地球温暖化をめぐる論争で最も大きな争点は、温暖化は人間活動が原因なのか、それとも自然現象なのかという問題である。温暖化の原因の有力候補は、人間が大気に放出する温室効果ガスと太陽活動である。両者の気温に与える影響力を吟味しつつ、どちらの影響がより強いのかを考えてみたい。
1. 温室効果
IPCCの第四次報告書は、温暖化/寒冷化要因を以下の図にまとめている。この図は、FAQ 2.1にあるものだが、政策決定者向けの要約にも同じような図がある。
放射強制力(Radiative Forcing)とは、対流圏の圏界面で出入りする放射量の変化量のことで、1平方メートルあたりのワット数で表す。放射強制力がプラスだと、宇宙から地球への放射量が増えて、気温が上がり、マイナスだと、その逆が起こり、気温が下がる。温室効果ガスは、地表から放射された赤外線の一部を吸収するので、その増加は、宇宙への放射量を減らすことになるので、プラスの放射強制力があると言うことができる。
図1の筆頭には、寿命の長い温室効果ガス(Long-lived greenhouse gas)として、二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素、ハロカーボン類(フロンなどのハロゲン原子を含んだ炭素化合物)が挙げられている。オゾンは別格扱いになっているが、対流圏内のオゾンは温室効果ガスとして機能する。
図1には、温室効果の8-9割を担っている、最も強力な温室効果ガスである水蒸気が含まれていない。これは、水蒸気の気体としての寿命が短いからではない。個々の水蒸気分子はともかくとして、大気中には常に水蒸気が存在しているから、寿命が短いから影響力がないというわけではない。人類は、灌漑などを通じて、水の蒸発量を増やしているが、その影響は1%程度で、水蒸気は、主として、温暖化が進んだ結果、二次的に増加する、つまり一時的な原因ではない。だから、掲載されていない[RealClimate ≫ Water vapour: feedback or forcing?]。
それならば、なぜ、雲のアルベド効果(Cloud albedo effect)が図1に含まれているのか。
As noted in Ramaswamy et al. (2001), enhanced aerosol concentrations can lead to an increase in the albedo of clouds under the assumption of fixed liquid water content (Junge, 1975; Twomey, 1977); this mechanism is referred to in this report as the ‘cloud albedo effect’.
Ramaswamy et al.(2001) にあるように、水の量が一定であると仮定すると、エアロゾルの濃縮は、雲のアルベドを増加させる(Junge, 1975; Twomey, 1977)。このメカニズムは、本論文では、「雲のアルベド効果」として言及されている。
雲のアルベド効果が、人間活動によって放出されたエアロゾルが雲凝結核となって雲を形成し、それがアルベドを増加させるならば、それは二次的効果でしかないはずだ。成層圏の水蒸気(Stratospheric water vapor)も、人間活動によって排出されたメタンが、成層圏で酸化されたものと説明されている[ibid, p.135]が、それならこれも二次的効果ということにならないのか。たとえ副次的な効果だとしても、それが地球の気候変動に大きな影響を与えているのだとするならば、それらを積分して、放射強制力の収支の内訳を書くべきではないのか。こうした疑問が残る。
2. 太陽活動
地球温暖化をめぐる論争の中で最大の争点は、現在の温暖化の原因は温室効果ガスなのか、太陽活動なのかという問題である。図1では、唯一の自然的プロセスとして、太陽放射(Solar irradiance)が挙げられている(本文中では火山噴火も取り上げられている)が、その影響力は非常に低く(+0.06~ +0.3 Wm-2)見積もられている。
For the period 1950 to 2005, it is exceptionally unlikely that the combined natural RF (solar irradiance plus volcanic aerosol) has had a warming influence comparable to that of the combined anthropogenic RF.
