若者はなぜ会社をやめるのか

若者はなぜ会社をやめるのか


一部上場企業に勤める高校時代の友人(A君)から数年ぶりに電話連絡があった。「最近、どないしてるんや。元気にしてるか。俺のことやねんけど、2年半働いた職場を辞める事にするわ。」と彼、「でもおまえ、働きだしたばっかりの時は結構充実してるって言ってたやん? 一体何があってん?」と私、そして「もともと俺のやりたい仕事やなかったし、この先にこの会社に居続けても先が見えへんし、時間がもったいないような気がしてな。閉塞感もあるから辞める事に決意したんや。」A君に根性がないわけではない。高校時代を通じて見た彼の印象は努力の塊のような人間であった。死んでも離さないという執念の末、某有名私大の政治経済学部にトップ合格している。そんな彼からの発言であったので少し意外な気がした。が周りを見渡せば入社3年未満で多くの友人が入社した会社を後にしている。いずれも優秀で知られた人間ばかりである。将来を嘱望された若者たちでさえも入社数年で会社を辞める理由は一体どこにあるのだろうか。

厚生労働省の発表による新規学校卒業就業者の就職離職状況調査によると2000年の段階で3年以内に35%以内の新卒者が会社を退職している。これは驚くべき数字ではないだろうか。パート非正規雇用者が1650万人、フリータが213万人という状況の中で正社員として、社会的に一人前として、認められるだけではなくて、さらに退職金や厚生年金などの企業加算などでバックアップしてくれる体制はなんとも心強い。また自分の人生の前に丈夫で大きなレールが既に敷かれいて前途洋々と言ったところであるにも関わらず、そのレールを途中下車する若者が増大しているその背景には一体何があるのだろうか。若者はなぜ3年で辞めるのか?-年功序列が奪う日本の未来- 城繁幸著を通してその原因を考えてみたい。



採用する側の意見としては、本人の希望と実際の業務内容が噛み合なかったことが、若者が3年以内に会社を辞める理由として考えられるが、今の若者はそれに耐える忍耐力がないのが一番問題だということだそうだ。あくまでも会社や組織の問題ではなくて、若者自身に早期退社の原因を求める意見である。「企業で最初からやりたいことができるなんて考えが甘い。自分も入社から5年間はずっと先輩の手伝いが中心で、どちらかといえば肉体労働に近かった。」

それでは若者が採用する側の言葉である"わがまま"になったのは何故だろうか。それは採られる側ではなくて採る側の人材に対する考え方がバブル崩壊を契機にして一変したためである。私にも経験があるが、就職活動の面接時の時には

「具体的にどんな仕事を希望するか」

「希望職種にマッチした専門性は持っているのか」

などと質問されて、即座に適切に回答できないと意識の低い学生であるとレッテルを貼られることになる。それでは、バブル崩壊以前の就職面接もこのようにシビアなものだったのかというそういうわけではなく、当時の日本企業の人材採用に関する考え方は「新卒・一括・ところてん」方式だった。つまり「なんでもそつなくこなせるタイプの人材を、新卒で本社が一括採用する」という方式だ。年功序列制度の維持が重要、本人の能力よりも勤続年数が大切で、しかも定年まで雇用することが前提である以上、均質な人材をまとめて採る方が効率的ということになる。安定期にある組織というのはカルロス・ゴーンのような改革者を必要とはしない。たとえば、江戸幕府の15代に渡る将軍の中で、顔と前が一致するのは人物を何人くらい列挙する事ができるだろうか。このような安定期の社会では戦国時代になどに比べるとなんでもそつなくこなせる普通の人が好まれるということになる。

バブル崩壊後は、長引く不況の影響を受けて、企業の人事採用方式が上記のところてん方式の大量採用方式から厳選採用方式に移行している。その変化を受けて、就職活動をする学生の側にも大きな変化が生じている。明確なキャリアプランを持ち、そのために努力し、厳選採用に対応して正社員としての地位を獲得しようとする職業意識の強い層が増加したのである。この層の人たちは仕事に対する意識があまりにも高いために希望していた業務と実際に割り振られた業務にギャップがあった場合、強烈なフラストレーションを抱えこむので、昔の新入社員のように特に意味のない先輩社員の下働きを10年ほどさせられるに耐え得る免疫構造がない。これが若者の早期退社の原因の一つと言われているが、本当の原因はこれだけではない。若者が早期に退社する原因は成果主義とはまやかしの年功序列制度そのものにある。

年功序列制度の功罪


成果主義、目標管理手法の導入が日本企業でも持ち上げられて久しいが、1980年代に不況のどん底にあったアメリカが率先して取り入れようとしたのが、日本型の経営(年功序列制度)そのものでである。日本型経営が現在、機能不全を起こしているとしても年功序列制度そのものが悪いというわけではない。制度の"功罪"について考えてみたい。

