第二十章 罪なき者の虐殺
インドでは娘の結婚の時に多額の持参金を用意しなければならないことや後継ぎへの期待のために女の子よりも男の子を産みたい夫婦が多い。だから何十年も出生前診断・選択的中絶で女の子を殺してきたというのは有名で、羊水検査の後に中絶された99%が女の子である。中国もまた人口における男女比では男性が多く、女性が少ない国である。一人っ子の政策においては男の子を望む家庭がどうしても多くなるからだ。そのためできれば妊娠中や出産後に殺すよりも希望の性別の赤ちゃんを妊娠しよう(また妊娠させよう)と必死になる。産み分けは性交時の体位から食事方法、そして風水までいろいろなものがある。これらのほとんどは迷信のようだが、男の子を産むために女性が肉類を食べるのをやめるぐらいならまだしも何としても跡継ぎが欲しいフランス貴族(男性)は哲学者アナクサゴラスの信奉者としてその理論のもと左側の睾丸を結んでしまったほどである。こういう人為的、いや社会的な生き残りにおいて女の子が犠牲になることは多い。女性抹殺の習慣は世界各地にあるが、根本的な理由はなんだろう?性の比率を意識的に操作することで得をするのはY染色体だ。今日もどこかでY染色体が選ばれている。
第二十一章 暴君の台頭
地球(ガイア)にとってヒトはどういう存在なのだろうか?物凄い勢いで繁殖し、寒い地域にも暑い地域にも広がっていった生き物。あっと言う間にビル、自動車、飛行機などを作っていった。人間からすればそれは長い歴史だが、ガイアにとっては一晩で自分の見た目ががらりと変わってしまい驚いたことだろう。この急速な変化のきっかけを異性人が原因だとしなければ農耕の発明だと考えることができる。もちろん農耕そのものがローマ帝国を誕生させたわけでも携帯電話や銃を生んだわけでもない。肉をメインに追い求めた生活から農耕が始まることでヒトが得たのは所有物・富・権力といった概念だった。食べ物や家畜、そして土地をキープすることができるようになったのである。
定住生活は男女のきずなを壊し、Y染色体を有利にしてしまった。狩猟採集生活者のように季節ごとに移動ばかりしていると子供をつくる期間はどうしても制限されてしまう。最初の子供が集団に追いつけないうちから2番目の子供を持つことはできない。最初の子供が自分でしっかり歩けるようになるまで(3・4歳ぐらいまで)乳離れもさせなかったので母親も身ごもらずにすんだのだ。ところが定住生活によって子作りに長い時間のギャップが必要なくなり、増殖をもくろむY染色体(男性)の望むがままに出産の間隔を縮めた。それは女を男に頼らなければいけない立場に落とし、羊や牛と同じように所有者に頼らざるえない女性の集団(ハーレム)を作り出した。乳離れを早くする、つまり離乳食が必要になったことにともなって陶器が発明されたのではないかと考えている考古学者もいる。
こうして女を奴隷化することに成功し、支配者たる者のほとんどが男性となった世の中では富や権力が全ての規準となっていった。支配・金・所有物への欲は限界を知らない暴君のようになり、地球を瞬く間に破壊する多産の種となった。Y染色体はその野望のままに戦争を起こし、自然システムを壊していく。クジャクがメスを支配するためにどんなに性選択を駆使しても立派な尾羽を持ち過ぎると敵の前から逃げれなくなってしまうものだが、Y染色体は富とか権力とかいう規準を満たせば満たすほど、いや奪えば奪うほど有利になるだけである。農耕から始まりヒトを魅了した概念は、非常に危険であった。アダムの呪いがガイアを苦しめている姿がイメージできるだろうか。
農業の開始と父権社会の成立 永井俊哉

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