善き羊飼い
最近見た映画に"The Good Shepherd"という冷戦時代に家庭を犠牲にしてアメリカの安全を守る大義名分を信じたCIA捜査官の物語があった。主演はスパイ映画によくあうマット・デーモンそれからアンジェリーナ・ジョリーという豪華キャストにロバート・デニーロ監督という2006年の作品である。The Good Shepherdとは善き羊飼いという訳になる。キリスト教においては迷える子羊(ストレイシープ)が生贄や贖罪のイメージがあるように羊飼い(シェファード)はイエス・キリストや牧師のイメージが強い。この映画にはアメリカという国家とキリスト教の深い関係を感じさせるものがある。主人公マットデーモン演じるエドワード・ウィルソンは大学生の時に自分の秘密を暴露することで入会し結束を固める秘密結社スカル・アンド・ボーンズ(以下S&B)にスカウトされ、愛するアメリカを守るため諜報員となる。
The good shepherd
【あらすじ】
1939年Matt Damon/マット・デイモン 演じるEdward Wilson/エドワード・ウィルソンは、Yale University(イェール大学)在学中に秘密結社「Skull and Bones/スカル アンド ボーンズ」にスカウトされました。アメリカへの忠誠心と冷静で明晰な頭脳を高く評価され、世界のリーダーの一員としての将来を約束されました。そんな時期にエドワードは、図書館で出会った耳の不自由な娘Tammy Blanchard/タミー・ブランチャード演じるLaura/ローラと恋に落ちました。二人は穏やかな関係が続きましたが、肉体関係寸前まではいったもののローラが不安がって最後までは至りませんでした。そんなある日、スカル・アンド・ボーンズの家族を交えたパーティでAngelina Jolie/アンジェリーナ・ジョリー演じるMargaret Wilson/マーガレット・ウィルソンと知り合います。マーガレットはエドワードに一目惚れし、彼を誘惑します。そして2人は肉体関係を結んでしまうのです。やがて彼女が妊娠し、エドワードはローラと別れ、マーガレットと結婚します。しかし結婚式のその日、エドワードは任務でナチス・ドイツの諜報活動に対抗するため、スパイとしての仕事につくことになり、6日後ドイツに渡る事になったのです。息子が生まれた知らせを受けたものの、本当に自分の息子かどうかわからなかったエドワードは、そのままCIAの元になった組織「OSS」(Office of Strategic Service=戦略事務局)に勤務し、スパイ活動に携わるようになります。そして別居生活のまま6年の歳月が流れ、エドワードは初めて息子に対面します。幼い頃の自分にそっくりなその子供を見て、この結婚は間違ったものではなかったと安堵しますが、マーガレットとの間には溝ができていました。それでもエドワードは子供のため結婚生活を努力し、穏やかなものにします。しかし諜報活動はキューバ危機に至っていました。「アメリカを守る」ため、時には敵国であるソビエトのKGBとやりとりしながら、ひたすらこの仕事に挺身するエドワードですが不穏な影が彼を襲います…。
エドワードはいかにもアメリカのエリートであるが、アメリカのエリート教育においてアメリカにはいくつかの名門大学がある。名門大学や大学院等の高等教育では学生のための社交団体として男性で構成されるフラタニティや女性で構成されるソロリティがある。S&Bは男性メンバーのみで構成されるフラタニティの一種である。これは単なるサークルや部活とは違うものであり、以下に記述するS&Bは支配階級の影にある組織として有名である。
スカル アンド ボーンズ
名門大学には学生の参加する社交界としての団体が存在する。それらの団体はシークレット・ソサイエティであり、格式の高いものからそうでないものまで多く存在する。秘密結社の会員は仲間意識を持ち、時にそれらは卒業後も閥を形成して社会に大きく関係する。アメリカのイェール大学の秘密結社はSkull and Bonesと呼ばれ、アメリカで経済的・社会的に成功することを目的に協力し合うようだ。同じく名門大学として名高いハーバード大学が学問研究の中枢と言われるのに対し国家権力の中枢と言われるエール大学の出身、そしてその秘密結社S&Bの出身者にはアメリカの政権で働く立場となる者が多い。大統領選でブッシュ大統領と争ったジョン・フォーブズ・ケリー上院議員やブッシュ大統領自身もS&Bに所属している会員(以下ボーンズ)である。ジョージ・ウォーカー・ブッシュ大統領は父ジョージ・ハーバート・ウォーカー・ブッシュ、祖父プレスコット・シェルダン・ブッシュの親子三代に渡ってのS&B出身者として知られる。
