人間が産まれる過程で性の存在は必須である。新しい命を授かるために(染色体を融合させようにも)女は男を必要にし、男は女を必要にする。体外受精というのが可能になった現在、必ずしも性交渉を持つ必要はなくなったが、試験管の中には卵子と精子がある。DNAを混ぜる行為としてこれも一種の性交渉にちがいない。人間においては不妊症者・同性愛者・シングルマザー等、特徴的な遺伝子を求めたり男女間のセックスによる交配で子供を持てなかったりする人々は精子バンクで精子の購入や代理出産も可能な世の中である。最近日本では少子化で一人っ子が多く、自然交配するにしても男の子や女の子の産み分けにトライする夫婦もとても多い。男であるか女であるか、そしてどういう遺伝子を持つのかは親たちにとってできればどうにか操作したくなるような重要なことである。
第六章 男性が誕生するまで
前回の説明で人間の性別は『Y染色体があれば男性、Y染色体がなければ女性』という規準で判断できると説明した。しかし実は性遺伝子の部分が抜けたY染色体を持つ女性、生理がなく胸は膨らみ等の女性らしい特徴はないが、通常の体格と知性を備えた女性がいる。Y染色体中のどの部分に性遺伝子があるのか?Y染色体は2本の腕を持ったような形をしており、通常片方は長く、もう片方は短い。それからこの腕を細胞分裂のときしっかりと連結させておくために動原体と呼ばれる部分がある。また腕の先端にはX染色体とDNA交換の部分があり、ここは細胞分裂の直前にX染色体とつながる。Y染色体を持つ女性のY染色体はこの腕のうち短い腕がなく2本とも長い腕のY染色体(同腕染色体)であった。つまり長い方の腕には性遺伝子はないのだろう。これには逆にXX染色体を保有しながらも男性である人々が発見されることによって解明されてくる。ついに研究チームは男性となるためのコースへ導くあるSRY(Sex-determining Region)遺伝子を発見したのである。X染色体とのDNA交換ポイントぎりぎりに位置するSRYの発見は、男性になるためには完全無欠なY染色体を持つ必要がないことを証明。Y染色体は女性にならないようにするためにSRY遺伝子というマスタースイッチを持つことで男性を誕生させているのである。
第七章 魚に教わる性のヒント
全ての生物にはオスとメスがいると考えてしまいそうだが、現実では性のあり方は種によっていろいろある。ショウジョウバエと人間の染色体が性の決定を同じ方法としないように染色体での性選択ということさえ全ての生物には当てはまらないのでる。ベラ科のブルーヘッドのオスは12匹前後のメスを集めたハーレム生活をしている。このオスが死んだり姿を消したとき、ハーレム内の一番大きなメスが体の色を変えてオスへと変化する。そして繁殖期には元メスのオスの精子でハーレムのメス達は生殖活動を起こすのである。ブルーヘッドは染色体ではなく社会的シグナルで性別を決定する。また、海中生物ボネリアのオスはメスの子宮内で暮らす。メスの栄養分を餌にメスが卵を産む準備ができたときだけ精子を作って受精させる。究極の精子運搬システムといえる男の姿である。ボネリアは幼虫のときオスでもメスでもない。メスに成長したもののくちばしが届く範囲にいた幼虫が体内に取り込まれてオスとなる。メスの口先の届く範囲内にいなければメスへ成長し、幼虫を子宮内に取り込んでオスにする釣りを行なうのである。もっと誰でも知っている生物でいえばワニとカメがいる。ワニとカメは体内の遺伝メカニズムではなく外的刺激で産み分けが行なわれる。卵を温める環境の温度がオスかメスかを決定するのである。カメの卵は卵を温める砂の温度が26℃~34℃の時に孵化する。砂が34℃に近ければ生まれてきた赤ちゃんは全部メス、26℃に近ければ赤ちゃんはみんなオスになるのだ。30℃ぐらいの砂のときだけオスメスがほぼ同数誕生する。ワニは反対に温度の低いところで生まれた赤ちゃんはメスで温かいところで孵った卵はオスになる。砂の限られた場所で産卵するカメと違って様々な場所に卵を産むワニは産卵場所にによって産み分け可能なのである。
どうしても男の子の欲しいお母さんや女の子が欲しいママには羨ましいかもしれないが、自然の気候に任せて男ばっかり女ばっかりになれば種の絶滅になりかねない。地球温暖化や寒冷化のときに困るかもしれない。サイクス博士は恐竜の急激な絶滅は食糧不足ではなく爬虫類の親戚として氷河期に性が偏りすぎたために起こったのではないかと推測している。身近な生物ではミツバチも変わったメカニズムを採用している。ミツバチの性別は染色体が1本か2本かということではなく染色体のパートナーがいる完璧なセットが1つか2つかで決まる。働きバチと呼ばれるメスは人間と同じく母親である女王バチから1組、父親のオスバチから1組もらった染色体のセットを2つ持つ。巣の中で唯一受精し、卵を産み落とすことのできる女王バチも働きバチと同じく2組の染色体をもつメスである。ところが、1つの巣に20匹前後いるオスバチは女王バチからもらった1組の染色体しかもたない半数体であり、オスバチに父親はいない。つまり女王バチは父親の精子つきのメスと精子なしのオスを選んで産んでいるのである。
第八章 性は必要?
