哲学者永井俊哉
永井俊哉氏は哲学者である。三度の飯より本を読み、思考する事が好きだという事だ。また、氏は反骨の精神を持つ哲学者でもある。職を得るために大学に残り、官僚的な学閥社会で汲々とするのは潔しとはせず、下野して、インターネットを通じて自分の学問の業績を公開するという鉄の意思を持つ人間である.大学を離れてから既に13年も経つということだ。その属社会と屈託せずに自分の学問を継続している姿は多くの大学人に感銘を与えるのではないだろうか。私も氏に畏敬の念は払う人間の一人である。氏は常に一人で行動する。一人でいるのが好きだそうだ。家にはテレビも漫画もおかず、読むのは本だけのようだ。しかも小説も読まないというぐらいのハードな人柄だ。氏の浮世離れの度合いは現代の鴨長明といったところだ。氏にはつくづく頭が下がる。最後の対談レポートの締めを永井氏とどのようにするか、氏と私とで共通点が少ないので大変困ったが、お互いロタ訪問経験者ということで、対談の最後をロタに関する様々な断想で締めくくりたいと想う。
私は、研究職を手に入れるために、自分をアカデミズムに適応させようと努力しました。そうすることでわかったのは、アカデミズムが官僚的であるのに対して、私は非官僚的な人間で、順化は不可能ということです。 もともと、大組織の忠実な部品となるよりは、流浪の芸術家のような人生に憧れていましたから、現在のような生き方を選んだことは後悔していません。むしろ、もっと早くアカデミズムと決別 していた方が良かったかなと思っているぐらいです。
哲学者永井とのロタ談話

峯山:対談レポート3:永井俊哉では、ロタ訪問の経験がある、永井さんと私、峯山とでロタに関する様々な話をしていきたいと思います。永井さんよろしくお願いします。永井さんはロタに2ヶ月程滞在された経験がおありですが、食事等は自炊されていたのでしょうか?それともレストラン通いだったのでしょうか?
永井:最初は自炊をしようと思っていたのですが、スーパーに新鮮な食材がなかったり、別荘にあった自動炊飯器が壊れていたりで、ほとんどレストランで食べていました。スーパーでいくつか買い物をしましたが、缶詰とかは最高にまずかったですね。
峯山:はい、ロタ島というと、海の透明度は50m以上を誇り、うに、かつお、やしがに、ロブスター、カジキマグロという海の幸とアボガド、パパイヤなどの山の幸がとても新鮮で、おいしいのですが、残念なことに、スーパーマーケットに行って、これらの食材を手に入れる事は難しく、賞味期限の切れたジュースやら、まずい缶詰しか手に入らず、私もとてもがっかりしました。レストランはいつもどこを愛用されていたのでしょうか?
永井:最初は、安いからという理由で、アスパリスに行っていましたが、途中から、ピザリアに行くようになりました。日本ではめったに食べることのない珍しいメキシコ料理とかあって、結構満足しました。
峯山:なるほど、ピザリアにメキシコ料理があるのですか? 私はいつもピザリアでは名前にあるようにビザしか食べなかったですが、どのようなメキシコ料理を好んで食べられたのでしょうか?よく考えるとロタに行って、ピザやメキシコ料理を食べるというのは大変違和感がありますが。
永井:それが、聞きなれない料理なので、名前は忘れました。ロタでメキシコ料理というと、違和感があるかもしれませんが、トロピカルな雰囲気ですから、抵抗なく楽しめました。むしろ、ああいうところで日本料理を食べる方が違和感がありませんか。
峯山:私としては、現地の食材を使用したチャモロ料理をもっと楽しみたかったのですが、TONGATONGACAFEなど限られたところで、限定した料理しか食べられなかったのがとても残念でした。現地の人は食の需要が無いから、ロタの食材を提供できないと言っていましたが、ここを訪れた日本人は皆さん、私と同じ感想をお持ちでした。需要がないから、供給しないのではなくて、単にチャモロ人にやる気がないだけだと思っております。それにしてもあれだけの豊かな自然のもとになった、水やシーフードや果物が食べられないのはおかしいですよ。
永井:ベイブリーズレストランでは、ローカルフィッシュの料理が安く売られていました。あそこの料理は、安くて、おいしくて、ボリュームがあるので、お薦めです。ただし、昼食をここでとるのは、おすすめではありません。オープンエアーであるため、食べている時に、たくさんの蝿がたかってきます。トンガ洞窟の近くにあるTONGATONGACAFEも、洞窟内をイメージしたおしゃれな店ですが、オープンエアーだから同じ問題があります。現地の人は、蝿が料理をなめてもなんとも感じないようですが、こういうのは、日本人には抵抗があるでしょう。蝿がいない夜に、このレストランの名前の通り、湾岸から吹くそよ風の息遣いを肌で感じながら、地元でとれた新鮮な魚の料理とかを食べると、最高です。
峯山:はい、ゴミ処理の問題がうまくいってないせいか、オープンエアーで食事をする場合は大変蝿が気になりますね。私は現地での滞在期間が長かったので、最後の方は気にもならないようになっておりましたが。私も夜になって、暑さもおさまり、心地よい風を感じながら、地元の魚料理を食べるのがこの島でのもっとも贅沢な食事であると思います。縦横無尽の知的冒険という本を執筆するくらいですから、永井さんも現地でたくさんのフィールドワークをされたと思いますが、現地で一番驚いたことはなんでしょうか?
