日本の京都議定書達成の鍵は水素社会の実現である(4)

7.日本の京都議定書達成にむけて

京都議定書の目標達成にむけて、日本は温室効果ガス排出国上位10位の中で、唯一"血の滲むような努力"をしなければいけないことを前回(日本の京都議定書達成の鍵は水素社会の実現である(1)-(3))までのコラムで確認した。1990年という京都議定書の基準年に既に日本の省エネ技術は世界最高水準でほぼ頭打ちしており、日本国内のみで、京都議定書を達成(1990年度の温室効果ガス排出量に比較して6%の削減)することはもはや不可能である。私は京都議定書達成のためには、ロシアなどの温室効果ガス削減に寄与しない排出枠を購入せずに、京都メカニズムの中の共同実施(JI)とクリーン開発メカニズム(CDM)で排出枠を獲得する事が日本の目標達成にも、地球規模での温室効果ガス削減という趣旨にも合致して望ましいと考えている。その中でもクリーン開発メカニズム(CDM)は途上国で温室効果ガス削減を実施することから、先進国間の共同実施(JI)に比べて、設備が旧式で、エネルギーが不効率であることが多く、投資単位当たりの温室効果ガス削減量は一般的に多い。以下、共同実施(JI)とクリーン開発メカニズム(CDM)に焦点を当てて、ポスト京都議定書以後の世界を見据えて、日本が京都議定書達成するための戦略を考えてみよう。


京都メカニズム
海外で実施した温室効果ガス排出削減量を、自国の排出削減約束の達成に利用できる制度

(1)共同実施(JI)
先進国同士が共同で事業を実施し、その削減分を投資国が自国の目標達成に利用できる制度。(根拠条文:京都議定書6条)

(2)クリーン開発メカニズム(CDM)
先進国と途上国が共同で事業を実施し、その削減分を投資国(先進国)が自国の目標達成に利用できる制度。(根拠条文:京都議定書12条)

(3)排出権取引(ET)

各国の削減目標達成のため、先進国同士が排出量を売買する制度。(根拠条文:京都議定書17条)

8. 原子力発電は京都議定書達成の救世主か?

共同実施(JI)とクリーン開発メカニズム(CDM)に論点を移す前に、原子力発電が、日本の京都議定書達成のための救世主となるという意見がある。火力発電の燃料となる石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料を燃やすと、二酸化炭素(CO2)を排出するが、核分裂のエネルギーを利用する原子力発電は、発電の過程でCO2を排出しないというのがその根拠となっている。

図から確認すると、、原子力のCO2排出量は、1kWhあたり22gで石油火力の1kWhあたりのCO2排出量742gに比較するとおよそ33分の1倍であることから、電力量単位当たりの温室効果ガス排出量の少なさは極めて有望であると考えられる。さらに電気事業連合会は[特集] 原子力は地球温暖化対策のエースですと題するコラムを作成しており、その中に次のような特筆すべき記述がある。

仮に原子力、水力、LNG火力など環境に優しい電源がすべてLNG以外の火力発電に置き換わると、発電に伴うCO2の排出総量は7.43億トンに上ると試算されます。これが原子力発電など環境に優しい電源の導入によって3.64億トンに抑えられています。つまり、これらの電源には3.79億トン分のCO2抑制効果があり、そのうち57%は原子力発電による効果なのです。原子力発電は電力供給の柱として活躍しながら、地球温暖化防止の上でも大変優れているのです。

少し書き方が周りくだいのだが、日本のエネルギー供給構成が石油と石炭による火力発電のみに依存した場合のCO2の排出総量は7.43億トンでこれを原子力、液化天然ガス(LNG)、水力やその他再生可能エネルギー(地熱、太陽光発電など)のみ依存した場合のCO2の排出総量が3.64億トンで3.79億トン分のCO2抑制効果があるというのである。


2004年度にNHKによって作成された日本エネルギー構成費を確認してみよう。現在、日本エネルギー構成費の中で、石炭と石油全体が全体のおよそ70%を占めており、これを電気事業連合会が提唱するように原子力、液化天然ガス(LNG)、水力やその他の再生可能エネルギーに置き換えたと仮定すると温室効果ガス削減量はおよそ1億5千万tとなる。日本の京都議定書達成の鍵は水素社会の実現である(2)で確認したが、2005年度末の段階で、京都議定書の第一期間(2008年-2012年)までに削減しなければいけない温室効果ガス排出量は1億4,100万t(二酸化炭素排出量)であることから、原子力発電の増設が日本の京都議定書達成の鍵であると電気事業連合界の主張は一件正しいのだが、連山コラムをお読みの読者の皆さんはこの提案に大きな陥穽があるのはお気づきであるに違いない。

原子力発電が、運転中に二酸化炭素を出さないというのは、厳密には正しくない。原子力発電は、核分裂によって生じた熱エネルギーの三分の二を廃熱として捨てているのだが、その廃熱は 、取水時よりも7度ほど高い温排水として海に流される。水の温度が上昇すると、コカコーラを温めた時と同様に、水に溶けている二酸化炭素が大気中に放出される。温排水の量は、発電容量100万kWに対し、火力発電で毎秒40立方メートル程度だが、原子力発電では70立方メートル程度である

2000年5月に発表された「IPCC吸収源特別報告書」によると海洋中の炭素ストックは39兆炭素トン、二酸化炭素に換算すると143兆トンという膨大な量である。経済産業省の資料によると、1990年度の世界の二酸化炭素排出量が約210億トンというのだから、二酸化炭素に換算して、およそ7000倍の炭素が海洋中にストックされているということになる。火力発電に比べて電力量あたり、2倍程度の温排水を出す原子力発電の影響によりどの程度、水中から空気中へ二酸化炭素が排出されるかという定量的な実験及び議論も無しに 原子力は地球温暖化対策のエースですと拍手喝采することは言語道断である。

