植物は、海洋とともに、重要な二酸化炭素吸収源である。人口爆発により、森林伐採と沙漠化が世界中で進んでいる。こうした植生の後退は、二酸化炭素濃度を上昇させることで、地球温暖化を悪化させていると考えられているが、これに異論を唱える人もいるので、植物が果たす役割について、改めて考えてみたい。
1. マラケシュ合意をめぐる論争
2001年10月に、モロッコのマラケシュで、第7回気候変動枠組条約締約国会議が開かれ、京都議定書の運用細則を定める文書が正式に採択された。この所謂マラケシュ合意では、新規の植林や再植林だけでなく、既存の植生の管理によって確保される吸収分も京都議定書で目標とされている削減分にカウントできるようになった[United Nations Framework Convention on Climate Change (2001) Report of the conference of the parties on its seventh session]。これは、目標の達成が困難な日本などの国が、目標のハードルを少しでも下げようとした結果の苦肉の策で、結果として、日本は、1300万炭素トン(1990年総排出量比3.9%)を上限に、自国での森林管理による吸収分を算入できることになった。
こうした、植物を二酸化炭素のシンク(貯蔵庫)として活用しようとする動きに対しては、批判も強い。植物が吸収し、固定化した炭素は、最終的に分解や火事などで二酸化炭素に戻るから、新たに植林でもしない限り、二酸化炭素削減効果はないというわけだ。例えば、北海道大学教授の福田正己氏は、頻発する森林火災を根拠に「世界の森林はCO2の吸収源ではなく、放出源になっている」[さがら 邦夫 他:地球温暖化は阻止できるか―京都会議検証, p.138-139]とすら言っている。
しかし、植物が、空中の二酸化炭素から取り入れた炭素をすべて二酸化炭素として空中に送り返しているという考えは間違っている。
After generations and millennia, much of the carbon stored in plants moves to the soil, such that currently the global soil carbon sink is about three times larger than that of global standing live vegetation.
植物に蓄えられた炭素の多くは、数千年間の世代交代を経て、土壌に移行しており、その結果、地球の土壌の炭素貯蔵は、目下、全世界の現役の植物の炭素の約三倍の量になっている。
石油・石炭・天然ガスといった化石燃料の炭素も、その起源を辿ると、大半は、植物が光合成により空中から固定した炭素に行き当たる。石油・石炭・天然ガスは、現在も自然によって作られており、そのプロセスを促進することは、これらの消費を減らすことと同様の二酸化炭素削減効果がある。
もとより、山火事などが起きれば、炭素の大部分は、二酸化炭素として、空中に放出される。自然界でこれまでそうだったように、森林火災が、木の寿命である100年から200年くらいの間隔で起きると、新陳代謝を促進して、長期的に見れば、より多くの二酸化炭素を吸収する。しかし、最近では、人間によるずさんな森林開発のおかげで、もっと短いサイクルで火災が発生するようになり、その弊害が顕在化してきている。
だから、既存の森林を管理することも、二酸化炭素濃度の上昇を抑制する上で有効である。寿命に達する前に、そして火事で燃える前に、その木材を利用し、最終的には、燃料として使えば、化石燃料の使用を減らすことができる。化石燃料という退役したバイオマスの貯蔵を使わずに、現役のバイオマスだけで、エネルギーが調達できるようになれば、それはカーボンニュートラルであり、かつ持続可能なエネルギー利用ということになる。
2. 植物が出す温室効果ガス
植物は、代表的な温室効果ガスである二酸化炭素を吸収し、固定するが、それ以外の温室効果ガスを出すことで、地球温暖化の原因になっていると主張する人たちがいる。
マックス・プランク研究所のフランク・ケプラーたちは、2006年の1月に、好気的条件下で、陸上植物がかなりの量のメタンを出しているという論文を発表した [Frank Keppler et al.(2006) Methane emissions from terrestrial plants under aerobic conditions]。ケプラーたちは、植物の細胞壁を形成しているペクチンが関与しているのではないかと推測し、リンゴから精製したペクチンからメタンが発生することを実験で示した。
メタンというと、腐敗した植物を微生物が嫌気的に分解して作り出すというイメージが強いが、これとは別に、生きている植物も、酸素に富んだ環境で、その10倍以上も多いメタンを放出しているというのである。メタンの温暖化効果は、二酸化炭素の21倍もある。メタンの大気中での寿命が二酸化炭素よりも短いとはいえ、これが本当なら、植物には、地球温暖化を促進している側面があるということになるので、この論文は世界的に大反響となった。
