地球温暖化(8)温度上昇の影響

前回に引き続き、地球温暖化が与える影響について検討する。気温上昇は、降雨量、植生、洪水や暴風といった異常気象の発生、熱塩循環(深層海流)にどのような影響を与えるのかを考えよう。

1. 降雨量の二極化

地表面が温暖化すれば、水の蒸発量も増えるが、蒸発した水は、雨としてまた地表面に戻ってくるのだから、地球全体では降雨量が増えるはずである。クラウジウス-クラペイロンの式から、1℃の気温上昇で大気の保水能力は7%増加することがわかる。第四次報告書は、20世紀全体を通して、大気中の水蒸気量は、5%増えたと認識している [IPCC (2007) Observations: Surface and Atmospheric Climate Change, p.262]。

しかしながら、以下のグラフを見ればわかるように、温暖化と降雨量との関係は、それほど単純ではない。1976年以降、気温が上昇している一方で、降雨量は減少し、最近ではまた増加に転じている。飽和水蒸気量が増大しても、水の循環が停滞するならば、温暖化は降雨量の増大をもたらさない。 

Observations: Surface and Atmospheric Climate Change
1990年から2005年までの陸地全体での平均降雨量 [IPCC (2007) Observations: Surface and Atmospheric Climate Change, p.254]

過去25年間の降雨量の変化を緯度別に分析してみると、ハドレー循環が上昇する、北緯25度-南緯25度間の赤道付近では、この25年間で降雨量が4%増加したが、陸地での2%の減少が足をひっぱている [IPCC (2007) Observations: Surface and Atmospheric Climate Change, p.260]。陸地で降雨量が減ったのは、熱帯雨林の乱伐が原因と見られる。また、温暖化といっても、低緯度地帯はあまり温度が上昇しないので、温暖化による降雨量の増大効果はあまりない。ハドレー循環が下降する中緯度高圧帯では、陸地でも海でも降雨量が減っている。温暖化で乾燥が激しくなっている一方で、蒸発した水がこの地域では降らない。代わりに、高緯度地帯の降雨量は増える。

乾燥地域はより乾燥し、多雨地域はより多雨になるという降雨量の二極化が起きているわけで、第四次報告書は、この傾向が今後も続くとみている。 

By mid-century, annual average river runoff and water availability are projected to increase by 10-40% at high latitudes and in some wet tropical areas, and decrease by 10-30% over some dry regions at mid-latitudes and in the dry tropics, some of which are presently water stressed areas.

21世紀の中頃までには、毎年平均の川の流水量と水の入手可能性は、高緯度地帯と一部の熱帯の湿地帯では、10-40%増加し、中緯度の一部の乾燥地域と乾燥した熱帯地域では、今でも水不足が逼迫しているのだが、10-30%減少すると予測されている。

2. 植生への影響

二酸化炭素は光合成の材料であるから、二酸化炭素濃度の上昇は、植物の光合成にとって好ましい影響を与えると考えられている。特に高緯度地帯では、降雨量の増大と気温の上昇により、豊作になることが期待されるが、実際には、地球温暖化は、農業にとって好ましくない影響をも与える。

まずは、二酸化炭素濃度の上昇がもたらす効果について考察しよう。以下のグラフを見てもわかるように、二酸化炭素濃度が増えると、光合成の収量も増加する。

地球温暖化とその影響―生態系・農業・人間社会
二酸化炭素濃度の上昇がもたらす収量の増加 [内嶋 善兵衛:地球温暖化とその影響―生態系・農業・人間社会, p.106]

しかし、限界相対収量は、二酸化炭素濃度の上昇とともに逓減し、最終的にはゼロになる。これは光合成の速度を決める他のファクターが足を引っ張るためである。以下のグラフを見ると、光合成速度の上昇に伴って、水の利用効率が上がり、蒸散によって捨てる水の量も減っていくことがわかる。イネと比べると、トウモロコシの葉の光合成速度は、比較的低い二酸化炭素濃度で頭打ちになる。これは、効率よく二酸化炭素を集めることができるC4植物のトウモロコシのほうが、そうでないC3植物のイネよりもので、早い段階で水の利用効率が頭打ちになるからだと考えることができる。

地球温暖化とその影響―生態系・農業・人間社会
作物の葉の光合成速度と蒸散速度の二酸化炭素濃度による変化 [内嶋 善兵衛:地球温暖化とその影響―生態系・農業・人間社会, p.102]

