ジュグラー・サイクル、コンドラチェフ・サイクル、キチン・サイクルといった景気循環のサイクルは気候変動のサイクルに対応している。なぜ、気候変動のサイクルが景気循環に影響を与えるのかを考えよう。
1. 太陽黒点数周期と景気循環
太陽黒点数の変動と景気循環の関係を最初に指摘したのは、イギリスの経済学者、ウィリアム・スタンリー・ジェボンズである[William Stanley Jevons (1875) Influence of the Sun-Spot Period on the Price of Corn, Nature; (1878) Commercial Crises and Sun Spot, Nature]。しかし、ジェボンズよりも前に、イギリスの天文学者、フレデリック・ウィリアム・ハーシェルは、太陽黒点数が減少すると小麦の価格が上昇することを指摘していた[William Herschel (1801) Observations tending to investigate the nature of the sun in order to find the causes or symptoms of its variable emission of light and heat, Philosophical Transactions of the Royal Society, London, 91, p. 354-362]。
太陽黒点数の変動が人間の経済の変動に影響を与えているという彼らの先駆的な説は、しかしながら、当時は受け入れられなかった。どのように影響を与えるのか、そのメカニズムがよくわかっていなかったのだから無理もない。太陽黒点数が増えると、太陽放射の強度が増えるが、太陽放射全体の強度の変動幅は、11年周期でたったの0.08%であり[The Intergovernmental Panel on Climate Change (2001) Climate Change 2001, The Scientific Basis, 6.11.1.1]、これだけでは、地表面の温度を変えることはできない。
1997年に、デンマーク気象研究所の Svensmark と Friis-Christensen は、地球全体の雲量と宇宙線の放射強度との間に相関性があると発表した[H. Svensmark and E. Friis-Christensen (1997) Variation of cosmic ray flux and global cloud coverage - a missing link in solar-climate relationships, Journal of Atmospheric and Solar-Terrestrial Physics, vol.59, No.11, p.1225-1232]。宇宙線とは、宇宙空間に存在する高エネルギーの放射線粒子のことである。宇宙線の放射強度は、太陽束(太陽から放射される電磁波)の強弱に左右されるから、太陽黒点数の周期に応じて、雲量が変化するということになる。
実際、以下のグラフを見るとわかるように、太陽束(solar flux 破線)が増えると(このグラフでは、下に向かうと)、宇宙線の流入量の変化率(changes in cosmic ray flux 実線)が減り、それとともに、雲量の変化率(change in cloud fraction 図形)が減ることが見て取れる。
なぜこのような連動が起きるかを説明しよう。宇宙線は、超新星残骸などで加速されて、銀河から地表面に降り注ぎ、空気中で、窒素や酸素の原子核に衝突して、陽子、中性子、パイ中間子、ミュー粒子などを発生させ、これらの粒子がさらに、大気の窒素や酸素の原子核に衝突し、多数の粒子を発生させる。粒子が増えると、粒子の周りに水蒸気が集まって、雲が形成されやすくなる。ところが、太陽黒点数が増えると、太陽風(太陽から吹き出す高温で電離したプラズマ)が吹き荒れ、そして、その太陽風が、太陽系外から流入する宇宙線を吹き飛ばす。だから、太陽活動極大期には、宇宙線の流入量が減り、雲が形成されにくくなる。つまり、太陽放射が雲に反射されずに地表に届きやすくなり、気温が上がる。太陽活動極小期にはその逆が起きる。
いったん気温が上昇ないし下降すると、さらにその気温の変動を増幅させるポジティブ・フィードバックが作動する。寒冷化して、雪氷に覆われる面積が増えると、アルベド (入射光エネルギーに対する反射光エネルギーの比)が増えて、さらに寒冷化が加速される。温暖化が進むと、雪氷に覆われる面積が減り、さらに温暖化が加速される。この他、温暖化が進むと海中に溶けている温室効果ガスが放出され、さらに温暖化が進むというポジティブ・フィードバックもある。寒冷化では、逆の現象が起きる。
では、太陽黒点数の極大・極小、雲量の減少/増大、温暖化・寒冷化が経済にどのような影響を与えるのかを次に見ていこう。
2. ジュグラー・サイクル
約11年の太陽黒点周期に連動している景気循環は、ジュグラー・サイクルである。フランスの経済学者、クレメンス・ジュグラーが、1862年の著書の中でその存在を主張した[Clément Juglar (1879-1905) Des crises commerciales et de leur retour périodique en France, en Angleterre et aux Etats-Unis]ため、そう呼ばれる。ジェボンズもこの周期に着目した。
このサイクルは、企業の設備投資に起因すると一般に考えられているが、では、なぜ設備投資に周期的な波が現れるのかとさらに問うならば、太陽黒点数の変動が原因の候補として挙がってくる。日本の鉱工業生産指数は、農業とは関係がないが、太陽黒点数との間に弱い負の相関性(-0.26)がある。以下のグラフは、日本の鉱工業付加価値額生産の変動率の標準化された39ヶ月移動平均を実線で、太陽黒点数の標準化された39ヶ月移動平均を破線で描いたものである。39ヶ月の移動平均を使ったのは、後で述べるキチン・サイクルの影響を取り除くためである。
