【対談】 日本の若者に未来はあるか(2)教員免許更新制

永井俊哉と峯山政宏による四回にわたる対談の第二回目。安倍首相は、教員免許の更新制に意欲を示しているが、十年に一度講習を受けることで、教員の質が向上するのか。どのように制度を変えれば、学生は学ぶ意欲を持つようになるのか。前回に引き続き、教育問題を考える。

永井俊哉と峯山政弘
永井俊哉(左)& 峯山政宏(右)

峯山:安倍内閣の教育再生のもう一つの目玉に、教員免許更新制がありますね。

永井:ええ。中央教育審議会は、既に今年の7月に、免許の有効期限を10年として、期限満了前の2年間に最低30時間講習を受けないと免許を失効させるという仕組みの導入を答申しています。

峯山:高等学校を卒業して、10年ほど経ちますが、故郷に戻る際に母校に立ち寄って以前と変わらない顧問の先生にお会いするととても嬉しい気持ちになります。そのような機会が免許更新制になるとなくなる可能性がありますね。私は反対に一票いれます。

永井:私は、違う理由で反対です。この教員免許更新制は、運転免許証更新制度と同じような弊害をもたらす可能性があるからです。峯山さんは、運転免許の更新に行ったことはありますか。

峯山:はい、忘れた頃に免許の更新がありますね。目の検査をして、交通事故は悲惨だ!というビデオを見せられて、その後に安全を守ろうとか何とかの標語を暗唱させられました。

永井:私が警察署に行って受けた講習は、もっとお粗末なものでしたよ。行ったら、誰も見ていないビデオが流されている中、視力検査をして、写真を撮って、交通安全ガイドとか、安全運転のしおりとか、交通の教則とかといった小冊子を手渡されて、それで終わりでしたね。手渡された小冊子はちゃんと読みましたか。

峯山:読んだ後に捨てたか、読んでもいないのに捨てたか定かではありませんが、捨てたことは確かです。

永井:あんなものは、ほとんどの人は、読んでいません。全く紙資源の無駄です。対価として支払われる更新手数料、年間約500億円は、天下り団体である交通安全協会を潤しています。 運転免許更新制度は、臨時行政改革推進審議会で槍玉にあげられ、更新期間を10年程度に延長するという案が出ていたのですが、 彼らは自分たちの利権を手放そうとはせず、実現しませんでした。

峯山:利権というものは困ったものですね。ところで、この運転免許証の更新と教育免許更新制とはどのような関係があるのでしょうか。どちらも免許を一定期間の後に更新しなければならないのは分かりますが。

永井:現在少子化が進み、大学は学生を集めにくくなっており、とりわけ教員養成系の学部は、就職先も減っているという二重の危機に瀕しています。そこで、文部科学省は、教員免許更新制度を作り、 更新手続きに来る教師たちに講習を行うことで、大学の仕事を新たに作ろうとしているのではないかと忖度しています(注1)。

峯山:新たな利権構造ができるかもしれないということですね。しかし教育免許更新性が教師の実力をあげるためにあるのであれば、運転免許証の更新のように形骸化したものではなくて、もっと実質的に教師の能力を高めるものになるのではないですか。大手の進学予備校のように

永井:大学に行って、退屈な講義を聴かされて、それで教師の能力が高くなると思いますか。

峯山:うーん、そのようになりそうにないですね。また新たな利権構造ができるわ、何の役にも立たないわで国民の反感を買うことになりますね。政治家にはつくづくうんざりしてきます。

永井:安倍さんは所信表明演説の中で「教員の質の向上に向けて、教員免許の更新制度の導入を図るとともに、学校同士が切磋琢磨して、質の高い教育を提供できるよう、外部評価を導入します」と言ってい ますが、なぜその外部評価を市場での評価に任せようとしないのかと問い質したいところですね。官が監視するという発想にとどまっている限り、小さな政府は実現できません。愛国心教育もそうですが、安倍内閣は国家主義的で、消費者の選択する能力をあまり信用していないのではないかという気がします。

峯山:表では国民のための教育改革と言いつつ、裏では自分たちの天下り先をつくるためにせっせと働いているわけですね。教育における利権構造について少し詳しくお話いただけないでしょうか

永井:安倍さんは、森派の出身で、 報道によると、いまでも、自民党文教族の実力者である森喜朗元首相の影響力は大きいそうです(注2)。 安倍さんが教育問題に力を入れているのは、このためでしょう。また、大学を管轄する文部科学省の役人たちの思惑もいろいろなところで働いているのではないかと考えられます。外国人留学生2千人に月計20-30万円相当の奨学金を支給する計画 (注3)も、日本の大学の需要を維持しようとする思惑からも作られているのでしょう。この外国人向けの奨学金には返還義務がありません。日本学生支援機構が日本の学生に出す奨学金に返還義務があることを考えると、かなり好条件です。

峯山:海外に行って、日本の大学に留学した外国人の方にお話しすると、まず驚いた事が、「日本の大学生が勉強しないこと」だそうです。世界的に見て、教育水準も高レベルではないですから、これくらいのことをしないと外国人留学生が来てくれないということでしょうか。日本の大学大丈夫かと少し不安な気持ちになります。

永井:大学に市場原理を導入し、教育力に優れた大学が選別されるようになれば、金をばらまかなくても、留学生は集まるようになるでしょう。

峯山:なるほど、それでは永井流の教育改革についてご意見をいただけますでしょうか

永井:まず、学位授与や単位認定といった評価機能を学校から切り離し、政府の仕事とし、そして、教育は完全に民営化します。そうすれば、学生 は学校の知名度ではなくて、純粋に教育の能力だけで、学校を選ぶようになります。

