1.序章
化石資源の枯渇問題が世界中で議論されている。中東の石油資源を求めて、イラク戦争に引き続き、イラン戦争がアメリカによって計画されているが、化石資源に代替する水素エネルギー社会というのは本当に到来するのであろうか? また現在の化石資源はいつまで安定的に需要できるのだろうか?ベストセラーになった「水素エコノミー・エネルギー ウェブの時代 ジョレミー・リフキン著を読んで考えてみたい。
2. 石油資源はいつ枯渇するのか
「世界の通常石油生産はどうやら2010年から2020年の間にピークを迎えそうだ。(p46)」
採掘可能な石油埋蔵量を算出することは容易な事ではない。中東諸国はその量を過小評価することによって石油価格を引き上げようとする政治的背景がある一方、今後の技術革新により、採掘可能な石油埋蔵量が大幅に増加するという学術研究もある。膨大な資料を読み解いたリフキン氏は2010年から2020年に石油生産がピークに達すると結論づけている。
しかし、本書が執筆されたのが今から5,6年前になるので、中国やインドの経済発展に伴う大量の石油需要は加味されておらず、イラク戦争、そして今後起こると予測されるイラン戦争の影響も考慮されていない。よってリフキン氏の結論より前倒しに石油生産はピークに達すると考えられる。
「今後数年のうちに、ロシアばかりか、北海やアラスカのノース・スロープ、西アフリカ沿岸などの石油生産がピークを迎え、2010年までには中東が全世界の最後の頼みの綱という有利な地位を占める。(中略)現在世界に残っている通常石油埋蔵量の3分の2が中東にあるという見方が一般的だ。(p50)」
現在の生産量であと何年採掘を続けられるのか示す指標に可採年数が用いられる。ここで主要石油生産国の可採年数を確認してみよう。今後の技術革新によりその値は大きく変動する可能性があるが、中東石油国家は石油で成り立つ現代文明の生殺与奪の権利を一手に握っているという現実を変えることはできない。

ブッシュ政権によるアメリカ合衆国は石油を戦争で奪おうと考えた。外交によって、石油を確保しようとしたのが先日の安倍総理によるアラブ首長国連邦訪問である。また一方で石油の代替エネルギーによって新しい文明社会を構築しようとする動きもある。ジョレミー・リフキン氏の水素エコノミー・エネルギー ウェブの時代とは水素によるエネルギー分散社会の到来を予見するものだ。
3. アメリカ合衆国はローマ帝国ように崩壊するのか
「文明が蓄え、制度化したパワーは、一見すると揺るぎのないものなのに、なぜ短期間で劣化し、突然崩壊してしまうのか(p77)」
ローマが大帝国として君臨した時代、人民は将来この帝国が崩壊することは予見できたのだろうか?エネルギーの観点よりローマ帝国崩壊のプロセスを確認してみよう。
ローマが大帝国になることができたのは、武力によって、その領土を拡大することができたからだ。167年のマケドニア王国占領、ベルガモン王国併合、紀元前63年のシリア征服とその後のガリア遠征。帝国の拡大期はアウグストゥスによるエジプト征服まで続いている。拡大する領土は奴隷労働力、鉱物資源、森林や農耕地、略奪資源など膨大な利用可能なエネルギーをローマにもたらした。
ローマ帝国が安定期に入ると、エネルギー収入より支出が増大していく。広大なインフラ設備の維持のためには膨大な費用がかかった。そのためアウグストゥスは5%の相続制を制度化し、ローマ市民の怒りをかっている。また軍隊用の棒給や、糧食、宿舎、装備などの費用のために常備軍の維持は帝国のエネルギーを徐々に枯渇させていった。
「もはや新たな征服と略奪によって帝国を維持する事ができなくなったローマはただ一つのエネルギーを体制に向けざるをえなかった。それが農業だ。(p83)」「ローマ帝国後期には、政府の収入がの9割以上が農業から入ってきた。食料生産がローマ存続のかなめとなったのだ。(p84)」
非生産者である都会の人口をはじめ、膨大なエネルギーを必要とするローマがエネルギーとして、90%も依存したのが、農業であることは大変興味深い。その後植民地のみではなく、イタリアの深い森も切り開かれ、農耕地や牧草地に変わっていった。多くの家畜の放牧は土壌の肥沃度を低下させていった。その因果により農業生産力はしたいに低減し、ローマの農業生産力が軍隊、インフラ、市民の福利を維持するだけのエネルギーを確保することができなくなった時に帝国は崩壊した。
(クリック:バイオエタノールの真実)
アメリカ合衆国は長年、世界第一のの石油供給国で、1950年代までは世界の石油生産高の半分以上を占めていたが、70年代に生産力のピークに達し、生産量が減少し、石油輸入国に転じている。一方でアメリは世界最大の石油消費国である。石油生産の可採年数は5年程度と言われる。その中でブッシュ政権は石油エネルギーの代替としてバイオエネルギーの増産計画を打ち出している。世界最大の常備軍の維持費など膨大なエネルギーを必要とするアメリカは奇妙なまでにローマ帝国の崩壊のプロセスを歩んでいる。
石油を利用した工業時代のエネルギー利用法はどこでその歯車が狂ってしまったのだろうか。中編ではその疑問に対する答えをみつけてみよう。
