交通線の遮断
太平洋戦争において、対米戦争を決意した大日本帝国は民族の「自存自衛」を東南アジアからの海上輸送 (石油、石炭、ボーキサイトなどの資源輸送)に依存していた。よって、この東南アジアと日本を結ぶ海上シーレーンは日本の生命線となっていたのだが、アメリカは日米開戦後すぐに、「無制限潜水艦作戦」を発動し、日本の輸送船をことごとく沈める作戦を取った。この海上シーレーンという生命線の命脈が途絶えた1945年8月に大日本帝国はポツダム宣言を受諾し、連合軍に降伏した。
海上における交通線の破壊は主に潜水艦隊によって行われたが、リデルハートは陸上における交通線の破壊を機械化部隊に期待した。補給の流れを阻止するために、路線を爆破するのみではなく、列車及びトラック輸送団に対する迎撃や迎撃の脅威が機械化師団の最も効果的な目標点として有効であるとリデルハートは認識していたのである。彼の理論が実践で成功した実例として、ドイツ軍の対フランス侵攻作戦(マンシュタインプラン)が取り上げられている。「これらの演繹的結論は第二次世界大戦の経験によって実証された。なかんずく、独軍主力の遥か前方を先駆していたグーデリアンのパンツァー(機甲)部隊が、連合軍の遥か後方の地点であるアミアン及びアッペヴィル(この両地で連合軍の2本の交通線がソンム河を超えていた。)において、連合軍の交通戦を遮断し、連合軍を物理的にも心理的にも破滅的な麻痺状態に陥れたことは、その最たる実証であった。(戦略論-間接アプローチ)」とリデルハートは指摘している。
戦略及び戦術の神髄
以上より、戦略の目的は相手を"撹乱させること"とリデルハートは定義したが、一方で戦争の原則として、戦力を集中させることの重要性を指摘している。事実上これは、「相手の弱点」に対する戦力の集中である。「弱点に対する力の集中は対手の力の分散によって左右されるべきものであり、対手の力の分散はまたわが方の外見上の分散及び分散の部分的効果によって引き起こされる。わが方の分散、敵の分散、わが方の集中ーこれらは因果関係を構成するものであり、その1つ1つが結果として生まれる。真の集中は計算された分散のもたらす結実である。(戦略論-間接アプローチ)」この原則を実践するために、リデルハートは次の積極面6ヶ条、消極面2ヶ条を提示している。これらの原則の底流にある真理は、「撹乱」と「戦果の拡大」であるとリデルハート指摘している。まず、撹乱によって味方の好機を作り出し、この時に、敵が受けた打撃から、立ち直らない間に、戦果を拡張させることが重要であるという。敵軍を混乱させ、味方の戦果を拡大させるに際して、わが方の分散、敵の分散、わが方の集中を効果的に実行しなければいけないのだが、1つ使用方法を間違えば、ナポレオンが得意とした内線作戦によって、各個撃破される可能性もあり、十分な訓練が戦争の原則のもとで行われなければいけないことは言うまでもないであろう。
積極面6ヶ条
1.目的を手段に適合させよ。
「目的を決定をするにあたっては、明確な見通しと冷静な計算とを重視すべきである。「消化能力以上の貪欲」は愚である。軍事的英知は「何が可能か」を第一義とする。それゆえ、誠実を旨としつつ、事実に直面することを学ぶべきである。(略) 」無理な作戦立ててはいけないということ。不可能な作戦を精神論でなせばなる的に押し通すのはやめなさいということを積極面第1ヶ条で、リデルハートは述べている。
2.目的を常に銘記せよ。
「計画を状況に適合させる間、常に目的を明記しなければいけない。目的達成のために方法は1つではなくてそれ以上あるが、しかしいかなる目標も必ず目的に指向されるように細心の注意を払う事を忘れてはならない。(略)」
目標が目的に取って変わるということは日常生活の中でしばしば体験することがある。例えば、環境問題を解決するために、大学に行きたいと考えていた学生が、その目的を忘れ,受験勉強で成功するという目標自体が目的に取って変わられて、名声の高い大学に入学したものの、他の大学の方が環境問題を学ぶ上で適しているなんてことはよくある。リデルハートは積極面第2ヶ条で「初心忘れるべからず」と戒めているのである。
