連載コラム12 楽園ロタ島:ゾーニングの重要性(前)




前回の連載コラム11では、『気持良い』をキーワードとした『ランドシャフト』を環境評価に活用してロタ島に真の楽園を創ることを提案した。
今回は、より基本的なゾーニング(土地利用法)について考えてみたい。

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1.楽園ではどこで何をしてもよいのか?

楽園には厳しい掟も厳密な規則もない。それは住民がやって良いこと良くないことを自ずから分かり当たり前のこととして守るからだ。現実のロタ島でそれを期待したらどうなるであろう? 好き勝手な所に家を建て、最も眺望のよい場所には大きなホテルが建ち、島のあちこちに港が造られ、その港の周りには工場などの大きな建物が建ち並び、あちこちに細切れの農地が開かれ、道路がジャングルを縦横に突っ切り、村のど真ん中でゴミを燃やし……など、かなりひどいカオス(渾沌状態)を想像できる。これでは楽園ロタ島の自然はアッと言う間に破壊され、多くの動植物が絶滅の危機に瀕することになるだろう。そしてそれは、最終的に島民にとって幸せに生活できる状態ではない。

どうやら(残念ながら)土地利用にある程度の原則とルール(規制)が必要なようだ。

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2.ゾーニングはどうしても必要だ

そこで重要になるのが、土地の利用法をあらかじめ決めることだ。つまり『ゾーニング』である。これは、どこの土地を何に利用するのか、または利用しないのかを、『経済と環境と住みやすさの3面から考え、最も効率的な土地の利用法』を決めることだ(写真)。
土地利用は我々の豊かな生活を実現するためだが、それが自然や環境に大きなインパクト(打撃)やダメージ(破壊、損傷、危害)を与えては、最終的には我々自身への不都合となって戻ってくる。だから、自然環境に配慮するのは、単に動植物のためだけではなく、我々の子孫も含めた我々自身のためなのだ。




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3.『負荷は集中、対策は分散』という原則

経済と環境と住みやすさの3面から考えた、最も効率的な土地の利用法』とは一体どんなものなのだろう?

我々の日常の活動や行為は、どんな物であれ必ず環境へ影響を与える。それが環境に悪い影響を与える場合もあれば、逆に良い影響を与える場合もあるだろう。(この良い悪いとは、人間にとって都合が良いか悪いかという意味。)環境に悪い影響を与える物を『環境負荷』といい、環境に良い影響を与える物を『環境対策』と言う。環境負荷は『環境破壊(ダメージまたはインパクト)』につながり、環境対策は『環境貢献』となる。

我々にとって困るのは環境負荷ではなく『環境破壊』であり、我々が求めるのは環境対策ではなく『環境貢献』の方なのだ。言葉を換えると、いくら環境負荷が大きくても、環境破壊が大きくないならそれほど悪いことではない。逆に、いくら大々的な環境対策を実行しても、それほど環境に貢献しないなら、それは自己満足に過ぎないのではないか。

そこで、『大きな負荷でも自然環境の受けるダメージがそれほど大きくないよう』に、また逆に、『できるだけ少ない対策で自然環境に大きな貢献をするよう』に考えたい。



そんなうまい話があるのか? ……あるのだ!
『我々の行為』とそれが『環境に与える影響』の関係が比例しないことを利用するのだ。ある場所で、環境負荷を増やしていくと自然環境の受けるダメージはそれほど増えなくなる。同様に、ある場所で環境対策をどんどん増やしても、環境への貢献はしだいに上がらなくなる。これが『影響/効果のS字カーブ』と呼ばれるものだ(グラフ)。



この関係はこの世の中のあらゆることに通用する、普遍的な原則のようだ。

例えば、スポーツの練習と上達の関係。
始めたては少しも上達しないように感じるが、そのうちに練習すればするほどどんどん上手くなる。しかし時と共に、同じように練習していてもしだいに上達しなくなる。
例えば、クルマの価格と性能の関係。
低価格のクルマの性能は五十歩百歩だが、その上のクラスではちょっと奮発するとずっと性能の良いクルマが手に入る。しかし、高額のクルマになると、倍くらいの価格差があってもそれほど性能が変わらない(グラフ)。
皆さんも似たような経験がおありなのではないだろうか。



環境でも同様のことが言える。人間の行為が環境へ与える影響は、行為がとても小さなうちは行為を増やしても影響が増えない。さらに行為を増やすと影響が一気に増えるが、しだいに増えなくなる。環境負荷なら汚染や破壊が増えなくなり、環境対策なら効果が上がらなくなるという意味(グラフ)。



つまり、環境負荷や環境対策には効率が最も高いピーク(山)があるのだ。このピークでは、小さな環境負荷で汚染や破壊などの大きな環境のダメージがあるので、我々にとって大変不都合な点だ。できるだけ、このポイントを避けたい。逆に、少ない環境対策で大きな効果(環境貢献)がある。つまり、費用対効果が大きいので、我々にとって好都合だ。だから、環境対策はここを目指す(グラフ)。



