1. 序章
[書評] 「水素エコノミー エネルギー・ウェブの時代 ジョレミー・リフキン著(上)(中)を通して、化石資源を利用したエネルギー社会の問題点を確認した。これらの諸問題を解決するために、次世代のエネルギーには風力、水力、地熱、太陽光発電などの再生可能エネルギーの利用が望まれている。しかし、これらのエネルギーを保管・運搬するためのキャリアーとして、水素を有効に効率的に利用できるかどうかが成功の鍵となる。リフキン氏が提唱し、World Wide Webになぞえられて命名した水素エコノミー エネルギー・ウェブの時代とは一体どのような時代なのだろうか?また水素は次世代のエネルギー資源として救世主となり得るのか?前回、前々回に引き続き水素エコノミー エネルギー・ウェブの時代 ジョレミー・リフキン著を読んで考えてみよう。2.水素エコノミーに夜明けはやってくるのか
水素を利用した発電システム、燃料電池の仕組みは極めてシンプルである。水素ガスに酸素ガスを反応させて、電気エネルギーを発生させる。水素は地球のいたるところにあり、水にも化石燃料にも含まれている。ただし地球上で単独で存在することはほとんどない。水素を利用するために、水、石炭、石油、天然ガスなどから取り出すことが必要となる。この点をうまくクリアーできるかどうかが水素エコノミー社会が実現するための第一のハードルとなる。
2.1 水素をどのように製造するのか
2.1.1 水蒸気改質法
「水素を製造するにはさまざまな製造方法がある。現在、世界で作られる水素の半分近くは水蒸気改質法によって、天然ガスから取り出されている。触媒を充填した反応器の中で天然ガスと水蒸気を反応させる方法だ。(p247)」
水素の半分近くを製造する水蒸気改質法にも多くの問題点が存在する。第一にエネルギーを得るために、天然ガスよりコストがかかること。第二に製造の副産物として二酸化炭素が発生すること。最も大きな問題点として、2020年に天然ガスの生産量がピークに達することである。クリーンエネルギーとして水素を利用するのに、二酸化炭素が発生するのでは本末転倒である。また天然ガスがすぐに生産量ピークに達し、価格が高騰することを考えると有効な水素製造方法とは考えにくい。
2.1.2 水の電気分解
化石燃料を使わずに水素を製造する方法として、水の電気分解がある。電気で水を分解して水素と酸素を発生させる方法だ。この方法の問題点して、電気代が水蒸気改質法の原料となる天然ガスの3倍から4倍のコストがかかることである。電気分解を使用する電力の製造法として、風力、水力、地熱、太陽光発電などが化石資源枯渇後の社会で有望である。再生可能エネルギー利用コストが減少することと、天然ガスの価格が高騰して、水の電気分解による水素製造方法がコスト競争力を持つ事に実現化する可能性がでる。
2.1.3 バイオマス発電
「たとえば、イギリスでは、年間3,000万トンの固体廃棄物がである。これを燃やして発電すれば、国内総需要の5%にあたる電力が供給できる。(p255)」
シェルは、ガス化したバイオマスを利用したエネルギー生産で、2010年には世界のエネルギー需要の5%をまかなえると予測している。2010年以降、バイオマス発電によって、どの程度のエネルギー需要をまかなえるようになるかが一つのポイントではないだろうか。またバイオマスの一つとして、バイオマスエタノールがある。ブッシュ政権が化石資源に変わる代替エネルギーとして梃入れしていることで有名だ。
ブッシュ米大統領は2006年1月31日に一般教書演説を行い、バイオエタノールについて、コーンだけでなく、木材チップ、コーンストーバー、スイッチグラス(牧草の一種)を原料としたバイオエタノール製造技術開発を推進し、6年以内の実用化を目指すと発表した。
すでに需要拡大を見越して、原料のトウモロコシ価格は昨年8月の水準の1・8倍に高騰。砂糖や肉類、卵の値上がりにも波及し、隣国メキシコでは主食トルティーヤの価格が高騰している。
バイオエタノール生産のために食料価格が高騰している。その生産のために農地転換を行う農場経営者も増加しており、今後ますますその傾向が強くなると予想される。食料を犠牲にしてもエネルギーを手に入れるという方法は決してスマートな方法ではない。早晩破綻するのが目に見えていてる。
様々な水素製造方法を概観したが、どの方法も化石燃料に代わり、全人口にまかなえるだけのエネルギーを供給できるようになるには、相当の年月が必要のようだ。今後の技術革新により、これらの水素製造方法の組み合わせによって、水素のエネルギー供給が全人口に行き渡るようになった時はじめて、水素エコノミー社会が到来したと考える事ができるが、前途多難のようだ。水素の製造方法に関しては本サイト編集長の永井俊哉氏のコラム:水素の製造方法に詳しい。併せてご確認頂きたい。
2.2 水素をどのように貯蔵・運搬するのか
「再生可能資源から水素を製造する最大の意義は、二酸化炭素が発生しないのはもちろんだが、太陽エネルギーや風力・水力・地熱エネルギーを水素に変換すると、貯蔵エネルギーになり、いつでもどこでも濃縮された形で利用できる事だ。(p255)」
リフキン氏は再生可能エネルギーを水素変換さえすれば、水素社会が到来するかのように記述しているが、水素をどのように貯蔵・運搬するのかという視点が明らかに抜けている。水素貯蔵合金、水素圧縮ボンベ、カーボンナノチューブ、液体水素、ハイドライドなど様々な方式がこの分野で競合している。どの方式にも一長一短があり、帯に短し、襷に長しである。しかし、水素エコノミー社会を実現するためには早期に水素の貯蔵・運搬方式を統一化する必要がある。水素の貯蔵と運搬に関しても、本サイト編集長の永井俊哉氏のコラム:水素の貯蔵と運搬に記述されているので併せてご確認頂きたい。
3.水素エネルギーは新時代の救世主か
「人類がついにエネルギーを民主化し、地球上のあらゆる人に平等な力を与える日がくるという期待をいだかせてくれる。 (p287)」 「再生可能資源を使って、水素を製造する水素エネルギー体制に移行し、世界中の地域社会を水素分散型エネルギーウェブを築くしか、何十億もの人びとを貧困から救う道はない。(p314)」
リフキン氏は水素エネルギー社会への移行により、何十億という人びとが貧困から救われると主張している。果たして本当だろうか。火力発電、原子力発電など化石燃料を利用した中央集権型のエネルギーシステムに依存する経済では規模の経済により大規模な投資が必要となる。一方で次世代の水素社会では再生可能エネルギーにより水を電気分解して水素をつくることにより、必要に応じて、燃料電池で使用し、必要に応じて、彼が提唱するエネルギーウェブ上で売電するのだそうだ。水素社会によりエネルギーを持たざるものが、持てるものになるというがリフキン氏の主張である.
貧困層はどのようにして高価な燃料電池を購入できるのだろうか。またエネルギーウェブにしても大陸間を横断するようなインフラシステムを構築するには莫大な設備投資が必要である。リフキン氏の想定するユートピア社会への実現は非常に困難だと思われる。しかし水素エネルギーの持つポテンシャルに気づき、その社会を実現するための啓蒙の書をいち早く記述した本作品は氏の大作である。水素社会に興味のある方はご一読されることをお勧めする。
参考文献

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