峯山:それでは学位授与や単位認定といった評価を政府はどのように行えばよいのですか。学生はますます勉強しなくなる可能性もあります。

永井:単位認定は、英検のように、全国共通の試験でやり、学位授与の場合は、論文審査が必要なので、学会を媒介に専門家に審査を委託して、申請者と審査者が相互に誰かわからないようにしてやれば、フェアな審査で、学位が授与されるようになるでしょう。

峯山:私にも経験がありますが、つまらない講義には代返を頼むという学生の意欲なさといい講義をしようという教授の熱意のなさの両方で大学の教育は現在機能していないですね。小手先のの改革だけではなくて、永井流の抜本的な改革が必要かもしれません。

永井:これまでの教育行政は、授業を所定の時間受けているかどうかとかプロセスの規制ばかりしていましたが、重要なのは結果であり、プロセスは民間教育の創意工夫に任せるべきだと思います。

峯山さんは、学習意欲を問題にしていますが、人間というものは、押し付けられると意欲を失うけれども、自分で選んだことは熱心にやるものです。教育のプロセスを民営化し、選択の自由を拡大すれば、学生の勉強への意欲は大きくなるでしょう。

しかしながら、実際に行われている教育改革は、プロセスの自由化とは逆で、法科大学院を設立して、司法試験合格に有利な学校を作って、そこへの在籍を推奨するとか、論文博士を廃止 して、博士号を取得するには博士課程に在籍しなければならないようにするとか、公教育の仕事を増やすことばかりしています。

峯山:効率を重視していた教育の部分にプロセス重視の制度を持ち込むわけですね。プロセスが大事か結果が大事か、どちらも大事ですので一概にプロセスが悪いとは思いませんが、そのプロセス の部分に無駄な利権構造が作られて国民の税金が使用されるのはご勘弁をいただきたい思います。

永井:プロセスを評価する教育制度を作ると、プロセスが目標になってしまいます。成績が悪くても頑張った生徒の内申点を良くするという制度を作ると、生徒たちは、先生に頑張っているような印象を与える演技をしようと努力するようになります。こういう偽善者を育てるような教育は、好ましくありません。

峯山:プロセスに国が関与すると民間の創意工夫が無くなってしまうということですね。

(第三回に続く)


注1)但し、中央教育審議会によれば、講習は、大学だけでなく、教育委員会も開催できるとのことである。これは、課程認定大学が近くにない過疎地のことを考慮に入れたものと思われる。

免許更新講習については、教員免許状が課程認定大学における所要の単位修得等により授与されるものであることを踏まえつつ、受講機会を幅広く確保する観点から、課程認定大学のほか、大学の関与や大学との連携協力のもとに都道府県・指定都市・中核市の教育委員会等も開設することができるようにすることが適当である。

教員養成系の大学も、専門職大学院制度を活用して「教職大学院」制度を創設するとのことであるが、こうした、公権力を利用した大学の生き残り策の弊害に関しては、「末は博士かホームレスか」を参照されたい。

注2

安倍首相は組閣直前、河口湖畔の別荘にこもり、国会議員の略歴などが書かれた議員要覧を見ながら、自分で人事を決めたことになっている。「派閥の意向にとらわれない」と勇ましかったが、やっぱり、ウソだった。

総裁選2日前の今月18日夜、六本木ヒルズにある森喜朗の自宅を極秘訪問し、人事の相談をしていたのである。

しかも、「これから伺っていいですか。飯を食わせてください」と安倍が電話し、「中川さんを経財相に」と切り出したことや、森が「彼は受けない。幹事長が一番いいんじゃないか」と語ったことなど、当事者2人しか知りえない会話がバッチリ新聞に書かれているのだ。

[livedoor ニュース:森元首相に潰された安倍のメンツ,2006年10月01日]

注3

中国、韓国などアジア諸外国の優秀な人材に、日本企業にもっと入ってもらおうと、日本の大学で学ぶ留学生への無償奨学金制度を07年度から経済産業・文部科学両省が始める。大学・大学院に、採用意欲のある企業と提携して、留学生向けの専門講座やビジネス日本語講座などの2年間の特別コースを新設してもらい、その受講生1人あたり、住居費分、学費免除分、生活費など月計20万~30万円相当の支給を検討中だ。支援対象は約2000人を想定している。

[朝日新聞: アジア留学生に奨学金、日本で就職促す,2006年08月20日]

トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.cyberuls.com/blog/mt-tb.cgi/380

コメント

「大学に市場原理を導入する」という考えには賛成ですが、単位認定の方法に疑問を持ちましたので、質問させて頂きます。


大学の授業は、高校までの指導要領に基づく画一的な教育内容だけでなく、独自性を強く打ち出した科目を設ける大学も多くあります。市場原理が導入された場合、その傾向はさらに強くなると私は思います。


そのような場合を想定すると、「単位認定は、英検のように、全国共通の試験でやる」ことの実現が非常に困難かと思います。
統一試験で認定できる単位は、相当少ない科目に限られると私は考えますが、永井様、峯山様はどのように考えられるのでしょうか?

芸術的な能力は試験による方法になじみませんが、作品の審査でその能力を測ることができます。だから、各種のコンテストでの受賞に単位を認定するといったことも必要であろうと思います。

コメントする