日本はなぜ縮んでゆくのか 古田隆彦著 1.序章

2006年に日本の人口はピークに達し、現在、減少過程に突入している。労働力の減少はすなわち、経済の停滞を意味するのだろうか?また少子化対策はどの程度効果を生むのだろうか? 成長・拡大型の社会システムや生活様式の変革が現在求められている。過去の歴史を通して、人口減少時代に日本が進むべき道を「日本はなぜ縮んでゆくのか 古田隆彦著」を読んで考えてみよう。
2. 動物界に見られる人口の抑制とは何か?
「人口が減少に向かうのは、単に出生数が減少しただけではなく、人口容量(carrying capacity) が飽和化し、人口抑制装置が作動するためなのです。(p116)」
人口容量とは人口容量=自然環境×文明という式で表現される。各時代の文明や自然環境の制約により最大どれくらいの人口が生存できるのかということを、人口容量で示すことができる。旧石器時代には3万人。鎌倉時代後期に700万人、江戸時代後期には3300万人の人口容量があったと考えられている。
人口容量を超えて人口が増加したとき、自動的に働く人口抑制装置とは一体何なのだろうか。動物界を例にして人口抑制装置の仕組みが説明されている点が興味深い。
(1)食料不足
イエネズミを例にすると、食料状況が限界に達した時、6ヶ月間の間全く子供を産まない状況に落ち入る。
(2)環境悪化
ゾウリムシの場合、個体数の増加で、わらや枯れ草の汁の中に排出物が溜まると、汚れの集積がムシの分裂機能に作用して、それ以上の分裂がされない。
(3)接触刺激の増加
ヨトウガ(夜盗蛾)の幼虫であるアワヨトウというイモ虫の場合、固体群密度が高まると幼虫の色がまず黒くなり、次に移動と分散をはじめ、今までは食べなかった食べ物も食べるようになる。
(4)生殖抑制
米や麦につくコクゾウムシの場合、個体数が少ない時にはさかんに交尾をするが、成虫の数が小麦1粒あたり10匹に近くなると、急速に交尾頻度を落としている。
(5)子殺し・共食い
熱帯魚グッピーが必要以上の個体数が養魚鉢の中に入れられていると、成魚同士が共食いをはじめ、9匹になったところで安定する。
(6)集団移動化
トノサマバッタは接触密度が高くなると、外部の情報や刺激に反応して色が黒く、翅も肢も長い群集相という品種に変わり、本来の生息地より数百キロ先を飛んで行く。
(7)集団自殺化
スカンジナビア地方に生息するレミングは何年かごとに猛烈に繁殖して、まわりの草地を食いつくし、人口容量を突破すると、集団で地の果てをかけぬけ、海中へ飛び込み集団自殺を図る。
現在日本で頻発している子供による親殺し、親による子殺しのような異常殺人が行われることをどのように理解すれば良いのか今までわからずにいたが、動物界に存在する人口抑制装置としての子殺し・共食いが人間界で行われるていると考えると納得できる。
3. 人間界に見られる人口の抑制
人間界では人口容量が飽和した時どのような対応が取られるのだろうか? 古田氏によると2つの点で動物とは異なるそうだ。まず第一に文明の力によって人口容量の増加を図る努力がなされること。第二に生物的(動物的)な対応に加えて、文化的な対応をすることの2点である。
文化的抑制装置の代表例として、堕胎、間引き(嬰児殺し)、避妊、棄民、姥捨て、性交禁止、結婚禁止など文化によって作られた後天的・人為的な調整装置が挙げられる。
享保から化成期に至る江戸時代の中期に人口容量が3200万人でピークに達した後、生理的抑制装置だけではなく、文化的抑制装置が適正に作動したことにより、人口を安定的に維持できたと古田氏は指摘している。農民が堕胎や間引きなど直接的な抑制を行い、また当時の民衆の生活レベルは高い水準にあり、新しく子供を作ることにより、生活水準を優先させるという文化的抑制装置が働いたという。
一方、開発途上国の飢餓問題を考えるとき、まず疑問になるのは、人口容量が飽和化しているのに、なぜ人口は増え続けるのか、なぜ抑制装置は作動しないのだろうか?という点である。
「欧米的なヒューマニズムの導入によって、伝統的な慣習を放棄させられたうえ、欧米のような生活水準こそ進歩であり、欧米的なやり方をとれば、やがてそれを享受できるようになるとの幻想が与えられたためです。つまり、人口抑制装置の破壊と拡大幻想の提供こそが、多くの途上国に人口急増とパニックを引き起こした元凶だったのです。(p127)」
一例を挙げると、ポリネシアのニューブリテン島に生活するティコピア族は従来、性交中断を奨励する儀式、堕胎、嬰児殺しなどの直接的抑制や子供が二人以上いる家庭では長男長女しか結婚できないなどの間接的抑制が存在したが、1920年代からキリスト教の影響により、ともに廃止された。その結果、人口と生態系の均衡を維持する装置は瞬く間に錯乱に陥った。
「途上国で人口が急増しているの真の理由は、近代文明による伝統的文化の破壊、および近代化による人口容量の拡大可能幻想の2つによっているのです。(p129)」
途上国の人口爆発が起こったのは、先進国の近代合理主義という名のもとに伝統文化を破壊し続けたためである。文化面、物質面ともに近代文明は既に破綻している。
4. 少子化対策は可能か
日本の人口は現在、人口容量を超えて飽和している。その中で抜本的な少子化対策を行い、人口増加に努めようとすることは自然界の法則に反していることが、本著を読むと理解できる。人口減少それ自体は自然現象なのである。人口容量を超えた少子化対策は一体可能なのだろうか?「人口減少の最大の要因とは、さまざまな社会環境の限界を敏感に感じはじめた国民が、一種の自己防衛本能として出産を抑制し始める一方、高齢者の増加と延命技術の限界化が死亡者を増加させはじめていることである。(p142)」


