第一話と第二話を通して、どちらかというと、硬派な地政学の一面をご紹介してきた。このように言うと、「地政学に軟派な面なんて、あるのかよ!、江田島孔明の作品はいつもバリバリの硬派(右翼?)じゃないか」と反論される方が多いかもしれない。まさにその通りであるが、対談シリーズ1:江田島孔明の最終回にあたる今回はどちらかという硬派な側面はすべて江田島氏の世界史に見られるランドパワーとシーパワーの戦略シリーズにお任せして、地政学を通して学べるトリビアの泉的な雑学をご提供したい。
料理が発展する条件
料理が発展する条件とは恐らく様々な要因に関係するに違いない。料理とは営々として、受けつがれてきた民族の歴史であり、民族ごとの多様性を前提としているので、一概にこの料理は良くて、この料理はまずいと断定することは民俗学者の諸先生より、「この青2歳が!」とお叱りを受けるに違いない。しかし、旅行で海外にいくなら、旅の思い出ということでまずいローカルの料理を食べるのも一興であるのだが、仕事で海外に駐在しているとなると、ローカル料理ばかり食べ続けるというわけにはいかない。なぜならまずいものを食べると、確実に次の日の労働生産性が落ちるからだ
アメリカに仕事で出張に行って、食事をすると労働生産性が激減することは間違いない。今日はハンバーガーで、明日はハンバーグで、明後日はビザねってという冗談にしか聞こえない会話が決して冗談に聞こえないところがこの国のすごいところだ。食事のたびに500mlのペプシコーラを飲み続ける若者を見ると、その飽くなきジャンクフードへの希求心に心より恐れ入る気持ちになる。江田島氏も公私を問わず、海外経験が豊富だそうだ。世界屈指の現代の地政学者として、実際に世界のピボタルポイントとそれに繋がるフォールライン、そしてそれを抑えるために必要なチョークポイントを自分の目で確かめないと気が済まないのであろう。大変研究熱心な戦略家である。(むしろそれぐらいの情熱がないと戦略家にはなれないのかもしれない。)私もたかだか1年半程度の間、シンガポールとミクロネシアの小島に駐在した程度の経験しかないが、江田島氏との共通した見解として、日本人ビジネスマンが海外で食べる料理は「日本料理か中華料理と決まっている!」というのがある。また私はシンガポールにのれんを構えていたトルコ料理店も愛用していたが、これにフランス料理を加えると、中華料理、トルコ料理、フランス料理で世界の3大料理ということになる。日本料理は別格扱いにしても、何故、中国とトルコとフランスだけが、世界の3大料理となることができたのであろうか? 私のこのようなアマチュアな質問に対して江田島氏は次のように答えた。
「その質問はなかなか歴史の核心をついていますよ。」
(注:私がシンガポールに滞在した時に食事の70%以上のシェアを占めたのが、中華料理だった。華僑によって建国された国なので、他の国より中華料理店が多いという点は考慮されるとしても、食事の割合の圧倒的なシェアは驚異的だ。シンガポール人が胸を張って(?)、自分の国の自慢できる料理として紹介する、チキンライスとホッケンミーを独断で、中華料理の枠に入れてしまうのであれば、そのシェアは85%に達してします。『←実際このような発言をすると、シンガポール人は怒りだすがインドネシア人とマレーシア人は声を大にしてそうだそうだと声を賛成するに違いない。」恐るべきは世界三大料理なのである。)
世界三大料理
世界三大料理 (せかいさんだいりょうり) とは、主に「中華料理」「トルコ料理」「フランス料理」を指す。 中世のシルクロードの始点は「中国(西安)」から、「シリア、トルコ」を経て、終点は「地中海」へとたどり着く。以上から様々な食材や香辛料がシルクロードを渡りこの三大料理の特徴を培ったと考えられる。
(←この地図を印刷して、奈良、西安、蘭州、敦煌、トルファン、タクラマカン砂漠、テヘラン、イスファハーン、バクダット、イスタンブールなどのシルクロード沿いの主要都市をボールペンで印をつけてみるととても楽しいです。)
シルクロード沿いにある都市は通商路として食材、香辛料が十分に売買されるので、料理が発達する下地があるといえるが、それだけでは十分ではない。料理に湯水のごとくお金を費やしてくれるパトロンの存在が必要だ。つまり王朝文化の存在が必要不可欠だということである。王様の力と料理の力は比例するのだ。中国の歴代王朝はいうまでもなく、トルコはイスタンブルを首都として、西はモロッコから東はアゼルバイジャンまでの広大な地域を支配したオスマントルコ帝国、フランスは荘厳華麗なベルサイユ宮殿で有名なブルボン王朝、いずれの国も料理に莫大なお金を投資してくれる頼もしい王様が存在しているからである。
江田島曰く、「私はベルサイユ宮殿をこの目でみたことがあるが、あの壮麗な宮殿もルイ14世の別荘でしかなかったんですよ。それだけフランスの財政力というのはすごかったんです。」しかし、このような江田島氏の語りを聞いていると、次のような疑問が湧いてくる。20世紀初頭には世界の地上面積の5分の2に当たる3千平方キロを支配した大英帝国(British Empire )の食事はなぜまずいのだろうか。(私自身はイギリスに行ったことはないが、これはイギリスに行った友人たちの感想。)
地図の上で確認しても植民地の領土面積は大英帝国の方がフランスの植民地帝国よりも勝っている。イギリスの王様の方がフランス王様よりも金を持っていたんじゃないのと素人の考えでは思ってしまう。料理が発達する条件で最も大切なのは、国王の金の力よりも通商路なのであろうか(シルクロード)。確かにお金を持っていても、いい食材がなければ、いい料理を作る事はできない。なにせフランスのシラク大統領がイギリスに関して、「あんなにまずい料理を作る国の国民は信用できない」とか2012年のオリンピック招致でイギリスに敗れた時に、「あんなに飯がまずいところでオリンピックが開けるか!」など言いたい放題であった。対抗してイギリスのブレア首相が「フランスの料理は泣けてくるほど美味い。世界で一番だ。あんなに飯がうまいのであれば国民の情操教育もしっかりしているので、何でも信頼がおける国だ」などど対抗して嫌みを言ったということも聞いたことがない。シラク大統領の発言が的を得ているので、何も反論できないのである。話しを戻そう。イギリスの飯はなぜまずいのだろうか。(アメリカの飯がまずいのは宗主国の飯がまずかったからという説明だけでもよいのかもしれないが)

