1980年代から今日に至るまで、対流圏下層が温暖化しているという事実を確認した。では、現代の温暖化は、過去と比べてどの程度異常であるのか。現在の温暖化のスピードは、過去に例がないほど急激であるのか。現在の地球温暖化の異常性を検証する。
1. ホッケースティック論争
IPCC第三次報告書の政策決定者向け要約には、以下のような、マイケル・マンらによって復元された過去1000年間の北半球における気温変化のグラフが掲げられていた。
この曲線は、その形状から、「ホッケースティック曲線」と呼ばれ、20世紀における気温上昇の異常さを強調するグラフとしてよく引用されたが、後に古気候復元の妥当性をめぐる論争にまで発展した。これが「ホッケースティック論争」と呼ばれるものである。
IPCCの第四次報告書には、問題となったホッケースティック曲線は、掲載されず、代わりに、次のようなグラフが掲載されている。
ホッケースティック曲線とあまり変わりがないように見えるかもしれないが、ホッケースティック曲線よりは、近代小氷期と中世温暖期の存在が確認しやすくなった。
ホッケースティック曲線では、近代小氷期も中世温暖期も明確ではなく、あたかも20世紀以前には気温の変動がほとんどなかったかのような印象を人々に与えたが、第四次報告書の政策決定者向け要約では、近代小氷期の存在を認める記述がなされている。
Average Northern Hemisphere temperatures during the second half of the 20th century were very likely higher than during any other 50-year period in the last 500 years and likely the highest in at least the past 1,300 years. Some recent studies indicate greater variability in Northern Hemisphere temperatures than suggested in the TAR, particularly finding that cooler periods existed in the 12th to 14th, 17th and 19th centuries. Warmer periods prior to the 20th century are within the uncertainty range given in the TAR.
20世紀後半の北半球の平均気温は、90%以上の確率で、過去500年間のどの50年よりも高く、また、66%以上の確率で、少なくとも過去1300年間において最も高かった。最近の研究は、北半球の気温には、第三次報告書で示唆したよりももっと大きな変動があったことを示しており、とりわけ、12世紀から14世紀にかけてと17世紀と19世紀に寒冷な時期があったことを見出した。20世紀以前の温暖期は、第三次報告書で定めた不確定性の範囲内にある。
第三次報告書では、1400年以前のグローバルな気候は、正確にはわからないと書かれていた。
While data prior to AD 1400 were considered too sparse for reliable inferences regarding hemispheric or global mean temperatures, regional inferences were nonetheless made about climate changes further back in time.
西暦1400年以前のデータは、半球規模ないし地球規模の平均気温を推定するには、少なすぎて頼りなかったが、地域の気候変動の推定なら、さらに過去に遡ってなされた。
近代小氷期は、北大西洋沿岸には存在したが、それ以外の地域に関しては、まだよくわからないというのが第三次報告書の結論だった。
第四次報告書でも、近代小氷期を認めはするものの、中世温暖期の存在については、相変わらず懐疑的である。しかし、図2の(b)を見ればわかるように、1000年ごろの気温は、20世紀前半と同じぐらい高かったし、その間の期間は、気温が低かったから、地域差はあったにせよ、中世温暖期と近代小氷期が存在したことは確かであろう。
2. 現代は温暖な時期なのか
現代の気温は、過去1300年間のうちで最も高い水準にあるが、さらに過去に遡って比較するならば、決して異常に高温というほどではない。以下のグラフは、酸素同位対比から推定した過去5億年の気温の変動の推定である。
下にある青い帯は、氷河期ないしそれに準じる寒冷な時期で、オルドビス紀/シルル紀(O/S)、石炭紀/ペルム紀(C/P)間に氷河期があったことを示している。ジュラ紀/白亜紀(J/K)間は比較的寒冷ではあったが、氷河期ではなかった。一番右端は、現代(第三紀)の氷河期である。
氷河期とは、地上に氷床があるほど寒い時期である。現代は、温暖化したとはいっても、まだ、グリーンランドと南極に氷床が存在する。私たちは極地に氷床があることを当然のように考えているが、図3を見てもわかるように,顕生代においては、氷床がなかった時期のほうが普通だったのである。