永井:実は、別荘内にこもって仕事をしていたので、それほどあっちこっちいったわけではありません。驚いたことといえば、未処理のまま捨てられてできたごみの山、あっちこっちにある自動車や家屋の残骸ですね。
峯山:そうですね。私もあれには大変驚きました。ゴミ処理場までゴミを持って、自分で捨てにいかないといけないですし、ゴミの分別という概念がないので、何でもいっしょくたにしてゴミ山に捨てるのは日本人としてはかなり抵抗があります。今は現地の人が少なくて問題が生じないかもしれませんが、観光客をもっと呼びたいと思うのであれば行政は早い段階で対応しないと、海洋汚染にもいずれつながり観光客が逃げてしまいますね。
永井:最近、峯山さんは、またロタ島に行ったとのことですが、観光客や町の様子はどうでしたか。
峯山:観光客や町の様子は様変わりしていました。Coming Soon!!! ROTA Casinoという看板が設置してあったのには驚きました。またコンチネンタル航空がグアム-ロタ間の運行を日便より定期便に変更したために日本の旅行代理店では、ロタ行きのパックツアーを組めず、10月にはロタ行きの旅行がすべてキャンセルされたようです。そのためロタはまさに閑古鳥が鳴いているかのごとく観光客が見られず、お通夜のように静かな感じでした。
永井:サイパンの様子はどうですか。9月11日のコラム「ロタ島の生活:サイパンは今」で、「サイパンを初めて訪れたのが今年の6月11日なのですが、そのときから比べても”サイパン”という土地にあった活気のようなものが急速に失墜していることがわかります。あまりの変貌に少し鳥肌のようなものが立ちました。サイパンの中心街のガラパン地区に観光客がまったくいないという状態です。6月に営業を行っていたスーパーマーケットやお土産などを販売するショップなども虫食いのような状態で閉鎖し始めています。」と書いていましたが、相変わらずこういう感じですか。
峯山:私は最近、訪れた時はJALがチャーターをサイパンに飛ばした時でしたので、少し賑やかでしたが、基本は観光客が激減し悲惨な状態のようです。私がなじみのホテルは20部屋のうち、2部屋しかその日も埋まっておらず、このような状態が続けば店を閉めるしか無いという状態でした。ドバイのように勃興する都市もあれば、サイパンのように衰退する都市もあるのだということを実感しました。サイパンの復活の鍵は永井さんはどうすればよいと思われますか?