水と二酸化炭素という光合成の直接の材料のみならず、リンやカリウムといった無機肥料も制約条件となる。無機肥料が不足していると、水や二酸化炭素がいくらあっても、豊作にはならない。

では、温度上昇は収穫にどのような影響を与えるのだろうか。下のグラフは、イネの玄米収量に対する登熟期(実を結んで成熟していく時期)の平均気温、二酸化炭素濃度、太陽エネルギーの影響を表したものである。太陽エネルギーが大きくなるほど収量は増え、二酸化炭素濃度倍増の効果も大きくなるが、登熟期平均気温には最適値があって、暑すぎても寒すぎても収量が減るということがわかる。

地球温暖化とその影響―生態系・農業・人間社会
イネ(コシヒカリ)の玄米収量に対する登熟期平均気温、二酸化炭素濃度(ppmv)、太陽エネルギー(MJ/m2)の影響 [内嶋 善兵衛:地球温暖化とその影響―生態系・農業・人間社会, p.109]

温度が高くなると、作物の成熟が早まるが、でんぷんの蓄積が不十分で、まずくなる傾向がある。最適気温は種によって異なるから、温暖化が進むなら、品種改良や品種変更をする必要が出てくる。総じて、高緯度に存在する先進国は、工夫次第で、地球温暖化を農業生産性の向上に利用することができるが、中低緯度に存在する発展途上国での農業は、利益よりも不利益を被ることになるだろう。

3. 洪水と暴風

海水温が上昇すると、台風、ハリケーン、サイクロンといった熱帯性低気圧が発生しやすくなると言われている。21世紀の末までの海面上昇は、0.18-0.59 メートルとわずかであるが、わずかであっても、これとの相乗効果により、洪水のリスクが高まる。地球温暖化により、洪水や暴雨風といった異常気象が発生し、被害額が増えているという認識を持つ人は多い。

例えば、国立環境研究所の原沢英夫氏は、以下のようなデータで、温暖化の進行とともに異常気象による被害が増加しているという。

原沢英夫: 国内外の異常気象等の状況について, 気候変動に関する国際戦略専門委員会提出資料, 中央環境審議会地球環境部会(平成17年10月3日)

「被害額は近年に急増している」とあるが、計測単位であるドルの価値が下落していることや、人口や経済や保険の規模自体が大きくなっていることから、これだけでは、異常気象が増えているかどうかは判断できない。

下のグラフは、報告されている災害の数で、こちらは経済の影響を受けにくい。もとより、この図の注釈にあるように、情報アクセスの改善や人口増加によって、実際以上に水増しされているが、洪水とサイクロンの数は、地震の数よりも増え方が急激であり、地球温暖化の影響ではないかと推測されている。

Is climate change increasing the frequency of hazardous events?
報告された、洪水(青色)、サイクロン(灰色)、地震(赤色)、すべての災害(黒色)の数の変化 [Pascal Peduzzi (2004) Is climate change increasing the frequency of hazardous events?]

最近、多大な被害をもたらした暴風としては、2005年に米国南東部を襲い、1836人の死者を出したハリケーン・カトリーナが有名である。しかし、これと地球温暖化が関係があるかどうかは、研究者の間でも意見が分かれる。温室効果ガスにより、地表面に滞留するようになった過剰な熱エネルギーが暴風を惹き起こすという考えもあれば、低緯度と高緯度との温度勾配が弱まることで、かえって風が弱くなるという考えもある。

2005年1月に、第四次評価報告書の作成に携わっていたクリストファー・ランドシー(Christopher Landsea)が、彼の抗議にもかかわらず、地球温暖化が最近のハリケーン活動に寄与しているとするケビン・トレバース(Kevin Trenberth)に抗議して、IPCCの仕事を辞任するといったアクシデントも起きている [Prometheus: Chris Landsea Leaves IPCC Archives] 。クリストファー・ランドシーは、ハリケーンと長期的な温暖化傾向は関係なく、ハリケーンが活発になっているのは、大西洋の塩分濃度や水温が40-60年周期で変化しているためだとしている。

ランドシーを含むアメリカの科学者は、「最近の大西洋でのハリケーン活動の増加:原因と含意」と題するレポートで、1948-1964年は、1995年以降と同様に、ハリケーンが多かったことを指摘し、地球温暖化が1995年以降のハリケーンの多発の原因であるという通説に疑問を投げかけている。

