無騒音自動車

電気自動車や燃料電池自動車の登場で、将来の自動車は、より静かで、騒音を出さないようになると期待されている。しかし、反面、無騒音だと、接近しても、歩行者は気がつきにくくなるという新たな問題が発生する。この問題を解消するにはどうすればよいか。 交通システムの将来像を思い描きながら、考えよう。

1. 無騒音自動車の問題

自動車の騒音は、長い間大きな環境問題の一つであった。特に高速道路の沿線では、防音壁を築いたり、建物の窓を二重サッシにするなどの手段を講じる必要があり、社会的なコストを高める結果となった。将来燃料電池自動車あるいは電気自動車が普及すれば、こうした騒音問題は解消されると期待されている。

ところが、自動車が無騒音化すると、思わぬ問題が出てくる。東京大学先端科学技術研究センターのグループは、ハイブリッドカーだと、発車時に接近しても、歩行者は気がつきにくくなるという実験結果を報告した[NHK:ハイブリッド車 接近気づかず ,2006年1月29日]。

ハイブリッドカーとは、ガソリンエンジンと電気モーターの長所を組み合わせた自動車である。ガソリンエンジンは強力ではあるが、低回転域では効率が低下するので、発進時には電気モーターを使用する。また、減速時に回生ブレーキを用いて運動エネルギーを電気として回収し、停止時と減速時にエンジンを停止して、燃料を節約する。要するに、停車時と発進時は電気自動車と同様に、音を出さない。

東京大学先端科学技術研究センターのグループは、ハイブリッドカー2車種とガソリン車3車種を使って、6人の視覚障害者が車の動きをどの程度把握できるかを調べた。その結果、ハイブリッドカーが停車したり、発進したりした場合、視覚障害者は1メートル以内に近づいても誰一人として気づかなかった。また、ハイブリッドカーを時速10キロ未満で視覚障害者の目の前を走らせた実験では、6人のうち4人までが車が通ったことに気づかず、他の2人も直前までは認識できなかった。

これについて、ハイブリッドカーを販売しているトヨタ自動車は「今後の課題と考えており、車の存在を音で伝える装置を研究している」と話したと伝えられている。どういう装置を研究しているのかわからないが、トイレ用擬音装置「音姫」のように、ガソリン自動車の擬音を撒き散らす装置を無騒音自動車に搭載することはしてほしくない。

2. 将来の道路交通はどうあるべきか

ハイブリッドカーは、高速で走っている時はガソリンエンジンを使うので、通常のガソリン自動車なみの音を出すが、燃料電池自動車や電気自動車になると、タイヤと道路の摩擦音程度しか出さなくなる。 従来の自動車と異なって、内燃装置や力動部分がないので、これらの未来の自動車は、非常に静かで、ほとんど音を出さない。これでは、音を頼りに、自動車の接近を認知していた人にとっては、かなり危険である。

ガソリン自動車の擬音を出させるというローテクな方法ではなくて、もっとハイテクな手段で根本的にこの問題を解決する方法はないだろうか。自動車の騒音やクラクションは、必要な人に必要な情報だけを届けるという、情報社会にふさわしいシステムではない。これは、工業社会的な情報の伝達方法である。日本の電車のホームでは、電車の到来から傘の置き忘れに対する注意にいたるまで、あらゆる情報が無差別に流される。親切といえば、親切だが、一種の騒音公害をもたらしている。同じものを画一的にばらまくという工業社会的方法からそろそろ決別した方がよい。

おそらく、今後、高度道路交通システム(Intelligent Transport Systems)が少しずつ進むだろう。日本語訳には“intelligent”の意味が正しく反映されていないが、英語の“intelligent”は、「…の間から選ぶ」という意味のラテン語に由来していることをかんがえるならば、「選別的知性を備えた道路交通システム」といったところだ。必要もない情報を無差別に受け取るのではなく、選別して、必要な情報だけを受け取ることが必要になってくる。

現在のところ、道路交通の情報化としては、カーナビゲーションシステムや自動料金収受システム(ETC)などがあるが、これらは、中央集権型情報管理システムであり、インターネットのような分散型情報伝達システムではない。

GPS衛星という中心に各自動車が端末として依存するのではなくて、自動車相互をインターネット的な情報網でつなげることで、各自動車の位置と短期的な進行方向を相互に認知させる。もちろん。固定物の情報も取り込む。そうすれば、自動車をロボット化して、完全に無人化することができる。

