太陽と気候

大気循環およびそれによって惹き起こされる水の循環は、私たちが生きていく上で、きわめて重要な仕事をしている。しかし、大気循環は完全に恒常的ではなくて、活発になったり、停滞したりすることがある。その原因は、複数あるが、一番大きな影響を与えているのは、太陽である。太陽が、1. 自分自身の活動の変動 2. 自分と地球との位置関係の変動によってどのように大気循環に影響を与えているかを説明しよう。

1. 太陽活動の変動とその影響

太陽活動の変動を示す太陽黒点数が11年周期で増減を繰り返していることはよく知られている。太陽放射全体の強度の変動幅は、11年周期で1%以下と小さいが、紫外線の放射強度は2-3倍にもなる。これほど変動幅があるわけではないが、太陽活動の変動には、2年強のより短い周期や、太陽の磁場の極性が逆転する22年周期など、長短さまざまな周期がある。

太陽が放射する紫外線は、成層圏に吸収されて熱になるから、太陽活動が極大になると、日の当たる夏半球の成層圏の温度が上昇し、日の当たらない冬半球との温度差の増大により、「冬半球の下部中間圏・ 成層圏界面の西風ジェット変動をもたらし、これが対流圏から伝播してくるプラネタリー波との相互作用を通じて極夜ジェットの変動を引き起こす」[黒田友二: 極夜ジェット振動形成メカニズムについて]。

成層圏での循環の変動は、大気圏の循環にも影響を与える[Mark P. Baldwin, Timothy J. Dunkerton: Stratospheric Harbingers of Anomalous Weather Regimes]。下の図はその振動の様子を示したものである。赤色のところは、所謂「成層圏突然昇温」に相当し、その後に続く青いところは降温に相当する。北半球が冬半球となる1月前後に、温度偏差が成層圏から対流圏へと下降している様子が見て取れる。この成層圏から大気圏に伝播する変動は、日本の研究者によって「極夜ジェット振動」と名付けられている。

極夜ジェット振動形成メカニズムについて
図1 北半球における1986-1989年の極点温度偏差の高度時間断面図
[黒田友二: 極夜ジェット振動形成メカニズムについて

太陽活動極大期には、極夜ジェット振動が対流圏に降りてきて、北極振動(Arctic Oscillation)や北大西洋振動(North Atlantic Oscillation)と一体になる。北極振動とは、北極圏とそれを取り巻く中緯度帯の間で、プラス(正)とマイナス(負)を繰り返すシーソー運動である[Arctic Climatology and Meteorology Primer: The Arctic Oscillation and Arctic Weather Patterns]。

これに対して、北大西洋振動とは、冬季の北大西洋における、アイスランド低気圧とアゾレス高気圧が強まったり弱まったりするシーソー現象である [Ian Bell:North Atlantic Oscillation]。こちらの場合でも、正のときの方が負のときよりも大気循環が活発となる。

北極振動は、反対側にあるシベリア方面に対しても影響を与える。その関係を表にまとめると、次のようになる。

表1 北極振動が与える影響
AO/NAO
北極域の気圧
中緯度域の気圧
オホーツク海高気圧 強い 弱い
グリーンランドの冬 寒冷乾燥 温暖湿潤
ヨーロッパ大陸・北米東岸の冬 温暖湿潤 寒冷乾燥
地中海 乾燥 湿潤
日本の夏 冷しい 暑い
偏西風 強い 弱い

以下の図は、太陽活動が極大(Max)のときと極小(Mini)のときの北大西洋振動の比較である。太陽活動が極大となったときの1月において、大きな差異が生じていることがわかる。

Solar cycle modulation of the seasonal linkage of the North Atlantic
図2 1月から8月にかけての500hPa面高度でのNAO指数の比較[Masayo Ogi, Koji Yamazaki, Yoshihiro Tachibana: Solar cycle modulation of the seasonal linkage of the North Atlantic Oscillation

対流圏の振動には、北大西洋振動以外にも、ENSO、すなわち、エルニーニョ南方振動(El Nino Southern Oscillation)がある。ENSOは、ペルー北部の沿岸で冬に海面水温が上昇/下降するエルニーニョ/ラニーニャ現象と南太平洋低緯度帯の気圧配置の変動である南方振動との複合振動で、やはり太陽活動の影響を受けている。すなわち、太陽活動が盛んなときには、エルニーニョの発生間隔が長くなり、逆のときには短くなる [Enfield, D.B., L.S. Cid:Low-Frequency Changes in El Nino-Southern Oscillation] 。

南方振動を発見したウォーカーは、エルニーニョ南方振動と北大西洋振動とにはいかなる相関もないと言っていたが、両者の間には、夏のアジアモンスーンが不活発なら、その冬の東西循環も不活発になって、エルニーニョになり、北大西洋振動は、エルニーニョが発現する前に、正になるという関係がある [安成哲三:気候の年々変化をきめるもの,岩波講座 地球惑星科学〈11〉気候変動論, p.58, 63] 。アジアモンスーンには、2-3年の周期で活発になったり不活発になったりする準二年周期(quasi-biennial oscillation)。この周期で起きる大気圏の振動は、太陽活動の2-3年の周期が原因ではないだろうか。

