日本の京都議定書達成の鍵は水素社会の実現である(5)

9. クリーン開発メカニズム(CDM)が京都議定書達成の鍵か?

京都議定書の達成はもはや日本国内のみで達成されるということはあり得ない。なぜなら、1990年という京都議定書の基準年に既に日本の省エネ技術は世界最高水準でほぼ頭打ちしており、絞りきった雑巾は既にからからになり、それ以上の削減余地はないからである。よって海外で実施した温室効果ガス排出削減量を、自国の排出削減達成に利用できる制度(京都メカニズム)がより具体的に検討されなければならない。

私は京都議定書達成のためには、ロシアなどの温室効果ガス削減に寄与しない排出枠を購入せずに、京都メカニズムの中の共同実施(JI)とクリーン開発メカニズム(CDM)で排出枠を獲得する事が日本の目標達成にも、地球規模での温室効果ガス削減という趣旨にも合致して望ましいと考えている。その中でもクリーン開発メカニズム(CDM)は途上国で温室効果ガス削減を実施することから、先進国間の共同実施(JI)に比べて、設備が旧式で、エネルギーが不効率であることが多く、投資単位当たりの温室効果ガス削減量は一般的に多い。よってクリーン開発メカニズム(CDM)はより積極的に活用されるべきである。

ここで賢明な読者の皆様は既にご確認済である事と思うが、京都議定書は温室効果ガス削減を目標としているにも関わらず、地球規模での温室効果ガス削減には何ら貢献していない。温室効果ガス排出量増加著しい途上国(現在の温室効果ガス排出大国1位は中国)に、排出権削減義務がなく、排出大国2位のアメリカ合衆国は京都議定書に批准していないためである。よって2008年に迫った京都議定書第一約束期間(2008-2012)だけに的を絞った目標達成の方法論ではなく、ポスト京都議定書以後の世界を見据えて、この第一約束期間にクリーン開発メカニズム(CDM)を中心にしていかに日本目標を達成していくのかという戦略こそが最重要である。


10. 2種類のクリーン開発メカニズム(CDM):吸収源CDM

CDMには温室効果ガス排出削減プロジェクトとしてのCDM(排出源CDM)と温室効果ガス吸収増大プロジェクトとしてのCDM(吸収源CDM)の2種類が存在する。前者は低排出型の火力発電所を作ることなどが該当し、後者は海外での植林プロジェクトなどが該当する。現在、日本企業が排出権獲得に乗り出しているのは前者(排出源CDM)のみであり、後者(吸収源CDM)の排出権獲得を目指す企業は皆無である。なぜならそこには京都議定書の構造的な欠陥が存在しているためである。

2001年10月-11月にモロッコのマラケシュで開催された気候変動枠組条約第7回締約国において、CDMの対象事業として、第一約束期間に限って、新規植林、再植林プロジェクトが認められた。ただし、カウントできる吸収量には一定の上限値が設定された。上限値は、各締約国の基準年排出量の1%されており、日本は334万炭素トン/年(約920万二酸化炭素トン/年)となっている。

2005年末の段階で京都議定書の第一約束期間(2008年-2012年)までに、日本が削減しなければいけない温室効果ガスの量は1億4100万トン/年である。全体の削減量から考えると植林等の吸収源CDMでカウントされる削減量は6%程度に止まり市場規模が小さいために日本企業も参入に二の足を踏んでいる。また植林というのはそもそも非常に手間のかかる作業であり、発行されたクレジット(排出権)が約束期間にのみ使用可能であるということを考えると、京都議定書の第一約束期間(2008年-2012年)にクレジット(排出権)取得を目指している企業はそもそも時間的猶予が全くなく、京都議定書の吸収源CDMは各企業に対して何ら動機付けを与えていない。京都議定書が吸収源CDMを軽視する理由として、森林がいくらCO2を吸収するといっても、それが半永久的に木材として固定化されているわけではないということが根拠になっているそうだが、連山編集長の永井俊哉氏が京都議定書(2)柔軟性措置の問題で次のように反論しているので併せてご確認頂きたい。

木が伐採されたり枯れたりしたからといって、その木を構成している炭素が、直ちにすべて二酸化炭素となって空中に放出されるわけではない。木材を建築資材などとして利用すれば、かなりの長期にわたって、炭素が固定保存される。植物は、枯れた後、分解されずに泥炭となって地中に保存されることもある。だから、立木を切ったり、プロジェクトが終了した段階で、吸収分を無効にするのは非現実的である。