原則:負荷は集中、対策は分散

環境に悪い影響のある行為、つまり環境負荷を分散させると、ひとつずつのダメージはそれほど大きくなくても、それらを足し合わせた環境全体でのダメージは大変大きくなる。だから、自然にとっても我々にとっても大変不都合だ。ところが、環境負荷を同じ場所に集める(集中させる)と、環境の受けるダメージがそれほど増えない。例えば、開発行為はあちこちに分散させずに、一ヶ所に集中した方が良い。また、汚染物質などを地球環境にばらまいて分散させるのもダメ。一ヶ所に集中させておくと、対処もしやすい。
これが『負荷は集中』という意味だ。

逆に環境に良い影響のある行為、つまり環境対策は一ヶ所だけに集めて徹底的にやっても効果がそれほど上がらなくなる。つまり環境全体への貢献が上がらなくなるので損だ。ところが、ほどほどの対策をあちこちに分散させると、それぞれの効果が足し合わされて、全体としては大きな貢献が得られる。だから、とても好都合なのだ。例えば、自然保護ではある狭い地区だけを徹底的にやるより、ほどほどの保護を広い範囲にする方が良いのだ。また、日本だけがしかもCO2対策だけを徹底的にやってもダメで、世界中の国々があらゆる分野での環境対策をほどほどにやった方が、同じ投入労力、同じ消費エネルギー、同じ費用でありながら、地球環境全体への効果はずっと大きくなる。
これが『対策は分散』という意味だ。



そして、この『負荷は集中、対策は分散』原則を土地利用に応用すると、環境負荷となる市街地は集中させ、環境対策となる自然保護は広く分散させると良いことになる。



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4.人間の住む場所はコンパクトに

ここで、市街地が自然環境へ与えるインパクトについて考えてみよう。市街地は自然環境にとっては負荷となる。『負荷は集中』すると良いことを学んだ。これはどういうことなのか?

我々は豊かな生活のために土地を利用する。同じ土地を利用しながら、やり方によって、周辺の自然環境へ与えるインパクトやダメージは違ってくる。我々が必要なのは土地の広さ(面積)だ。ところが、周りの自然環境へ与えるインパクトは、土地の周辺部の長さで決まる()。



利用する面積を確保しながら、できるだけ周辺の長さを短くすればよいわけだ。市街地が一つだけの場合は丸くすれば、周囲長が最も短くなる。
では、4つの市街地がある場合はどうだろうか?(図3枚)。





4つの市街地をバラバラに分散すると、周囲へのインパクトとなる周囲長が最も長くなる。市街地を一ヶ所にまとめると周囲長は半分に減る。これが『集中化』。さらに上へ積み重ねると、さらに周囲長が減って、はじめの1/4になってしまう。これが『高密度化』。つまり、この結果が『コンパクト・シティ』である。もちろん、ロタ島に高層建築はそぐわない。だから、これは平屋をだだっ広く並べてはならないという警鐘と理解したい。

日本の首都圏などは、低密度の市街地が地平線の彼方までだらだらと広がっている。これなど集中高密度化された『コンパクト・シティ』の正反対の状態だろう。環境、経済、住みやすさの3面全てにおいて効率が悪い。日本の大都市の都市計画の問題を考えるのは今回のコラムの主旨ではない。しかし、その解決にも近自然学が使えることは言うまでもないだろう。

負荷集中の原則が重要なことは、家を建てる場合も全く同じだ。
人間の住む家も自然環境にとっての負荷となる。よって、あちこちバラバラに分散せずに、一ヶ所に集めて集中し(団地)さらに高密度化する(集合住宅)と、環境と経済の両面から良い()。もちろん住みやすさという要素も大事なので、国民性に合った適度な集中と高密度化という意味だ。



自然環境へのインパクトを減らすという環境面だけではなく、市街地や家のインフラ整備が楽で安上がりになるという経済的なメリットも大きい。つまり、住みやすい街や家が環境負荷もそれほどかけずに、しかも安価に造れるのだ。

実際に、ロタ島でもこの『負荷は集中』→『市街地は集中』という原則は守られているように見える(写真)。これはロタ島だけの特殊なことではなく、エネルギーも大型の建設機械もなかった昔は、ごく当たり前に効率の良さを求めたからだ。



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今回はゾーニングの重要性の前半として、市街地は集中させると、我々にとって都合が良いというお話をした。次回の後半では、逆に自然保護は分散させると良いということから発展して、ロタ島でのゾーニングにおける近自然学からの提案を試み、さらに、ロタ島におけるエコヴィレッジについてより具体的に考えてみよう。


2006年12月6日、スイス近自然学研究所にて

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