なのだ。
“砂漠の狐”とあだ名された第二次世界大戦におけるドイツ軍の名将ロンメルが言うように、作戦目的に対する均衡が崩れるほど手段が弱いときには、思い切った“賭け”が必要なときも存在する。しかしそのときでも安全第一の案を決断するよりは賭けの案を決断し、結果を天運に仰ぐことがよいとするのが軍事史の経験則である。
「もし、戦理が諸君に進言するとすれば、戦争の性質は“最も大胆なものが、最も決定的なものである”ということである。大胆なくして軍事指揮官にはなれない」(「戦争の原則」クラウゼヴィッツ、1812年)
 大胆な案を選択するということになれば、将校に求められるものは「冷静な勇気」である。



名将たちの教育論(第三十一回)へ続く