【書評】潜水艦隊 井浦祥二郎著(2)

3. なぜ日本の潜水艦はその能力を発揮する事ができなかったのか

日本の潜水艦隊は相手の主力艦隊を撃滅することを想定して設計・訓練されたことは前回のコラムで述べた。日本の潜水艦がその能力を発揮する事ができなかった本当の誤算を以下確認してみよう。

潜水艦の襲撃の場合相手側の水上艦船を発見したら、とにかく相手の進路の前方に先回りし、そこでエンジンを止めて静止状態で待ち受けて、相手が接近して来た時点で、魚雷を発射するというのが、原潜時代の今でも変わらない基本である。

相手の艦船を発見した場合、潜水艦の水中移動というのは極めて遅いために、浮上した後、フルスピードで先回りしなければならない。知的制海権のための潜水艦戦略論:長沼伸一郎著によると、商船の速度が12ノット、主力艦隊の速度が16ノットなので、最低でも水上での潜水艦の速度はその1.5倍なければならないという。商船攻撃を主としたUボードの水上最高速度が18ノット、主力艦隊攻撃を目指す日本潜水艦(伊号潜水艦)の水上最高速度は24ノットが必要で、事実戦前にそのように設計されていたのである。しかしながら、Uボートが英米海軍に与えた膨大な損害に対して、日本潜水艦(伊号潜水艦)はその水上速度を生かして、米国主力艦を撃滅することがほとんどできなかった。

なぜ米国主力艦を日本は攻撃する事ができなかったのか?その理由は簡単で、空母攻撃となるとその艦載機や哨戒機が周囲を哨戒しているので、商船の場合と比較した場合、その哨戒・監視能力が非常に高いのである。よって、潜水艦が水上に浮上して空母の先回りをしようとした場合、相当大きな半径を迂回しなければいけなかったのであり、伊号潜水艦の水上速度で先回りして戦果を挙げる事が事実上不可能だったのである。

戦前の時点から伊号潜水艦のプランは、潜水艦という兵器の身の丈に比べて背伸びをしすぎているのではないかとの疑問があり、その疑問が結果的に正しかったため、「潜水艦は所詮は通商破壊兵器でしかない」との結論が絶対になったわけである。

空母および軍艦(注)哨戒能力を計算に入れていなかったために、相手の主力艦隊撃滅という意図に反して、その能力が発揮することができなかったと結論づけられる。(注:長沼伸一郎氏によると軍艦の場合でも戦艦、巡洋艦のマストは高く、周囲を護衛艦が取り囲んでいる場合も多いので、主力艦からの総合的な監視可能な半径に格段に大きいという。この点も日本潜水艦戦略は考慮に入れることができなかった。)

4. 混迷する日本の潜水艦戦略

日本の潜水艦隊は相手の主力艦隊を撃滅することを想定して設計・訓練され、その意図とは裏腹にその能力を発揮する事がでなかったのは、3. なぜ日本の潜水艦はその能力を発揮する事ができなかったのかで記載した。しかし史実を降り返ってみるとその使用目的に対しても十分に日本潜水艦隊は使用されることがなかった。なぜなら、潜水艦の真の使用法を全く理解してない軍上層部によって、戦局が不利になった時点で潜水艦の便宜使用が繰り返されたからである。

それが顕著にあらわれたのがガダルカナル島争奪戦であった。駆逐艦による「東京急行」と呼ばれた補給作戦が、航空戦の消耗で制空権を失い不可能になると、これまでの輸送任務を便宜上、潜水艦によって行ったのである。この補給作戦は戦局の移行に伴い、南太平洋に散在する日本軍基地に広がり、太平洋戦争全期間の喪失艦127隻のうち、三割にもなる40隻余りも失っている。

太平洋戦争全期間における潜水艦の喪失127隻のうち、三割にもなる40隻余りがこの補給線で失ったという事実は軍上層部が日本の潜水艦使用方針に対する混迷ぶり露呈する事実と列挙することが可能であろう。

5. 科学技術への軽視

米潜水艦の戦果の多くはレーダー使用による奇襲攻撃であった。潜水艦の視界は潜望鏡から望める、精々十数哩でしかない。この事からもレーダーは潜水艦にこそ真っ先に装備されるべきもので、潜水艦の生存のためにも必須の装置であった。(中略)日本の潜水艦はレーダーも、高性能のソーナーも無く、目標の情報解析の計算機すら無く、唯、潜望鏡観測の練度だけで魚雷を命中させなければならいない。

第二次世界大戦で大活躍したレーダーはYagi Antennaと呼ばれ、その名のごとく当時東北帝国大学の教授であった八木秀次という日本人が開発したものである。残念ながら、日本海軍は八木アンテナを全く不要なものとして排除し、レーダーの開発はしなかったことが致命傷となる。その後、米軍が八木アンテナを利用していることを知って驚き、あわてて開発したが、時は既に遅かった。軍上層部の科学技術への無理解は、米国太平洋艦隊司令長官であったニミッツ大将が、日本の潜水艦について「これほど強力で期待された兵器が、まったくその能力を発揮しなかったという事実は、史実上類をみない希有の例である」と言った一つの大きな原因ではないかと考えられる。

第二次世界大戦におけるYagi Antennaの功績
(1) バトル・オブ・ブリテン
ドイツ空軍の空襲に対してイギリス空軍はレーダーを使った防空システムの整備により有効に対処することができ、この戦いは戦局の分水嶺となった。
(2)サボ島沖海戦やビラ・スタンモーア夜戦でもアメリカ海軍がレーダーを活用して日本海軍を相手に勝利をおさめた。

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