永井:もっと漁業に力を入れたらよいのではないでしょうか。独排他的経済水域も相当に広いはずです。少なくとも自分たちが食べるだけの魚は取れるでしょう。
峯山:はい、漁業や農業など豊かな自然を生かして自分たちの食生活を豊かにするだけではなくて、輸出を行ってもかなり儲かるのではないでしょうか。戦前の製糖産業のように。一方、観光業に対して打開策はありますか?私はサイパンダに匹敵するマスコット一つを作った程度ではどうしようもないと思います。サイパンでは現在、電力不足のためによく停電します。リゾート地としては最悪です。また、海が電力会社に資金力がないために、石油が漏れても野放しのようです。ロタとテニアンに較べて、サイパンの海はかなり汚れています。このような状況が続くのであれば、観光業はお手上げですので、何か産業が必要であると私も考えておりました。
永井:サイパンが観光業で復活するというのは無理ではないでしょうか。観光開発をするなら、やはりロタ島ですね。ただし、ロタも、海が汚くなったら、終わりだと思います。海以外の観光スポットが乏しいので、海だけが命です。
峯山:永井案によると、手つかずのロタはテニアン島のようにカジノ計画を行うのではなくて、海や自然を保護した環境観光立国を目指す方がよいということですね。しかし、ロタも観光開発されていないわけではありません。ロタリゾートのようにゴルフ場もありますので。永井さんがロタ市長ならどのような観光開発なされますか?一つ市長になったと思って、ロタ復活の名案をお答えください。
永井:カジノ開発は感心しませんが、どうしても賭博で観光客を呼び寄せたいなら、チャモロ人がやっている闘鶏を一般観光客向けにやればよいのではないでしょうか。そのほうがまだしも文化的な感じがします。
峯山:せっかくの闘鶏も地元の人だけで楽しんでいるというのはもったいないですね。スペインの闘牛のように観光客にも解放すべきです。私ならやはり漁業、農業などの産業を行うでしょう。戦前のさとうきびの栽培でも成功しているのでロタの人にも受け入れやすいと思います。ロタの水はエビアンよりもおいしいので、質という意味では申し分ないはずです。また教育にも力を入れるべきであると思います。自然との共存というのが21世紀の一つのキーワードになると思いますが、その模範的な生活実践と教育を世界に先駆けて行うべきです。現在はお金がなくて、教師がリストラされ、優秀な教師は海外に移住しているようですが、このような事態はなくさないといけません。日本の米百俵の精神を今こそ、北マリアナ連邦へいかすべきだと思います。その取組みが成功すれば、世界から様々な視察団がロタを訪問するようになれば成功と言えると思います。
永井:北マリアナが今の状態であれば、教育に力を入れても、人材は海外に行くだけです。農業と漁業に力を入れるべきだというお話ですが、その前に、大半の住民がフードスタンプで食べていけるという状況をなんとかしなければいけません。しかしながら、生活保護の打ち切りを公約すると、選挙で落ちるから、政治家としては、なかなか実行しにくいというのが実情でしょう。まずは、補助金を打ち切り、人々に働くインセンティブを与えなければいけません。
峯山:現在のように輸出できるような枠組みができていないのですから、自家消費はできるかもしれませんが、電気代やガソリン代を支払えるような外貨を獲得することができません。それこそ混乱を起こす元になると思いますが。
永井:他の産業と比べれば、初期投資は少しでよいわけですから、農業と漁業が一番現実的な選択肢です。
峯山:どちらにしても改革は必要ですが、改革期にはかなり混乱が予想されます。改革の先にどのような国家のビジョンがあるのか私はそれがとても大切だと思います。ロタで驚いたことを中心にお話をいただきましたが、ロタで感動したことというのはございますか?
永井:テテトビーチでシュノーケリングをして、熱帯魚が泳いでいるのを見ることができたのが一番感動的でした。
峯山:私も体験しましたが、テテトビーチでシュノーケリングをしたときにたくさんの熱帯魚がよってきてとても綺麗だと思いました。このような経験は初めてでしたか?
永井:初めてでした。ただ、水位が低くて、体と海底の岩が接触しそうで、怖かったですね。泳いでいる間に、ビーチサンダルが一つ足から外れて、無くなってしまいました。
峯山:災難でしたね。満潮の時に行くともっと感想が違ったかもしれませんね。私が感動したのは星空です。日本にいると電灯の明かりがきついので夜の星星ははっきりと見えないのですが、ロタでは天然のプラネタリウムのごとく星星の輝きを肉眼で捉える事ができたのでとても感動しました。自然の豊かさという点でロタはかなり魅力的です。
永井:ココナッツビレッジに行ったとき、望遠鏡をのぞかせてもらいました。土星をアップで見ることができて、嬉しかったです。日本は空が汚れているから、あれほどきれいには見ることができないのだそうです。
峯山:はい、ロタの良さは自然の豊かさですね。まだまだたくさんの問題を抱えていますが、ロタがNature Treasure Islandとして存続される事を私も強く願います。KFCトライアスロンクラブ主催のトライアスロン大会も先日、ロタで行われて大変盛況であったようです。まだまだ高いポテンシャルを秘めた島であると私も思います。これからの活躍が楽しみですね。本日はありがとうございました。
永井俊哉 ながいとしや
97年 以降、学問の本当の楽しさを一般の人に伝えようと、インターネット上で著作活動 を開始し、読者とのインタラクティブな対話を続けている。分野を横断的に駆け巡る注目の作家。1965年 京都生まれ。88年大阪大学文学部哲学科卒業。90年東京大学大学院倫理学専攻修士課程修了。94年一橋大学大学院社会学専攻博士後期課程単位修得満期退学。JMF第4回日本マルチメディア大賞他、4つの受賞論文がある。『縦横無尽の知的冒険』(プレスプラン刊)の著者

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