現代は間氷期だから、氷期と比べれば、もちろん、温暖である。しかし、他の間氷期よりも温暖かといえば、そうとも限らない。今から約12万5千年前の、最終間氷期(Eemian interglacial)の最暖期は、現代よりも温暖であったとみなされている。また現間氷期(完新世)においても、今から9千-5千年前の気候最適期(Climate Optimum )は、現代と同程度の温暖であったと推定されている。
3. 現代の温暖化は急激であるか
次に温暖化のスピードが異常であるかどうかを検討してみよう。第四次報告書によると、1906年から2005年までの100年間で、地表面の温度は0.74℃上昇した [IPCC WG1 AR4 Report:Summary for Policymakers, p.5]。 また、21世紀の100年間で、様々なシナリオに応じて、1.8-4.0℃の気温上昇があると予測している。この気温上昇は、過去に例を見ない異常な現象であろうか。最終氷期が終わった時には、もっと急激な温暖化が起きたのではないのだろうか。
第四次報告書のFAQ6.2は次のように答えている。
The largest temperature changes of the past million years are the glacial cycles, during which the global mean temperature changed by 4°C to 7°C between ice ages and warm interglacial periods (local changes were much larger, for example near the continental ice sheets). However, the data indicate that the global warming at the end of an ice age was a gradual process taking about 5,000 years (see Section 6.3). It is thus clear that the current rate of global climate change is much more rapid and very unusual in the context of past changes.
過去100万年で最大の温度変化は、氷河サイクルで、氷期と間氷期との間には、4-7℃の地球平均気温の変化があった(局地、例えば大陸氷床の近くでの温度変化はもっと大きかった)。しかしながら、データの示すところによると、氷期の終わりにおける地球温暖化は、約5000年かかった緩やかなプロセスであった(6.3節を見よ)。したがって、過去の変化と比べて、現在の地球気候の変動率がはるかに急激で極めて異常であるのは明白である。
最終氷期から現在の間氷期への移行に約5000年かかったといっても、決して、ゆっくりと少しずつ温暖化したわけではない。ジェットコースターのように、急激な温度上昇と急激な温度低下を繰り返しながら、現在の安定した完新世の時代になったのであり、グリーンランドの氷柱データによると、ヤンガードリアス寒冷期終了時には、40年間で8℃という急激な温暖化が起きた [Richard B. Alley: Ice-core evidence of abrupt climate changes]。第三次報告書は、北半球の相当な部分で、50年で10度の温度上昇があったと推定していた [IPCC (2001) How Fast did Climate Change during the Glacial Period?] 。
もとより、これは、グリーンランドという局地でのデータであり、地球の平均気温がその期間でどれだけ上昇したのかは、正確にはわからない。しかしながら、こうした事例を見ると、100年間で0.74℃という上昇スピードが「過去の変化と比べて、現在の地球気候の変動率がはるかに急激で極めて異常であるのは明白である」と断言することはできない。
現在の地球温暖化は、その温度水準という点でも、温暖化の速度という点においても、空前絶後の異常事態というわけではない。だからといって、現在の地球温暖化がどうでもよいことだというつもりはない。地球温暖化の本質的な問題は、温度水準や温度変化率とは別のところにあるのだからである。(続く)
| 書名 | 気候変動 +2℃ |
|---|---|
| 媒体 | 単行本 |
| 著者 | 山本 良一 他 |
| 出版社と出版時期 | ダイヤモンド社, 2006/04/07 |
| 書名 | 氷に刻まれた地球11万年の記憶―温暖化は氷河期を招く |
|---|---|
| 媒体 | 単行本 |
| 著者 | リチャード・B. アレイ 他 |
| 出版社と出版時期 | ソニーマガジンズ, 2004/05 |




コメント
地球温暖化のコメントをHPなどで
記載するときに、このグラフを
掲載したい。
Posted by 渡邉悠三 at 2007年9月19日 15:04
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