地球温暖化(7)温度変化の影響

地球温暖化は様々な問題を惹き起こすと考えられているが、大きく分類すると、温暖上昇がもたらす問題と温度変化がもたらす問題の二つに分類できる。今回は、まず、温度変化がもたらす問題、すなわち、温暖化であれ、寒冷化であれ、気温が変動することで生じるリスクについて考えてみたい。

1. 地球温暖化がもたらす影響

地球温暖化の影響を評価することは、IPCC第二作業部会の仕事である。2007年6月現在、フルレポートはまだ公開されていないが、政策決定者向けの要約は公開されている。この要約の14~15ページに、温暖化が惹き起こすと予想される現象の一覧表がある。日経BPが、環境省の仮訳をもとに、簡潔にまとめているので、それを引用しよう。

3万件のデータが導き出した
「最悪のシナリオ」
21世紀半ばから後半までの予測に基づき、極端な気象及び気候現象の変化に起因する気候変化の潜在的な影響の例 [ECOマネジメント:3万件のデータが導き出した 「最悪のシナリオ」,IPCC報告の衝撃-1]

地球温暖化が及ぼす影響の中には、好ましいものもある。温暖化といっても世界各地で均等に温度が上昇するわけではなく、高緯度ほど温度が上昇する。つまり、暑いところはあまり暑くならず、寒いところほど暖かくなる。だから、高緯度地帯に住む人には、暖房費を節約できるというメリットがある。寒さが直接または間接の原因で死ぬ人も減る。気温が上昇すれば、蒸発や蒸散が盛んになり、降雨量も増える。飲み水や、農業用水、工業用水に困らなくなる。二酸化炭素濃度も増えるから、植物の光合成も盛んになり、豊作となる。「昆虫発生の増加」も豊作が原因である。

この表の一行目にある「ほぼ確実」のところには、温暖化のデメリットだけではなく、以上述べたようなメリットも書かれている(日経版では省略されているが、原文には書かれている)。しかし、二行目以降は、それよりも可能性は下がるが、熱波、豪雨、旱魃、サイクロン、高潮など、デメリットばかりが書かれている。これは、地球の平均気温が1990年と比べて1-3℃未満の上昇なら、地域と分野によってはデメリットよりもメリットのほうが多いが、2-3℃以上の上昇なら、世界のどの地域でも、メリットよりもデメリットが大きくなるという第四次評価報告書の予測 [IPCC (2007) Impacts, Adaptation and Vulnerability - Summary for Policymakers, p.17] に符合している。

地球温暖化にはどのようなデメリットがあるのか。私たちは、それらに対して、どのように対処すればよいのか。以下、今回と次回の二回にわたって、地球温暖化のデメリットを一つずつ検討していきたい。

2. 海面変動がもたらす問題

港湾施設にとっては、海面水準は安定しているのが一番望ましく、上昇も下降も望ましくない。海面が下降すれば、接岸に支障をきたしたり、船が座礁しやすくなるなどの弊害が出てくる。もとよりそれは一時的な問題で、新たに適切な位置に港湾を作ればよいだけのことだが、海面上昇は、それよりももっと深刻な悪影響をもっと広範囲な地域に及ぼす。海面上昇は、たとえわずかな規模だとしても、洪水による浸水リスクを高めるし、大規模であれば、人類の可住地域を狭める。完全に水没する島も出てくるだろう。

では、地球温暖化により、海水面は実際にどの程度上昇したのだろうか。第四次報告書は、20世紀全体を通しての上昇幅を、0.17(0.12-0.22)メートルと見積もり [IPCC (2007) The Physical Science Basis - Summary for Policymakers, p.7]、また、現在 (1980-1999) から今世紀の末 (2090-2099) までの上昇幅を六つのシナリオで 0.18-0.59 メートルと予測している [IPCC (2007) Global Climate Projections, p.750]。

Observations: Oceanic Climate Change and Sea Level
1961-1990年を基準としたグローバルな海水面偏差の毎年の平均(単位はミリ)。赤色のデータは、1870年以降の復元値、青色は1950年以降の検潮器による測定値、黒色は、衛星による高度測量の値。誤差の縦棒は、90%の信用区間。 [IPCC (2007) Oceanic Climate Change and Sea Level, p.410]