この図は樹木の成長や伐採に伴う森林生態系(植林地の地上部と、根や土壌中を含む地下部全体)における炭素の蓄積の変化の様子を模式的に表したものです。この図を見ますと、確かに伐採によって森林における炭素の蓄積量は一時的に減少しますが、土壌中に蓄えられた炭素は着実に増え続けていることがわかります。すなわち、植林後の森林では、伐採と再生のサイクルを繰り返す中で、全体の炭素の蓄積は徐々に増大してゆくことがわかります。そして、土壌中に蓄えられる炭素は、諸条件にもよりますが、平均的には植生中の炭素量に匹敵する、あるいはそれ以上の量となります。

2000年5月に発表された「IPCC吸収源特別報告書」によると、世界の森林植生に4660億トン、森林土壌には2兆トンの炭素が貯蔵されているという。森林土壌は森林の3-4倍の炭素を貯蔵する能力を持つ。経済産業省のデータによると、1990年に世界で排出された二酸化炭素量は210億トン、炭素換算すると58億トン程度である。その森林土壌の炭素貯蔵能力も考慮に入れるならば、京都議定書が吸収源CDMを軽視していることは納得できるものではない。確かに同「IPCC吸収源特別報告書」によると世界の森林は年間30億トン(二酸化炭素量換算)程度の二酸化炭素しか吸収していないので、世界で年間排出される二酸化炭素を全て吸収することは不可能である。(またその必要もないのかもしれないが)但し、長期的な視野に立脚するのであれば、森林土壌は森林の3-4倍の炭素を貯蔵する能力を持つのであり、温室効果ガス削減という観点からも決して軽視されるべきものではないが、残念ながら、京都議定書には吸収源CDMに厳然たる上限枠が設定されている。

11. 2種類のクリーン開発メカニズム(CDM):排出源CDM

省エネ技術で世界的に優位に立つ多くの日本企業が、排出源CDMを中心として排出獲得を目指している。日本の省エネ技術はど世界でどのくらいの温室効果ガスを削減する能力があるのだろうか?

例えば、日本の鉄鋼業の技術を世界の鉄鋼業界に移転すると、3億tのCO2を削減できるという試算があります。実際、中国などに積極的に技術を開示し、技術移転も進めているところで、世界的には削減ポテンシャルは相当あると実感しています。電力分野でも、日本の一番いい火力発電所のエネルギー効率を世界に広げていけば、17億tのCO2削減になる。

鉄鋼業分野と火力発電分野で、世界規模の技術移転がなされるのであれば、温暖化ガス排出削減量は20億トンにも達する。2005年末における京都議定書の第一期間(2008年-2012年)までに、日本が削減しなげればならない温室効果ガス削減量のおよそ15倍に達する膨大な量である。そもそも京都議定書達成の遵守義務は、各企業にあるのではなく、日本国政府にあるのであり、京都議定書の目標を達成するためには、日本国政府の主導の基で戦略的に日本の省エネ技術移転を検討しなければならないが現状はどうなっているのであろうか

 政府は06年度から8年間、CDM事業に取り組んでいる企業などから排出権を購入する。27日に成立した06年度予算には54億円が計上されており、夏以降に買い取りを始める。

あくまで日本の現状は民間主体であり、民間企業が獲得したCDMを日本政府が最終的に購入するスタンスをとっている。よって、民間主導のために利益獲得が最優先とされ、、低コストで削減効果の高いプロジェクトを手掛けること。二酸化炭素(CO2)より温室効果の大きいフロンや一酸化二窒素(N2O)などのプロジェクトを積極的に探すという三菱商事のプロジェクト方針に各企業が右揃えしている。Natsource Japan社作成の資料によると2005年末時点で日本国政府に承認されたCDMプロジェクトは27件で2431万トンの排出権獲得となっており、京都議定書達成のために必要な獲得量に比べて20%にも満たない。


だが、共同実施が、ロシアの期待するような技術革新をもたらすかどうかはわからない。追加性要件(共同実施やクリーン開発メカニズムがなければ行われないようなプロジェクトしか対象にならないということ)のおかげで、共同実施もクリーン開発メカニズムも、温室効果ガスの削減だけを目的とするプロジェクトが有利になったからだ。


日本国政府承認によるプロジェクトを確認してみると、そこに鉄鋼業分野と火力発電分野などで、世界規模の技術移転が行われているということはない。CDMプロジェクトが承認されるために追加性要件を見たさなければならないために永井俊哉氏が指摘するように温室効果ガス削減だけを目的とするプロジェクトのみが有利となるからである。日本の持つ省エネ技術という潜在力が十分に生かしきれていない現状のCDM案件は抜本的な見直しが必要不可欠だと思われる。

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