このグラフを見ると、太陽黒点数が減少する、つまり破線が上がると、鉱工業付加価値額生産の変動率が上がり、太陽黒点数が増加する、つまり破線が下がると、鉱工業付加価値額生産の変動率が下がるという関係を見て取ることができる。農業だけでなく、鉱工業に関しても、豊作貧乏の法則が当てはまりそうである。
3. コンドラチェフ・サイクル
コンドラチェフ・サイクルは、約55年を周期とする、物価と金利のサイクルで、5回のジュグラーサイクルから成り立っている。ロシアの経済学者ニコライ・ドミートリエヴィチ・コンドラチエフがその存在を主張したことから、そう呼ばれるようになった[Nikolaj Dmitriewich Kondratjev (1925) Boljshije cikli konjunkturi, Voprosi Konjunkuri]。物価は太陽黒点数とどのように連動するのだろうか。以下のグラフは、イギリスにおける物価の変動率を実線で、太陽黒点数を破線で描いたものである。太陽黒点数の11年周期の影響を取り除くために11年移動平均を用いている。
両者の相関性を求めると、1800年以前は、負の相関(-0.67)を示すのに対して、1801年以降は、正の相関(0.51)を示す。産業革命による工場制機械工業が普及する前と後では、逆になっている。生産力が未熟だった資本主義以前の時代では、太陽黒点数が減ると、気温が下がり、衣類への需要が増えるが、その需要に生産が追いつかず、さらに穀物が不作になるので、物価が上昇する。また資源が不足すると、資源をめぐる争いが起きて、戦争になり、物価が上昇するということもある。
しかし、資本主義が成立すると、生産力が強化され、需要に見合う生産の増加が可能で、こうした現象が見られなくなる。むしろ、生産力が増強された資本主義社会では、資源の不足よりも余剰の方が危機であり、太陽黒点数が増えて物余りになり、物価が下落してデフレになると、それを解消するために戦争が起き、物価が上昇するという現象が見られる。上のグラフでも、第一次世界大戦、第二次世界大戦、ベトナム戦争の時期には、実線で描かれた物価変動率のグラフが高い山をなしている。
1815年から1914年までの物価変動率は低調であるが、これは金本位制のもとで平和が維持された時期に相当する。この時期には、アメリカでは南北戦争があり、ヨーロッパでは仏墺戦争や普仏戦争があったが、イギリスの物価にはあまり大きな影響を与えなかったことが上のグラフからわかる。
コンドラチェフの波動の谷では技術革新が起き、戦争により山に達する。以下の表に、産業革命から現代にいたる近代資本主義経済に生じた五つの波動をまとめてみた。
4. キチン・サイクル
キチン・サイクルとは、約40ヶ月を周期とする景気循環で、アメリカの経済学者ジョセフ・キチンが1923年の論文[Joseph Kitchin:Cycles and Trends in Economic Factors]でその存在を主張したため、そう呼ばれる。キチン・サイクルは、ジュグラー・サイクルに三回現れる。企業の在庫変動が原因と言われているが、在庫が変動するから景気が循環するのではなくて、景気が循環するから在庫が循環すると考えるべきである。
キチン・サイクルの周期は、ENSO(El Niño/Southern Oscillation エルニーニョ/南方振動)や NAO(North Atlantic Oscillation 北大西洋振動)や AO(Arctic Oscillation 北極振動)といった大気循環の周期と近い。以下のグラフは、日本の鉱工業在庫率の変動率を実線で、北大西洋振動指数を破線で描いたものある。12ヶ月移動平均を使ったのは、一年周期の影響を取り除くためである。
両者の間には、弱い負の相関(-0.23)がある。だから、上のグラフでは、北大西洋振動指数の上下を逆にしている。つまり、上が負で、下が正である。その関係を表にまとめると、次のようになる。
| AO/NAO | 正 | 負 |
|---|---|---|
| 北極域の気圧 | 低 | 高 |
| 中緯度域の気圧 | 高 | 低 |
| 偏西風 | 強い | 弱い |
| オホーツク海高気圧 | 強い | 弱い |
| グリーンランドの冬 | 寒冷乾燥 | 温暖湿潤 |
| ヨーロッパ大陸・北米東岸の冬 | 温暖湿潤 | 寒冷乾燥 |
| 地中海 | 乾燥 | 湿潤 |
| 日本の夏 | 冷しい | 暑い |
| 日本の鉱工業における在庫率の変動率 | 下がる | 上がる |
景気が悪くなると、生産したほど出荷できないので、在庫率は上がる。景気が良くなると、出荷が生産を上回って、在庫率が下がる。在庫循環は景気循環に遅行するが、寒冷化/温暖化と景気の良し悪しの関係は、ジュグラー・サイクルと同じである。
太陽黒点数には、2-3年の周期があることが知られているが、微弱な変動であり、これが、ENSO、NAO、OA といった大気循環にどう影響を与えているのかはまだ不明であり、今後の研究課題としたい。
大気循環およびそれによって惹き起こされる水の循環は、私たちが生きていく上で、きわめて重要な仕事をしている。しかし、大気循環は完全に恒常的ではなくて、活発になったり、停滞したりすることがある。その原因は、複数あるが、一番大きな影響を与えているのは、太陽である。太陽が、1. 自分自身の活動の変動 2. 自分と地球との位置関係の変動によってどのように大気循環に影響を与えているかを説明しよう。


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