Prescott Sheldon Bush/George Herbert Walker Bush/George Walker Bush
スカル アンド ボーンズとは日本語で頭蓋骨と骨という意味だが、日本人のイメージするところの海賊のマークをイメージして欲しい。第一次世界大戦中にプレスコット・ブッシュを含むボーンズの6人がアメリカ先住民アパッチ族のゲリラ指導者ジェロニモの墓を暴き遺骨を持ち出しS&B本部に納めたそうだが遺骨は現在所在不明である。S&Bの起源をフリーメーソンに求める説もあるが、S&B内の秘密の儀式等でドイツ語が使われていることから19世紀ドイツの秘密結社が起源であるという説が有力なようだ。エール大学へ通えば日本人でも誰でもS&Bに入会ができるのかと言えばNOである。入会候補者はアメリカの中で由緒正しい名門の子弟である4年生が選んだ3年生15人だけである。メンバーはアングロ・サクソン系の白人WASPでプロテスタントでなければならない。最近になりその体制は緩んできたとも言われているが、黒人やユダヤ人メンバーで加入したメンバーは非常に少ない。S&Bは人種的優越性を信じ、ボーンズはアメリカの戦士階級であることで神の掟えをも無視できるロマン主義を持つ。
この「プレップ・スクール」においては、知的啓蒙教育もさることながら、団体運動競技科目を重視した教育が行われる。フットボールや野球のチームのキャプテンとなったり、レガッタ・チームのコックスを務めたりする学生が皆の憧れの的となる。グループのリーダーとしてゲームのルールに則った行動を取ることこそ、「スカル・アンド・ボーンズ」のメンバーとして不可欠な資質なのである。アメリカでの一般的な言い方をすれば「社会戦士になるための訓練」を受けるわけだ。この戦士としての能力如何が、「スカル・アンド・ボーンズ」への入会資格の決め手となる。上流社会でも指導的な地位を占める家系の出身である以上は、いささかも感情に押し流されることなく、一国の国民を戦争へと動員し得るだけの能力を備えていなければならない。アメリカ帝国の再現を期することこそが自分に与えられた歴史的な使命であると信じ、その使命達成のために全身全霊を傾倒して止まない資質こそ「スカル・アンド・ボーンズ」が求めるものである。その意味で「スカル・アンド・ボーンズ」はもはやニューイングランド地方の名家を中心とした秘密結社の枠を超え、かつての日本の武士階級にも似た一つの階級を形成している。この戦士階級こそ、力を背景としてアメリカの世界戦略を生み出す原動力となっている。その戦略の根幹を成すのは、軍事力なき政治力はあり得ないという理念である。もちろん思想も重要だが、歴史を変えるためには軍事力の行使が不可欠だとする考えである。帝国の発展のためには軍事力の行使が不可欠だとするこの考えは、かつてのローマ帝国の衰退期を彷彿とさせるものがある。当時ローマ帝国内部では崩壊が進行しているにもかかわらず、遠く離れた国境地帯では依然として外人の雇兵部隊が侵略を続行していた。辺境で反乱があれば、中央政府は鏡庄の軍隊を差し向けねばならなかった。特に、南部の辺境地帯では、このような内乱が絶え間なく起こっていた。一方、現代アメリカの戦士階級であるが、武力の行傾を通して自らの運命を切り開いていこうとする点では、日本の武士階級と似ているようにも見えるが、日本の武士道に匹敵するような道徳的な裏打ちはない。アメリカの戦士は、あくまでゲームのルールに従うと見せかけて、実はスコアをごまかすのである。それどころか、戦術の曖昧さと秘密主義をベースに考えるならば、ゲームに勝つためには、敵のみならず味方までもだますのが被らのルールだと言える。レーガン、ブッシュ両政権時代にわたって、アメリカが友好国たる日本を折にふれ欺いたのもこのルールのせいである。