米国環境保護庁は、21世紀末までに数メートル規模の海面上昇が起きると、1980年代に予測していたが、実際には、海面上昇のスピードはもっと遅いということがその後判明した。温暖化により極地の氷が溶けていることは確かであるが、温暖化の初期の段階で溶けるのは、海中に浮いている氷であって、陸上にある氷ではない。海中の氷は溶けた時の体積を予め押し下げているので、溶けても海面水準に変化を及ぼさない。他方で、温暖化は水の体積を膨張させる。第四次報告書によると、1993年から2003年までの間に生じた海面上昇のうち、51.6%は、熱膨張による上昇だった [IPCC (2007) The Physical Science Basis - Summary for Policymakers, p.7]。

グリーンランド氷がすべて溶ければ、海面は7メートル上昇するとみられている [IPCC (2007) The Physical Science Basis - Summary for Policymakers, p.17] が、こうした大規模な海面上昇が起きるのは、22世紀以降の出来事となるだろう。大規模な海面上昇が100年以上先ということならば、水没する地域にある人工物はそれまでに寿命を迎えるので、防波堤を築くといった小手先の対応策よりも、都心を内陸に向けて少しずつシフトしていく方法のほうが根本的な解決策になる。コストもそのほうが安くつくだろう。問題は、海面上昇の正確な予想ができない点にある。

3. 気候変動による絶滅種の増大

温度変化がもたらすもう一つの問題は、絶滅種の増大である。生物は、それぞれ特殊な環境に適応しているので、温度は安定しているのが一番で、温暖化であれ寒冷化であれ、通常とは異なる温度変化は、生物の生存には不利である。第四次報告書は、生物多様性の危機を次のように警告している。

Approximately 20-30% of plant and animal species assessed so far are likely to be at increased risk of extinction if increases in global average temperature exceed 1.5-2.5°C.

もしも地球の平均気温が1.5-2.5℃以上上昇したなら、今のところ評価の対象となっている動植物の種のうち約20-30%が絶滅の危機に瀕しやすくなる。

2004年に『ネイチャー』に掲載されたレターでも、2050年までに生物種の4分の1が危なくなるというシミュレーションの結果が出ていた。

Using projections of species’ distributions for future climate scenarios, we assess extinction risks for sample regions that cover some 20% of the Earth’s terrestrial surface. Exploring three approaches in which the estimated probability of extinction shows a power law relationship with geographical range size, we predict, on the basis of mid-range climate-warming scenarios for 2050, that 15-37% of species in our sample of regions and taxa will be‘committed to extinction'.

将来の気候変動のシナリオに対する種の分布の予測を用いて、地表面の約20%をカバーするサンプル地域の絶滅リスクを査定した。絶滅の評価された確率が地理的範囲の大きさとべき乗則の関係を示している三つの方法を調査したところ、私たちは、2050年までの中位の気候温暖化のシナリオに基づいて、サンプルに選んだ地域と分類群において、15-35%の種が「絶滅の危機に瀕する」と予測する。

温暖化で絶滅が危惧されている生物にサンゴがある。サンゴの生息可能温度は、上限も下限も限られていて、海水温が高温になっても低温になっても、サンゴの白化(coral bleaching)が起きる。サンゴの白化は、海水の温度上昇だけではなく、酸性化によっても起きると考えられている。

Evidence indicates that emissions of carbon dioxide from human activities over the past 200 years have already led to a reduction in the average pH of surface seawater of 0.1 units and could fall by 0.5 units by the year 2100.

人間が過去200年間にわたって排出した二酸化炭素のおかげで、海洋表層水のpHが、平均で0.1減少し、2100年までには0.5減少しうるということが証拠からわかる。

二酸化炭素は、水に溶けると弱酸の炭酸となるので、海洋の酸性化をもたらす。サンゴは、海中に溶けている炭酸イオンと岩石から溶け出したカルシウムイオンから炭酸カルシウムを作り、死後、これを石灰岩として海底に蓄積する、炭素貯蔵庫としての役割を果たしている。だから、サンゴが著しく減ったり、絶滅したりすると、海洋の二酸化炭素吸収力が下がり、さらに温暖化を加速することになる。

サンゴは特殊な例だが、気候変動によって絶滅する種が出てきても、どのみち、生き残った種が進化して、空いたニッチを埋めるべく適応放散するであろうから、気にする必要はないではないかという人もいるだろう。もしも地球温暖化が、ある種にとっては好ましくはないが、ある種にとっては好ましいといった類の気候変動であるとするならば、たしかに、絶滅する種に人類が入っていない限り、たいして気にする必要はないだろう。問題は、現在の地球温暖化が生命一般にとって望ましくないかどうかであって、これについては、またあとで取り上げることにしたい。(続く)

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