Number of major hurricanes from 1944 through 2000 (32). Less reliable data before routine aircraft reconnaissance dictate caution in the use of these data before 1944 (33). Solid horizontal reference line corresponds to sample mean (2.3). Dashed curved line is 5-year running mean. Also shown is the threshold of three major hurricanes per year (dashed straight line).
1944年から2000年にかけての主要なハリケーンの数の推移。棒グラフは平均からの偏差で、点線の折れ線は5年移動平均。1965年から1994年までは、3以下であったことが、このグラフからわかる。[S.B. Goldenberg, C.W. Landsea, A.M. Mestas-Nunez, W.M. Gray (2001) The Recent Increase in Atlantic Hurricane Activity: Causes and Implications]

One may ask whether the increase in activity since 1995 is due to anthropogenic global warming. The historical multidecadal-scale variability in Atlantic hurricane activity is much greater than what would be "expected" from a gradual temperature increase attributed to global warming

1995年以降の活動の増加が人間活動を原因とする地球温暖化によるものではないかと問う人もいるかもしれないが、大西洋のハリケーン活動における歴史的な数十年規模の変異の方が、地球温暖化による漸次的な気温上昇から予期される変異よりもはるかに大きい 

[…]

The possibility exists that the unprecedented activity since 1995 is the result of a combination of the multidecadal-scale changes in Atlantic SSTs (and vertical shear) along with the additional increase in SSTs resulting from the long-term warming trend. It is, however, equally possible that the current active period (1995-2000) only appears more active than the previous active period (1926-1970) due to the better observational network now in place.

1995年以降の前代未聞のハリケーン活動が、大西洋における海面温度(および鉛直方向のずれ)の数十年規模の変化と長期にわたる温暖化トレンドによる海面温度の付加的な上昇との結合の結果であるという可能性もある。しかしながら、現在の活動期 (1995-2000) が、以前の活動期 (1926-1970) よりも活動的であるようにみえるのは、もっぱら現在張り巡らされている観測網が優れているからであるとみなすことも同様に可能である。

[S.B. Goldenberg, C.W. Landsea, A.M. Mestas-Nunez, W.M. Gray (2001) The Recent Increase in Atlantic Hurricane Activity: Causes and Implications]

このように、ハリケーンの活発化が、クリストファー・ランドシーが主張するように、周期的な自然現象なのか、それともケビン・トレバースが主張するように、地球温暖化が原因となっているのか、まだ不確定で、第四次報告書も地球温暖化が熱帯サイクロンを増加させる確率を66-90%とし、他の予測と比べて低く見積もっている。もしも、近年におけるハリケーンの活発化が周期的な自然現象ならば、そのうちハリケーンの活動は停滞するはずだから、しばらく様子を見れば、クリストファー・ランドシーとケビン・トレバースのどちらが正しいかがわかる。

4. 熱塩循環の停滞または停止

気温が急激に上昇すると、極地方の氷が溶け、海水の塩分が薄くなり、深層海流の沈み込みを弱め、熱塩循環という温度調節のベルトコンベアがうまく作動しなくなり、ヤンガードリアス事件のような急激な寒冷化が起きるのではないかという仮説は、映画『デイ・アフター・トゥモロー』でも取り上げられ、有名になった。この映画は、気象学者ジャック・ホールが、南極氷柱の分析から明らかになったヤンガードリアス事件を根拠に、地球温暖化が氷河時代をもたらすと国連の会議で警告するが、経済を優先するディック・チェイニーそっくりの米国副大統領が、その可能性を否定するというリアリティのある話で始まる。

そこから先、温暖化によって起きると言われている現象(暴風、津波、メキシコ湾流の停止)が、非現実的なスピードで次々に起き、北半球は、氷河時代に突入する。映画では、北半球の高緯度地域一帯が、等しく氷河で覆われていたが、ヤンガードリアス事件は、北大西洋地域に起きた現象であって、日本は、北海道を含めて、氷河で覆われることはなかった。成層圏の冷たい大気が、ハリケーンもどきの中心で降下してスーパー・フリーズが起きるという話が出てくるが、たとえ周りから熱を供給されなくても、地上は気圧が高いから、降りてきた成層圏の気体は、圧縮されて、高温になるので、映画に出てくるような現象は起きない。

映画はエンタテインメントだから、科学的に正しくなくてもかまわないのだが、気温が急激に上昇すると、極地方の氷が溶け、海水の塩分が薄くなり、熱塩循環の沈み込みを弱め、ヤンガードリアス事件のような急激な寒冷化が起きるというシナリオは、科学的に正しいと一般に考えられている。日本でも、NHKが『海~知られざる世界~』という番組で、この説を紹介して、有名にした。しかし、これに対して異論を唱える科学者もいる。

From the model simulations, we can trace such a freshening trend to the Arctic Ocean where sea surface salinity undergoes a large decreasing trend due to melt ice and river runoff during the same period. However, we do not find a decreasing trend of the North Atlantic THC. On the contrary, the THC has an upward trend diagnostically associated with an increased north-south upper ocean density gradient between the sub-polar North Atlantic and the mid-low latitudes.

