2003年のヨーロッパの熱波

2003年のヨーロッパの夏は、観測史上最も暑い夏となり、熱中症などで2万人以上が死んだと推定されている。2006年の夏も再び尋常ではない熱波がヨーロッパを襲っている。この異常な熱波 の原因は何なのか。温室効果ガスの濃度の上昇による温暖化だけで説明できるのか。他にも原因はないのかどうか考えてみよう。

1. 原因は温室効果ガスか

ヨーロッパの熱波の原因を温室効果ガスの濃度上昇に求める人は多い 。例えば、フランスの中央科学研究所の気象学者、エルベ・ル・トルは、熱波は地球温暖化の結果だと言っている[Common Dreams:Global Warming, Not Just Heat Wave]。 イギリスのハドレーセンターは、自然発生的な側面もあるとして、直接的な因果関係を否定しつつも次のように言っている。

人為的な気候変動がなければ、極端な温暖化イベントは、おそらく1000年に1回程度と、極めて稀になる傾向にある。しかし、人為的な変動を含めるならば、同じイベントがはるかに頻繁に、おそらく250年に1回程度で、起きるようになる。 […] 2003年のヨーロッパの熱波のリスクの少なくとも半分は、人間の活動、なかんずく化石燃料の燃焼のせいであると言ってよいだろう。

私も、温室効果ガスの増加による地球温暖化が熱波が発生する確率を高めていることを認めるに吝かではない。しかしながら、地球温暖化とは、全球的に地表面の平均温度が10年につき0.1度のスピードで上昇する現象であって、一時的かつ局地的に平年よりも10度高くなるという現象ではない。ヨーロッパの気候は、北大西洋振動(North Atlantic Oscillation: NAO)によって定期的に変動するが、温室効果ガスがNAOに影響を与えたという可能性はある。

2. なぜフランスで被害が一番大きかったのか

2003年の熱波でもっとも大きな被害を受けたのは、フランスだった。 以下の表を見てもわかるように、熱波の死者数の半分程度はフランスでの死者で占められている。

原沢英夫: 国内外の異常気象等の状況について, 気候変動に関する国際戦略専門委員会提出資料, 中央環境審議会地球環境部会(平成17年10月3日)

フランスで最も死者が多かったのは、フランスでの気温上昇が最もはなはだしかったからである。以下の図は、2003年の夏における例年との温度偏差をマッピングしたものであるが、10度近い気温上昇がフランスで多発していることがわかる。

2003 heat wave temperature variations in comparison to normal temperatures in Europe.
2003年の熱波におけるヨーロッパ各地の温度偏差
[2003 heat wave temperature variations in comparison to normal temperatures in Europe]

なぜフランスではこんなに温度上昇が激しかったのか。原因の一つとして考えられるのは、フランスに59基もある原子力発電所である。原子力発電は、フランスの発電量の74.8%を占めている。フランスの総発電量は、世界第8位でしかないにもかかわらず、フランスの原子力による発電量は、アメリカ合衆国に次いで世界第2位である。フランスがいかに原子力大国であるかがわかる。

原子力発電は、火力発電よりも効率が悪く、エネルギーの三分の二を廃熱として捨てている。 日本の原子力発電所は、海に面した地域に建設され、廃熱を海に捨てているが、フランスの原子力発電所は、内陸部にも多数建設されているので、廃熱が内陸部にも残存しているのではないだろうか。

3. 広域的なヒートアイランド現象

もちろん、廃熱を出しているのは、原子力発電所だけではない。都市化と工業化が進むと、他にもさまざまな活動で熱を出すようになる。温室効果ガスが増えると、こうした熱を宇宙に捨てにくくなる。2006年の夏には、アメリカ西海岸でも熱波が観測されたが、こうした都市化された地域での猛暑は、広域的なヒートアイランド現象と考えることができる。

フランスはもともと涼しい地域なので、エアコンなど空冷設備は普及していなかったが、2003年の熱波をきっかけに、エアコンを買う家庭が増えている。しかし、エアコンは、ヒートポンプにより、熱を室内から室外に捨てているわけで、エアコンが普及すれば、ヒートアイランド化はますますひどくなる。

私たちは、温暖化というとすぐに温室効果ガスのことばかりを考えるが、私たち自身が出している熱自体を減らすことも考えた方がよい。無駄に熱を捨てないためにも、原子力発電のような集中的な発電よりもコージェネレーションが可能な分散型の発電の普及に力を入れるべきであろう。

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