永井俊哉と峯山政宏による四回にわたる対談の第三回目。アメリカ型の市場原理主義を導入し、規制緩和を実施したおかげで、日本の社会でも貧富の格差が増大し、格差社会が生まれたといわれているが、本当なのか。再チャレンジ支援策を考える前に、格差社会を考察する。
峯山:これまで教育の話をしてきましたが、後半の2回は、就職の話を扱いたいと思います。安倍内閣は、小泉内閣最大の負の遺産と言われる格差社会 の問題を解決するために、再チャレンジ支援政策を打ち出していますが、これについて、永井さんはどう思いますか。
永井:格差社会の弊害を言う前に、日本の格差社会がどういうものかをよく見なければいけません。よく、テレビで評論家とかが、規制緩和や自由競争により、社会が弱肉強食となり、強者はますます金持ちになり、弱者はますます貧乏になるから、弱者を救済するために規制の強化が必要だといったことを主張したりしますが、こういうことを言う人たちは、日本の格差社会の現状を大きく見誤っていると思います。
日本で実際に賃金が高いのはどういう業界かを見てみましょう。業界別平均生涯賃金ランキングによると、1位、放送業界:47千万円、2位、石油・石炭製品業界:31千万円、3位、海運業界:30千万円、4位、空運業界:30千万円、5位、情報・通信業界:29千万円、6位、電気・ガス業界:28千万円、7位、証券業界:27千万円、8位、医薬品業界:27千万円、9位、不動産業界:27千万円、10位、その他金融業界:26千万円、11位、保険業界:26千万円、12位、銀行業界:25千万円、13位、倉庫・運輸関連業界:25千万円というように、物、金、情報を横に動かしているだけの産業が上位にランクインしています。
トップは放送業界ですが、実際、平均年収高額企業ランキングをみても、上位7位中5社までがテレビ局とそこにCMを供給している広告会社です。後は、保険と不動産の会社です。では、こういう業界が、本当に世界的に競争力のある強者かというと、そうではなく、むしろ、規制によって守られている、その意味では、弱者とも言うべき業界です。
峯山:国際競争力があるわけでもないテレビ局の人間に高い賃金が支払われている一方、真に国際競争力のある日本の製造業の人間にはそれに見合った対価が支払われていない というわけですね。でも、自由競争が格差社会を作るのではなくて、自由競争をさせないことが格差社会を作るなどという話はあまり聞いたことがありません... ああ、わかりました。テレビ局が、規制緩和と自由競争をやると格差社会が生まれるから規制を強化するべきだといった考えで視聴者を洗脳し、事実を隠蔽するのは、テレビ局が、規制によって生まれる格差社会の最大の受益者だからということですね。
永井:そこまで陰謀論的に考えてよいのかどうかわかりません。実際、自由競争をしても、格差社会になります。ただ、強調しておきたいことは、もしもフェアな競争が行われていて、努力して成果をあげた人が裕福になるという社会なら、貧富の格差はあってよい、いや、むしろ貧富の格差がなければ不公平だということです。しかし、保護産業が、規制に守られて、不当に高い利益を手にして、格差社会が生じているとするならば、それは、社会的正義という点からも、経済の健全な発展を阻害しているという点でも、望ましくありません。
峯山:そういえば、日本のアニメ産業も国際競争力を持った輸出産業ですが、現場のアニメーターの人は悲惨な生活を強いられているようですね。
永井:たしかに、日本の漫画やアニメは世界的に高い評価を受けていますが、肝心の作品を作っている人の給料は安いですね。アニメーターの初任給とか月10万円を切っています。一方で、アニメを放送するテレビ局の給料は高い。日本の製造業には、今でも、世界的に高い評価を受けている優秀な会社がたくさんあるのですが、あまり給料は高くない。しかし、そこに金を貸しているところの給料は、その製造業よりも給料が高い。私は、金融業が製造業よりも給料が高いのはけしからんと言うつもりはありません。金融業でも、優れた金融テクノロジーを開発したり、優れた調査・評価能力を持ったところの給料はよくてしかるべきだと思います。しかし、日本の金融業は、 世界的に見て一流とは言い難いです。
峯山:世界的に見て一流であるとは言えない産業が一流である産業を搾取して高い給料をもらっているというのは許せません。