古田氏によると日本の文化が安定しているがゆえに「人口抑制装置」が適切に作動し、人口が減少を始めているという。人口容量が飽和しているにも関わらず強力な出産・育児支援策により出生率を回復した国にスウェーデンがある。その試みは長期的な成功をおさめることができたのだろうか?
1978年に合計特殊出生率が1.60まで減少したことに危惧した、スウェーデン政府は強力な出産・育児支援策に乗り出した。その結果として80年代に入ると出生率は徐々に上昇しはじめたが、90年代にはいると、再び低下を始めている。第一の原因としてベビーブームの反動として、2人前後の子供を持つ、20~30代のカップルが90年代に入ると子供を作らなくなったこと。第二の原因として、スウェーデン政府が大不況に襲われたことなどが考えられる。
膨大な支援政策で先進国の出生率はある程度、回復するが、ほんの少しでも手を抜けば、たちまち低下していくということがわかる。
「産業が高度化し、社会の成熟した先進国に共通の現象である以上、すなはち人口抑制装置の適正な作動である以上、それに抗うような政策は生半可なものを実施しても、到底役に立たない。(p147)」
5. 日本人は現在どのような時代を歩んでいるのか

日本における人口波動の推移をみて見よう。人口容量が飽和すると、人口抑制装置が作動を開始し、人口減少が始まる。その後、ある一定時点で、人口容量を飛躍的に増加させる文明の転換が行われ、再び人口が増加し始めるのである。
過去日本列島には5つの波が存在した。現在、日本は江戸時代末期に近代西欧文明の導入によって、人口容量の拡大に成功した工業現波の人口減少過程に位置している。
過去の事例が示しているように、人口減少過程において既存の文明の継ぎはぎで人口容量を増加させることはできない。日本人が真に議論すべきは近代合理主義時代の反省のもとに、次世代とは一体どのような時代か? それに対して日本人はどのように取り組むのかということではないだろうか? 日本も世界も文明の岐路に現在立っている。次世代の文明の中心に日本人の歴史、文明力、技術が使われることを期待して止まない。


コメント
つまり日本は当面、経済的にも社会的にも良くないと?
Posted by 京介 at 2007年7月14日 19:26
近代合理主義は破綻したと考えています。そのために日本の人口は減少過程に突入しています。文明史的な転換点がなければ人口も増加しないのだろうと思います。それが100年後になるのか10年後になるのか もしくは5年後になるのかわかりませんが、その転換点を作り得るのは現代を生きるものの使命だと思います。
Posted by 峯山政宏 at 2007年7月15日 19:52
長年に渡るマスコミの子育てに対するネガティブキャンペーンの成果が出たと考えます。
受験戦争、校内暴力など教育の荒廃を用いことのほか子育てが困難な事と印象付ける一方、DINKS、海外旅行、ブランドのバッグやファッション、コスメ、エステと常時、個人消費する事の意義や贅沢をことさら幸福なものとして宣伝し、家庭生活や家族(子供)の意義を軽視して来ました。
そこへバブル崩壊、終身雇用の消滅、成果主義、自己責任と生活環境の変化も大きく影響したのでしょうか。
孤独な老後より賑やかな家族のいる老後を送れる人が増えることを願います。
Posted by ふくろう at 2007年11月22日 22:30
ちょっとうろ覚えなのですが
レミングの集団自殺は嘘だったはずですが、如何でしょうか。
Posted by こひのきよ at 2007年12月31日 21:49
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