6. 不平等条約としての京都議定書

ニューヨークタイムズの記事(2000年,2002年)によれば、温室効果ガス排出量が多い国を上から順に並べると、アメリカ合衆国、中国、ロシア、インド、日本、ドイツ、ブラジル、カナダ、イギリスとなる。環境省作成による世界全体のCO2排出量(2004年)によれば、上に挙げた10ヵ国だけで世界の温室効果ガスのの65%を排出していることがわかる。地球温暖化防止ということになれば、この10ヵ国に抜本的なメスを入れなければいけないのだが、ご承知のように
温室効果ガス排出国1位:アメリカ合衆国
京都議定書に批准していない。
温室効果ガス排出国2、4、7位:中国、インド、プラジル
途上国として排出削減義務がない。
この事実だけで地球温暖化防止という実効性のおよそ50%が保古にされる。さらに
温室効果ガス排出国3位:ロシア
経済の停滞で1990(基準年度)の排出量を大きく下回る
温室効果ガス排出国6位:ドイツ
東ドイツの併合でエネルギー効率の悪い東ドイツの旧式設備を取り込むことが可能となり、京都議定書達成は容易。
温室効果ガス排出国10位: イギリス
大量の二酸化炭素を排出する石炭火力から北海天然ガスに転換したことで、京都議定書達成は容易。
しかもヨーロッパの場合、EU全体として計算することになっており、エネルギー効率が不効率な東欧諸国を取り込む事ができるので、京都議定書の目標達成は容易なのである。
温室効果ガス排出国10位: カナダ
京都議定書に批准しているが、保守ハーパー政権は京都議定書履行を拒否
【6月23日 AFP】京都議定書(Kyoto Protocol)の遵守を政府に要求する議員立法法案が上院で可決されたことに対して、スティーブン・ハーパー(Stephen Harper)首相は22日、国の経済成長を阻害する法案には従わないという強い姿勢を改めて示した。
そして温室効果ガス排出国5位の日本は2005年末の時点で1990年度比の温室効果ガス排出量に比べて7.8%増となっており2008年の京都議定書約束期間までには現水準より14%近くも削減しなければいけない。日本の京都議定書達成の鍵は水素社会の実現である(2)で紹介したが、1990年という京都議定書の基準年に既に日本の省エネ技術は世界最高水準でほぼ頭打ちしていたのであり、温室効果ガス削減余地はほとんど残されていなかったにも関わらず、アメリカやヨーロッパと同じ削減率が適用され、現在、日本は温室効果ガス排出国上位10位の中で唯一"血の滲むような努力"をしているのである。その壮大な努力が地球全体の温室効果ガス削減に結実するのであれば、少しは日本人として報われる気がするが、現状のままでは壮大な無駄になるしかない。
中国、インドの温室効果ガス排出削減義務のない途上国の排出量が止まらない。地球温暖化問題の交渉は、当初から南北問題の様相を呈し、京都議定書で途上国の削減義務は盛り込まれなかった。温室効果ガスの問題は先進国にあるのであり、途上国に削減義務が発生するのは不当であるというのが途上国側の主張である。しかしその見通しが甘かった。相対性理論を発見した天才物理学者アルバート・アインシュタインは、数学の歴史上、最大の発見を複利であると答えたが、まさにこれは複利という数学の魔を知らないがために起きた悲劇であるといえる。

ではその結果宿命づけられた成長スピードというのは、具体的にどの程度のものなのだろうか。それには第二次大戦後の米国経済を一つの標準とするのが良いだろう。米国人にとっては、恐らく戦後の50年代から60年代にかけてが米国経済の最も健全だった時期であり、それがいわば「健全な資本主義社会」の標準と考えられるからである。大体この時期の経済成長速度は年間3%前後といったところだったが、年間3%成長というのがどの程度の数字かと言えば、実はこれはとんでもない代物である。ちょっと計算してみればすぐわかるが、要するにたかだか20数年で経済が2倍にならなければならないというのである
中国を例にとると、2006年度の中国の実質経済成長率は11%である。同じような経済成長を遂げた場合、たった驚くべきことに7年ほどで経済の規模が2倍になるのである。経済の規模に相関して、エネルギー消費量は直線上ではなく指数上に増加するのであり、資本主義における過去の石油消費量を改めて振り返るってみるとその消費量は指数曲線に乗っていたことがわかる。そして中国は2006年度にCO2世界排出量が最大となったことが話題となったのは最近のことだ。
北京(AP) 中国の二酸化炭素排出量が米国を抜いて世界最大になったとする報告を、オランダの研究機関がまとめた。石炭の大量消費とセメント生産の増大が背景にあるとしている。
途上国に排出権削減義務のなく、排出大国一位のアメリカ合衆国が批准していない京都議定書は地球規模の温室効果ガス削減目標という観点からは全く役に立っていない。別の図で確認してみよう。