フランス領土

イギリス領土
私のこの疑問に対して、江田島氏は次のように回答した。「イギリスに行って、バッキンガム宮殿を見られたらおわかりになると思いますが、フランスのベルサイユ宮殿と比較すると本当にみすぼらしいんです。そもそもイギリスという国は日照時間が短くて、小麦の収穫量が少ない上に、国土面積が狭い。フランスを石高100万石の大大名と考えるなら、イギリスは10万石程度の小大名なんです。」江田島氏の回答を聞いて、次のような疑問が湧いて来た。。それならば何故、その小大名程度の国力しかなかったイギリスが世界に冠たる覇権を握ることができたのかということである。「フランスというのはランドパワーの国なんです。だから、土地の税収(小麦の収穫量)によって成り立っているんです。よって、その収穫量が国王の権力に比例することになります。一方、イギリスはシーパワーの国です。彼らにとって大切なのは通商路の確保。ここで重要なのは、インド洋までの通商路を確保したのは誰かという問題です。それは国王ではなくて、商人なんですよ。イギリスを支配しているのは国王ではなくて、商人なんです。これを資本主義というのです。」当時のベニスやスペイン、ポルトガルなどと思い浮かべても、シーパワーと分類される国は王様よりも商人が強い。トルコも中国もフランスもランドパワー国家である。料理が発達する条件の一つはランドパワー国家でなければならないということになりそうだ。
イギリスを支配しているのは国王ではなくて、商人だと言えば、少し首をひねって本当かよ?と疑られるかもいるかもしれないが、次のようなエピソードを聞くと少しは納得していただけると思う。1869年にスエズ運河が開通した。当初はフランスとエジプトの共同所有だったが、スエズ運河の重要性を認識した当時のイギリス首相であるディズレーリはフランスを出し抜いて、エジプト所有の株式を買収する事になる。
スエズ運河が世界貿易に与えた影響は、大きなものだった。160キロの砂漠が切り開かれたことによって、喜望峰回りの航海はほとんど必要なくなり、イギリスからインドまでの距離が、6,000キロ以上も短縮されたのである。1870年、運河が開通して最初の年に、総計43万7,000トンの船舶がそこを通った。そして、その3分の2はイギリスの船だった。そのため運河が使用されるようになるとイギリスは考えを変えて、株式の取得に乗り出した。エジプトの藩王イスマイル・パシャは、1875年、莫大な借金を整理するために、スエズ運河の株を売りに出した。イギリスの首相ベンジャミン・ディズレリは、運河株に目をつけていたフランスを出し抜いて、ただちに400万ポンドの資金を調達すると、エジプトが所有していた16分の7の株を購入した。
この引用文にある400万ポンドという巨額の資金を出したのは一体誰がご存知であろうか。この資金を拠出したファミリーこそゴルゴ13でおなじみのロスチャイルド家である。エジプトがスエズ運河の株を売りに出したという情報が入った時に、これを何としても手に入れたいが、資金が足りないイギリス政府はロスチャイルド一家に資金繰りのお願いをしたそうだ。そこで、イギリス政府は何を担保にお金をお借りされるのでしょうかというロスチャイルドの質問に対して、当時のイギリス政府は次のように回答したという。
「資金の担保となるのは大英帝国です。大英帝国を担保にお金を貸してください。」
このはなしが本当だとしたら、大英帝国を担保に取っているロスチャイルド家は国王よりも偉いということになるのは当然だ。また脱線してしまったが、話しを元に戻そう。地政学の観点から見た料理が発展する条件は以下の2つとなる。
国王の権力が強力な独裁国家(ランドパワー国家)
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シルクロード沿いに国がある(良い食材が手に入れられたから)
対談シリーズ1:江田島孔明(3)完

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