京都議定書(3)新しい制度の提案

京都議定書には、負担の分担が不公平である、吸収源を軽視している、多目的事業を不利にするといった欠陥があることを指摘した。最後に、これらの欠陥を克服し、地球温暖化問題を含め、トータルに環境問題を解決する新制度を提案したい。

1. 温室効果ガス排出税を導入する

1990年を基準として、恣意的に削減率の目標を決めると、負担の分担が公平ではなくなる。だから、温室効果ガスの排出量全体に、一定割合で課税するという形で、普遍的に規制するべきだ。このように外部不経済の内部化する税のことを、経済学ではピグー税という。ピグー税では、自分が生み出した不経済の分だけ負担をするのだから、明快で、公平である。

この税を導入しても、増えた税収の分、他の課税を減らせば、国民経済全体にダメージを与えることにはならない。多くの国は、所得に課税しているが、こうした取りやすいところから取る方法は、社会政策的に望ましくない。税にはペナルティとしての機能があるから、所得に課税すると、利益を出して社会に貢献しているところがペナルティを受けるということになる。だから、望ましくない結果へのインセンティブを高める税はできるだけ減らし、ペナルティ型のピグー税を増やしたほうがよい。

ピグー税は、地球温暖化だけでなく、大気汚染、水質汚濁、土壌劣化など他の環境問題の解決にも役立つ。環境問題をグローバルに解決するには、こうした各種のピグー税を、先進国のみならず、途上国にも適応させるべきである。途上国は、それまで何の制約も受けなかったのだから、こうした税の導入に反発するかもしれない。途上国の離脱を防ぐには、離脱した途上国を政府開発援助(ODA=Official Development Assistance)の対象からはずすようにすればよい。逆に、参加する途上国には、政府開発援助を通じて、環境問題の解決以上の利益が受けられるようにする。

2. 政府開発援助を環境関係に限定する

政府開発援助は、第二次世界大戦後、福祉国家的政策の国際版として登場した。1970年代以降、先進国では福祉国家的政策の見直しが進んだにもかかわらず、政府開発援助は、相変わらず惰性で続けられており、DAC(開発援助委員会)加盟国全体の政府開発援助額は、1000億ドル以上になる[2006年におけるDAC諸国の政府開発援助(ODA)実績(暫定値)]。政府開発援助は本当に必要なのか、改めて考え直してみる必要がある。

日本が行う政府開発援助は、ダム建設や道路整備などの経済インフラへの投資に偏っていて、日本企業の海外進出に役立っても、途上国の貧困の根絶には貢献していないという批判がしばしばなされる。たしかに、政府による環境破壊型プロジェクトの推進は、国内でも海外でも時代錯誤的になっていると言ってよいだろう。

では、欧米の先進国が熱心にやっているような、貧困層のための医療・食料・教育への人道的な援助なら必要かといえば、そうでもない。途上国の医療や食料や教育に先進国が金を出せば出すほど、他人の金を当てにして子供を産む人が増える。人口の増加が資源の減少と貧困をもたらし、その貧困を解消するべく、さらに人道的援助がなされるという悪循環のおかげで、途上国の貧困問題は、一向に改善しない。だから、先進国は、人口増加を抑制するためにも、そして地域経済の自立を促すためにも、途上国への人道的援助をやめるべきである。

よって、政府開発援助を正当化する事業としては、環境破壊の防止と修復ぐらいしかない。環境問題は、市場経済だけに任せておいても解決しないので、政府が介入する正当性がある。ただし、環境問題といっても、グローバルな温暖化だけでなく、ローカルな公害も対象にしなければならない。

3. 多目的事業を優遇する

例えば、工業プロセスで発生する二酸化炭素を回収・貯蔵する炭素隔離事業のように、温室効果ガスを削減する効果しか持たないプロジェクトは、追加性ゆえに、京都議定書が定めるクリーン開発メカニズムの承認を得やすいが、途上国の人々に歓迎されない。他方で、自分たちの生活を目に見える形で向上させる効果を複合的に持つプロジェクトなら、歓迎される。コベネフィッツ型温暖化対策を行うには、京都議定書という枠組みよりも、政府開発援助の枠組みで行う方がよい。