2010年には温室効果ガス排出削減義務のある先進国は全体の31%である。指数的に増加する途上国の温室効果ガス排出量をどのように抑制するのかということが、今後の温室効果ガス排出削減の問題となるが、これは2013年以降のポスト議定書後の課題ということになる。
話しをもとに戻そう。現在、温室効果ガス排出国上位10位の中で京都議定書の目標達成にむけて、唯一"血の滲むような努力"をしなければいけないのが日本である。国内で排出される、温室効果ガスは二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、代替フロン等3ガスの主に4つに分類される。その内エネルギー起源の二酸化炭素というのが全体の温室効果ガス排出量の80%以上を占めるのでここを削減しなければいけないのだが、この削減が達成不可能であることを前回のコラムで確認した。削減が難しいのなら、国内の森林整備をさらに行うことによって二酸化炭素を吸収すればよいのではというアイデアもあるがこれも問題が多い。
議定書の目標達成計画のもう一つの問題は吸収源である。これは植林、森林保全などによりCO2を吸収する対策である。2007年4月に開かれた産業構造審議会と中央環境審議会の合同審議会に提出された資料によると、CO2の削減コストは1t当たり約3万円であり、京都メカニズムに比べると明らかに高い対策である
EU域内排出権取引制度を参考にしよう。2007年の5月中旬時点で2008年から2012年の「排出権先物取引価格」は1tあたり20ユーロ(約3,000円)以上で推移して取引されていることを考えると、日本はその凡そ10倍の費用をかけて二酸化炭素の吸収のために森林整備を行っているということになる。さらに林野庁によると国内森林面積の約7割に相当する1,750万haの森林で、京都議定書3条4項による「森林経営」活動が適切に実施されないと、目標値である3.9%の二酸化炭素吸収達成は難しいのだそうだが、この見通しにはまず大きな無理がある。それはこれだけ広大な森林面積を守る人がいないからである。
林面積の7割もある民有林は、林業後継者の不足、いや、新規の学卒就業者が年間に全国で200人と言われる絶望的な希少化に、将来はないのではと思えるほどだ。木材市況の長期低迷は山林経営を実質的に放棄して、荒廃に任せる地主を増やしている。
日本が京都議定書を達成する残りの手段としては京都メカニズム(海外で実施した温室効果ガスの排出削減量等を、自国の排出削減約束の達成に換算することができるとした柔軟性措置。京都議定書において定められたもの。)以外に考えられない。この分野において、十分な対応策が検討されない場合はロシアなどの排出権が膨大に余っている国から5年に渡り購入しなければいけないということになる。
2005年の段階で京都議定書の第一約束期間(2008-2012年)にまで削減しなければいけない温室効果ガスの量は1億4100万tである。EUの二酸化炭素取引価格を参考にすると毎年3000億円近くの排出権をロシアなどから購入しなければいけないということになる。第一約束期間の5年間で、1兆5千億円もの大金が日本から何の削減努力もしないロシアに流れるということになる。しかも重要なことは京都議定書達成のための排出権の購入は温室効果ガス排出削減に一切の寄与をしないということである。以上のようなことを考えると京都議定書履行を拒否したカナダ政府の真似をするのが一番良いのではいう気がしないでもないのだが、前向きに京都議定書をロシアなどの温室効果ガス削減に寄与しない排出枠を購入しなくても目標を達成させる方法がないかどうか次回以降検討してみよう。
関連コラム
原子力発電大艦巨砲主義と原発安全神話
アジア通貨危機

コメント
同じ理系としてどうおもいます?
http://www.stop-hamaoka.com/kikuchi/kikuchi2.html
Posted by 新白連合 at 2007年7月20日 12:44
コメントする