自動車に自動操縦機能を持たせようとする試みは既になされている。日産自動車は、車載のセンサーで車線を検出し、車線内から外れた場合にステアリング操作の補助を行うレーンキープサポートシステムとか、レーダーで先行車との車間距離を計測して、スピード調整やブレーキを自動で行うオートクルーズモードとかを備えた自動車を 開発したそうである[AllAbout:ここまで来た!自動操縦装置 新型シーマの秘密兵器!]。しかし、これだけでは、高速道路を走るのにしか使えない。より複雑な情報処理が求められる一般道路では、インタラクティブなコミュニケーションが必要である。

各自動車が、どこまで自分の情報を開示するかは、その運転手の判断によるが、今でも、ライトの点灯によって自分の位置を、方向指示器によって自分の進行方向を周囲に告げることが義務付けられているのだから、最低限の情報の開示は義務としなければいけない。といっても、自分の情報が世界中に公開されてしまうわけでなく、周囲の必要最低限のエージェントにしか公開されない。インターネットで言えば、電子メールや会議室のようなものである。

歩行者も自動車間の情報網の中に組み込む。歩行者は、ウェアラブルな携帯機器を通じて、自動車とコミュニケーションし、相互に相手の存在を認知する。視覚障害者なら、自動車の接近を知らせるシグナルを強めにするとよいだろう。この情報システムは、自動車による待ち合わせや、タクシー・バスなどでも活用できる。

動物のように、ネットワークに組み込まれない移動体もあるから、ロボット化された自動車は、そうした情報を発しない存在者をも認知できる機能を持たなければいけないが、人間が、限られた範囲の可視光を頼りに運転する自動車よりも、全方位を幅広い電磁波で認知するロボット化された自動車の方が安全である。もちろん、故障するリスクは、人間にもロボットにもあるが。意図的にルール違反をするリスクは、ロボットにはない。

3. 結論

以上、未来の交通システムを思い描いてみた。このシステムにおいては、燃料電池自動車や電気自動車の無騒音性のメリットは十分生かされる。未来の道路では、多くの自動車が走っているにもかかわらず、静かだろう。なぜならば、必要な情報が必要なところにしか流れないからだ。情報が無差別に流されると、情報がノイズと化し、必要な情報が埋もれてしまう。情報社会は、そうした情報エントロピーの増大に抗する社会でなければいけない。

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コメント

「日本EVクラブ」という市民団体で、電気自動車を作ったりしている者です。

>自動車が無騒音化すると、思わぬ問題が出てくる。東京大学先端科学技術研究センターのグループは、ハイブリッドカーだと、発車時に接近しても、歩行者は気がつきにくくなるという実験結果を報告した

 以前から、「EV無音説」を振りかざして「だからEVは危険である!」という方々が後を絶ちません。東京大学先端云々の実験が、どのような環境で行われたのかは知りませんが、もし街中もしくはそれに近い環境で行われた結果ならば、やる前から結果は明らかです。単に、否定のための実験結果としか思えません。

 毎年行われる、筑波サーキットでのEVだけのイベントに来た方はわかると思いますが、「EVも音が出ます」近づいてくることは必ずわかります。コントローラの発信音やら、タイヤのノイズギヤノイズなど、EVも案外うるさいものです。

人の感覚は、相対的なものですから、騒音の中で聞こえるか?という話は何だか???な気がするのですが・・・

サーキットは、ショーとしての性格が強いので、参加者は、意図的に音を出しているのではないでしょうか。音が出ないと迫力ないですからね。

 そのイベントは、「日本EVフェスティバル」というもので、EVの普及を目的の1つとして掲げています。ですから、世に良くあるような「レース」ではないので、「わざわざ音を出す」愚かな参加者はいません。

 サーキットで、「音楽を聴きながらレース」をしたり、スケートの「フィギュア」のような競技も行っています。

 クルマ=音の出る物

という固定観念が、『「EVは静かだから」危ない!』などという偏った意見を一人歩きさせてしまう部分も有るのではないでしょうか?

たしかに電気自動車だからといって全く音を出さないわけではないでしょうが、既存のガソリン自動車に比べれば、はるかに静かだと思います。

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