持続可能な文明(3)再生可能なエネルギー

人類の文明を、何千年、何万年と持続させるためには、再生可能なエネルギー源による循環型社会を構築しなければならない。再生可能なエネルギーには多くの候補があるが、主力となるのは、バイオマスであろう。

1. 持続可能な文明のエネルギー源 

人間は、この地球に誕生して以来、現代に至るまで、バイオマスを主なエネルギー源にしている。つまり、人間は、植物が、太陽エネルギーを利用して作った低エントロピー資源に依存している。バイオマスという言葉は、化石燃料を含まない狭い意味で使われることもあるが、ここでは、化石燃料を含めた、生物起源の有機物という広い意味で使うことにしたい。

私たちが、体内用エネルギー源として、バイオマスに依存していることは言うまでもない。私たちが食べる食物には、植物起源のものもあれば、動物起源のものもあるが、後者の資源価値は、前者の資源価値に由来する。人間のみならず一般的に生物は、食物を高熱源として、水を低熱源として利用し、自らのエントロピーを縮減することで生きている。

私たち人間は、体外用エネルギー源としても、主として、バイオマスに依存してきた。時代とともに、主流が、木材、石炭、石油、天然ガスと変化してきたが、その資源価値のほとんどは、植物に由来するといってよい。そして、人類文明は、バイオマス燃料を高熱源として、水や空気を低熱源として利用し、自らのエントロピーを縮減することで存続している。

もちろん、人類の文明は、植物による光合成にのみ依拠しているわけではない。人類は、産業革命以前から、水車や風車などにより、水力や風力を使うこともあったが、それらはエネルギー供給の主流にはならなかった。今日、風力エネルギー、水力エネルギー(非塞き止め型)、太陽エネルギー、地熱エネルギー、海洋エネルギーなど、さまざまな再生可能エネルギーの利用が試みられているが、これらは、需要とは無関係に電力を供給するので、バイオマス発電で出力調整をしなければならない。

ところで、再生可能エネルギーというと、通常は、化石燃料は除外されている。しかし、これはおかしな話だ。石油にせよ、石炭にせよ、天然ガスにせよ、化石バイオマスは、現在も新たに自然に作られている。ただ、人類がその100倍以上の量を消費しているから、生産が消費に追いつかないだけだ。そして、これと同じことは、現役バイオマスについても当てはまる。人間が、現在のエネルギーの消費量を変化させずに、化石バイオマスの代わりに現役バイオマスを消費すれば、やはり、生産が消費に追いつかなくなって、現役バイオマスは枯渇する。

バイオマスは、カーボン・ニュートラルだが、化石燃料はそうではないといったこともしばしば耳にするが、現役バイオマスならカーボン・ニュートラルで、化石バイオマスならカーボン・ポジティブとは限らない。カーボン・ニュートラルであるのは、大気中に放出される炭素と、大気中から取り入れられる炭素の量が均衡しているときに限る。現役バイオマスであれ、化石バイオマスであれ、生産以上に消費すれば、大気中の二酸化炭素濃度は上昇する。もとより、現役バイオマスのうち、化石バイオマスになるのは一部で、残りは分解されて、二酸化炭素を放出するから、現役のときに燃料として利用した方が、二酸化炭素放出量は少なくてすむ。

カーボン・ニュートラルでかつ持続可能なバイオマスの消費を続けようと思えば、人類のバイオマス・エネルギー消費量を、植物による生産量の水準まで減らさなければいけない。風力エネルギー、水力エネルギー、太陽エネルギー、地熱エネルギー、海洋エネルギーなど、他の再生可能エネルギーを利用したとしても、その量はたかがしれている。私は、このシリーズの初回で、世界人口の削減の必要性を強調したが、それは、現在の世界人口を再生可能エネルギーだけで養うことは、将来の技術革新を考慮しても、不可能と考えるからだ。

おそらく、多くの人は、このような禁欲的な提案に賛成しないだろう。「自然エネルギーに頼るなどという原始的なことはやめて、新エネルギーの本命である核融合エネルギーを実用化して、無尽蔵のエネルギーを使えるようにするべきだ」と反論する人がいるにちがいない。しかし、仮に将来、核融合エネルギーの利用が実用化して、エネルギー問題が解決したとしても、核融合炉は食料を生産しないのだから、人口が増え続ければ、食糧危機が起きるだろう。一方で、農業技術が進歩を遂げてはいるが、他方で、沙漠化が進行しており、今後とも増大する食糧需給を満たし続けることができるかどうかはきわめて不透明である。