アブラムシはオスもメスもいるが子孫を残すために絶対に性を必要としているとはいいがたい。オスがいるおかげで遺伝的に新しい組み合わせを持つ子どももできるが、ほとんど交配できなくても問題なく繁殖するからである。メスは自分のクローン(複製)を産むこともできるからオスはいてもいいけどいなくても数は増えていくのだ。植物には有性生殖と無性生殖があると学校では教えてくれるだろうが、無性生殖は動物のなかでも行なわれている。オスなしで卵を産めてしまうメスは、オスがいるよりもより高い繁殖率でクローンを作っている。卵を産めないオスがいるのは数を増殖する目的において無駄が多い。有性生殖をする人間にとっては男の精子がなければ女の卵は無駄だが、もし男なしでも妊娠可能であれば女は子孫を残すために男いらずになる。下の図は同じ資質(餌も寿命も妊娠期間も同じ)を備えたある動物を有性生殖(レギュラー)と無性生殖(ヴァージン)にわけた個体数の比較シュミレーション。寿命は3ヶ月でメスは3ヶ月に一度4匹の子供を産むとする。レギュラーのメスはオスと交配してオス2匹メス2匹出産し、ヴァージンのメスは交配なしにメス4匹を産む。最終的に生き残る数はどうなるだろうか?結果は3ヶ月後からはっきりしており、18ヶ月後にはメスのクローン達(ヴァージン)は千匹以上になるのに有性生殖をするために子供を産めないオスを生産してきたレギュラーは64匹しかいない。
確かに妊娠100%ではない性交渉をして子供作ろうとするよりもメスがクローン娘を作ってそのまたクローン娘がクローン娘を作って...とする方が確実に増加する。それでは何故生物は有性生殖をやめないのだろうか?人間はアブラムシのようにぽこぽこ子供を産んでいるわけでもなく、決して効率良く数を増やしているようには見えないが世界中に分布している。性交渉における快楽、その他はさておき有性生殖にはなにか利点があるはずである。注目すべきなのは私達はクローンではなく親や兄弟姉妹、友達とは違うミックスされたオリジナルの遺伝子を持つことができるという点である。1人からコピーをとるのと違って2人から1人を作るときにはDNA交換が可能になる。急激な環境変化が起こった場合に融通のきかないクローンよりも組み換えと混ぜ合わせの機会が与えられる有性生殖の方が早く進化できる。これがほとんどの学校の教科書で書かれていることである。ただし本当にそれだけのことだろうか?もしクローン妊娠で増える人類が私達と同じ世界にいるとしたら、圧倒的早さで増殖する彼らにとってかわられてしまわないだろうか?クローンニングが効率が良いとすれば何故彼らは特殊な存在であり、主要な生殖方法にならないのか?性を放棄してしまうと絶滅してしまわないだろうか?「有性生殖の利点は環境変化への対応である。いつか進化が起こるときに備えてオスを必要とする。」これだけでは納得いかない。
次回へ続く

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