ゲリラ戦と軍事における革命


ゲリラ戦争


リデルハートは「戦略論-間接的アプローチ」の最終章において、ゲリラ戦争を取り上げている。最も顕著なゲリラ戦の実例としては、ナポレオン軍に対するスペイン民衆の抵抗が有名であるが、第二次世界大戦以後においても、「平和を欲する者は戦争を理解せよ、特にゲリラ形式及び内部撹乱形式の戦争を理解することが重要」とリデルハートは繰り返し強調している。リデルハートがゲリラ戦争を強調する理由は原子爆弾が第二次世界大戦において登場したからである。原子爆弾の登場以前とそれ以後において、戦争のそれ自体に対してどのような変化を及ぼしたのかということを我々は学ばなければならない。

「原子力は、破壊を「自殺行為」の極点にまで高めることによって、戦略の神髄である間接的方法への復帰を刺激し、促進する。そのわけは、間接的方法は、戦争を野蛮な暴力の使用よりも高尚なものに高めるところの知性の資質を戦争そのものに付与するものであるからである。そのような「間接的アプローチ」への復帰の徴候は大戦略が欠如していたとはいえ、第一次世界大戦におけるよりも戦略がより大きな役割を果たした第二次大戦において既に明らかに看取されていた。今や、原子の抑止力は、分かり切った線に沿っての直接行動を抑止する効果を発揮しているため、それは却って侵略側の戦略の巧妙化を助長する結果を招いている。こうして、この原子抑止力の開発は、その開発の進展と同じ態度にわが方における「戦略の力」に対する理解が進む事を条件として行わなければならないことが非常に重要になってくる。戦略の歴史は、根本的に見て、間接的アプローチの適用及びその発展の記録である。(戦略論-間接アプローチ)」

長崎への原子爆弾投下

太平洋戦争末期の1945年に日本の広島市と長崎市に2発の原子爆弾が投下された。その原子爆弾の威力が今までの通常兵器と比較して、余りにも無差別でかつ、残虐的に、大量の人間を殺戮してしまうので、第二次大戦後は、兵器としての意味を逆に持ち得ず、戦争の抑止力としての効果しか果たす事はなかった。第二次世界大戦において、世界史に初めて登場した原子爆弾の存在は、第一次世界大戦の西部戦線における塹壕戦と類似していると言えるであろう。当時の西部戦線には、延々と何百kmにわたる鉄条網と塹壕陣地が出来上がり、そこに据え付けられた機関銃の威力によって、ドイツ軍、フランス軍双方のいかなる攻撃突破も片っ端から挫折させてしまったのである。1914年9月にベルギーを突破したドイツ軍が、マルヌ河畔でフランス軍と戦って、シュリーフェン作戦に失敗した後、4年間に亘る塹壕戦が展開されることになった。戦線は数万の人名を犠牲にしても、数十mぐらいしか動かせない有様だったという。この絶望的な膠着状態から脱出する新兵器として、第一次世界大戦末期に登場したのが戦車であった。機関銃の弾丸を全て跳ね返すという特徴を持つ戦車の存在によって、西部戦線において、遂に幾ばくかの機動性が確保されたということになる。一方で、戦争の抑止力として登場した原子爆弾に対して、戦争の機動性を確保するために注目されるようになったのが、ゲリラ戦ということになる。

「ゲリラ戦を抑制するために核兵器使用の脅威をほのめかすことは、蚊の大群を大鉄槌で追い払おうとする話しのように道理に合わない。そういう政策は意味がないことで、その当然の結果は、対抗手段として核兵器を使用できない侵蝕による侵略様式の生起を刺激し助長する事であった。(戦略論-間接アプローチ)」

ゲリラ戦を仕掛けて来る相手に対して、核爆弾を投下するという行為は余りに度が過ぎているため、この時点で核の戦争抑止力としての効果は無効化されたということになる。しかし、ここで、1つ大きな疑問が生じる。ゲリラ戦によって、戦争は第二次世界大戦における「電撃戦」のごとく、機動性を取り戻したと言っても、戦力的に劣っているゲリラ兵が正規兵に勝つ事は果たして可能なのかということだ。筆者は以前から兵器技術によって圧倒的に優越したアメリカ軍が、圧倒的技術に劣ったベトナムのゲリラ兵に敗北したのかが不思議で仕方がなかったのだが、実はこのゲリラ戦というのはアメリカ軍の弱点をついた非情に巧妙な戦い方なのだ。軍事革命(中村好寿著)によると、アメリカ軍の弱点は主に以下の3つが存在するという。

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アメリカ軍の弱点

1. 戦闘による死傷者の発生や民間施設の破壊に対する極度の嫌悪感

2. 国内および国際世論に対する敏感さ

3. 長期戦に戦う用意も意志もない

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これらのアメリカ軍の弱点を踏まえて、ベトナムのゲリラ兵が取った作戦は「ヒット・アンド・ラン」方式である。ベトナムのゲリラ兵はアメリカ軍の爆撃を長距離火力が威力を発揮する前に、部隊を集結し、展開し、攻撃をかけ、急いで撤退することを繰り返した。忍耐強く時間をかけて、相手に出血を強いる戦い方である。ベトナム戦争において、長期戦に持ち込まれたアメリカは結局、当初の目的を果たす事なく、屈辱的な敗退をすることになった。