2. 太陽と地球の位置関係の変動とその影響

太陽は、その放射エネルギーで地表面を暖め、対流圏上部との温度差を作り、そしてその温度差が対流という循環運動を作り出している。したがって、太陽放射が減れば、地表面の温度は下がり、対流も弱くなると考えることができる。

地表面が受け取る太陽の放射エネルギーという点では、太陽活動自体の変動幅だけでなく、太陽と地球との位置関係も重要な要因となってくる。ミランコビッチの仮説によると、地球の公転軌道の離心率、自転軸の傾斜角、歳差運動の周期的変化によってもたらされる日射量の変動が氷河期における氷期と間氷期という寒暖のサイクルをもたらす。

下の図の(a)は、過去200万年間にわたる深海での酸素同位体比の波動を描いた図で、酸素18の比率が低いほど、気温は高いと推定される。(b)~(d)は、各時期のスペクトルを分析して得た、周期(frequency)とその振幅(amplitude)の関係図である。

氷河時代の周期
図3 氷河期の周期 [S. A. Drury et al:The Great Ice Age: Climate Change and Life, p.87]

スペクトル分析から、1万9千年、2万3千年、4万1千年、10万年の周期があることがわかる。ミランコビッチの仮説によれば、このうち、10万年周期は、地球の公転軌道の離心率の周期に対応し、4万1千年周期は、自転軸の傾斜角の周期に対応し、1万9千年と2万3千年の周期は、歳差運動の周期に対応する。

ミランコビッチの仮説は、氷河期の周期を説明する上で有力であるが、問題点も指摘されている。その後の研究によれば、離心率の周期は、強い10万年周期と弱い41万3千年周期から成り立つのではなく、強い40万年周期と弱い12万5千年/9万5千年から成り立つことがわかっている [S. A. Drury et al:The Great Ice Age: Climate Change and Life, p.87] 。しかし、氷河期には40万年周期はないし、その反面、最も主要な周期である10万年周期が説明できなくなる。

理論上では歳差運動と地軸の傾きの変化の方が、離心率の変化よりも、日射量に対する影響が強いのだから、10万年周期は、別の原理で説明されるべきだろう。本書では、10万年周期を、地球軌道が太陽系軌道平面から傾いて、宇宙ダストのバンドに出入りする周期に求める説も紹介されている [S. A. Drury et al:The Great Ice Age: Climate Change and Life, p.88]が、メカニズムが良くわかっていないので、推測の域を出ていない。

図1(a)をよく見ると、現代に近づくにつれて、波の間隔が広くなっていることに気がつくが、実際、(b)~(d)では、時とともに10万年周期の振幅が大きくなっている。この本では、二酸化炭素濃度が80年前に閾値を越えて下がったために、4万1千年周期が10万年周期になったという説が取り上げられている [S. A. Drury et al:The Great Ice Age: Climate Change and Life, p.153]が、4万1千年周期は、(b)~(d) を見ればわかるように、ほとんど振幅を変えずに残っており、4万1千年周期がそのまま単純に10万年周期に変化したというのは、無理がある。

東京大学気候システム研究センターによると、ミランコビッチ周期と二酸化炭素濃度と氷床に対する地殻の反応を組み込んだ三次元氷床モデルで、10万年周期をシミュレーションすることに成功したとのことである[Abe-Ouchi, A.; Saito, F.; Segawa, T.: Simulating and Investigating the 100ka ice age cycle with a three dimensional ice sheet model and GCM]。10万年周期は、複数の要因の合成から生まれる周期のようだ。

3. さまざまな周期の循環波動

以上、確認したように、太陽自身の活動の変動および太陽と地球との位置関係の変動により、複数の周期で、地表面の温度は高くなったり低くなったりし、大気循環は活発になったり停滞したりする。主な周期としては、短い方から順に以下のものがある。

1日
地球の自転による昼と夜の周期(*)
27日
太陽の自転周期と同期した活動周期
155日
太陽の活動周期
1年
地球の公転による夏と冬の周期(*)
2-3年
太陽の活動周期→チキン・サイクル
11年
太陽黒点数の主要周期→ジュグラー・サイクル
22年
ヘール周期→グズネッツ・サイクル
55年
吉村周期→コンドラチェフ・サイクル
200年
太陽大周期
2500年
小氷期の周期
1万9千年
歳差運動の周期(*)
2万3千年
歳差運動の周期(*)
4万1千年
自転軸の傾斜角の周期(*)
10万年
氷期の周期(*)

(*)をつけた周期は、太陽と地球の位置関係の変動によるもので、それ以外は、太陽活動の変動による周期である。矢印の右側は、対応していると思われる景気循環の周期である。

気候は、こうしたさまざまな周期で変動し、人類は、そうした気候変動に翻弄されながら、イノベーションを起こしたり、現状を維持したりしているわけである。

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