永井:格差社会の弊害を口にする前に、まずは、保護主義や政府による市場経済への干渉を止めて、強者が豊かになる社会を実現するべきです。弱者の救済は、保険でカバーすればよいでしょう。
峯山:現在の六社による電波の寡占状態を打破するためにも、地上波への新規参入を認めるべきなのでしょうが、放送の自由化を推し進めようとすると、その政治家や政党は、テレビ局から叩かれて、選挙が不利になるから、 なかなか改革できないというのが現状でしょう。
ところで、普通、格差社会というと、業界間の格差ではなくて、労働者個人間の格差が問題となります。特に最近問題になっているのは、正社員とフリーターの格差 です。
永井:たしかに、最近、アルバイト社員、派遣社員、契約社員といった非正規労働者が増えています。正規労働者と仕事内容や労働時間が同じであるにもかかわらず、給料が低く、社会保険からも阻害されていて、働いても貧しいという意味で、ワーキングプアなんて呼ばれたりしていますね。なぜこのような非正規労働者が増えていると思いますか。
峯山:不景気のために労働者の需要が減少したためです。本来なら社員の給料を一律にカットをすれば、労働需要は増加しますが、労働組合などの既得権益層が自分たちの給与の現状維持を行い、新入社員の数をカットして、不足な労働力を安い賃金で働く非正規労働者に委託しているために非正規労働者が増えているのだと思います。
永井:労働者の需要が減少しているのに、労働力が不足するのはなぜでしょうか。
峯山:どの会社にも新人が行うべき単純労働という仕事があります。新入社員が本来行うべきですが、彼らの採用数をカットしたために派遣社員に委託するという方法を取るのだと思います。
永井:派遣社員というのは、本来は、高度な技術を持っていて、その技術を一時的に売るという職種だったのだから、それは違うでしょう。規格製品を大量生産する工業社会が終わり、情報社会になることで、産業がスポット化し、それに伴って、雇用もスポット化し、簡単に雇用したり解雇したりできる派遣社員がもてはやされるようになったと私は考えています。ただ、派遣労働者を使うと、派遣業者に、派遣料金の20-40%を取られてしまいます。企業は、中間搾取があることを知りながら、なぜ割高な派遣社員を雇うと思いますか。
峯山:退職金や厚生年金などの企業加算をしなければならない正社員よりもいつでも解雇できる派遣社員の方が割安だからではないのでしょうか 。
永井:そうですね。日本では、不要になったからといって、正社員を簡単にクビにすることはできません。解雇するときには、会社が新しい就職先を紹介しなければなりません。それができない時は、窓際族と呼ばれる社内失業者として残留するので、企業にとっては、正社員を雇用することは、非常にリスクが高いわけです。
これに対して、会社が正社員をいつでもすぐに解雇できる社会では、労働者の権利が守られていないように見えますが、そういう社会では、逆に失業者も簡単に職を見つけることができるわけですから 、かえって労働者の権利が守られているということができます。労働者の権利を守ろうとして、儲かっているのは、派遣業者というのは皮肉なことです。こうしてみてみると、労働者の権利を守ることは、かえって労働者の権利を守らないことになるということが見て取れると思います。
結局のところ、企業内格差も、企業間格差と同様に、必ずしも本人の努力や能力の結果生まれたものではありません。景気がよかった頃に正社員として就職した人たちが、規制と慣習に守られて雇用を維持し続け、不当に高い賃金を得ている一方で、不況のときに学校を出て、就職できずに、フリーター人生から抜け出せなくなることで、格差が生まれているわけです。 こうした不公平な格差が生まれないようにするためにも、また人材の適材適所化を進めるためにも、雇用をもっと流動化する必要があると思います。
峯山:やっと若者にとってシリアスな格差社会の話に到着しました。でも、だいぶ長くなったので、フリーター問題と再チャレンジ支援策については、次回に持ち越すことにしましょう。
(次回に続く)

コメント
なぜ格差社会が出来るか?
格差社会を是正するためには?
インターネットで<仙台のくまさん>で検索され、その中の私のコメントの中に回答が書き込まれております。研究材料になれば幸いです。
Posted by 庄子精一 at 2007年9月12日 03:43
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