

今回は、連載コラム12からのつづき。ロタ島でのゾーニングの提案を試み、水素の島を目指す『アクエイリアス・プロジェクト』について考えてみたい。私のロタ島に関する連載コラムの最終回となる。
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5.自然保護は分散して広くネットワーク化
市街地など環境負荷は一ヶ所に集中すると自然環境の受けるダメージが小さくなる。逆に、自然環境のための対策は、一ヶ所一分野だけで徹底的(集中)にやっても努力の割に効果がそれほど上がらず、従って環境全体への貢献は少ないことをお話した。自然保護などはその好例だ。ほどほどの保護で良いから、できるだけ広範囲に広げて分散させネットワークする方が、徹底的な保護を極く狭い範囲だけでするより、ずっと大きな効果が得られる。もちろん、徹底的な保護を広範囲にとれるのが理想であることは言うまでもないが。
現在、ロタ島にはウェディング・ケーキ・マウンテンの他に、2つの保護区がある。ひとつは緩い保護ながら比較的広い面積を持ち、ロタ島最高地点であるサバナ山(標高495m)を含む高原のサバナ地区(写真)。もうひとつは、かなり徹底しているが狭い範囲のバード・サンクチュアリだ(写真)。



この3つの保護区をロタ島の地図上で見ると、あまりに少なくしかも分断されていることが分かる(地図)。これでは自然環境への貢献はあまり大きくないと言わざるを得ない。(現状ではその間の自然が豊かなので全く問題ないのだか、将来どうなるのかは分からない。)

これでは、ロタ島の素晴らしい自然環境を末長く守るためには全く不十分だ。自然保護区はより広くとり、さらにそれぞれをネットワーク化したい。特に鬱蒼(うっそう)としたジャングルが手付かずのまま残っているロタ島東部地区は是非保護したい(写真)。また、素晴らしい海岸線と海中のダイビングスポットも守りたい(写真)。ウミガメが産卵する(らしい)砂浜は、人間を近づけない厳重な保護区とする。さらには、ロタ島北東部の岩盤が浸食されてできた絶壁の海岸線も、ダイナミックで素晴らしい景観だ(写真)。



いずれにしても、緩い保護でよいから、現在よりもっと広い地域をカバーし個々の地区をネットワークするような保護区を設定したい。しかもそれは海岸線と沿岸の海中も含める(地図)。緩い保護というのは、場所や状況によっては自然環境に配慮した農林水産業や観光などの持続利用を認めるという意味だ。

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6.近自然学からのゾーニング試案
土地利用のためのゾーニングには、建設許可地区(宅地)、公共施設、公園、農地、森林、道路、空港、港、送電線、パイプライン、ゴミ処理場、河川湖沼、リクリエーション地区、自然保護区などが規定されるのが一般的だ。

しかし、今回のコラムではそこまで厳密に考える必要性はないだろう。最も重要なのは、ロタ島において、どこを人間が利用し、どこを自然のために確保するかの線引きだ。
今ロタ島で人間が利用している場所を地図上で見ると、飛行場やシナパル村のある中央部、砂浜のビーチとホテルのある北部海岸沿い(写真)、そして南北2つの港とソンソン村のある西部に偏っていることが分かる(地図)。


そこで、現状での土地利用を尊重して、島民の豊かさと自然環境の両方のために、以下のようなゾーニングを提案する(地図)。

できるだけ広い地域を自然保護区とし、人間の利用をコンパクトにまとめた。人間が利用する場所でも、野放図に建物や道路を造ってよいわけではなく、ここでも『負荷は集中の原則』が生きていることを忘れてはならない。
自然保護区には数段階の保護レベルがあり、ウェディング・ケーキ・マウンテンやバード・サンクチュアリのように、全く人間を入れない厳格なものから、サバナ高原のように、持続利用を認める緩いものまで色々な段階がある。
例えば、環境に配慮した有機農業などであれば、場合によっては保護地区の周辺部で許されることもあり得る。それに環境に配慮した有機農業なら、ロタ島の売りになる可能性も大きい(写真)。素晴らしい自然が特徴であるロタ島では、環境配慮は絶対条件なのだから。

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7.提案:『保護候補リスト』を作る
ゾーニングにより、できるだけ集中した土地利用をし、反対にできるだけ広い範囲の自然やランドシャフトを守る。しかしそれだけではまだ不十分だ。知らないうちに多くのかけがえのない物件が壊されてしまう危険性を払拭できない。
そこで、スイスで成功している『保護候補リスト』を提案したい。
自然、動植物、地形、地域、景観、建物、文化……などがその対象となり、保護したいと思う具体的な物件をどんどんリストアップしてしまう。例えばスイスでは、1本の大木、レンガ積みの煙突、山並み、見晴らし、森の小道、せせらぎ……などもこの保護候補リストに載る。『保護候補』リストであって、『保護』リストではないことに注目していただきたい。今までは保護リストであった。保護するためにはそれなりの調査や検証が必要で、そうすると時間とお金がかかる。つまり時間的金銭的な効率が悪い上に、検証している間にどんどん壊されてしまいかねない。そこで、『保護候補』をリストアップする。これには検証が不要だ。しかし、この保護候補リストに載っている物件を壊すようなプロジェクトが起こった場合、その施主がちゃんとした調査とその物件を守るためのミティゲーション(破壊緩和)措置を示さなければならない。
これで次世代に伝えたい大事な物が壊される危険性が著しく減るだろう。
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8.エコヴィレッジをどこに造るか
ロタ島での『アクエイリアス・プロジェクト』のひとつのテーマであるエコヴィレッジ(エコタウン)をどこに造ったらよいのだろう? 一般的には、ソンソン村に隣接させるのがよい。『集中化』によって、同じ利用面積でありながら自然環境へのインパクトが減る(それほど増えない)からだ。しかしながら、ここに大きな問題がある。実はソンソン村はロタ島の本島とウェディング・ケーキ・マウンテンを結ぶ低地にあるのだ(写真)。

