1. 序章
「帝国以後」とはアメリカ帝国崩壊以後の世界をフランスのエマニュエル・トッド氏が911テロをきっかけにして発刊したものである。本編、「帝国以後」と日本の選択とはその続編である。前半はアフガニスタン侵攻、イラク戦争など、その後のアメリカの迷走についてを氏の考察をインタビュー形式で記載し、後半は「帝国以後」をモチーフにして日本の論者の考察を記載している。「帝国」崩壊後、日本はどうなるのか?「帝国以後」と日本の選択を読んで考えてみよう。
2. 「アメリカ帝国」の実情
アメリカとはどのような国であるのだろうか? ハンバーガーや、ホットドックに代表されるアメリカ式の食文化やハリウッド映画などは日本人にはなじみが深い。その反面、アメリカの政治、経済、歴史、宗教、文化をよく知る日本人はあまり多くはない。日本と軍事同盟により結ばれているアメリカ帝国の実情とは一体何なのだろうか?
「経済において(物作りが劣悪であるために)膨大な貿易赤字を続け、政治において(人種葛藤が複雑である上に貧富の差が増大するために)民主化が頓挫を来たし、社会において(トックヴィルにより「多数者の専制」とよばれた事業が進行するために)俗悪化に歯止めが利かず、そして文化において(歴史・慣習・伝統の感覚が不足しているために)一方では価値規範が溶解し他方でキリスト教原理主義が台頭するという矛盾につつまれている、それがアメリカである。西部邁氏のアメリカ論より(p116) 」
キリスト教原理主義のアメリカ合衆国における影響に関してはは、以前本サイトの[書評]核戦争を待望する人びと グレースハルセル著で取り上げたので併せてご確認頂きたい。
世界はアメリカを必要としているのだろうか? その反対にアメリカは世界を必要しているのか?前者に関しては諸説があるものの後者に関しては異論なくイエスである。米国の経常収支の赤字は年間5,000億ドルを超える。現在、外国の民間企業が米国への投資を減らし、ドル安傾向が強まっているなかで、日本や中国、韓国など東アジア勢の政府・中央銀行が買い支えている。アメリカ国債が暴落した時、日本も米国も資産を失ってしまうという意味で、高成田厚氏は負の運命共同体という表現を使っている。日本政府はどれくらいのアメリカ国債を保有しているのだろうか?日本の外貨準備高は平成19年の4月末で9,000億ドルを超えており、このほとんどがアメリカの財務証券購入に使用されている。ドルで運用する機関投資家(保険会社)、ドルで投資信託を行う銀行などを含めるとさらに額は増大する。
この構図をトッド氏は以下のように分析している。
「最も考えられるのは、前代未聞の規模の証券パニックに続いてドルの崩壊が起こるという連鎖反応で、その結果はアメリカ合衆国の「帝国」としての経済的地位に終止符を打つ事になろう(p159)」
ドルに対する信用は急落しているにも関わらず、アメリカが現在、「帝国」として君臨し続けている唯一の理由は世界最強の軍事力である。「悪の枢軸」をでっち挙げて、「帝国」としての威厳を世界に示さなければいけない。これがトッド氏の言う小規模な演出的軍事行動である。また軍事力の維持はネオコンと呼ばれるブッシュ政権の利権とも重なり、イラク戦争に引き続き、イラン戦争により帝国の崩壊が始まるまで、アメリカ帝国の迷走は続くに違いない。
3. 日本の核武装は必然か?
日米安全保障条約より、日本領土の安全はアメリカの核の傘に守られている。「アメリカ帝国」が瓦解すると仮定した場合、戦後60年間、タブーとされてきた日本の核武装論が台頭することになる。日本は衰退する「帝国」とともに崩壊するのだろうか? もしくは核武装により独力で自国を守るようになるのだろうか?
「フランス人としてのロジックに立った場合、この核というのは軍国主義の表現ではありません。(p219)」
トッド氏は「アメリカ帝国崩壊」という現実を受け入れるスピードがヨーロッパとアジアでは異なることを指摘している。ヨーロッパは、産業大国であるドイツ、核抑止力を持つフランスを枢軸として、基軸通貨ドルに対抗する貨幣としてユーロを導入している。またイギリスも核を保有しているので、ヨーロッパレベル全体で核の安全保障があることがわかる。
一方アジアにおいては、アジア共同体というものが存在せず、統一通貨も発行されていない。経済大国である日本は現在、アメリカの核の傘の下にあり、アジア各国で歩調を合わせることが難しい状況にある。そして中長期的な日本の国家戦略としてトッド氏は次のような提言をしている。
「アメリカのシステム崩壊という悲観的な状況になった場合、日本がこの核保有というオプションを全く真剣に考えないで、外交的な自立を考えていくことができるとは思いません。(p220) 」
トッド氏はアジアの安定のために日本が小規模の核抑止力を持つ事を肯定している。一方、アメリカシステム崩壊後に日本が取るべきオプションとして、「ミスター円」の異名を持つ榊原英資氏は次のような持論を展開している。
「恐らくドイツとフランスの関係というのは、日本と中国の関係の相似形だと思います。ですから日本がこれからどういう形でアメリカとのある種の従属関係から抜けて、本来の意味での自立を獲得するのかということのキーは、私は日中関係だと思います。」
独仏の例をとり、中国の核抑止力と日本の経済力を枢軸にして、「アメリカ帝国」崩壊後のアジア共同体を構築することが重要であると榊原氏は指摘している。現在、日本企業の多くが中国に進出しているが、中長期的な日本のパートナーに中国は成り得るのだろうか? 靖国神社参拝をはじめ、両国の間には歴史的に様々な葛藤が存在しているため、日中を軸にした「アジア共同体」の構築は予想以上に困難が予想される。
現在、アメリカ帝国はイラン戦争を計画しており、「帝国」の崩壊は秒読み段階となった。戦後60年のタブーを打ち破り、日本は核攻撃に対する安全保障のありかたを国民レベルで考え直す必要があるだろう。
4. 帝国以後の日本の未来は?
「いま形作られつつある世界は、唯一の大国に統制される帝国となることはないだろう。それは厳密に同等とまでは言えないまでも、ほぼ等しい規模を持ついくつかのネーションないしメタ・ネーションが互いに均衡を保つ、複合的なシステムとなるだろう。それを構成する極の中には、例えばロシア極のように唯一の国を中心とするものもあるだろう。日本も同様で、地図の上では極めて小さいが、日本はアメリカ合衆国の工業生産に等しい工業生産を擁し、その気になれば、アメリカのそれに等しいか、もしくは上回る科学技術を擁する軍事力を15年で構築することもできるだろう。(p111)」
アメリカ帝国が崩壊した後、ヨーロッパに代表されるような共同体で構成されるブロック経済圏が予測される。日本は単一のネーションとして、存在するのではないかとトッド氏は予測する。3で指摘したように日本の自存自衛のために核武装を単独で行うのか? もしくは中国の核武装に依存するのか? またその時日本はどのように食料を確保するのだろうか? 現在日本の食料自給率は40%である。単純計算しても単独で4800万人程度の人口しか養うことができない。それもエネルギーを十分に確保できると想定した場合である。
日本人はこの難局の舵取りをどう行うのか?民族の生存をかけた駆け引きはすでに始まっている。本サイトと共に考え共に行動する人が一人でも多く現れることを期待する。

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