1950年から2005年にかけての期間において、自然の放射強制力の合計(太陽放射と火山のエアロゾル)が、人間活動を起源とする放射強制力の合計に匹敵する温暖化の影響力を及ぼした確率は1%未満である。
IPCCは、太陽活動の気温への影響として、太陽放射の変動しか認めない。太陽放射全体の強度の変動幅は、11年周期で1%以下と小さいから、それだけなら、気温にはほとんど影響を与えないだろう。だが、他方で、紫外部の放射強度は2-3倍にもなり、この点では、地球に無視できない影響を与える。私は、「気候と経済」で、太陽活動が宇宙線を通じて気温に間接的に影響を与えるという Svensmark と Friis-Christensen の説を紹介した。
宇宙線は、超新星残骸などで加速されて、銀河から地表面に降り注ぎ、空気中で、窒素や酸素の原子核に衝突して、陽子、中性子、パイ中間子、ミュー粒子などを発生させ、これらの粒子がさらに、大気の窒素や酸素の原子核に衝突し、多数の粒子を発生させる。粒子が増えると、粒子の周りに水蒸気が集まって、雲が形成されやすくなる。ところが、太陽黒点数が増えると、太陽風(太陽から吹き出す高温で電離したプラズマ)が吹き荒れ、そして、その太陽風が、太陽系外から流入する宇宙線を吹き飛ばす。だから、太陽活動極大期には、宇宙線の流入量が減り、雲が形成されにくくなる。つまり、太陽放射が雲に反射されずに地表に届きやすくなり、気温が上がる。太陽活動極小期にはその逆が起きる。
第四次評価書は、この説の信憑性を不確かだとしている [IPCC (2007) Changes in Atmospheric Constituents and in Radiative Forcing, p.188] 。この説を認めてしまうと、IPCCのこれまでの主張を覆すことになりかねないから、IPCCとしても慎重にならざるをえない。
ここで、もう一度、図1を見ていただきたい。「雲のアルベド効果」の不確定性が最も大きい。第四次報告書は、温室効果ガスの科学的合意(Scientific Understanding)を「高い」としながらも、雲のアルベド効果の方は「低い」としている[ibid, p.203]。要するに、雲量変動のメカニズムは、温室効果変動のメカニズムとは違って、まだよくわからないことがたくさんあるということである。ともあれ、人間が出すエアロゾルだけで雲のアルベドの変動を説明しようとするのは、無理があるのであって、第四次報告書は、次のように、様々な原因の候補を挙げている。
Because the mechanisms are uncertain, the apparent relationship between solar variability and cloud cover has been interpreted to result not only from changing cosmic ray fluxes modulated by solar activity in the heliosphere (Usoskin et al., 2004) and solar-induced changes in ozone (Udelhofen and Cess, 2001), but also from sea surface temperatures altered directly by changing total solar irradiance (Kristjansson et al., 2002) and by internal variability due to the El Nino-Southern Oscillation (Kernthaler et al., 1999).
太陽活動の変動と雲量の見かけ上の関係は、そのメカニズムが不確かなので、太陽圏における太陽活動によって変調する宇宙線束の変化 (Usoskin et al., 2004) や太陽活動によってもたらされるオゾンの変化 (Udelhofen and Cess, 2001) のみならず、全太陽放射の変化が直接的に惹き起こす海表面の温度の変化 (Kristjansson et al., 2002) やエルニーニョ南方振動による内的変動 (Kernthaler et al., 1999)の結果としても解釈されてきた。
実は、雲のアルベド効果は、気温に対して、無視できない影響力を持つ。
Clouds, which cover about 60% of the Earth’s surface, are responsible for up to two thirds of the planetary albedo, which is about 30%. An albedo decrease of only 1%, bringing the Earth’s albedo from 30% to 29%, would cause an increase in the black-body radiative equilibrium temperature of about 1°C, a highly significant value, roughly equivalent to the direct radiative effect of a doubling of the atmospheric CO2 concentration.