私たちは、今一度、人類の進歩とは何かという根本的な問いを問い返さなければならない。人類の進歩は、科学・技術・文化といった情報システムの質的向上であって、人口増加のような物質システムの量的増大ではない。私たちの目標は、現実空間に生物遺伝子を残すことから仮想空間に情報遺伝子を残すことに変わるだろう。もちろん、人口が多いほうが、優れた人物も多く現れるのだろうが、教育水準の低い国の人口増加は人類の進歩に寄与しそうにない。出生数を減らしても、一人当たりの教育投資を増やせば、人材の量的減少による質的低下を防ぐことができる。文明を持続可能にするには、文明の規模を自然の許容度の範囲内に収める必要がある。

2. バイオマスエネルギーの利用方法

バイオマスは、今後とも、循環型社会を構築しようとする人類にとって、体内用エネルギー源としてはもちろんのこと、体外用エネルギー源としても、また各種の資材資源としても、重要な役割を果たすだろう。ここでは、体外用エネルギー源としてのバイオマス資源の活用方法について考えてみたい。

バイオマスエネルギーの利用方法はいろいろあるが、エネルギーを取り出す方法という観点からすると、以下の表のように分類することができる。

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このうち、一番上の燃焼は、最も古くから行われているバイオマスの利用方法で、木炭、石炭、石油、天然ガスといったバイオマスの従来の利用方法は、これである。技術的に容易である反面、窒素酸化物や硫黄酸化物といった有害物を放出し、大気を汚染するという欠点がある。

近年の原油価格の高騰のおかげで、バイオディーゼルやバイオエタノールが代替燃料として注目されるようになった。バイオディーゼルは、生物起源の油脂をメチルエステル化し、水分、グリセリン、メタノールを除去することで作られるディーゼル自動車用燃料で、軽油の代替として使うことができる。バイオエタノールは、サトウキビやトウモロコシなどのバイオマスを発酵させ、蒸留して生産されるエタノールで、ガソリンに混入して使うことができる。

バイオディーゼルやバイオエタノールのエネルギー収支が黒字であることを疑う人も多い。Pimentel と Patzek によると、とうもろこしからバイオエタノールを生産するには、それよりも29%多い化石燃料のエネルギーを消費しなければならず、大豆からバイオディーゼルを生産するには、それよりも27%多い化石燃料のエネルギーを消費しなければならない[D. Pimentel, T.W. Patzek (2005) Ethanol Production Using Corn, Switchgrass, and Wood; Biodiesel Production Using Soybean and Sunflower]。

しかし、その後行われた検証によると、彼らは、エタノールの副生成物を入力エネルギーに換算したり、古いデータを使うなどして、バイオ燃料のエネルギー収支を過小評価しているとのことである[Alexander E. Farrell et al. (2006) Ethanol Can Contribute to Energy and Environmental Goals]。多くの研究者は、バイオ燃料のエネルギー収支が黒字であると評価している。農薬や肥料に使うエネルギーを減らせば、黒字幅をもっと拡大することができる。

バイオディーゼルとバイオエタノールは、どちらも、既存の自動車インフラをそのまま使うことができることから、原油価格の高騰に即座に対応できるというメリットをもつ反面、化石燃料ほどではないにしても、燃焼時に窒素酸化物や硫黄酸化物といった有害物を放出するデメリットを持つ。このため、バイオマスから、ガス化または発酵により、水素、メタン、一酸化炭素を取り出し、それを燃料電池の燃料として利用し、発電する方法が研究されている。有害物質を燃料生産時に取り除けば、消費時には、水と二酸化炭素しか出さない。

3. 二酸化炭素問題にどう対処するか

バイオマス・エネルギーの消費は、二酸化炭素を排出し、地球温暖化をもたらす点が問題視されている。そこで、バイオマスの燃焼によって排出される二酸化炭素を回収し、地中の帯水層や油田や深海底などに封入する二酸化炭素隔離の様々なプロジェクトが検討されている。だが、わざわざエネルギーを使って、毒物ではない二酸化炭素をあたかも毒物であるかのように隔離する方法には賛成しかねる。