年功序列制度の"功"


従業員の勤続年数を引き上げ、技術の長時間の蓄積を可能として、結果として日本の物作り日本一に大きく貢献する制度である。

年功序列制度の"罪"


年功序列制度の下では、若者の能力が大きくスポイルされる。彼らは「新卒・一括・ところてん」方式によって採用されたバブル期の新入社員ではない。明確な仕事に対するビジョンを持っているので、先輩社員の荷物持ちてきな単純作業を10年間行うなどのメンタリティは持っていない。彼らが早期退職するのは忍耐力がないからだと一言ですませることは簡単だが、ここで問題なのは早期退職をする現代の新入社員とバブル期新入社員とを比較して前者には与えられずに、後者には与えられているものがあるということである。



上の図は年功序列型企業の権限と報酬の相関関係をグラフに表したものである。図から見てもわかるように年功序列型企業では権限と報酬は比例関係にある。自分の能力を社内で思う存分、生かそうと考えるならば、権限が必要である。それでは高い権限に対応するのは高い報酬である。その高い報酬はこのような年功序列型企業では何よって決まるかという年齢である。年齢と権限が比例関係にある以上、一番下の序列にいる新入社員が何を言っても相手にもされない。それは極めて構造的な問題だからである。それでは、現代社会の新入社員に与えられずに、バブル期新入社員に与えられなかったものとは一体なんであろうか。それは一言で言うのであれば、将来への待遇である。新入社員の間はどんなにつまらない仕事をやらされても、年功序列の社会では勤続年数が増えれば、ある一定のポストが与えられるか、もしくはポストが与えられない場合は年齢ごとの定時昇給というアメが与えられていた。逆に言えば、そのアメがあるからこそどんなにつまらない仕事でも続けてこれたとも言える。現在の新入社員も年功序列社会では同様にそのようなアメは与えられているといるではないかという人もおられるかもしれないが、少し待っていただきたい。このような年功序列制度を維持し続けてこれた大前提を想像していただきたい。

年功序列制度を維持するための大前提は「組織が一定の成長を維持することである」若いときの下働き時代の苦労の対価が将来のポストであったり定期昇給であるならば、企業側のそれに対応するポストを準備しなければいけないし、定期昇給を実施するために毎年売上を増加させなければならない。少しお手元にある電卓をお持ちいただきたい。毎年売上を6%程度、上昇させなければ、年功序列制度を維持できない企業があったとする。現在の売上を1として、1.06を12回積算していただきたい。画面に2.**という数字が表示されたと思う。たかたが12年で現在の売上を2倍にしないと年功序列制度は維持できないということがこの簡単な計算でもお分かりかと思う。戦後、日本経済は右肩上がりの上昇を維持して来たが、バブル期を挟んでなんとか横ばいを維持しているのが現状である。構造的に年功序列制度の維持が困難である事がおわかりいただけるのはないだろうか

明確なキャリプランを持った優秀な学生たちが意気揚々と大企業に入社して、数少ない管理職のポストの空席待ちに(その一つ下の序列の)30代から40代の社員たちよる長蛇の列ができているの見て、自分の現在の下働きが報われると思うであろうか。将来、順調に出世してその管理ポストに就く事ができるであろうか。その回答は限りなく"NO"に近ったからこそ若者は3年以内に会社を退社するのであろう。

参考文献

若者はなぜ3年で辞めるのか?-年功序列が奪う日本の未来- 城繁幸著p>

コメント

年功序列型の企業に就職したのが間違い、ということですね。日本の企業は程度の差はあっても年功序列型がまだ圧倒的だと思います。ではどうするか?
1 外資系 
2 起業
3 Day trader
4 ライターなど自由業
5 NPO とか非ビジネス

長期的には非ビジネス系が増えると思いますが。  

こんにちは。私は現在、外国におります。そして現在はご存知のように日本だけではなく、世界規模で環境問題、戦争、経済問題等、様々な問題が生じております。それを安閑と日本の企業で垣間みながら日々、ルーティンワークで時間を潰される程鈍感な精神構造を持ちあわせておりませんでした。戦後、年功序列制度が一定の貢献を社会にしてきたことはわかりますが、現在はその制度は組織のためにあり、そこで働く人のためにあるとは言えない状況ではないでしょうか。1~5に挙げられた方式もあるかとは思いますが、最も大事なことは世界規模で通用するスキルを身につける事。そしてそれを活かせるネットワークに参加することでしょう。
日本の財政破綻後、日本の企業で入社からの長い期間をルーティンワークだけを行い、大いにスポイルされてきた人たちはその職を失うことになります。それに気づいた人はまず行動を起こすべきです。。その行動のおこし方はひとそれぞれであり一概には言えませんが新しいコラムを投稿して皆さんにお役に立てたいと考えております。