雲は、地表面の約60%を覆っており、地球全体のアルベドの2/3を担っている。地球のアルベドは、約30%である。地球のアルベドが30%から29%へと、たった1%下がるだけで、黒体放射平衡温度を約1℃上げることになる。これは大変な数字で、大気中の二酸化炭素濃度を倍にしたときの直接的な放射効果とほぼ同じである。
今後、気候を変えているのは人間なのか自然なのかという論争は、雲のアルベドを変化させている原因は何なのかという問題をめぐって行われうることになるだろう。
3. 温室効果かそれとも太陽活動か
現代の地球温暖化をもたらしているのは、温室効果なのか、それとも太陽活動なのかという本題に戻ろう。以下のグラフは、世界の地表面気温とハワイのマウナロア山で観測した二酸化炭素濃度の変化を表している。
両者の相関性はよいが、だからといって、気温上昇の原因が二酸化炭素だと速断できない。気温が上昇すると、海中から二酸化炭素が放出されるので、二酸化炭素濃度が上昇する。だから、両者の相関性が高いとしても、どちらが原因で結果かはわからない。同じことは、もう一つの温室効果ガスであるメタンについても言える。気温が上昇すると、海底や永久凍土にあるメタンハイドレードが気化して空中に放出されるので、メタン濃度が上昇する。以下の図3は、過去20万年間の二酸化炭素濃度と気温とメタン濃度の変化の復元したものだが、人間の影響が出る以前から、三者の相関が高かったことがわかる。
どちらが原因でどちらが結果かわからないという問題は、しかしながら、太陽活動と気温の相関に関しては生じない。太陽は地球よりも圧倒的に大きいので、太陽は地球に大きな影響を与えることができるが、地球が太陽に大きな影響を与えることはまず不可能である。
では、太陽活動と気温との間には、どのような相関性があるのだろうか。以下のグラフは、1881年から2006年までの毎年の太陽黒点数と気温との関係を示したものである(太陽活動は、太陽黒点数と密接に関係している)。
これでは、両者の関係がよくわからないので、太陽黒点数の主要周期を平準化するべく、11年移動平均の値で比較してみよう。
両者は、1940年頃までは、同じ長期的トレンドを示しているが、1940-70年の間は、太陽活動が盛んであるにもかかわらず、気温は低下傾向を示し、1990年以降は、太陽活動が低下しているにもかかわらず、気温が急激に上昇している。このような乖離が生じるのは、1940-70年の間は、エアロゾルによるアルベド効果で気温が押し下げられ、1990年以降は、温室効果が顕現してきたからだと解釈することができる。
地表面平均気温のデータを使うと、ヒートアイランド現象の影響を指摘して、異論を唱える人が出てくるので、次に気象衛星から測定した対流圏下層のグローバルな平均気温と太陽黒点数の関係を見てみよう。1979年以降、毎月のデータがあるが、季節要因を除外するために、12ヶ月移動平均を用いている。
このグラフを見ると、1992年あたりから相関性が崩れ始め、特に2001年以降、太陽活動が低下しているにもかかわらず、気温が上昇傾向を示しているということを見て取ることができる。
太陽活動は、太陽黒点数のみならず、太陽黒点数の周期の長さとも相関していることがわかっている。太陽黒点数の主要周期は11年であるが、実際には、それよりも長くなったり、短くなったりしている。太陽活動が活発になり、太陽黒点数が大きくなると周期が短くなり、逆だと長くなるという傾向がある。以下の図7を見てもわかるように、太陽黒点数そのものよりも、周期の長さの変動の方が、気温変動との相関性が高い。この図に関しては、補正の恣意性が指摘されることがあるが、もしもこの図におけるSCLが太陽活動を正確に反映しているとするならば、これならば、エアロゾルを持ち出さなくても、1940-70年の寒冷化を説明できる。
太陽の磁性反転の周期をヘール周期といい、11年周期を二つあわせた22年周期となっている。以下の図8は、太陽の磁性反転の周期の変動と気温の変動を重ね合わせたものだが、1860年以前も高い相関性を示している。
図1によれば、太陽活動の変動は、1750年から2005年にかけての気候変動にほとんど影響を与えていないということになるのだが、図8を見るならば、むしろ気候変動のほとんどすべてが太陽活動の変動によって決められているのではないかと考えたくなる。もとより、このグラフに関しては、気温復元に用いられるプロキシーデータの選択が恣意的だという批判もある。