日本では、現在55基の原発が運転されており、原子力の割合は発電量の約30パーセント、一次エネルギー供給の約10パーセントである。原子炉の寿命を40年としたら2025年までに半数以上が、2050年までに全てが操業を停止し廃止されることになる。火力が総発電電力量に占める割合(60パーセント)を廃止して、原子力に置き換えるのであれば、145期が必要となり、2050年までにこれを達成しようとするなら毎3〜4ヶ月に1基が送電を開始しなければならない。

電気事業連合会の主張通りに原子力を増設すると、3〜4ヶ月に1基が送電を開始しなければならないだが、原子炉の設置コストは一基当たり、数千億円もするのであり、青森県六ヶ所村の再処理工場の建設費は1兆6千億円にも達する。これだけの設備投資する過程で莫大な費用とエネルギー(二酸化炭素を排出も同様)が発生するのであり、それでも原子力をクリーンなエネルギーであると主張するのであれば、原子力利権団体のロビーイストであるとしか考えられない。

ところで、原子力発電所関連企業はどこか。というより、原子力発電所を作る技術をもっている会社はどこなのでしょうか。そこを見つければ、業績向上が見込めるに違いいありません。ざっと上げてみます。東芝、三菱重工、日立、フランスのアルバ、部材は日本製鋼、イーグル工業、日本ギア、帝国電機、岡部バルブなどです。なんと、ほとんど日本企業です。実は、これらの会社の株式は、みなしっかり上がっています。業績も当然いいのです。つまり、すでに目をつけて株を買っている人が世の中にはいるということなんですね。

原子力は常に巨大事故のリスクを抱えています。そのため、ひとつの原子炉で事故やトラブルが生じると、同じモデルの炉を一斉に停止し点検する必要がでてきます。発電効率を高めるため「合理化」と称して無理な運転を続ければ、事故リスクは高まります。停止によって生じた不足電力は、主に火力発電所によって補われるため、いずれかの原発で事故などが起きるたびに、二酸化炭素の排出量が急増します。実際、2002年から03年にかけて、東京電力のいくつかの原子力発電所における不正行為をきっかけに、同社の原発全17基が一斉停止しました。これによる温室効果ガスの排出量増加分は4.8パーセントとされます。こうした計画外の長期停止はたびたび起きていますし、今後、原子炉の老朽化が進むにつれ、その頻度は増すでしょう。


二酸化炭素排出量を削減すると言った観点からも、原子力発電の増設を手放しに賞賛することは多くの疑問が残るのだが、上記の論調からもおわかりになるように私が日本の原子力発電増設に批判的であるのは、それが一部日本企業を利するだけでその他の多くの日本国民と日本の未来を不幸にすると考えているからである。連山コラムでも多くの回数を原子力発電及びその安全性について語られていて、学ぶ事は多い。冗長になるかもしれないが、日本の未来を懸念する一人として少し本サイト上でも付け加えてみたい。

新潟県中越沖地震で、東京電力柏崎刈羽原子力発電所6号機の使用済み燃料プールの水があふれ、放射性物質を含む水の一部が「非管理区域」に漏れ、海に放出された問題で、経済産業省原子力安全・保安院は23日、プールが設置された原子炉建屋4階の構造に、設計上の問題があるとの見方を示した。

私は理学部化学科の卒業生で、大学時代にプレートテクトニクス理論を学習した。日本列島は、地球を覆っている十数枚のプレートのうち4枚のプレートの衝突部にあり、様々な応力がせめぎあっている。マグニチュード7以上の地震は世界中でこの90年間に900回ほど起きているが、そのうち10%もの地震が日本で起きている。マグニチュード8クラスの巨大地震も日本海溝や 南海トラフといったサブダクションゾーンに集中しているという事実からも日本という地形がいかに特殊であるかおわかりになるかと思う。そんな応力がひしめきあう地震列島で原子力発電所と作るというのは柏崎刈羽原発のような事故を自らの手で招いているとしか考えられない。原子力を増設すれば、このような事故が今後頻発するのである。

私は現在、アラブ首長国連邦で職務を行っており、日本の皆さんよりイラクで使用された劣化ウラン弾の影響を特集した記事を見る事が多い。劣化ウラン弾が原因と思われる放射能汚染による小児ガンの子どもたちの写真を見ていると思わずその残虐さに目を覆ってしまう。劣化ウランとは誤訳ではないかと思うのだが、劣化ウランとは武器性能が劣化しているという意味ではなく(むしろ向上している)天然ウラン(ウラン235)を取り除いた後に残り、ほとんどがウラン238できた副産物を意味する。核分裂をしないので、劣化ウランと呼ばれているが、放射線を出すことに変わりはなく、その人体に対する影響は図りしれない。

日本の資産は日本の伝統も技術力も今後担って行く、日本の年若い子供達である。少子高齢化の影響で人口構成比の中に占める割合の少ない若年層が原子力発電の放射能汚染で被爆するようなことがあれば、日本にその将来はもう無いのではないかと暗澹たる気持ちになる。原子力発電を使用すれば温室効果ガスが削減するというのは木を見て森を見ずの議論である。原子力発電の問題は根が深くさらに著述したいこともあるが、先を急ぎ次回以降は共同実施(JI)とクリーン開発メカニズム(CDM)を使用した日本の京都議定書達成のためのあるべき戦略について考えてみたいと思う。

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