緑化事業は、クリーン開発メカニズムでは過小評価されているが、コベネフィッツ型温暖化対策としてはきわめて有望である。沙漠を緑化すれば、水と栄養の循環を作り出すことで、環境を改善することができるし、食料、資材、エネルギーの自給も可能になる。ただし、バイオマスを直接燃やすことは好ましくないので、環境負荷を与えないように、ガス化して利用することが必要になる。この点では、先進国による技術支援が必要である。バイオマスの利用に関しては、また別の機会に詳しく論じたい。

4. 米国を参加させる

米国は、途上国に削減義務がないこと米国経済にダメージを与えるということを理由に、京都議定書の批准を拒否した[Byrd-Hagel Resolution]。だが、私の提案した制度では、米国は拒否する理由はない。途上国は先進国と同じピグー税を受け入れるし、米国は世界最大の政府開発援助国であるから、追加的な負担はない。オーストラリアやカナダの賛成も得やすい。

資源問題と環境問題を解決する上で、無駄を省くということはとても重要である。温暖化対策と他の環境対策と途上国支援を別々にやって、資金という希少資源を浪費するのではなくて、無駄を省いて、できるだけ効率的に運用することを心がけなければいけない。

関連書籍紹介
書名 図解でわかる 京都議定書で加速されるエネルギービジネス
媒体 単行本
著者 井熊 均
出版社と出版時期 日刊工業新聞社, 2006/02
書名 先進事例にみる排出権取引ビジネス最前線
媒体 単行本
著者 三菱総合研究所
出版社と出版時期 工業調査会, 2006/05
書名 なるほど図解 排出権のしくみ
媒体 単行本(ソフトカバー)
著者 株式会社日本スマートエナジー代表取締役 大串 卓矢
出版社と出版時期 中央経済社, 2006/10/05

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コメント

環境の循環を提唱〔京都議定書)するくらいの国の人々が、なぜ、経済の成長経済から循環経済への転換を提唱できないのが不思議でなりません?

この国はバランスを崩しておるようです〔日本ばかりではないようですがね?)、バランスを保つためには循環経済へ目標の大転換が必要なようですがね?

京都議定書は、温室効果ガスの削減のみを目標にしていて、「環境の循環を提唱」しているわけではありません。専門の枠を超えて、もっと広い視点から環境問題全体を考える必要があります。

京都議定書がスムーズにすすめるとしたら、それぞれの国が循環経済へ、そして、為替を通じて、世界経済も循環経済にすることによって、スムーズに進められてゆくと思います。


このまま各国が成長経済を目標にして京都議定書を成り立たせようとすれば、かならづ壁が出てくるでしょうね?

------------------------- PDA

逆転の発想をして見てください。
自分は中心ではなく、周縁であるという。
選択することによって選別されるのが情報社会です。

10億人以上が死滅するという仮定で未来人の視点から考えてみる。
そのような知的遊びをすれば違う世の中が見えるかもしれません。

http://www.teamrenzan.com/archives/writer/nagai/cosmos6.html
人間は、地球が太陽系の中心ではなく、太陽系は銀河系の中心ではなく、そしてこの銀河系は宇宙の中心でないことを認識するようになった。人間の知的進歩は、人間が特殊な存在ではないということを明らかにしている。むしろ、人間の宇宙における特殊地位は、人間が宇宙において特殊地位を持たないことを認識している点にある。

“このまま各国が成長経済を目標にして京都議定書を成り立たせようとすれば、かならづ壁が出てくるでしょうね?”

今後の各国の目標は、GDPの成長ではなくて、一人当たりのGDPの成長ということになるでしょう。

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