地球温暖化により台風が年ごとに大型化している。ロタ島でも多くの家が吹き飛ばされ、今ではほとんどの家がコンクリート造りになってしまった。ところが別の問題がある。大型台風による高波が、ソンソン村を通り抜けるようになったのだ。まだこの被害は大きくないが、将来のことを考えると、エコヴィレッジは高台に設定したい。そこで、標高50m程のテラス状の岩盤の上のカーン地区(Caan)が注目されることになる(写真)。

もしカーン地区が、手付かずのジャングルを切り開かなければならない場所ならエコヴィレッジの建設場所としてふさわしくない。しかし、ここはタロイモやココナッツなどの農地が放棄されたすでに開けた場所だ(写真)。そんなわけで、逆にエコヴィレッジを造ることにより、環境への貢献も同時に期待できよう。

なによりその眺望が素晴らしい(写真)。ここなら私も住みたいと思う。

このカーン地区に、スイス・ドイツでは当たり前になりつつある、建築生物学(バウビオロギー)と建築生態学(バウエコロギー)(注1)を駆使した住みやすく、省エネで、環境負荷が少ない家を建てる(写真2枚)。もちろん、新たに熱帯のロタ島バージョンの開発が必要であるが、基本の考えは同じだ。


エネルギーと資源は可能な限り太陽エネルギー起源の、太陽光、太陽熱、バイオマス、風、雨水、間接熱などを有効利用し、エネルギーのキャリア(運搬)とサーバー(貯蓄)には、世界最先端の水素テクノロジーを使う予定だ。
カーン地区の22,000m2の土地に、一戸建てと2ユニット(2世帯)集合住宅を合計8棟、12ユニットほど(うち1棟2ユニットは管理オフィスと近自然学研究所)を建てる。一戸建ては常住者用、集合住宅は短期と長期滞在者用だろうか。いずれにしても、どの家からも素晴らしい眺望が堪能できる、そんな配置を考える。
このエコヴィレッジには、ハイテクとローテクを組み合わせた最先端のテクノロジーによるエネルギー・システムが導入されるので、専門知識を持ったプロによるしっかりした維持管理が不可欠だ。またそのようなサービスの提供は、エコヴィレッジの住人にとっての大きな安心にもなるだろう。
常住者や滞在者の数が安定すれば、美味しい熱帯のフルーツや新鮮な野菜などをエコヴィレッジの農園から供給することも考えられる。有機農法やパーマカルチャー(注2)を活用した、環境負荷が少なく、健康で、美味しい農産物を安定的に得られるのは大きな魅力だ。
なんともワクワクするようなプロジェクトではないか。
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9.終わりに
ひとつ注意しなければならないのは、ロタ島はチャモロ人たちの島だということ。かつてスペイン、ドイツ、日本、アメリカがやったような、さらには今中国がカジノ建設を通して目論んでいるような、いわゆる植民地化(政治経済的な意味だけではなく、文化的な意味も含めて)を繰り返してはならない。近自然の島を実現しようという今回のプロジェクトがここに住むことになる日本人たちにとって、これからの素晴らしい人生を約束してくれることは間違いないだろう。しかしそれと同時に、チャモロ人たちに豊かな生活をもたらせ、さらに彼らの新しいアイデンティティーの確立を手助けできるなら、こんなに素晴らしいことはないではないか。
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今回で私の連載コラムは終了します。長い間お付き合いしていただき、どうもありがとうございました。コラムの文章とグラフィックは、私の考えに賛同していただける限り、ご自由にお使いになって結構です。ただし、コピーライトを放棄したわけではないので、使われる場合には出所を明記してください。よろしくお願いします。
では、皆さんごきげんよう!
2006年12月13日、スイス近自然学研究所にて
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注1)建築生物学(バウビオロギー Baubiologie)と建築生態学(バウエコロギー Bauoekologie)
建築生物学(バウビオロギー)は住人の健康を重視し、建築生態学(バウエコロギー)はエコバランスを見る。エコバランスとは、エコロジカル・バランス、つまり生態的エネルギー収支という意味。建築、使用、維持、撤去、廃棄物処理などに必要とするエネルギー総量を見て、環境負荷を評価する手法だ。
建築生物学は住人の健康という抽象的なものをターゲットとしているので、数値で比較することが難しい。それに対して、建築生態学はエネルギー使用量という数値化が可能だが、生物の種の多様性や健康や気持良さなど、エネルギーの数値だけでは評価できない要素は含まれないのが難点。
この両者は、目指すところに大きな違いはないが、提唱者の視点が少々異なる。本来は、両方を考慮し、双方の良さを組み合わせることが理想だ。それにより、住人の健康を害さず、環境負荷の少ない快適な建物の建設が可能となる。
注2)パーマカルチャー
パーマネント・アグリカルチャーの略。パーマネントは『永久の』、アグリカルチャーは『農業』という意味。つまり、永続的農業、循環農法とでも訳せようか。
オーストラリアのビル・モルソンが不耕起農法を始めた日本の福岡正信氏の影響を受けて確立したと言われる。真否は不明だが、多くの共通項を持つことは確かだ。
現在一般的な農業は、肥料などの物質を外から投入し、農産物を外へ持ち出すという物質やエネルギーの一過性が基本だが、パーマカルチャーでは、物質の循環を目指す。私が連載コラム7『楽園ロタ島:ゴミは資源だ!』でお話した、物質が太陽エネルギーで循環するというこの世の基本原則を農業で実現するものと言えよう。

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