3.最小予防線(最小予期コース)を選択せよ。
「敵の立場に立ってみる事に努め、敵が先見し又は先制することが最も少ないコースはどれであるかを見よ。(略)」
計算だけでは決して計測することはできない相手の心理面を考慮に入れろということをリデルハートは積極面第3ヶ条で述べている。常に相手の立場に立って相手がどのように行動するのかを予測することが重要なのだ。
4.最小抵抗線を乗ぜよ。
「わが方の基本的な目的に対し寄与すべき目標へ指向されているという条件を充たすところの最小抵抗線を利用すべきである。(戦術においては、この金言は予備兵力の使用に適用し、戦略においては随時の戦術的成功の利用に適用するものである。)」
相手の弱点を徹底的に攻撃せよとリデルハートは積極面第4ヶ条で述べている。
5.代替目標への変更を可能にする作戦線をとれ。
「こうすれば、敵をジレンマの立場に追い込み、敵の守備の最も薄い目標を少なくとも1つは攻略できる機会を確保するところまで、進む事ができ、またそれを手がかりとして逐次攻略することが可能となろう。(略)」
例えば、攻撃目標が1つしかないのであれば、攻撃される側にとってはその目標地点に全兵力を集中すればよいので防備することは比較的用意であると言える。しかし、相手がどこを攻めてくるのか全くわからないとしたら、守備兵を分散しなければいけないので、攻撃する側にとっては、各目標地点を個別撃破することも可能になる。
6.計画および配置が状況に適応するよう、それらの柔軟性を確保せよ。
「わが方の計画は、成功を収めた場合もしくは失敗に陥いった場合又は部分的に成功を収めた場合において次のステップを予見し、それを生み出すべきである。わが方の配備(又は隊形)は最も短時間のうちに次のステップの利用、換言すれば状況への適合を許すようなものにすべきである。(略)」
作戦が成功した場合、失敗した場合、部分的に成功した場合など、結果がどのようになってもそれらに対して対応できるように、作戦に対して十分な柔軟性を確保すべきだとリデルハートは積極面第6ヶ条で述べている。
消極面2ヶ条
1.対手が油断していないうちはー対手がわが攻撃を撃退し又は回避できる態勢にあるうちは、わが兵力を打撃に投入するな
「非常に劣勢な対手に対する以外には、対手の抵抗力又は回避行動が麻痺状態に陥らない限り、効果的打撃を加えることは不可能であるということは歴史上の経験の示すところである。であるからこのような麻痺状態が十分に進行していない限り、いかなる指揮官も敵に対する真面目な攻撃を発起すべきではない。麻痺状態は敵の組織の崩壊及び精神面での組織崩壊の同等物である指揮崩壊によって引き起こされる。(略)」
正面突破の攻撃方法は味方の被害が甚大であるから、極力避けよとリデルハートは消極面第1ヶ条で述べている。まずは心理面などの間接アプローチで相手の抵抗力削いだ上で、効果的な打撃を相手に与えることが非常に重要なのである。
2.一たん失敗した後は、同一の線(又は同一の形式)に沿う攻撃を再開するな。
「単なる兵力の増強は必ずしも新規の線に沿う攻撃を意味しない。そのわけは、敵もまたその休止の間において自己の兵力を増強しているであろうことはありうべきことであるからである。わが方を撃退した敵の成功が敵を精神的に強化するであろうことは、さらにもっと有り得べきことである。(略)」
人間というのは一たん、失敗した時に、その原因を自分の努力不足に結論づけてしまい、全く同じ方法で、全く同じ相手と対戦して、また敗北してしまうというケースはよくある。対戦相手も前回と同じ方法で攻撃してくれるのであるから、防御するのも、相手の攻撃方法の予測がつくので、非常に簡単になる。なぜなら、失敗した方法を再度繰り返すのは、相手を心理的に安心させる直接アプローチになってしまっているからだ。一たん失敗した後は同じ方法や形式で再度攻撃を再開するなとリデルハートは消極面第2ヶ条で述べているのである。

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