しかし、ゲリラ戦が戦争の主流となることはないとリデルハートは指摘している。ゲリラ戦は大国に対する弱者の戦略としては非情に有効であるが、一度その戦法が採用されてしまうと、若い世代を中心に大国に対する闘争を通じて、一般的な公衆道徳の規範を破る事を学び、「法及び秩序」の軽視を生じ、その行動は戦争が終わった後でも継続して行われるので、それらの国が国家を再建し、安定状態をもたらすことは非情に困難であるためだ。

軍事における革命と間接アプローチ理論

今までは、リデルハートの戦略論に基づいて、間接アプローチ理論を学んできたが、21世紀において間接アプローチ理論はどのように発展するのであろうか? ここからはリデルハートの「戦略論」以後の話しであるから、現在を生きる我々自身が考えなければいけないのだが、軍事革命 (中村好寿著)によると、情報化社会の到来によって、軍事分野においても革命的な変化(軍事革命)が起きたという。軍事革命が起きる条件としては、

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軍事革命が起きる条件

1. 革命的な兵器が登場し、その兵器の影響を受けて、軍隊の運用法や編成・組織にも大きな変化が起こった場合

2. 軍隊の運用法や編成・組織における革新が「軍事革命」をもたらした場合

3. 社会の生産様式が変化し、その影響が軍事分野に及んで起こった大変化で、戦いの性格を変えた場合

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1の例としては、核兵器の登場によって、「抑止戦略」といわれる軍隊の運用法と軍隊組織が生み出されたことが挙げられる。2の例としては、グーデリアンによる電撃戦が有名である。そして、3の事例として、産業革命を挙げることができる。産業革命によって、大量生産が可能となり、工業型の「軍事革命」が生み出されたのである。今回、情報化社会の到来によって引き起こされる軍事革命はこの3に分類されることになる。

「工業化時代の戦争では、相手国の「軍隊の撃破」が戦争の目標として追求されてきた。軍隊を撃破すれば、国民や領土を、攻撃側は自動的に手中に収めることができるし、反対に防御側は、撃破に成功すれば、相手国の手に落ちる事を拒否する事ができるからである。しかし、情報化社会における戦争では、「軍隊の撃破」ではなく、非軍事目標を攻撃して、相手国の国家機能を麻痺させることが追求されるであろう。軍事革命(中村好寿著)」

21世紀の軍事革命は間接アプローチ理論の延長上にあると言えるであろう。なぜなら、戦争の目標は相手国の陸海空軍を撃滅させることではなく、相手の国家機能を麻痺させた後、情報革命によって編成・訓練された軍隊によってその国を征服してしまうことなのである。例えば、この本には日本が情報革命によって組織化された国に攻撃された場合を次のように想定している。軍事革命軍(RMA軍)の政府が開戦を日本に決意した場合、兜町の証券取引所や、東京駅の輸送指令センター、さらにKDDIやNTTの中継所といった目標に対して、同時にサイバー攻撃をかけて、日本の金融機能、交通機能、情報・通信機能を麻痺させて大混乱に陥れるというものである。

21世紀の軍事革命軍の戦い方は、第一次世界大戦で戦車と急降下爆撃機を一体にして、運用しかつ戦車部隊と自動車化歩兵部隊からなる新組織、機甲師団を編成して、敵の指揮・統制機能を麻痺させる戦闘教義を開発したドイツの電撃戦を連想させる。今世紀は情報革命によって誕生した新たなサイバー攻撃という間接アプローチが戦闘方式の主流となるというのだ。情報化社会の軍事指導者は、敵国を次のような5つの組織が有機的に結びついた組織体として捉えると中村好寿氏は指摘する。

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国家を構成する5つの有機的組織

1. 政府機関のような国家指導組織

2. 食料、資金、電力、天然資源といった、国家のエネルギー組織

3. 交通、通信、教育、製造施設といったインフラストラクチャー組織

4. 敵愾心や絶望感を生む住民組織

5. 打撃に対して対応力のある軍事組織

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国家をこれらの有機的な組織体と捉えるならば、情報化社会の軍事指導者はこれらの5つの組織のうち、戦争目的に直接的に影響を及ぼしかつ、もっとも脆弱な組織に打撃を加えようとする。リデルハートは積極面第4ヶ条:最小抵抗線を乗ぜよという金言がここで適用されることになる。例えば、戦争の指導の役割を担っている国家指導組織の情報システムが完全に敵軍のサイバー攻撃によって遮断された場合、その機能は無能化し、一気に大混乱状態の陥ることになる。それに迅速に移動して来た軍事革命軍(RMA軍)によって、国家の主要地域が制圧された場合、戦わずして敗北を喫することになるであろう。第二次世界大戦において、ドイツの電撃戦によって、予想外の短期間で降伏することになったポーランド、ベルギー、フランスの敗北が、今世紀においても再現されることになるに違いない。リデルハートの「戦略論-間接アプローチ」を学ぶことは、現在においても、ある一定の知識層の人間にとって必要不可欠であると私は考える。

明後日、平成20年8月17日は、→ 『水素文明の夜明け』の発売会(橘みゆき in 東京ビッグサイト)

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