第十六章 武将サマーレッドのY染色体
スコットランド西岸からヴァイキングを追い払い島々をゲール人のために奪回そして支配したという武将サマーレッドは日本ではほとんど知られていない。サマーレッドを知らない私達だが、ハンバーガーで有名なマクドナルドという名前なら馴染みがあるだろう。McDonaldのmac(Mc)というのは「~の息子」という意味があって、King Somerledの息子Ranaldの息子Donaldの子供達はMcDonaldとなる。マクドナルド家、マクドゥーガル家、マカリスター家は親戚関係にあり共通の祖先はアーガイルのサマーレッドという男性である。スコットランドの有力氏族マクドナルド家は世界中に広がっている。マクドナルド姓を持つ多くの人々は自分のルーツを求めて、クラン・ドナルド・トラストが所有するスレート半島最南端のアーマデールを訪れる。
The Descendants Of Somerled: DNA Evidence Clan Donald USA Genetic Genealogy Project
サイクス博士はサマーレッドの名前にスカンディナビアとゲールの融合を感じる。サマーレッドはスカンディナヴィア語で夏の旅人、姓のマック・ギレブリデはゲール語でギレブリデの息子となるからである。伝説、そして物語のようなこの地域の戦いや融合の歴史を生き生きと書いている。サマーレッドについて調べれば調べるほどその遺伝子が今も受け継がれていることを証明したくなり、サイクス博士はマクドナルド・マクドゥーガル・マカリスターの名前を持つ人々から100通近いDNAサンプルを送ってもらうことに成功した。その結果、この三氏族に共通するY染色体指紋を発見、それから系図の末裔と記録された五氏族の投手も同じ染色体を持っているか調べた。これは非常に緊張する作業だっただろう、もしもその当主の中に他の人々と違うY染色体を持つ人がいたら…系図上はそうでも養子かもしくは生物学上の父親が違うということになってしまう。博士はこういった事態に備えて検査結果は極秘、本人以外には誰にも伝えないということを徹底した。これらの手紙を受けとった五人の当主全員が返事とDNAサンプルを送ってくれて、全員が同じY染色体を持っていることが判明した。もしそうでなかったら本には書けなかっただろう。日本語ではあまり資料のないサマーレッドの生涯、そしてその末裔たちの盛衰の物語を知るためにもこの章はおもしろい。
ただしマクドナルド・マクドゥーガル・マカリスターの名前を持つ人々が全員サマーレッドの直接的な子孫ではない。マクドナルド姓のサンプルで一致したのは18%、マクドゥーガルでは30%、マカリスターでは40%の確率でサマーレッドの子孫だということが判明した。マクドナルドこそが直系のような気がするが何故一番確率が低いのだろうか?これについてはスコットランドの習慣で領主の名前をもらうということが関係している。つまり勢力がある氏族ほどその名前を名乗る男達が増えたということである。マカリスター家が三氏族の中では一番勢力が弱かった、これがサマーレッドとつながっている確率が高くなる理由である。サイクス博士は更にサマーレッドの父、祖父を調べたようだが、サマーレッドのY染色体がアイルランド人に見られるクラスターに所属していないこと、そしてそれらはノルウェーで見られるものであることからアイルランドの王の末裔であるという話は胡散臭いと感じる。そしてサンプルをいろいろと見比べることでケルトの英雄サマーレッドは典型的なスカンディナヴィア人のY染色体であり、ヴァイキングの直接的な子孫だと判明した。
1000年もたたずにサマーレッドのY染色体のコピー達は世界中に約50万人に増えた。自分の遺伝子を引き継いだ者がそんなに増えることを想像してみて欲しい。Y染色体の成功には何が必要であるのか?これについては富と地位が重要であると博士は書く。富と地位を持つY染色体が特権を父系子孫に受け継がせることによって物凄い繁殖を見せたということだ。たくさんのY染色体がその代で終わりを告げる中(娘しかいない、男兄弟がいないしいても彼らにも息子がいない等)、急速な広がりを見せるY染色体がいる。婿養子を取れば名前は受け継がれるだろうが、Y染色体(父系)は滅びる。ミトコンドリアDNA(母系)にとっては思うつぼである。
第十七章 偉大なるチンギスハーン
しかし類まれなる繁殖力でY染色体のサクセス・ストーリーを作る男達がいる。サマーレッドより更に強力なモンゴルのY染色体、それがチンギスハーンの染色体指紋である。いかにしてその支配範囲を広げた人物であったのかは以下のコラムを読んでいただきたいが、女性との繁殖によって産まれた子も多かったようだ。サイクス博士の記述によると、支配下となった地域の美女はまずチンギス・ハーンに差し出されたらしく、彼は一人で寝ることはほとんどなかったという精力の持ち主だったらしい。
残念ながらサマーレッドのような系図が残っていないので確かめようがないが、年代とその共通遺伝子の分布範囲からしてこれほどのモンゴル発のY染色体を世界に広めたのは彼しかいないという。ここにはクジャクのオスのような女性に選んでもらうというような感じはなく、むしろ支配下におかれた女性に選択の余地はなかったように思える。いまチンギス・ハーンの染色体を身体に秘めている男性の数は千六百万人にものぼるらしい。これが強姦による歴史ととるか、またチンギスハーンが優位雄(アルファ雄)だったかはしっかりした証拠は出せない。しかしサイクス博士の説明から考えてもあちらこちらで絶滅しているような弱いY染色体ではないことは確かだし、実際に世界で一番多く広まったY染色体があるというのは遺伝子の戦において優勢なものがいるということだろう。アダムの呪い、それはテストステロンの影響だろうか?Y染色体の男性への執着が起こす支配欲だろうか?