人間は3つのタイプに分かれているという話はよく聞くが、それは人によって分類方法が異なるようである。私は庶民を除いて歴史に名を残すような、また社会で大きく動く人間は「武」「知」「財」に大きく分かれるという意見に賛同している。もちろん全ての要素は一人の人間の中に同居するものと思うが、その人間のどの部分が3つのどれを大きく割いているのかで分類するのである。武を信仰するものは軍事力を武器に社会を支配しようとし、財を信仰するものは拝金的に社会に蔓延る、知を信仰するものとはしばしば主義者であり宗教的に社会を制圧する。人だけでなく社会というグループも大まかにどれに属するのかが見えてくるもので、それはその大多数を占める人間や支配者によって決まるようである。
(1)四つの特色あるメンタリティの指導権の交替としての歴史
すでに紹介したように、サーカーは、人間社会は、シュードラ(庶民)、クシャトリア(武勇派)、ヴィプラ(知力派)、ヴァイシャ(蓄財派)の四つのメンタリティの特質をもった人々からなりたっており、この四つの順番に社会のリーダーシップが交代してゆくととみます。社会を構成する人間の心の傾向として武勇派のクシャトリア、知力派のヴィプラ、蓄財派のヴァイシャ、庶民のシュードラがあるサーカーは考えます。武勇派は暴力をふるうというわけではなく、勇敢で英雄的に闘うことを人生の生き甲斐とするタイプです。「風の谷のナウシカ」や「もののけ姫」に描かれた主人公のメンタリティはこの武勇派のうち優しい心をもったタイプと言えます。知力派とは、宗教家や学者のように頭脳の力で人々に影響をおよぼすタイプの人です。蓄財派は、ものを作るとか、商業経済活動にすぐれた能力をもっている人々です。庶民というのは日々の生活におわれている人です。すべての人の中にこれらの心は同時にありますが、その性格が前面にでている人をイメージしてください。まず原始社会では、人々は日々の食べ物を得るのに精一杯で、武や知や財の能力をもっている人も活躍の場はありません。庶民(シュードラ)のメンタリティです。農耕が開始され、互いに領地をめぐって争う時代となります。武勇派(クシャトリア)が活躍します。そして一番つよい武力をもった氏族が周辺の村を支配して、国が成立します。国という形が安定し、平和になると武勇の必要性が少なくなり、税を集めたり、祈ったりする知力派(ヴィプラ)の人々が事実上社会を指導するようになります。しかし、社会が安定して産業や商業活動が活発になってきます。そのうち商業活動の担い手である蓄財派(ヴァイシャ)が冨を自分のところに集中します。そして財力派が社会を支配する時代がやってきます。ところが財力派が冨を自分のところに集中しすぎると庶民の反乱がおきるようになります。そこで庶民の反乱の中から勇気あるリーダーである新しい武力派が登場して、古い蓄財派の土地・財産を奪い、財のアンバランスを正し、あらしい秩序を組み立てます。その時期があたらな武勇派の時代です。そして安定してくると知力派が活躍し、その次に蓄財派の支配の時代がやってきて、・・・と繰り返しながら社会は発展をとげてゆきます。武勇派は置かれた歴史的状況によっては残忍な現れ方もします。したがって、武勇派、知力派、蓄財派、庶民とその心理をタイプ分けするにあたってどれが善でどれが悪という価値判断があるわけではありません。各派が存在根拠を失った時点で権力を維持しようとしがみつく時に、反動的となり、武力派は残忍となり、知力派は陰険となり、財力派は、醜くなります。ただし、武、知、財のほとんどが不正直であるとサーカーは指摘しています。そして、それぞれの支配が存在根拠を失っていない時期でも、個々には、残忍であったり、悪質であったりする支配者がでて、民衆は被害を受けます。現在は、蓄財派のヴァイシャが支配している時代です。ヴァイシャ支配の手先とならず、シュードラの地位に転落したクシャトリアやヴィプラたちが次の革命のリーダーになります。それらリーダーのもとにシュードラを覚醒させ、周到に準備してヴァイシャ時代を終わらせる必要があるとサーカーは説きます。

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