【書評】水素エコノミー エネルギー・ウェブの時代(中)

1. 序章

石油を利用した工業時代のエネルギー利用法はどこでその歯車が狂ってしまったのだろうか。現代社会の弱点とは一体何か?前回に引き続き水素エコノミー エネルギー・ウェブの時代 ジョレミー・リフキン著を読んで考えてみよう。

2.現代社会の弱点、問題点

現代社会の弱点、問題点として、リフキン氏は次の4点を指摘している。以下順番に見てみよう。

(1)化石燃料漬けになった現代農業

(2)化石資源の枯渇と地球温暖化問題

(3)エネルギーインフラの脆弱性

(4)20世紀に起きた人口増加


2. (1)化石燃料漬けになった現代農業


20世紀後半、化石燃料を原材料とする肥料や農薬が農業に使われ、同時に石油を燃料とする機械が人のかわりに働くようになったおかげで食料生産量が飛躍的に増大した。一方、現代農業は極度に石油に依存することになった。

アメリカで使われる総エネルギーの14-17%が、食品を食卓に並べるために使われているのだ。(p210)


アメリカ合衆国を例に挙げると、アメリカで消費されるエネルギーの4%が食料生産に使われ、それらの食料を輸送、加工、包装、配達するのに10-13%のエネルギー使用されるということだ。諸説はあるが、石油生産がピークに達したと言われる現在、食物を生産する費用は上昇しており、今後食料を手にすることができない人が増大するだろう。まずは現地で食物を生産し、それを現地で消費するというライフスタイルに戻す必要があるのではないだろうか。それによってエネルギー使用量の10-13%が節約できるのである。

「アメリカの農地は毎年40億トン以上の表土を失っているが、そのほとんどはこの半世紀のうちに導入されたハイテク農法が原因だ。(p213)」

化学肥料や農薬を与えることで、短期的には収益が飛躍的に増大する。しかし土壌がその過剰な化学肥料や農薬によって、消耗し浸食されるようになると、石油化学肥料の使用量がさらに増加し、限界収益点に達するという。機械ではなく、人の手による農業に戻すことが必要ではないだろうか。失業者対策にもなり、石油の使用量も大幅に減少させることができる。

「世界の農地の3分の1が、人間の食べる栽培から、牛などの家畜の餌となる穀物の栽培へと転用されたため、事態はさらに悪化している。(p215)」

牛肉を1kgを得るのに8リットルのガソリンが必要で、4人家族が必要とする牛肉を1年間賄うのに1000lの石油が必要ということだ。牛肉を食べることを諦めて、穀物を生産するために石油の使用量をまわした方が賢明のようだ。


2.(2) 化石資源の枯渇と地球温暖化問題

石油資源の枯渇問題については、[書評](上)編の「石油資源はいつ枯渇するのか」で論じた。石油生産が既にピークに達した(もしくは時期にピークに達すると考えられる。)ので、世界中でエネルギー源を多様化する動きが活発化している。天然ガス、石炭、重油、タールサンドなどは石油に変わる救世主となりうるのだろうか

天然ガス

「近年の研究によると、世界の天然ガス生産量は、石油生産量がピークに達したあとすぐに、ピークを迎えると見られ、その時期を2020年と予測するアナリストもいる。(p170)」


リフキン氏が紹介する研究業績が正しいと仮定すると、石油不足によるエネルギーショックが起こったあとに天然ガスに依存してもすぐに次のエネルギ-ショックが起こる事になる。

現在、世界には東京、メキシコシティ、ニューヨーク、上海など1千万人から2千5百万人が暮らす巨大都市が19も存在する。石油の代わりに、これらの諸都市に住む膨大な人口に、天然ガスによってエネルギー供給を何年も続ける事はできない。

石炭、重油、タールサンド

「石炭、重油やタールサンドから抽出された燃料は大気への二酸化炭素排出量を増やし、地球の温度を世界の科学界が現在推定しているよりも、さらに上昇させることになる。(p175)」

地球温暖化モデルというのがある。21世紀の半ばまで石油と天然ガスが大量に使われつづけることを想定した場合、空気中の二酸化炭素の増加量を計算したものだ。石炭、重油、タールサンドが前倒しに使用されるようになれば気候に壊滅的な影響を与えかねないということだ。本著によるとその場合の輩出される二酸化炭素排出量が具体的に示されていないのが残念であるが、石炭の場合、石油生産に比べて、合成石油を作る場合、二酸化炭素の排出量は72%増となることからも環境への深刻な影響を想定することができる。

2.(3) エネルギーインフラの脆弱性

「高エネルギーの化石燃料経済を統制するめに私たちが築きあげた複雑な中央集権型のインフラは、かつては大きな資産だったのだが、今や急速に最大の負債と化しつつある。(p195)」

人類は化石燃料によって、何百万もの人をつなぐ、高エネルギーシステムと電力系統をつくりあげることができた。電力系統に不具合が生じると、その地域で電気に頼るものすべてが影響を受ける。電気の供給から免れることができるものはほとんどない。世界人口の半分が都市に生活しているが、その都市全体の電気系統が数時間麻痺しただけで、大混乱が予想される。またその巨大なインフラの老朽化や故障に対処するためには、莫大な投資が必要となる。中央集権型のエネルギーシステムに内在的にこのようなリスクと常に向かい合わせだ。リスクヘッジのためにエネルギー分散化社会の到来が望まれる。

2.(4)20世紀に起きた人口爆発

「化石燃料が大量のエネルギーを解き放ったので、過去150年のあいだに人口の爆発的増加が起きた。(p217)」

人口が爆発的に増加できたのは、人類が化石資源という大量のエネルギーを手に入れることができたからだ。しかし、BP(ブリティッシュペトロリアム)の研究報告によると石油生産の増加が、それを上回る割合で増加する世界人口に追いつかないため、1979年の段階で既に、世界一人あたりの石油生産量がピークに達しているという。

ローマ帝国は軍隊、インフラ、市民の福利を維持するだけのエネルギーを確保することができなくなった時に崩壊したと以前述べた。現代社会も人類に必要なエネルギーを供給することができずに、崩壊のプロセスを歩んでいる。

「私たちが文明が直面しているもっとも重要な問題は、手遅れにならぬうちに、新たなエネルギー体制を見いだし、化石燃料に代え、この21世紀にますます増えていくますます増えていく世界人口の需要に応えることができるかどうかだ。(p235)

人類は分散可能なエネルギー体制を構築することができるのだろうか。下編ではその疑問に対する答えをみつけてみよう。


参考文献



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