ところが、今年になって、トム・デュックらのオランダの研究チームが追試を行い、ケプラーたちの主張を否定する報告をした[Tom Dueck et al.(2007) No evidence for substantial aerobic methane emission by terrestrial plants: a 13C-labelling approach]。このチームは、炭素13(13C)でレイベリングした二酸化炭素の環境下で六種類の植物を育て、その植物が好気的条件下で出す炭素13のメタンの量を測定したところ、その量は、ケプラーが報告した量の0.3%以下で、事実上植物はメタンを出さないと言っている。
ケプラーはこれに対して、炭素13を使ったことで、植物の代謝選好が変わったのではないかと言っているが、デュックは、そのような説には根拠がないと反論している。かくして、このメタン論争は、1989年の常温核融合論争のような様相(世間の耳目を集めた意外な実験結果と再現不能性がもたらす懐疑)を呈してきた[Chemistry World:Scientists clash on methane mystery]。論争はまだ決着していないが、今のところ、追試による再現ができていない以上、ケプラーの説を認めるわけにはいかない。
植物が出す最強の温室効果ガスは、水蒸気である。植物は、気孔から大量の水蒸気を出しているが、これが温暖化問題を悪化させるということはない。水蒸気は、濃度がある程度高くなると、雨となってまた地上に戻ってくる。二酸化炭素やメタンは、濃度が高くなったからといって、液体となって降ってくるということはない。また、植物が行う蒸散は、気化熱を奪うから、その点では、地表面の温度を下げる効果がある。
3. 植物被覆によるアルベドの低下
植物は、光合成をするために、太陽光を吸収するが、植物被覆が減って地面が露出すると、太陽光が反射されやすくなる。実際、砂漠の夜は、放射冷却が激しいので、とても冷え込む。だから、沙漠化は、地表面のアルベドを高め、寒冷化をもたらす効果がある [Charney, J.G. (1975) Dynamics of deserts and drought in the Sahel] 。IPCC第四次報告書も、土地利用の変化によるアルベド上昇の放射強制力を-0.2(W/m2)としており、エアロゾル放出によるアルベド上昇の放射強制力、-0.5(W/m2)ほどではないが、かなりの寒冷化効果を認めている[IPCC (2007) Summary for Policymakers, p.4]。
とはいえ、これを根拠に、沙漠化は温暖化防止に役立つので望ましいと主張することは、大気汚染が温暖化防止に役立つので望ましいと主張するのと同じぐらいばかげている。太陽光を利用せずに宇宙に跳ね返すことは、エネルギー利用という点で望ましくないのであって、その結果生じる寒冷化は、「悪い寒冷化」であって「良い寒冷化」ではない。これについては、このシリーズの「温暖化問題の本質」で改めて取り上げることにしよう。
4. 結語
IPCC第四次評価報告書は、森林伐採などの土地利用変化がもたらした二酸化炭素の増加量は、化石燃料の燃焼やセメント製造がもたらした二酸化炭素の増加量の三分の一にまで上ると見積もっている [IPCC (2007) Couplings Between Changes in the Climate System and Biogeochemistry, p.527]。沙漠化は、二酸化炭素濃度上昇に無視できない影響を及ぼしている。
植物は、二酸化炭素の吸収や蒸散により、地球温暖化の抑制に貢献している。アルベドの低下や温室効果ガスである水蒸気の排出は温度上昇をもたらすが、どちらも人間を含めた生命にとって有益であり、有害視することは妥当ではない。植物は、地球温暖化問題の解決にとって必要なだけでなく、栄養の循環と水の循環を作り出す上で、生命にとって重要な役割を果たしている。だから、人類は、塩害を惹き起こさないように注意しつつも、沙漠化した地表面を再緑化することが必要である。
| 書名 | 地球温暖化と森林ビジネス―「地球益」をめざして |
|---|---|
| 媒体 | 単行本 |
| 著者 | 小林 紀之 |
| 出版社と出版時期 | 日本林業調査会, 2005/08 |
| 書名 | 森とCO2の経済学―地球温暖化対策への新提言 |
|---|---|
| 媒体 | 単行本 |
| 著者 | 三橋 規宏 |
| 出版社と出版時期 | PHP研究所, 1997/09 |

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