【書評】アメリカ帝国はイランで墓穴を掘る

1.序章
アメリカ合衆国によるイラン攻撃は本当に行われるのだろうか。イラン攻撃が現実になれば、世界に供給される石油の約40%が通るホルムズ海峡は封鎖される。石油価格は1バレル200ドルを超え、石油に大きく依存する世界経済は壊滅的なダメージを被ることになる。その時、日本経済はどうなるのか? 何故、世界経済を壊滅させようとする暴挙が行われようとするのか?「アメリカ帝国はイランで墓穴を掘る(桜井春彦著)」を読んで考えてみたい。

2..シリアナの映画より
シリアナという映画がある。中東の石油利権を巡り、各国の陰謀が暗躍するアンダーグランドの世界を舞台にジョージクルーニーやマッドデイモンが好演している。この映画のタイトルになったシリアナとは、CIAが実際に使っていると言われる、イラン、イラク、シリアの三国がひとつの国家になるという事態を想定した架空の国のコードネームを指す。シリアナというタイトルと映画の内容がどのような関係にあるのか一見しただけではよくわからない。しかしながら、シリアナというコードネームをキーワードにして、ネオコン(新保守派)と呼ばれるブッシュ政権や 「核兵器による世界最終戦争を熱望する」キリスト原理主義者たちやイスラエルの思惑を外観してみると、イラン戦争が行われる謎解きがこの本によって可能になる。

1) ブッシュ政権や、イスラエル思惑

「アメリカを利用してシリアやイランを攻撃し、イランとの対立を利用してサウジアラビアの王制も倒し、アフガニスタンを押さえて中央アジアからの石油輸送ルートをコントロールできれば、イスラエルが中東の支配者となる。ーそう考える人たちがいても決して不思議ではない。(p16)」

シリア、イラク、イランを破壊し、親米政権を樹立すると地中海とアラビア湾に抜ける石油利権を確保できる。またアフガニスタンを抜け,中央アジアの石油を確保してしまえば、アメリカは石油という富を手に入れ、世界の支配者になることができる。またシリア、イラク、イランが親米政権になれば、相対的にイスラエルが強くなることになる。アメリカの思惑とイスラエルの思惑はここで一致する。またアメリカ内部も一枚岩ではない。次のようなエピソードを読むと、イラク戦争を遂行した人間の多くが軍需産業の利権を確保していた。現場の制服組との意見の不一致が生じるのも納得できる。

「リチャード、チェイニー副大統領が会長を務めていたハリバートンはイラク戦争で最も儲けた企業として有名だ。(p27)」

2)キリスト教原理主義者たちの思惑

「全面核戦争で世界が崩壊した後にキリストが再臨し、自分たちは天国へ移送されると彼らは本気で真意で信じている。(p122) 」

イラン戦争を熱望するグループの中でキリスト教原理主義者達の思惑は日本人にとって最もわかりにくいのではないだろうか。イスラエルがシリアとイランを制圧し、ハルマゲドンと呼ばれる全面核戦争を行うことによって彼らは救済されるなのだそうだ。こんなオカルトな宗教が許されるのだろうかと思うが、ネオコンと呼ばれる現ブッシュ政権がこの教義を信奉しているのだから目も当てられない状況である。現在のアメリカはカルト宗教に乗っ取られてしまったのだ。

3.イラン戦争による日本経済の行く末

「中東の石油利権を失ったアメリカは、もはや「超大国」ではありえない。ドルの価値は急落し、日本が保有してアメリカの財政証券は二足三文の価値しかなくなり、日本経済は財政破綻破綻への道を転げ落ちていく。(p48)」

イラン戦争は失敗することを著者は予測している。アメリカ国債は紙切れとなり、それを保有する日本政府、ドルで運用する機関投資家(保険会社)、ドルで投資信託を行う銀行などは損害を被ることになるが直接的な影響はここに運用を任せている預金者、特に高齢者だ。

太陽黒点数の極小期、すなわち資源デフレの時期に見られる現象である。リフレ型経済成長にともなって、資源需要が資源供給の上限を超えて増大し、貨幣供給が貨幣需要の上限を超えて増大すると、経済成長を伴わない物価の上昇、いわゆるスタグフレーションが始まる。スタグフレーションは、大規模な戦争による資源枯渇現象として現れることが多い。資源不足を解消するために、企業は生産の縮小を余儀なくされる。その結果、スタグフレーションは不況と失業率の上昇を帰結する。

次に暴落したドルを買い支えるために日本政府は円紙幣を大量に増刷し、アメリカ国債を買い支えることになる。紙幣の乱発は急激な物価の上昇を招き、日本の家計を圧迫する。ここにニクソンショックが再現することになる。次に石油高の影響により、輸送コストが膨らみ、これも急激な物価上昇につながる。これがオイルショックの再現である。狂乱物価したインフレ抑制のために金利が引き上げられ、企業の設備投資の抑制と景気の悪化を導くことになる。イラン戦争により、引き起こされる2007年以後のスタフグレーションは一時的に日本国民の家計を圧迫することになるが、その期間はそのスタグフレーションを打開する新たなイノベーションが開発されるに違いない。一時的な環境悪化の後にどのような未来を切り開くことができるのか。まだその時がやってくるまでしばしの考える時間が許されている。

参考文献

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