循環型社会の理念からすれば、二酸化炭素として排出される炭素は、元の形態に戻して隔離する方法が望ましい。人間は、バイオマスの燃焼とセメントの製造により大気中の二酸化炭素濃度を上昇させている。だから、炭素は、バイオマスおよびセメントの原料である石灰石(炭酸カルシウム)に戻すことで貯蔵する方法を優先するべきである。

バイオマスの燃焼で生じた二酸化炭素は、光合成の材料となることで、再び、バイオマス化される。温室栽培で、これを人為的に早める方法が考案されている。バイオマス発電所に温室を併設し、発電で生じた廃熱と二酸化炭素を温室に送り込む方法は、電気と熱と二酸化炭素の三者が有効に利用されることから、日本では、トリジェネレーションと呼ばれている[大阪ガス:トリ・ジェネレーション]。スイカやメロンなど、光合成産物を貯蔵するシンク器官のある植物の場合、高濃度二酸化炭素環境による施肥効果が顕著に現れる。

二酸化炭素をセメントのリサイクルに活用する案も出されている。使用済みのセメントは強度が弱くて、そのまま再利用すると品質上の問題を起こす。そこで、飯塚淳氏は、廃コンクリートから再生骨材を製造する際に廃棄物として排出される廃セメント微粉末に、二酸化炭素を高圧で供給して、炭酸によるカルシウムの抽出を行い、これにより廃セメントからセメント原料となる炭酸カルシウムを生産する方法を提案している[廃セメントを用いた二酸化炭素排出量削減プロセス]。

二酸化炭素の固定化を長期化させるために、木造家屋の建設を優遇する政策も有効だ。木材で建築物を作るのは、日本の伝統なのだが、最近では、コンクリートの建築物に取って代わられつつある。コンクリートの代わりに木材を使えば、木材内の炭素を長期間にわたって貯蔵できるのみならず、セメントを節約することで、二酸化炭素の発生を防ぐことができる。家屋を取り崩すときは、廃材をバイオ燃料として使うことで、化石バイオマスの燃焼を減らすことができる。

木造家屋を奨励すると、森林資源が枯渇すると危惧する人もいるが、木は、ある程度大きくなると、成長が止まり、二酸化炭素をあまり吸収しなくなる。だから、森林は、人間が干渉しなくても、ある程度の期間が経つと、新陳代謝のために山火事を起こす。せっかくの森林資源を燃やすともったいないから、それを人間の生活に役立てようというのが、林業の精神である。森林の再生能力を超えないように、よく管理した上なら、木材の利用が森林破壊をもたらすことはない。

結論

以上、三回にわたって、持続可能な文明のために何が必要なのかを論じてきた。最後に全体をまとめることにしよう。

  1. 人類文明を何千年、何万年と持続できるようにするには、近代になって爆発的に増えた人口を削減しなければならない。今後、世界経済のオートメーション化が進むことで、単純労働者は不要になる。したがって、現在の先進国で起きている、経済の知識集約化による少子化の流れを世界全体に広げる必要がある。
  2. 沙漠化を阻止し、再緑化を行うためには、人口を減らすだけでなく、農薬漬け、肥料漬け、灌漑水漬けの近代農業を見直し、菌根菌を活用した有機農業を行う必要がある。また、沙漠化の直接的な原因となっている放牧を減らし、陸棲動物の代わりに水棲動物を食べ、排泄物を陸上に還元することで、栄養の循環を作り上げるべきである。
  3. 人口を減らし、緑化に成功するならば、豊富になった現役バイオマス資源を、体内用エネルギー源としてのみならず、体外用エネルギー源として活用することができるようになる。植物による生産と動物による消費が均衡すれば、二酸化炭素問題も解決する。人類文明は、植物による扶養能力を超えないなら、持続可能になる。

もしも人類文明が、何千年、何万年と持続するならば、宇宙移民も夢ではなくなるだろう。そうした夢を実現するためには、まずは、目先にある、資源問題と環境問題を解決しなければならない。

謝辞

この1年間、『連山』にて連載してきた「資源問題と環境問題への解決策」は、今回で最終回となります。本連載と平行して執筆した英文書籍“Hydrogen Civilization”は、近く出版される予定です。これまで拙文をお読みいただき、ありがとうございました。

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