【書評】アダムの呪い7

男の発生率を高めるY染色体が存在するのだろうか?前回の急速な勢いで広まった男の息子達を見ているとそう思うのはしかたがない。それとも単に富や権力が女をモノにできるように加担したために起こったのだろうか?日本でも田舎の方だとやたらめったら同じ名字の人がいる。学校でも親戚が同級生にいるとか墓参りに行くとそこら一帯親族の墓だとか都会で生まれ育った者には珍しく見える。小さな島や村になればなるほど親戚が多い=権力大となることもあり、投票なんかでは有利だしその家は更に繁栄していく場合が多い。その場合嫁に行ってしまう娘よりは他から仲間を増やしてくれる男の方が助かる。

第十八章 古い学校名簿

サイクス博士は自分自身のY染色体もどこぞの統治者のように特に地位が高くなく有名でも裕福でもないが、平均以上に増殖した息子たち(Y染色体)の例ではないかと調べ始める。サイクス家発祥の地については彼がサー・リチャード・サイクス氏からはじまりヨークシャーだと既に判明している。これまで話したこともないような親戚にもサイクス家の男と女の数について聞いてみると、サイクス家には確かに息子が多く、その大勢がヨークシャーにあるコーン谷のスレイスウェイトに集中していた。そこで親戚の記憶よりももっと確実なスレイスウェイトの100年も前の学校名簿からそこで生まれ育ったサイクス家の子供たちの男女比を調べた。当然これは学校に通った子供の記録なので女子の就学問題も事前に考えたが、その頃には既に全員が学校に入らなければいけないという法律もできていたしむしろこの公立学校に入学せずに家庭教師や私立に通っていたとすればそれは男の子だった。それでも調査の結果、1886年から20世紀末までどの時代も若干男の子が女の子を上回っていた。男の子5人につき女の子4人というとそこまで驚くこともないような気もするが、100年以上の間に男の子が女の子よりも17%多く生まれていた。男>女の傾向が連続すればするほどY染色体の生き残り確率は高くなる。

人口変化もほとんどないような小さな村で8夫婦が姓を与えられたとする。大野家、石井家では娘が二人生まれる、婿養子は取らないY遺伝子のつながりを原則にすればこの時点でこれらの家は途絶えてしまう。古田家、野木家、藤本家、豊川家には男の子と女の子が1人ずつ、北村家と高島家には男の子が2人ずつ産まれたら夫婦の数は8と変わらないが6家による村になる。二世代目には古田家と野木家に男の子、藤本家と豊川家に女の子ばかりが生まれる…こうして藤本家も豊川家も消滅し、最後は2つの家で婚姻が繰り返されるだろう。それもまた何世代か後には皆同じ一家になってしまう。これは極端な例ではあるが、常に残るには男の子が産まれるということが必要である。男系で続く社会では当たり前のことで、特に家の存続が重要となる家では神経質にY染色体が途切れないように配慮する。相手のミトコンドリアDNAは正妻だろうが妾だろうがかまわない、それがY染色体なのだ。

第十九章 トレーシー・ルイスの十一人の娘たち

娘よりも息子が生まれやすい家系を調べるためにサイクス博士は世界ではじめて発行された正統派科学誌といわれるThe Royal Society of London for Improving Natural KnowledgeのPhilosophical Transactionsの掲載を調べた。ロイヤル・ソサエティの特別会員(フェロー)であり、アン女王の主治医ジョン・アーバスノット博士が書いた男女が誕生する規則正しさについて書いた論文だった。アーバスノットの時代は統計学もなく性別決定の遺伝学の原因も判明していなかったのだが、男女はバランスよく8年間毎年同じぐらいの確率で誕生することがわかった。これに関して単なる偶然ではなく、神様が人類が滅びないように全ての男性に女性を与えるはからいだとアーバスノット博士は結論づける。つまり一夫多妻制は多くの男性が独身となり、人類の思想や自然界と正義の法則に反すると考える。それを基に何故男の子の出生率が常に高いか?という疑問に関しては男性は危険を冒して食糧調達をして自己に巻き込まれやすい、そのため賢明なる創造主は女性よりも男性の産まれる確率を高くしたのだということだった。その後にこれは男の子の方が病気にかかりやすいから思春期後に丁度同数になるようになっているとも言われた。もっと後の時代になるとR.Aフィッシャーは息子にしようとする遺伝子と逆に娘にしようとする遺伝子があるので割合が一定になるのだと推測している。

そこでサイクス博士は大家族ルイス家(娘11人、息子1人)の母親の家族構成を調べた。娘をたくさん産んだ母親の親戚は女性が23人に男性が4人とミトコンドリアDNAがなんらかの作用をしたような結果だった。しかし確率的には高いが、全く男が生まれていないわけでもないので偶然の可能性は消えていない。逆に遺伝学者ハリー・ハリスを訪れた「息子ばかりが産まれる」ことに悩む男性は9世代さかのぼった家系図で産まれた男は33人に女は2人。その上女の1人は2歳で死亡し、もう一人は手足は毛深く、頭は薄く、婦人科医から子供は産めないと言われた女性であった。そういう出来事は本当にランダムに起こっているのかもしれないが、遺伝と全く関係のない偶然の出来事と思ってしまっていいのだろうか。

Y染色体が遺伝子を残すために力を発揮するのはテストテロン(男性ホルモン)の影響だと英国の生物学者ウィリアム・H・ジェームスは唱えた。しかし戦争中や戦後は男の生まれる割合が高くなるとも言われる…やはり神のはからいなのか?これに関してジェームスは戦争中と終戦後は人々が前にもまして性行為に励み、結婚率が高くなるからだと解釈する。新婚さんが多い、これは夫婦は結婚の最初の数ヶ月が最も性行為に励む(少なくとも当時は)ということにつながる。また権力を持つ男性には男の子が産まれやすいとも言われる。何度も書いているようにたくさんの愛人との間に息子を山ほどもうける者もいるし、アメリカの大統領のように63人の娘に対し90人の息子を持つこともある。テストテロンは所謂「男っぽい」の素のような存在だが、これが影響したのかもしれないが、それは証明されていない。Y染色体にとっては裕福な男とつるんで息子を作ることが何よりもの策略なことに変わりない。

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