図7も図8も、1990年代以降の最新のデータがないが、これは問題だ。太陽周期の正確な測定には、フィルタによる補正が必要なのだが、補正前のデータで言うならば、11年周期の極小期から極小期の長さは、1976年7月から1986年6月までは119ヶ月、1986年6月から1996年10月までは124ヶ月、1996年10月から2007年4月までは125ヶ月というように、長くなる傾向にあり、本来なら寒冷化してもよさそうなのだが、気温はこの間ずっと上昇している。図5と図6でも確認したように、最近十数年間の気温上昇は、太陽活動だけで説明するのは困難である。
二酸化炭素温暖化脅威説の否定論者である槌田敦氏も、「CO2温暖化脅威説は世紀の暴論」(1998年)では気候変動を太陽活動で説明していたが、2006年に出版した本では、大気汚染で現代の温暖化を説明する新しい仮説を打ち出している [槌田 敦:CO2温暖化説は間違っている, p.82-92]。槌田によると、対流圏を汚染する白いエアロゾルは寒冷化をもたらすが、黒いエアロゾルは、太陽光を吸収するので、上空の温度を上げる。対流は、地表面が温められ、上空が冷やされることで起きるわけだから、上空の温度上昇は、対流を弱めることになる。対流が弱くなると風が吹かなくなり、水が気化熱を奪って蒸発しなくなるので、地表面も暑くなる。また、大気汚染物質は、温室効果ガスと同様に、放射冷却を妨害する。これら三つの原因により、現代の地球温暖化が起きているというわけである。
もしもこの仮設で現代の気候変動を説明しようとするならば、1940-70年の間は、白いエアロゾルが増えて気温が低下し、1990年以降は、黒いエアロゾルが増えて気温が上昇したということになるが、このようなエアロゾルの種類の劇的な変化が起きたという話は聞いたことがない。現代の科学的知見では、1990年以降の気温上昇を、温室効果で説明するしかないだろう。
4. 論争の利害関係を読み解く
二酸化炭素温暖化説の否定論者というと、石油産業から金をもらっている御用学者と決め付ける風潮が世間で強いようだ。確かに、Sallie Baliunas(図8の論文の執筆者)のように、アメリカ石油協会(American Petroleum Institute)から資金提供を受けている否定論者もいるが、そうでない人もいる。例えば、槌田氏は、原発反対運動をやってきた人で、近年「原子力発電は、二酸化炭素を出さないクリーンなエネルギー」というキャッチフレーズのもと原発増設の動きが強まっていることに危機感を抱いて、否定論者になったようだ。槌田氏は、「原発業界がこのCO2温暖化説の仕掛け人で、各国政府に働きかけて、CO2温暖化説の科学者に研究費を出させた」[槌田 敦:CO2温暖化説は間違っている, p.82-92]とすら言っている。
私は、原発業界がそれほど強い政治力を持っているとは思わないが、他方で、IPCCの気象学者たちが、完全に中立的で客観的な立場から、報告書を書いているとも思わない。人間活動が原因で異常気象が起きているということになれば、人間の努力でそれを防ぐことができるということになるのだから、政策決定者たちはそれに関心を持ち、気象の研究に多額の予算を付けてくれる。だから、気象学者としては、自分たちへの予算が増える方向へと結論にバイアスをかけたくなる。二酸化炭素温暖化説の否定論者には、専門が気象学でない人が圧倒的に多いが、これは、二酸化炭素温暖化説が否定されても、自分たちの研究資金が減ることがないからだ。もちろん、こうした政治的動機からは自由に中立的で客観的な研究をしている科学者もいるのだろうが、いずれにせよ、権威を盲信して専門家の言うことを鵜呑みにせず、自分の頭でよく考えて情報選択していく態度が必要だ。
| 書名 | CO2温暖化説は間違っている |
|---|---|
| 媒体 | 単行本 |
| 著者 | 槌田 敦 |
| 出版社と出版時期 | ほたる出版, 2006/02 |





コメント
はじめまして。コメント投稿ではなく、(連絡方法が他に見当たらなかった為)リンクのリクエストの為に書いております。当方、この度上記URLのブログを立ち上げましたが(学術系でない温暖化関連)、リンクには(CO2説のみでなく)多様性を持たせたいと考えております。そう云った理由から、是非ともこちらのページへのリンクをはる許可をいただきたく存じます。
お忙しいところ大変恐れ入りますが、お返事いただければ幸いです。
----------------------PDA
環境対策は地球規模で分散的に行う必要があります。
自由にリンクをして下さい。何が質問がありましたら
永井俊哉編集長が出来る範囲でご協力します。
Posted by 永井 由布子 at 2007年7月21日 00:33
有難うございます。
Posted by 永井 由布子 at 2007年7月25日 23:39
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