モデル・シミュレーションにより、私たちは、そうした淡水化トレンドを、北極海にまで及ぶことを認めることができる。北極海では、海水表面の塩分が、融解した氷と川の水の流入により、同時期に大規模に減少している。しかしながら、北大西洋の熱塩循環は、減少傾向にない。反対に、熱塩循環は上昇傾向にあり、これは、北極近くの北大西洋と中低緯度との間の南北の上層海洋塩分勾配が増大していることと関係があると診断される。

1950年代以降、北大西洋北部の深層水が低塩化しているにもかかわらず、熱塩循環の流量が増えているのだとするならば、これまでの仮説は正しくないということになる。もとよりシミュレーションのやり方や観測結果を疑うこともできるので、今後とも監視を続ける必要があるが、もう一度根本的に熱塩循環の理論自体を再検討する必要がある。

第四次報告書は、熱塩循環のことを、子午面循環(Meridional Overturning Circulation)と呼んでいるが、この循環がすぐに停止するとは予測していない。

Based on climate model results, it is very unlikely that the Meridional Overturning Circulation (MOC) in the North Atlantic will undergo a large abrupt transition during the 21st century.

気候モデルの結果に基づくならば、北大西洋の子午面循環(MOC)が、21世紀中に大規模で急激な変動を被ることは、極めてありそうにない。

デイ・アフター・トゥモロー』に描かれているような氷河時代の再来が、映画のタイトルよろしく、明後日(the day after tomorrow)に起きるということはない。

関連情報
書名 地球温暖化とその影響―生態系・農業・人間社会
媒体 単行本(ソフトカバー)
著者 内嶋 善兵衛
出版社と出版時期 裳華房, 1996/10
タイトル デイ・アフター・トゥモロー
媒体 DVD
監督, 出演 ローランド・エメリッヒデニス・クエイド 他
出版社と出版時期 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン, 2005/03/16
書名 地球温暖化/人類滅亡のシナリオは回避できるか
媒体 新書
著者 田中 優
出版社と出版時期 扶桑社, 2007/05/30
書名 NHKスペシャル 気候大異変―地球シミュレータの警告
媒体 単行本
著者 江守 正多 他
出版社と出版時期 日本放送出版協会, 2006/11
書名 異常気象―地球温暖化と暴風雨のメカニズム
媒体 大型本
著者 マーク マスリン 他
出版社と出版時期 緑書房, 2006/09

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コメント

こんにちは、はれほれといいます。下の図、左の縦軸が何を表しているのか私にはわかりませんので恐縮ですが、

>イネと比べると、トウモロコシの葉>の光合成速度は、比較的低い二酸化>炭素濃度で頭打ちになる。これはト>ウモロコシのほうが、早い段階で水>の利用効率が頭打ちになるからだと>考えることができる。

単純に「トウモロコシは低CO2濃度に適応したC4植物だから高濃度のCO2でも光合成が増加しない。それで水の利用効率が頭打ちになる。」という解釈ではまずいのでしょうか?

はい、その解釈で正しいです。私の説明は舌足らずだったので、

“イネと比べると、トウモロコシの葉の光合成速度は、比較的低い二酸化炭素濃度で頭打ちになる。これはトウモロコシのほうが、早い段階で水の利用効率が頭打ちになるからだと考えることができる。”

“イネと比べると、トウモロコシの葉の光合成速度は、比較的低い二酸化炭素濃度で頭打ちになる。これは、効率よく二酸化炭素を集めることができるC4植物のトウモロコシのほうが、そうでないC3植物のイネよりもので、早い段階で水の利用効率が頭打ちになるからだと考えることができる。”

というように、書き換えておきます。

なお、左軸の単位は、1平方デシメートル、1時間当たり、何ミリグラムの二酸化炭素を吸収しているかという、光合成速度の単位です。

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